日本救急医学会雑誌
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22 巻, 4 号
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原著論文
  • 東平 日出夫, 松岡 哲也, 渡部 広明, 上野 正人
    2011 年 22 巻 4 号 p. 147-155
    発行日: 2011/04/15
    公開日: 2011/06/28
    ジャーナル フリー
    背景:日本外傷データバンク(JTDB)のデータの質は調査されていない。目的:JTDBのデータに関して,データの質の一指標であるデータ欠損率を調査し,その特徴を明らかにすること。方法:2004-8年にJTDBに登録された全症例(n=29,562)を用いた。予後予測式作成に必要な項目(転帰,injury severity score(ISS),revised trauma score(RTS),年齢,外傷の種類,搬送経路)の欠損率を調査した。さらに転帰の欠損を来す危険因子,一施設あたりの症例登録数と転帰の欠損率の相関関係,転帰が欠損している群と非欠損群のISS,RTS,年齢,外傷の種類,搬送経路の差を調査した。結果:調査項目の一つ以上に欠損値がある症例は12,482(41.8%)で,転帰の欠損率が最も高かった(28.2%)。来院時死亡例,ISS・搬送経路の欠損,11月以降来院,登録数100以下の施設は転帰が欠損するリスクが高かった。一施設あたりの症例登録数と転帰の欠損率の間には有意な負の相関があった。転帰が欠損している群と非欠損群の間には調査した5つの項目全てに統計学的有意差があった。考察:本研究から JTDBの転帰の欠損率がとくに高いことが分かった。欠損率や危険因子を参加施設に還元することで欠損率を低減できる可能性があると考えられた。欠損データを除外した研究は選択バイアスが大きいため,その結果の解釈には注意を要する事が分かった。結語:JTDBのデータの質を向上させるためには,データ欠損率の改善,とくに転帰の欠損率の改善が不可欠である。
  • 中堀 泰賢, 小倉 裕司, 杉本 壽
    2011 年 22 巻 4 号 p. 156-164
    発行日: 2011/04/15
    公開日: 2011/06/28
    ジャーナル フリー
    目的:近年,母体救命からみた周産期救急医療システムのあり方が社会問題となっている。しかしながら,本邦の救命救急センターにおける母体救急医療の現状に関して十分な調査はされていない。本研究の目的は,全国の救命救急センターにおいて入院加療を受けた妊産婦症例を調査し,周産期部門との連携に関する問題点を検討することである。対象と方法:全国救命救急センターを対象に,郵送によるアンケート調査を行った。調査項目は,(1)施設の種類(周産期医療センターであるか否か,産科の有無),(2)neonatal intensive care unit(NICU)の有無,(3)常時,産婦人科医による診療が可能かどうか,(4)1年間の入院症例総数とそのうちの妊産婦症例数,更に,妊産婦入院症例の主病名,病名ごとの症例数,死亡数,ショック症例数を調査した。結果:アンケート回答率は62.4%(131/210施設)であった。施設の種類は,周産期母子医療センターが58%を占めた。院内にNICUを有する施設は83/131(63.4%)施設であった。また,産婦人科医による診療が常時可能と回答した施設は113/131(86.3%)施設であった。2008年1年間の妊産婦入院症例総数は384例で,全入院症例数の0.1%であった。一施設あたりの妊産婦入院症例数は,0から35例までと較差があり,入院症例0例の施設が50施設(38.2%)みられた。妊産婦入院症例中,ショック症例は135例(35.2%),死亡症例は19例(4.9%)であった。結語:救命救急センターにおいて,妊産婦の入院症例が占める割合は少なく(総入院症例の0.1%),そのうち死亡に至る症例数も少数(妊産婦入院症例の4.9%)であった。重症妊産婦症例の受け入れ状況は,救命救急センター間で較差があり,多くの施設において院内および院外の周産期部門との連携を改善できる余地があると考えられる。
  • 河井 健太郎, 太田 祥一, 内田 康太郎, 河井 知子, 織田 順, 三島 史朗, 行岡 哲男
    2011 年 22 巻 4 号 p. 165-173
    発行日: 2011/04/15
    公開日: 2011/06/28
    ジャーナル フリー
    目的:近年,諸外国では院内救急に対してMedical Emergency Teamを組織することにより心肺停止数を減少させるなどといった成果を上げてきた。当院では2001年より院内発生心肺停止例や緊急重症症例を対象に救急応援チームを要請できる専用回線を設置し,システムとして運用してきた。応援チームは救急医がリーダを務め,現場で救急集中治療を指揮した。今回,我々はその活動状況と心肺停止例の成績から,応援チームを評価すると共に,現場での実施手技を分析し応援医に必要なスキルを検証することにより院内救急システムと応援医の役割を検証した。方法:2001-2010年までの応援チームの活動状況と教育コースの実施状況を集計・分析した。結果:年間約40件の要請があった。CPA,ショック等の重症例が約8割あり,CPR,気道確保,薬剤投与などが施され,輪状甲状靭帯切開術は6例,AEDは12例に実施されていた。輪状甲状靭帯切開術は院外から3次対応で搬送された患者より院内急変患者に有意に多く(p<0.05)実施されていた。昼夜,曜日に関係なく院内CPA例の生存退院率に差はなかった。教育コース受講者は3,000人を超えた。結論:院内救急対応システムは重症例に対して継続的に要請を受け,時間帯や曜日に関係なく一定水準の医療が提供されていた。輪状甲状靱帯切開術は院内発症の気道緊急に対し必要なスキルである。教育コースにより,院内での応援チームの周知やAEDの装着率の向上に寄与していると考えられた。今後も事後検証とフィードバックを継続的に行い,更なるシステム改善につなげる必要がある。
