日本救急医学会雑誌
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22 巻, 7 号
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原著論文
  • 小林 憲太郎, 木村 昭夫, 萩原 章嘉, 新保 卓郎, 佐々木 亮, 佐藤 琢紀, 伊中 愛貴
    2011 年 22 巻 7 号 p. 305-311
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/09/13
    ジャーナル フリー
    背景:クモ膜下出血(subarachnoid hemorrhage; SAH) の予後は早期診断に依存し,診断の遅れはmorbidityやmortalityを悪化させる。しかしながら,初診の段階で12%のSAHが見逃されているとの報告もあり,発症初期における高精度の予測が必要とされている。目的:頭痛を主訴に救急搬送された症例でSAHを疑わせる客観的予測因子を同定し, これらを組み合わせてSAHの有無を予測するスコアを策定すること。対象と方法:2001年より9年間で頭痛を主訴に救急搬送された症例のうち,外傷,酩酊,昏睡の症例や,最終転帰不明の症例を除いた573例を対象とした。このうち2001年1月1日~2006年12月31日の356例について頭部CT,腰椎穿刺でSAHと診断されたSAH群(n=88)と認めなかった対照群(n=268)に分け,バイタルサインや検査値など数値で表される項目を調査し,単変量並びに多変量ロジスティック解析を施行して予測因子を決定し,それらを基にSAH予測スコア(SPS)を作成した。次に2007年1月1日~2009年12月31日の217例を用いて,作成された予測スコアを検証した。結果:臨床の場面での使い易さを踏まえ,白血球数>8,000(/μl),血糖値>130(mg/dl),血清K値<3.5(mEq/l),収縮期血圧>140(mmHg)という因子とカットオフ値が導き出された。これらの予測因子に点数を定め,SPSとして各群に点数付けを行った。SPS=0点の患者において,SAHは存在しなかった。更にSPSが上昇するに従いSAHのリスクも高まった。また,検証群においてもSPSについて同様の結果を得た。結語:SPSを用いることにより,救急外来において,見逃し回避を重視したSAH予測が可能となる。
  • 中村 俊介, 三宅 康史, 土肥 謙二, 福田 賢一郎, 田中 幸太郎, 森川 健太郎, 有賀 徹
    2011 年 22 巻 7 号 p. 312-318
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/09/13
    ジャーナル フリー
    背景:熱中症の後遺症として中枢神経障害を生じた症例の報告は散見されるが,発生に関わる要因について検討されたものは少ない。目的:熱中症の臨床所見から中枢神経系後遺症の発生要因を明らかにする。方法:2006年,2008年に日本救急医学会熱中症検討特別委員会が実施した症例調査であるHeatstroke STUDY 2006およびHeatstroke STUDY 2008から中枢神経系後遺症を生じた症例,および対照として後遺症なく生存したIII度熱中症の症例を抽出し,各々の診療情報について分析を行った。結果:全症例数は1,441例であり,中枢神経系後遺症は22例(1.5%)で認めた。重複したものを含め後遺症の内容は,高次脳機能障害15例,嚥下障害6例,小脳失調2例,失語および植物状態が各1例であった。中枢神経系後遺症を生じた群の男女比は13:9,平均年齢は62.6歳であり,一方,後遺症なく生存したIII度熱中症は計286例で男女比213:72(不明1),平均年齢55.4歳であった。来院時の臨床所見については,中枢神経障害を生じた群で90mmHg以下の血圧低下,120/分以上の頻脈を多く認めたが,後遺症なく生存したIII度熱中症群との間に有意差はなかった。一方,Glasgow coma scale(GCS)の合計点,体温,動脈血ガス分析のbase excess(BE)において有意差を認め(各々p=0.001,p=0.004,p=0.006),また来院後の冷却継続時間についても有意差がみられた(p=0.010)。結語:中枢神経系後遺症の発生例では来院時より重症の意識障害,高体温,BE低値を認め,冷却終了まで長時間を要していた。中枢神経系後遺症を予防するためには,重症熱中症に対して積極的な冷却処置および全身管理,中枢神経保護を目的とした治療を早急に行うことが重要である。
症例報告
  • 萩原 周一, 古川 和美, 村田 将人, 中村 卓郎, 大山 良雄, 田村 遵一, 大嶋 清宏
    2011 年 22 巻 7 号 p. 319-324
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/09/13
    ジャーナル フリー
    症例は53歳の男性。既往に高血圧,糖尿病,アルコール性肝障害あり。飲酒後入浴し,浴槽に沈んでいるところを発見され救急搬送された。来院時意識障害と呼吸不全を認め,集中治療を行ったところ病態は改善傾向となったが,第6病日に発熱し呼吸不全となった。acute respiratory distress syndrome(ARDS)と診断し,シベレスタットナトリウムおよび高頻度振動換気を用いた集中治療を行ったところ奏功し第9病日に抜管,第40病日に退院した。二次性溺水によるARDSは好中球エラスターゼの関与が考えられ,シベレスタットナトリウムの効果が期待できる。また,高頻度振動換気はARDSに対し酸素化改善に有効であった。
  • 杉村 朋子, 坂 暁子, 大田 大樹, 村井 映, 喜多村 泰輔, 石倉 宏恭
    2011 年 22 巻 7 号 p. 325-329
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/09/13
    ジャーナル フリー
