日本救急医学会雑誌
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23 巻, 12 号
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原著論文
  • 石垣 司, 阪本 雄一郎, 本村 陽一, 山田 クリス孝介
    2012 年 23 巻 12 号 p. 825-833
    発行日: 2012/12/15
    公開日: 2013/01/17
    ジャーナル フリー
    【背景】外傷患者の転帰予測に使用されるTRISS法は北米の症例に基づき作成されたため,日本独自の予測式を作成することで日本の症例における予測性能を改善できる可能性がある。TRISS法は,患者の来院時収縮期血圧(SBP)を含む5つの項目の値に対応したスコアから転帰を予測するが,正常よりも高いSBPを示す症例を考慮していない。【目的】SBPが150 mmHg以上の症例が転帰予測性能に与える影響を明らかにする。来院時高血圧症例において,転帰予測性能が悪化しないSBPのスコアを検討する。【対象と方法】2004年から2009年に日本外傷データバンク(JTDB)へ登録された鈍的外傷症例で,TRISS法による予測値算出に必要な項目に欠損値の無い症例(n=22,283)を対象とした。SBPが180 mmHg以上の症例に対しSBPのスコアを2として転帰予測式を作成した。その方法で作成した転帰予測式とTRISS法,現状のTRISS法で用いられているスコアを使用した転帰予測式,一般化加法モデルの性能を調査した。また,SBPの層別にも予測性能の調査を行った。JTDBとの比較のためNational Trauma Data Bank(NTDB, n=1,078,289)で同様の分析を行った。【結果】SBPの値に対する生存率を算出した結果,120 mmHg台で生存率が最も高くなる凸形の曲線を示した。日本の症例では高血圧症例での生存率が北米に比べ低かった。JTDBを用いたTRISS法と現状のTRISS法のスコアを用いた転帰予測式では,高血圧症例の転帰予測性能は大きく悪化した。NTDBの分析結果では転帰予測性能の大きな悪化はみられなかった。【考察】JTDBの症例ではNTDBの症例と比べ頭部外傷,55歳以上の患者の割合が大きく,その影響が高血圧症例の転帰に影響を与えている可能性がある。複雑な転帰予測式を用いることで予測性能は向上するが,実用には議論が必要である。修正SBPスコアを用いた我々の提案方法はTRISS法と同様に簡易に転帰予測が可能で,日本の来院時高血圧症例においてその有効性が示唆される。【結語】来院時高血圧症例に適したスコアを与えることで,日本独自の転帰予測式の性能を改善できる可能性がある。
  • 矢澤 和虎, 野首 元成, 竹原 延治, 梅村 穣, 瀧本 浩樹, 小川 新史, 末吉 孝一郎
    2012 年 23 巻 12 号 p. 834-841
    発行日: 2012/12/15
    公開日: 2013/01/17
    ジャーナル フリー
    【背景・目的】一酸化炭素(以下CO)中毒患者の治療における高気圧酸素(以下HBO)治療の役割に関しては未だ十分にコンセンサスが得られていない。今回全国の救命センターにアンケート調査を行い,CO中毒,とくにHBO治療の現状を把握した。【対象・方法】全国218の救命救急センターにアンケート調査を行い,CO中毒の発生件数,HBO装置の有無や治療方法,頭部MRIの検査状況,さらには遅発性脳症の発症の有無について調査した。【結果】無記名の1施設を除き108施設(50%)から有効回答を得た。年間のCO中毒症例数は5-10件が45施設と最も多く,5件未満が38施設と続いた。HBO装置は45施設(42%)で所有しており,うち40施設がCO中毒でHBO治療を行うと答えた。CO中毒全例でHBO治療を行う12施設,遅発性脳症が発生したら行う12施設,残りは臨床症状から決めるであった。回数も1回:7施設,初日2回の3日間(計4回):9施設,一週間で計7回:7施設と様々であった。全施設対象に行った調査で,90%の施設で頭部MRIを施行していた。調査した1年間では計12例の遅発性脳症の報告があった。全例が暴露後30日以内に発症した。HBO治療は急性期CO中毒に対するHBO治療目的で転院した1例を含め8例で施行されていたが,回数は1-80回と差があった。【結語】CO中毒患者が主に搬送される全国の救命救急センターにおいてもHBO装置の所有率は4割余りで,その施行法も施設間による差が大きく,CO中毒においてHBO治療は確立されているとは言えなかった。本邦におけるHBO治療の治療指針が望まれ,そのための質の高い多施設研究が必要と考えられる。
  • 杉村 朋子, 原 健二, 久保 真一, 西田 武司, 弓削 理絵, 石倉 宏恭
    2012 年 23 巻 12 号 p. 842-850
    発行日: 2012/12/15
    公開日: 2013/01/17
    ジャーナル フリー
