日本救急医学会雑誌
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22 巻, 5 号
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原著論文
  • 大村 和也, 新田 幸司, 川嶋 隆久, 藤田 百合子, 村田 晃一, 杉山 準, 石井 昇
    2011 年 22 巻 5 号 p. 197-204
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/07/23
    ジャーナル フリー
    病院前における蘇生術の質の向上や自動体外式除細動器(automated external defibrillator; AED)などのデバイスの発達,医療機関での集中治療の発展などにより院外発生心停止(cardiac arrest: CA)症例の成績は徐々に上向きとなってきているが,決して満足できるものでない。神戸市消防局の協力のもと,人口約153万人の政令指定都市である神戸市における院外で発生したCA症例に対するpublic-access defibrillation(PAD)の状況とその成果について報告する。神戸市内に配置されたAEDの現状と,2005年4月から2010年3月までの5年間に神戸市内で発生し,救急隊による搬送が行われたCA 5,700症例を対象にPADの現況を分析した。神戸市内のAED設置台数は2005年4月の時点では90台であったが,AED設置場所の拡大に伴い,2010年3月には1,299台設置されている(神戸市消防局発表分に限る)。期間中bystanderによりAEDが装着された事例は136例(2.6%)あった。うち目撃のある心原性症例は90例で,42例(46.7%)が除細動の適応であり,そのうち心拍再開を認めた症例が26例(61.9%)で,1か月生存例は23例(54.8%)であった。AEDが装着された目撃のない心原性症例は44例で,除細動の適応であった症例は6例(13.6%)であり,そのうち心拍再開を認めたのが2例(33.3%),1か月生存を認めたのが1例(16.7%)であった。2010年,Kitamuraらが総務省消防庁のデータから日本全国におけるCA症例をまとめ,PADの有用性を示した。今回我々がまとめた神戸市の結果と日本全国の結果との比較を行ったところ,神戸市におけるPAD症例の予後が良好であることが分かった。しかし,AED装着例は全CA中2.3%,心原性に限定しても4.2%と低く,今後,AED装着症例をいかに増やしていくかが課題と考えられた。
  • 問田 千晶, 六車 崇, 松岡 哲也
    2011 年 22 巻 5 号 p. 205-212
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/07/23
    ジャーナル フリー
    背景:重症外傷患者の転帰には,迅速かつ的確な初期診療の可否が大きく影響を及ぼす。小児患者の診療において,成人との体格差や生理学的特徴の相違が患者評価や治療の障壁となり得る。当施設では小児外傷診療の治療水準を向上させる目的で,2005年より小児診療体制の整備に取り組んだ。目的:救命救急センターにおける小児診療体制の整備が,小児重症外傷患者に対する初期診療および転帰に与える効果を検証すること。対象:2000年1月から2008年12月に当施設へ直接搬入された重症外傷患者のうち,10歳未満の小児患者60例。方法:小児重症外傷患者の重症度と初期診療機能(診療経過および転帰)を,診療録より後方視的に検討し,小児診療体制整備以前の33例(小児前群)と小児診療体制整備後の27例(小児後群)間で比較した。また小児後群においては,同時期の成人重症外傷例337例(成人群)とも比較した。値は各群の中央値を表す。結果:小児診療体制の整備により,搬入から輸液路確保までの時間(小児前群 vs. 後群:7 vs. 2分),気管挿管までの時間(15 vs. 10分),CT室入室までの時間(31 vs. 23分)が,成人群(輸液路確保:2分,気管挿管:9分,CT室入室:29分)と同等レベルまで有意に短縮された。開頭・穿頭術や止血術は,ほとんどの症例で60分以内に開始可能であり,少なくとも小児後群では,preventable deathを認めていない。結語:小児診療体制の整備により,救命救急センターにおいて小児重症外傷に対しても成人と同水準の診療提供が可能であった。