    症例は84歳の女性。認知症と脳梗塞後遺症のリハビリテーションのため入院加療中であった。食事は常に全量摂取で,嘔吐や嚥下困難は認められなかった。食後1時間後より突然の呼吸困難と吸気性喘鳴が出現し,胸部X線検査にて上縦隔の拡大を認めた。4日前に転倒による胸部打撲があることから縦隔血腫が疑われ,加療目的で当センターへ転院となった。入院時,頻脈と不整脈,頻呼吸,吸気性喘鳴,頸静脈怒張を認めた。胸腹部CT検査では,食道の異常拡張と大量の内容物貯留を認め,食道アカラシアと診断した。食道の異常拡張による気管圧排に起因した気道閉塞と判断し,気管挿管を実施したところ,心室細動が生じ胸骨圧迫を実施した。約1分後に自己心拍は再開し,気道圧迫解除目的で緊急上部消化管内視鏡検査を行った。食道から約600gの食物残渣を吸引し,その後不整脈は消失しショック状態から離脱した。以後,全身状態は安定し,2週間後に前医へ転送した。食道アカラシアは,心停止を来しうる疾患であることを認識し,的確な診断と迅速な対応を心掛けなければならない。
  • 中川 浩美, 佐々木 彩, 松本 淳子, 森本 章, 藤原 謙太, 石川 雅巳, 東 龍哉
    2011 年 22 巻 7 号 p. 330-336
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/09/13
    ジャーナル フリー
    摘脾後や脾臓機能低下時に,肺炎球菌感染症が劇症化することが報告されている。今回,劇症型肺炎球菌感染2症例において,末梢赤血球中にHowell-Jolly小体の出現とCT画像上の脾臓低形成を認めた。1例は救命し得たが,1例は急激な経過で病状が進行し,敗血症と播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation; DIC)を伴って救命し得なかった。血液標本中のHowell-Jolly小体出現と脾臓低形成は,脾臓機能低下と肺炎球菌感染症を重篤化させる危険因子の指標となる可能性がある。
  • 澤村 淳, 久保田 信彦, 上垣 慎二, 早川 峰司, 鈴木 友己, 嶋村 剛, 丸藤 哲
    2011 年 22 巻 7 号 p. 337-343
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/09/13
    ジャーナル フリー
    緒言:Posterior reversible encephalopathy syndrome(以下PRESと略す)は主要症状として頭痛・脳症・視野障害・痙攣を呈し,神経症状を残さずに臨床症候や画像所見が改善する可逆的な臨床的・放射線学的症候群である。PRESの発症原因は様々であるが,今回我々は生体肝移植術後に合併した敗血症が発症に関与したと考えられたPRESの3症例を経験したので文献的考察を含めて報告する。症例:症例1は28歳の女性。劇症肝炎に対して生体肝移植術を施行したが,手術後約5週間後に突然の視力障害で発症した。後頭葉・橋に脳浮腫が認められた。PRESと診断し,保存的対症療法を行ったところ,更に6週間後にはMRI上も脳浮腫は消失し神経症状も右同名半盲以外後遺しなかった。症例2は5歳の女児。先天性胆道閉鎖症のため葛西手術が行われていたが,今回生体肝移植術が施行された。術後約4週間後に突然の痙攣発作で発症した。MRIで左右後頭葉を中心に頭頂葉・側頭葉・前頭葉と散在性に脳浮腫像を認めた。第41病日にはMRI所見の改善が認められた。症例3は19歳の男性。生体肝移植術の5日後に強直性間代性痙攣で発症した。第35病日にはMRI所見の改善が認められた。症例2・3は神経症状の後遺を認めなかった。3症例とも免疫抑制薬の血中濃度は正常範囲内であったが,PRES発症に先行する敗血症を認めた。考察:PRESの原因には様々な病態が考えられるが,免疫抑制薬使用時は血中濃度のみならず敗血症にも十分注意しなければならない。結語:生体肝移植術後に敗血症が原因と考えられるPRESの3症例を経験した。救急・集中治療医はPRESの病態・治療法等を熟知しておくべきである。
  • 田中 博之
    2011 年 22 巻 7 号 p. 344-349
    発行日: 2011/07/15
    公開日: 2011/09/13
    ジャーナル フリー
    症例は47歳の女性。胸背部痛のため救急要請をした。搬入時,脈拍101/min,血圧140/95 mmHg,体温33.6℃,SpO2 98%/自発呼吸・室内空気下のため酸素投与(10L/min)を開始した。意識清明,顔面蒼白,全身発汗著明,末梢冷感で胸部聴診上,有意な所見はなかった。12誘導心電図ではI・aVLおよびV2-V6にかけての広範なST上昇を認めた。直後に心電図モニター上,心室細動(ventricular fibrillation; VF)を認めた。呼びかけたが応答はなく,頸動脈拍動を触知できなかった。直ちに胸骨圧迫を開始した。除細動(二相性150J×1回)を施行してから約2分後に「痛い」と言って開眼し,頸動脈の拍動を触知することができた。VF確認から脈拍触知まで約3分30秒を要した。初療室での心電図モニター記録などから,洞調律から“R on T”,そして多形性心室頻拍(polymorphic ventricular tachycardia; PVT),更にVFへ移行したものと推測された。緊急冠動脈造影検査で,左前下行枝#6に90%,右冠動脈#2に50%の狭窄を認め,経皮的な冠動脈治療介入(percutaneous coronary intervention; PCI)を実施した。本症例はQT時間正常のPVTと考えられた。QT時間延長を伴わないPVTは冠動脈疾患の経過中に起こることが多いが,本症例もその例に漏れない。またPVT発症から10秒~数10秒以内にVFへ移行したものと推測され,直ちに心肺蘇生を開始せざるを得なかった。PCI後もPVTが再発しなかったため,冠血管への再灌流が十分に行われ,PCI施行後に虚血が残った可能性は低いと考えられた。“R on T”からPVTへ移行する過程が示されていることは比較的稀である。
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