日本救急医学会雑誌
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22 巻, 3 号
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総説
  • 平澤 博之
    2011 年 22 巻 3 号 p. 85-116
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/02
    ジャーナル フリー
    重症敗血症/敗血症性ショックの病態生理の解明は最近大いに進歩した。現在は,感染を契機にtoll-like receptorをはじめとするpattern recognition receptorsに外因性の病原微生物由来のpathogen-associated molecular patterns(PAMPS)や内因性のdanger-associated molecular patterns(DAMPS),即ちalarminが認識され,それによりpro-inflammatory cytokinesやanti-inflammatory cytokinesが産生されることが病態の基本であると理解されるようになった。また重症敗血症/敗血症性ショックにおける臓器障害発症の根底をなす細胞障害・細胞死に関しては,従来のnecrosis,apoptosisに加えてautophagyが注目を集めつつある。さらに病態生理を検討する場合には各個体がcytokine産生やinnate immunityに関連した遺伝子多型を有しているか否かも注目する必要がある。何故なら遺伝子多型の有無は,治療法の有効性の発現の程度にも影響を与えているからである。また経過中に発症する感染症に関してはimmunoparalysis発症の有無とその対策に留意すべきである。治療に関しては近年Surviving Sepsis Campaign guidelines(SSCG)が広く用いられているが,SSCGにはhypercytokinemia対策に関する記載がないこと,遺伝子多型の分布が日本人とは異なるCaucasianを対象にした治験の結果に裏付けされたエビデンスにより推奨されている治療法がほとんどであることなどに留意する必要がある。われわれは治療の中心をcytokine-adsorbing hemofilterを用いた持続的血液濾過透析(CHDF)によるhypercytokinemia対策におき,諸外国からの既報の救命率よりも優れた救命率を得ている。将来的にはmicro-RNAの解析によるより詳細な病態の解明や,stem cell therapyによる治療法の改善などが期待される。
原著論文
  • 中島 康, 高橋 貴之, 山口 昌樹
    2011 年 22 巻 3 号 p. 117-124
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/02
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,夜間勤務のような継続的な心身ストレスが,SAA (salivary amylase activity)の日内変動パターンに及ぼす影響を検証することである。救急診療で日中勤務および夜間勤務の24時間連続勤務に従事する医療従事者14名を対象とした。勤務日と休日の連続した2日間の日内変動を各自1か月で3回測定した。唾液採取は2日間に合計7回実施した。SAAは起床時から夕食前にかけて上昇し,翌朝起床時に向けて低下した。日内変動は勤務日および休日とも,夕食前に最高値をもつ凸型曲線が示された。Dynamic programming method を用いた2曲線の類似度比較では,勤務日と休日の平均日内変動曲線の類似度は0.72であり,2曲線の位相および形状に変化を認めた。医師と技師の職種間の類似度は平日0.94,休日0.93と高い類似性があった。各個人曲線と平均曲線の類似度は,勤務日は 0.34±0.57,休日は0.43±0.50 と個人差が大きいことが示された。職種に関係せず唾液中アミラーゼ活性の日内変動に変化が観察されたことは,過酷な夜間勤務自体が生体リズムに影響を及ぼすことを示唆すると考えられた。
症例報告
  • 落合 香苗, 齋藤 豊, 種田 益造, 加藤 啓一
    2011 年 22 巻 3 号 p. 125-132
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/02
    ジャーナル フリー
    automated external defibrillator(AED)の普及に伴い,医療機関内で医師がAEDを操作する機会も増加している。我々は医師がショック適応と認識した心電図波形に対してAEDがショック不要と判断した2症例につき事後にデータを検証した。事例1:78歳,男性。前立腺腫瘍精査目的に入院し,病棟で心肺停止となりAEDを用いた心肺蘇生(cardiopulmonary resuscitation; CPR)が実施された。AEDモニター画面で医師が心室性頻拍(ventricular tachycardia; VT)と認識した心電図波形に対し,AEDはショック不要と判断した。事後検証にてこのVTは心拍数が少ないためショック適応外と判断されたことが判明した。事例2:56歳,女性。骨髄腫の化学療法入院中に心肺停止となりAEDを用いたCPRが実施された。AEDモニター上で医師はVTを認識したが,AEDはショック不要と判断した。事後検証にてこのVTはAEDの心電図解析中または充電中に振幅が減衰したためショック適応外と判断されたことが判明した。AEDは AHA(American Heart Association)とAAMI(Association for the Advancement of Medical Instrumentation)の勧告に基づいて,一般市民による誤ったショック実行を避けるため,感度より特異度を重視した設計となっている。医師はAEDの機能や性能限界を認識するとともにAEDの機種特性について精通し,AEDを使用したCPR中でも手動での除細動に切り替える必要性を常に考慮すべきである。
  • Joji Inamasu, Yu Nakagawa, Masashi Nakatsukasa, Hidefumi Koh, Satoru M ...