症例報告
  • 杉村 朋子, 鯵坂 和彦, 大田 大樹, 田中 潤一, 喜多村 泰輔, 石倉 宏恭
    2011 年 22 巻 5 号 p. 213-218
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は43歳の女性。30歳時に神経性食思不振症と診断され,精神科への入退院を繰り返していた。今回,自宅にて意識レベルが低下したため,救急車で近医へ搬送された。脱水と低栄養状態であり,低血圧,低血糖に対して高カロリー輸液による水分栄養補給が開始された。しかし,多臓器不全を呈したため,第13病日に当センターへ転院となった。臨床経過から,本患者は慢性の半飢餓状態の代謝に適合しており,低リン血症を補正しないまま糖負荷を行ったことによるrefeeding syndromeと診断した。血清リン濃度(IP)0.5mg/dlと著明な低リン血症を呈していたため,直ちにリンの補充を行い,輸液は低カロリーから開始した。低リン血症改善後,ショックから離脱し多臓器不全も改善傾向を示した。しかし,第27病日に敗血症性ショックを合併し呼吸不全の増悪から,第60病日に死亡退院となった。近年,救急・集中治療の領域においても栄養管理の重要性が認識されているものの,依然としてrefeeding syndromeの存在は広く認知されているとは言い難い。神経性食思不振症患者の栄養管理に際しては,refeeding syndromeを念頭に置き,微量元素を含めた低カロリーから開始する栄養補給により臓器不全を回避しなければならない。
  • 澤村 淳, 菅野 正寛, 久保田 信彦, 上垣 慎二, 早川 峰司, 渡邉 昌也, 丸藤 哲
    2011 年 22 巻 5 号 p. 219-223
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/07/23
    ジャーナル フリー
    QT延長症候群には様々な原因があるが,水泳中に心室細動を発症したRomano-Ward症候群の1症例を経験したので,若干の文献的考察を含めて報告する。症例は12歳女児で学校のプール学習で遊泳中に仰向けに浮いているのを発見され,引き上げたところ心肺停止状態であった。直ちに担任教師により心肺脳蘇生法が開始され,自動体外式除細動器(automated external defibrillator; AED) を装着し除細動を実施した(後の解析で心室細動と判明した)。除細動後,間もなく自己心拍が再開した。気管挿管後,ドクターヘリで当科へ搬送された。意識はJapan coma scale(JCS) 200,Glasgow coma scale(GCS) E1VTM3,瞳孔径左右とも3mm,対光反射は両側とも迅速。血圧136/74mmHg,脈拍84/min,呼吸回数 19/min, SpO2 100%(FIO2 1.0,気管挿管下)。12誘導心電図:完全右脚ブロック,QTc 0.49secとQT時間の延長を認めた。24時間の脳低温療法を行い,神経学的後遺症は残さず回復した。日本循環器学会のガイドラインに準拠して植え込み型除細動器(implantable cardioverter defibrillator; ICD)の適応(class I)となり,第7病日にICDを挿入した。その後,問題なく経過し,第14病日に独歩退院した。若年発症のQT延長症候群の場合,先天性のRomano-Ward症候群をまず疑うことが重要である。またRomano-Ward症候群は常染色体優性遺伝であり,遺伝子診断まで検索が必要である。心室細動で発症するハイリスク例に対してはICDの挿入は必須の治療であると考えられた。
  • 上野 雅仁, 林 敏彦, 小林 かおり, 関口 博史, 廣瀬 保夫, 今井 智之, 織田 順
    2011 年 22 巻 5 号 p. 224-228
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/07/23
    ジャーナル フリー
