日本救急医学会雑誌
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23 巻, 7 号
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原著論文
  • 加藤 隆之, 川嶋 隆久, 石井 昇, 松本 雅則, 藤村 吉博, 安藤 維洋, 吉田 剛
    2012 年 23 巻 7 号 p. 285-294
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    【緒言】重症感染症における播種性血管内凝固症候群は線溶抑制型で虚血性臓器障害を来す。一方,血小板減少および臓器不全の基礎的メカニズムは十分には解明されていない。ADAMTS13はvon Willebrand 因子活性の制御を行うことで血小板粘着・凝集を制御する酵素である。感染症においてもADAMTS13が関与している可能性が報告されるが,その活性値は研究者間に相違がみられる。また,本邦におけるADAMTS13活性値と,感染症における重症度スコアとの関連を検討した報告は少ない。【対象】2009年2月から2010年8月に当院当科で加療したsevere sepsis,septic shock,refractory septic shock患者のうち,antithrombin III(AT III)60%未満を満たし,AT III製剤を3日間投与した23例。【方法】ADAMTS13活性,重症度スコア,血小板数,クレアチニン(Cr),プロテインCについて,1)経時的変化,2)ADAMTS13活性値と各項目の相関,3)各項目におけるADAMTS13活性値高値群(30%以上)・低値群(30%未満)の比較,4)Day1におけるADAMTS13活性値高値群と低値群のDay28における転帰の比較を行った。【結果】Day1のADAMTS13活性値は10%未満が9.1%,30%未満が41%であった。経過とともにADAMTS13活性値は上昇,重症度スコアは低下,血小板数は上昇,Crは低下,プロテインCは上昇した。ADAMTS13活性値は急性期DICスコア,SOFA(sequential organ failure assessment)スコアと負の相関を認め,Crと有意に負の相関を認め,プロテインCとは有意に正の相関を認めた。ADAMTS13活性低値群は,高値群に比べ重症度スコアが高かった。また低値群は血小板数が低く,Crが高く,プロテインCは低かった。Day28における転帰は,Day1 ADAMTS13活性値低値群(n=9)が高値群(n=13)に比べ有意に死亡率が高かった。【結論】本邦での重症感染症におけるADAMTS13活性値を測定し,10%未満が9.1%であった。重症度スコアはADAMTS13活性と相関した。過去の報告との相違の理由として,ADAMTS13活性値著減例のなかには血栓性微小血管障害症に近い病態の症例が含まれている可能性があり,今後の検討を要する。
  • 中島 康, 内田 靖之, 長浜 誉佳, 丹野 克俊, 森村 尚登
    2012 年 23 巻 7 号 p. 295-303
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    【はじめに】多数傷病者発生事案対応のトリアージ訓練方法としてPDCA cycleの手法を用いたSTART法訓練を考案し,その有用性の検証を行った。【対象】全7回の災害医療研修に参加した282名の受講者(看護師136名,救急隊124名,医師22名)を対象とした。【方法】最初にSTART法のアルゴリズムを復習した。各受講者に傷病者カードを配布し,カード記載の傷病状態を演技させた。全5チームに分け,うち1チームを救援者,残り4チームを傷病者とし,役割を交代して合計5回の訓練を施行した。1回の訓練は,活動方針計画1分間,実施2分間,結果評価2分間の計5分間とした。結果判定は各受講者が行い,(1)タグの正しい装着,(2)正しいカテゴリー,(3)区分記載ありの3点全てが揃った場合を正解とした。不正解の場合,間違われた受講者のみが不正解に至った問題点を全員に対し指摘した。指導者はアルゴリズム上の問題点のみを全員に対し確認した。制限時間内にトリアージを正しく完了するため,各救援者チーム自らが活動方針を計画し実行した。実施毎にトリアージ実施数および未実施数を比較し,未実施数減少後は,未実施中の赤タグ傷病者数の比較を追加評価した。次チームは改善を要する点を指導者と協議し,自らが活動方針と方法を改善し実行した。【結果】トリアージ実施率(%;実施数/全傷者数;中央値(範囲))は,1回目40.0%(30.5-50.0),2回目65.0%(62.1-78.5),3回目83.3%(48.8-96.6),4回目84.5%(86.8-96.4),5回目89.3%(69.9-100.0)と上昇し,正解率(%; 正解数/全傷者数)も1回目25.4%(6.9-37.5),2回目51.7%(43.8-57.1),3回目62.7%(41.9-89.7),4回目75.0%(54.7-81.8),5回目78.1%(46.0-93.8)と上昇した。各々の率は1回目と2回目および3回目の間に統計学的有意差を認めた。MCI対応に必要な方策は,(1)正解率上昇,(2)未実施数減少,(3)赤患者優先,(4)患者情報集約の4つが導かれた。【結語】PDCA cycleの手法を用いたSTART法訓練は,少人数で制限時間内に多数傷病者をトリアージする方策を習得でき,反復訓練による実施率と正解率の向上を得られると考える。
症例報告
  • 朱 祐珍, 渥美 生弘, 瀬尾 龍太郎, 林 卓郎, 水 大介, 有吉 孝一, 佐藤 愼一
    2012 年 23 巻 7 号 p. 304-308