    2011 年 22 巻 3 号 p. 133-138
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/02
    ジャーナル フリー
    A case of reversible pontine ischemia following diagnostic cerebral angiography performed to evaluate vertebral artery dissection (VAD) of ischemic onset is reported. A 40-year-old man presented with sudden neck pain, dizziness, difficulty in swallowing, and numbness in the left arm. Neurologically, his symptoms were compatible with incomplete Wallenberg syndrome. Diffusion-weighted magnetic resonance imaging (DWI) revealed a small infarction in the medulla oblongata, and the right VA was irregularly stenotic on magnetic resonance angiography (MRA). We suspected that the right VAD was the cause of the medullary infarction. Following conservative treatment, his deficits resolved quickly despite progression of the VAD as revealed by follow-up MRA. Subsequently, diagnostic cerebral angiography was performed with the purpose of evaluating the patency of the right VA and possibility of a dissecting aneurysm. Despite a seemingly uneventful procedure, however, the patient developed altered mental status and right-sided hemiparesis shortly after the placement of an angiographic catheter into the intact left VA. DWI obtained two hours after the procedure revealed a high-intensity signal in the paramedian pons. Following administration of IV heparin and edaravone, the neurological deficits as well as the high-intensity signal disappeared within 24 h. The patient was discharged without deficits 4 weeks after onset. Although cerebral angiography has been considered the gold standard for the diagnosis of VAD, its role in VAD of ischemic onset has recently been questioned, in light of its relatively benign natural history, improved quality of less invasive imaging modalities, and risks of cerebral angiography. From the perspective of avoiding complications, the common practice of obtaining diagnostic cerebral angiography from every patient with VAD of ischemic onset may have to be reviewed, and decision to perform cerebral angiography for those who have already been diagnosed with less invasive imaging modalities should be made cautiously and on case-by-case basis.
  • 大塚 恭寛, 石塚 保弘, 三村 文昭, 小笠原 猛, 高橋 誠
    2011 年 22 巻 3 号 p. 139-144
    発行日: 2011/03/15
    公開日: 2011/06/02
    ジャーナル フリー
    胃悪性リンパ腫に対する外科的治療の役割は近年減少傾向にあるが,穿孔や大量出血などのoncologic emergencyは救命目的の緊急手術の適応である。我々が経験した症例は,9年前より慢性関節リウマチに対してステロイド治療中の51歳,女性である。3か月前からの食思不振に対する胃内視鏡検査にて,胃体上部から前庭部にかけての小弯に2型の潰瘍を伴う隆起性病変を認め,生検にてびまん性大細胞型B細胞性リンパ腫と診断。腹部CTにて最大径21cmの巨大な胃原発腫瘍と領域リンパ節の腫大を認めた。病期診断のための精査中,突然の大量吐血から出血性ショックに陥ったため当科を救急受診。輸液負荷と輸血にてショックから離脱後に緊急胃内視鏡検査を施行したが,胃内には凝血塊が充満しており,内視鏡的止血は困難であった。以後も循環の維持に持続的な輸血を要したため,transient responderと判断し,吐血の13時間後に外科的止血目的の緊急手術を施行した。開腹すると,胃小弯より発生した巨大な腫瘍が,腫大し一塊化した領域リンパ節を介して膵体部と横行結腸間膜に浸潤していた。腫瘍は易出血性で,術中に消費性凝固障害が出現したため,系統的リンパ節郭清は危険と判断し,出血源である原発巣のみの切除を目的に胃全摘術(D0,後結腸性Roux-en Y再建)を施行した。術中出血量は5,600gであった。切除標本は径25×14×9cm,重量2,320gの全胃で,粘膜面に径21×13×8cmの腫瘍(佐野分類上の決潰型)を認めた。組織学的には漿膜露出とsampling摘出したリンパ節に転移を認め,Lugano分類上の臨床病期stageII1E(pancreas)と診断した。術後経過は順調で,術後7日目より経口摂取を開始し,14日目にがん化学療法目的で当院血液腫瘍内科に転科した。術後2年の現在,悪性リンパ腫の完全寛解が得られている。
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