    症例は49歳の男性。自宅階段にて転倒し,右腰部を打撲したが,受診せずに自宅にて経過観察をしていた。徐々に打撲部の疼痛が増強し,肉眼的血尿も出現したため,受傷後5日目に近医を受診し,腎損傷の疑いで当院へ救急搬送された。来院時,呼吸・循環動態に問題はなく,右腰部痛と肉眼的血尿以外に異常所見を認めなかった。造影CTを施行したところ,右腎損傷(日本外傷学会腎損傷分類2008 Ib型)を認めた。保存的治療を行い肉眼的血尿は徐々に改善し,受傷後13日目に退院となった。受傷後29日目に血尿が再燃し,当院泌尿器科外来を受診し造影CTを再度施行した。腎動静脈瘻の可能性が高いと考えられたが,循環動態が安定していたため,待期的に血管造影を行う方針となった。受傷後33日目に肉眼的血尿が再度増悪し,救急外来を受診した。同日に施行した血管造影で右腎動静脈瘻と仮性動脈瘤を認め,コイル塞栓術を施行した。塞栓術施行後,血尿は改善した。外傷性腎動静脈瘻は稀で,そのなかでも鈍的外傷が原因となるものは少ない。本症例のように軽度の腎損傷(日本外傷学会腎損傷分類2008 Ib型)では保存的治療を選択することが多いと考えられる。肉眼的血尿が持続する場合,腎動静脈瘻または仮性動脈瘤を考慮すべきである。この場合,経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization; TAE)は有効な治療手段となり得ると考えられる。
  • 加藤 雅康, 林 克彦, 前田 雅人, 安藤 健一, 菅 啓治, 今井 努, 白子 隆志
    2011 年 22 巻 5 号 p. 229-235
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/07/23
    ジャーナル フリー
    近年,クマの目撃件数が増加しており,クマが生息する山間部付近の病院ではクマ外傷を診察する機会が増加することが予想される。当院で過去2年間に経験したクマ外傷の4例を報告し,初期治療での注意点について考察する。クマ外傷は頭部顔面領域に多く,顔面軟部組織損傷の治療にあたっては,眼球,鼻涙管,耳下腺管や顔面神経などの損傷を確認し,損傷の部位や程度に応じてそれぞれの専門科と共同で治療を行うことが必要となる。また,細菌感染や破傷風の予防が必要である。当院で経験した4例と文献報告でも,創部の十分な洗浄と抗菌薬治療,破傷風トキソイドと抗破傷風人免疫グロブリンの投与により重篤な感染を生じることはなかった。しかし,頭部顔面の創部と比較して四肢の創部は治癒に時間がかかった。クマ外傷の診療にあたっては,顔面軟部組織損傷と感染症予防に対する知識が重要と考えられた。
  • 石川 恵理, 伊関 憲, 清野 慶子, 林田 昌子, 岩下 義明, 福家 千昭
    2011 年 22 巻 5 号 p. 236-242
    発行日: 2011/05/15
    公開日: 2011/07/23
    ジャーナル フリー
    原因不明のショック症状を呈した患者2名が搬送され,後に原因がジルチアゼムなどの大量服薬と判明した。カルシウム拮抗薬中毒と考え,塩化カルシウムを投与したところ全身状態が劇的に改善した症例を経験したので報告する。〈症例1〉30歳の女性。全身倦怠感にて救急隊を要請した。救急隊接触時血圧50mmHg台で意識レベルが徐々に悪化した。意識レベルGCS E1V2M5,血圧69/34mmHg,脈拍69/min・不整,心電図上房室解離を認めた。〈症例2〉37歳の男性。高血圧,狭心症の既往歴がある。症例1に付き添って来院し,気分不良を訴えた。来院時意識レベルは不穏状態,GCS E3V5M6,血圧65/32mmHg,脈拍70/min。心電図上P波欠落,洞停止,補充調律を認めた。2症例ともに,大量輸液,カテコラミンの投与には不反応であり,遷延する低血圧,乏尿とクレアチニン上昇の急性腎不全を呈した。翌日自宅よりジルチアゼム,ニコランジルなど大量の空包が見つかった。ジルチアゼムによるカルシウム拮抗薬中毒と考え,塩化カルシウム投与を行ったところ急激な血圧上昇,利尿が得られた。その後全身状態が改善し,後遺症なく退院した。後に来院時の血清より高濃度のジルチアゼムとその代謝産物が検出された。カルシウム拮抗薬中毒では,血管拡張による低血圧,徐脈を呈し,心電図上房室ブロックとなる。治療はカテコラミンやカルシウム製剤の投与である。グルコン酸カルシウムよりも塩化カルシウムの投与を勧める報告があり,本症例でもグルコン酸カルシウムは効果がなく,塩化カルシウムの投与で全身状態が改善した。
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