症例報告
  • 石田 健一郎, 前野 良人, 上尾 光弘, 曽我部 拓, 島原 由美子, 若井 聡智, 定光 大海
    2011 年 22 巻 4 号 p. 174-180
    発行日: 2011/04/15
    公開日: 2011/06/28
    ジャーナル フリー
    骨盤骨折の術後経過中に,観血的動脈圧測定用のライン(以下動脈圧ラインと略す)内に含まれるヘパリン加生食によりヘパリン起因性血小板減少症を来した1例を経験した。症例は43歳の男性で,高所からの墜落外傷により当院へ搬送となった。骨盤骨折を認めたが,保存的加療で循環動態は安定した。入院後,血小板数は減少傾向にあったが,外傷後の変化と考え,経過観察した。骨盤骨折に対して観血的整復術を施行後,血小板数の減少は一旦改善を認めたが,第7病日より再び血小板数の減少を来し,血小板数は2.7×104/μlにまで低下した。ヘパリン起因性血小板減少症を疑い,動脈圧ライン内に含まれたヘパリンを含む全てのヘパリン製剤を中止し,アルガトロバンの投与を開始したところ,血小板数の改善を認めた。抗血小板抗体は陰性であり,抗ヘパリン血小板第4因子複合体抗体検査は陽性であったことが後に判明し,ヘパリン起因性血小板減少症と診断した。動脈圧ラインに用いられるヘパリン加生食に関連した本症は稀であるが,いかなる投与量・経路でも発症しうるため,観血的動脈圧測定による合併症として常に注意する必要がある。
  • 佐藤 淳哉, 宮本 哲也, 高橋 晃, 当麻 美樹, 中桐 啓太郎, 向原 伸彦, 古本 勝
    2011 年 22 巻 4 号 p. 181-187
    発行日: 2011/04/15
    公開日: 2011/06/28
    ジャーナル フリー
    劇症型心筋炎の治療中に左室内血栓を生じ,開心術下に血栓摘出術を施行し救命した症例を経験したので,文献的考察を加え報告する。症例は40歳代男性で特記すべき既往はない。感冒様症状を自覚してから4日後に近医受診し,肝逸脱酵素の上昇(AST/ALT:2,426/1,835 IU/l),ショック症状を認めたため当施設へ転院となった。搬入時,血圧90/68mmHg,心拍数120/min,SpO2 80%(酸素マスク15L/min投与下)で,心エコー上心嚢液貯留を認め,%fractional shortening(以下,%FS)は3%と極度に低下していた。感冒様症状の先行と急激に悪化する心不全所見より劇症型心筋炎による心原性ショックと診断し,直ちに気管挿管による人工呼吸管理・経皮的心肺補助装置(percutaneous cardiopulmonary support; PCPS)と大動脈内バルーンパンピング(intraaortic balloon pump; IABP)による循環補助を行うと共に,カテコラミン製剤,カルペリチド,免疫グロブリン製剤,ステロイド剤の投与を開始した。一時,%FSがゼロまで低下したが,第2病日頃より自己心による血圧波形が出現した。その後心機能は急激に回復し,第4病日にPCPS,第5病日にIABPより離脱し得た。第6病日のUCG,造影CTにて左室内に径1.3×1.3cm大の球状血栓を認めた。急性期に生じた左室内血栓が急激な心機能の回復に伴い遊離する可能性が危惧され,第6病日に人工心肺装着下に血栓除去術を施行した。術中採取した心筋標本からlymphocytic myocarditisと診断された。術後経過良好で,第45病日に軽快退院となった。
  • 多河 慶泰, 西田 昌道, 池田 弘人, 安心院 康彦, 藤田 尚, 内田 靖之, 坂本 哲也
    2011 年 22 巻 4 号 p. 188-194
    発行日: 2011/04/15
    公開日: 2011/06/28
    ジャーナル フリー
    症例は31歳の男性。軽自動車を運転中に電柱と衝突して受傷した。通報から25分後に,救急隊によって当センターへ搬入された。搬入時のバイタルサインはJapan coma scale (JCS)300,血圧58/- mmHg,心拍数123/minであった。超音波検査で心タンポナーデと診断し,剣状突起下心嚢開窓術の準備中に pulseless elecrical activity(PEA)に至った。緊急室開胸を行い,右房破裂に対して破裂部を縫合修復した。搬入時の血液生化学検査ではAST 293 IU/l,ALT 184 IU/lと肝逸脱酵素が上昇し肝損傷合併の可能性があると考えられた。受傷から約1時間30分後の腹部造影CTでは門脈周囲に低吸収域を認めたが,他に肝損傷を示す所見はなかった。受傷から約21時間後のCTでは門脈周囲の低吸収域は消失していた。以上のことから門脈周囲の低吸収域は肝損傷ではなく,心タンポナーデによって突発的に肝からの血液流出が障害された結果生じたと考えられた。外傷に伴う門脈周囲の低吸収域に対しては肝損傷の存在を疑うのが一般的であるが,本症例のように肝からの血液流出に障害を来す病態についても考慮する必要がある。
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