【背景】外傷患者の転帰予測に使用されるTRISS法は北米の症例に基づき作成されたため,日本独自の予測式を作成することで日本の症例における予測性能を改善できる可能性がある。TRISS法は,患者の来院時収縮期血圧(SBP)を含む5つの項目の値に対応したスコアから転帰を予測するが,正常よりも高いSBPを示す症例を考慮していない。【目的】SBPが150 mmHg以上の症例が転帰予測性能に与える影響を明らかにする。来院時高血圧症例において,転帰予測性能が悪化しないSBPのスコアを検討する。【対象と方法】2004年から2009年に日本外傷データバンク(JTDB)へ登録された鈍的外傷症例で,TRISS法による予測値算出に必要な項目に欠損値の無い症例(n=22,283)を対象とした。SBPが180 mmHg以上の症例に対しSBPのスコアを2として転帰予測式を作成した。その方法で作成した転帰予測式とTRISS法,現状のTRISS法で用いられているスコアを使用した転帰予測式,一般化加法モデルの性能を調査した。また,SBPの層別にも予測性能の調査を行った。JTDBとの比較のためNational Trauma Data Bank(NTDB, n=1,078,289)で同様の分析を行った。【結果】SBPの値に対する生存率を算出した結果,120 mmHg台で生存率が最も高くなる凸形の曲線を示した。日本の症例では高血圧症例での生存率が北米に比べ低かった。JTDBを用いたTRISS法と現状のTRISS法のスコアを用いた転帰予測式では,高血圧症例の転帰予測性能は大きく悪化した。NTDBの分析結果では転帰予測性能の大きな悪化はみられなかった。【考察】JTDBの症例ではNTDBの症例と比べ頭部外傷,55歳以上の患者の割合が大きく,その影響が高血圧症例の転帰に影響を与えている可能性がある。複雑な転帰予測式を用いることで予測性能は向上するが,実用には議論が必要である。修正SBPスコアを用いた我々の提案方法はTRISS法と同様に簡易に転帰予測が可能で,日本の来院時高血圧症例においてその有効性が示唆される。【結語】来院時高血圧症例に適したスコアを与えることで,日本独自の転帰予測式の性能を改善できる可能性がある。
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