背景:日本外傷データバンク(JTDB)のデータの質は調査されていない。
目的:JTDBのデータに関して,データの質の一指標であるデータ欠損率を調査し,その特徴を明らかにすること。
方法:2004-8年にJTDBに登録された全症例(n=29,562)を用いた。予後予測式作成に必要な項目(転帰,injury severity score(ISS),revised trauma score(RTS),年齢,外傷の種類,搬送経路)の欠損率を調査した。さらに転帰の欠損を来す危険因子,一施設あたりの症例登録数と転帰の欠損率の相関関係,転帰が欠損している群と非欠損群のISS,RTS,年齢,外傷の種類,搬送経路の差を調査した。
結果:調査項目の一つ以上に欠損値がある症例は12,482(41.8%)で,転帰の欠損率が最も高かった(28.2%)。来院時死亡例,ISS・搬送経路の欠損,11月以降来院,登録数100以下の施設は転帰が欠損するリスクが高かった。一施設あたりの症例登録数と転帰の欠損率の間には有意な負の相関があった。転帰が欠損している群と非欠損群の間には調査した5つの項目全てに統計学的有意差があった。
考察:本研究から JTDBの転帰の欠損率がとくに高いことが分かった。欠損率や危険因子を参加施設に還元することで欠損率を低減できる可能性があると考えられた。欠損データを除外した研究は選択バイアスが大きいため,その結果の解釈には注意を要する事が分かった。
結語:JTDBのデータの質を向上させるためには,データ欠損率の改善,とくに転帰の欠損率の改善が不可欠である。
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