    尿試料からの簡易薬物スクリーニング検査を実施している3次救命救急センターや高度救命救急センターでは,これまでTriage DOA(シスメックス社)が使用されてきた。2010年11月にはこれに加えて,尿検査キットINSTANT-VIEW M-I(TFB社)が国内販売となった。そこで当施設において薬物分析結果に基づいた両キットの比較検討を行った。対象は2010年12月28日から2011年8月30日までの約8か月間で,救急初療時に検査が必要と判断し,採尿可能であった症例を対象とした。Triage DOAおよびINSTANT-VIEW M-Iの検査を施行し,1項目でも陽性を認めた45症例に対し,当大学法医学教室でガスクロマトグラフ質量分析装置(Gas Chromatograph Mass Spectrometer,以下GC/MS)および液体クロマトグラフ質量分析装置(Liquid Chromatography - tandem Mass Spectrometry,以下LC/MS/MS)を用いた薬物分析を実施した。比較検討の結果,INSTANT-VIEW M-Iの方が操作は簡便で所要時間も短時間であった。しかし,結果の判定はTriage DOAの方が簡単であった。薬物検査の性能に関しては,感度はINSTANT-VIEW M-Iが高く,特異度はTriage DOAが高い傾向にあった。両キットで三環系抗うつ薬とベンゾジアゼピン系の偽陽性率が高く,数例で偽陰性も認めた。簡易スクリーニング検査には偽陽性(偽陰性)があるということを理解したうえで用いることが重要である。
症例報告
  • 梶岡 裕紀, 内藤 宏道, 萩岡 信吾, 杉山 淳一, 岡田 大輔, 岡原 修司, 森本 直樹
    2012 年 23 巻 12 号 p. 851-855
    発行日: 2012/12/15
    公開日: 2013/01/17
    ジャーナル フリー
    肺血栓塞栓症は整形外科術後など下肢の外固定後に比較的発症頻度の高い疾患である。我々は外固定を起因に発症した若年重症肺血栓塞栓症を経験したので報告する。症例は39歳の男性。近医にてアキレス腱皮下断裂に対してロングレッグギプス外固定にて自宅療養中であった。その3週間後に段階的に増強する労作時呼吸困難が出現し,受診当日には突然の安静時呼吸困難と胸痛が出現したため当院に救急搬送された。来院時,頻呼吸を認め,内頸動脈をわずかに触知可能であり,著しい不穏状態であった。経胸壁心臓超音波検査,心電図検査にて右室負荷所見を認めたため,肺血栓塞栓症と診断した。極度の循環虚脱状態であったため,直ちに経口気管挿管とX線透視下に経皮的心肺補助装置の導入を行った。さらに続けて肺動脈造影検査を行い,両主肺動脈に血栓塞栓子を認めたため,血栓破砕術,溶解療法を施行した。その後は抗凝固療法を中心に加療を行った。循環動態はしだいに安定し,第3病日に経皮的心肺補助装置を離脱し,第4病日には人工呼吸管理を離脱した。第14病日にアキレス腱縫合術を施行し,第29病日に独歩退院となった。The American College of Chest Physicians(以下ACCP)のガイドラインでは,外傷における下肢の外固定の際には抗凝固療法を行う必要性については議論の余地があるとされている。アキレス腱皮下断裂に対する外固定における血栓症発症頻度は,整形外科領域において下肢静脈血栓症と肺血栓塞栓症の発症頻度が高いとされる人工股関節置換術後と同程度であり,人工股関節置換術同様に抗凝固療法は必要とする報告もある。肺血栓塞栓症発症時には早急な処置が必要なのは勿論のこと,外固定時には早期手術,抗凝固療法を含めた肺血栓塞栓症の予防を検討する必要があると考えられる。
  • 竹内 一郎, 今木 隆太, 佐藤 伸洋, 猪又 孝元, 庭野 慎一, 和泉 徹, 相馬 一亥
    2012 年 23 巻 12 号 p. 856-860
    発行日: 2012/12/15
    公開日: 2013/01/17
    ジャーナル フリー
    薬物治療で改善が見込めない劇症型心筋炎,拡張型心筋症などの重症心不全患者を救命するためにはintra aortic balloon pumpimg(IABP)やpercutaneous cardio pulmonary support(PCPS)など補助循環装置が必要である。それでも改善がない場合はleft ventirular assist device(LVAD)による循環サポートを行いながら心臓移植待機リストに入る。本邦では臓器移植法案の改正によって家族同意のみで脳死判定が可能となり,それ以後心臓移植が大幅に増加している。しかし,LVAD植え込み手術を行う施設は限られている。よってLVADが必要な患者を緊急かつ安全に搬送する必要がある。救急車による搬送は車内が狭く,移動中に機器内蔵バッテリーが不足する危険性がある。ヘリコプターによる搬送は迅速性の点では有用であるものの機内が狭く機内で使用できる総電流量が問題となる。今回我々はIABPを装着した重症心不全患者を災害支援車(支援車Iとして総務省から全国の消防本部に配備中)によって陸路搬送した。災害支援車は大型バスサイズの消防車両である。この車両は災害時に現地へ派遣された救助隊員の生活を支援するための車両であるから車内で使用できる電流量は20Aと多い。車両内部が広く搬送中患者の容態悪化にも対応できるスペースがある。今後LVAD植え込み手術がより一般的治療になるにつれて,補助循環装置を装着した重症心不全患者を緊急にLVAD手術可能施設へ転院搬送しなければならない事例が増えると予想される。各地域ごとにあらかじめ搬送方法,手段について医療と消防とで協議し搬送シミュレーションをしておくことが重要である。
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