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    アクリルアミドは様々な用途で使用されるが,長期の曝露によって末梢神経障害を主症状とする慢性中毒を起こすことが知られている。今回我々は,アクリルアミドによる急性中毒を来した症例を経験したので報告する。症例は23歳の男性。自室にて自殺目的にアクリルアミドを水に溶かした溶液を内服し,嘔吐を認めたため救急外来を受診した。来院時意識清明,血圧117/53mmHg,脈拍数101/分,SpO2 99%(室内空気下),呼吸数24/分,体温36.7℃であった。身体所見や血液検査では異常を認めず,輸液にて経過観察をしていたところ,内服8時間後より徐々に不穏状態となった。その後も幻視や幻聴などの中枢神経症状が持続するため緊急入院となった。内服9時間後より全身の硬直,著明な発汗が出現し,内服11時間後より乳酸値の上昇,血圧低下を認めた。輸液負荷を行ったが反応せず,カテコラミンを投与し気管挿管を行った。その後も循環動態は安定せず,肝機能障害,腎機能障害が出現し,血液透析を施行したが,血圧が保てず約1時間で中止した。乳酸値の上昇から腸管虚血を疑い造影CTを施行したところ,著明な腸管壁の浮腫と少量の腹水を認めた。腸管壊死の可能性はあるが,全身状態から外科的処置は困難と判断した。その後も乳酸値の上昇,血圧低下,全身痙攣が続き,アクリルアミド内服40時間後に永眠された。アクリルアミドによる慢性中毒や亜急性中毒の報告はあるが,今回の症例のように急性中毒による劇的な経過で死に至った例は少ない。内服後数時間は症状が出現せず重症化を予測しにくいが,その後劇的な経過で死に至る場合があるため,慎重な経過観察が必要と考えられた。
  • 小田 紘子, 水主川 純, 山口 玲, 木村 昭夫
    2012 年 23 巻 7 号 p. 309-314
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    妊産婦の救急体制は社会問題とされており,東京都は2009年に新たな周産期救急体制を導入した。スーパー母体救命搬送システムという名のこの救急体制は,東京消防庁を通し,救命処置を要する妊産婦が早急に診療を受けられるようにするシステムである。今回,このシステムを通じて当院へ搬送された妊婦脳出血の1例を呈示し,母体救命搬送の現状と妊娠関連脳血管障害の急性期管理について考察する。症例は29歳の女性,妊娠39週。既往はとくになし。妊娠経過は順調であった。深夜,突然に頭痛,左半身麻痺を認めたため救急要請し,当院へ母体救命搬送依頼があった。来院時Glasgow coma scale E2V4M6,左半身麻痺を認め,頭部CTにて右被殻出血と診断された。その後意識レベルが急激に低下し,児の状態も悪化したため,緊急帝王切開・減圧開頭術施行となった。母体は片側型もやもや病と診断され,遷延性意識障害が残存した状態で転院となり,児は障害なく自宅退院となった。スーパー母体救命搬送システムの搬送事案において,脳血管障害は非産科的疾患のなかで最多であった。妊娠関連脳血管障害は産科救急で高頻度にみられ,致死率は高い。しかし,その急性期診療指針は未だ確立されておらず,救命には多くの医療者の柔軟で迅速な対応が求められる。初期診療においては,早期に確実な気道確保および呼吸管理を行うことが重要であり,血圧は140-160/90-100mmHg程度に管理されることが望ましい。産科救急症例は加療中常に児への影響を考慮する必要があるが,児の状態をモニタリングしながら行うことでより安全な管理が可能であると考える。確実な診療には関連診療科間で産科救急疾患の知識を共有し,緊急時の診療方針を決めておくことなど診療体制の整備が重要である。産科救急は救急科・周産期科の連携のみならず,病院全体の理解と協力を得ることが大切であると考える。
  • 天願 俊穂, 本竹 秀光, 横山 淳也, 中須 昭雄, 安元 浩, 仲里 淳, 依光 たみ枝
    2012 年 23 巻 7 号 p. 315-318
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    心肺蘇生時の胸骨圧迫による胸骨骨折断端が原因の心損傷症例は稀で,剖検症例報告として散見されるのみである。我々は,本機序による右冠状動脈裂傷例を救命したので報告する。症例は59歳の男性で胸痛を主訴に来院した。心電図所見上,前壁領域にST上昇を認め,冠状動脈左前下行枝に経皮的冠動脈インターベンションを行った。カテーテル室で心室細動後に心停止となり,胸骨圧迫による心肺蘇生処置ならびに経皮的心肺補助装置を導入した。冠状動脈造影を再度行い,右冠状動脈の背側への偏位を認め,心エコーにて多量の心嚢液貯留を認めた。心嚢内血腫による心タンポナーデを疑い,心嚢穿刺ならびに緊急手術を施行した。術中所見にて,胸骨骨折断片によるRCA裂傷を認め,裂傷部縫合閉鎖ならびにRCAとLADに大伏在静脈を用いてバイパス手術を行った。術後2日目にPCPSを離脱し,術後17日目に合併症や神経学的後遺症なく軽快退院した。胸骨圧迫による右冠状動脈裂傷を来した心タンポナーデ症例を適確な診断と迅速な処置で救命した。
学会通信
  • 日本救急医学会小児救急特別委員会
    2012 年 23 巻 7 号 p. 319-328
    発行日: 2012/07/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    目的:日本救急医学会救急科専門医(救急科専門医)の小児救急医療への関与および研修歴を把握し,更なる関与の促進のために必要とされる日本救急医学会小児救急特別委員会の取り組みの方向性を明らかにする。
    方法:2009年5月に救急科専門医を対象にアンケート調査を行った。
    結果:1,046名(37%)の救急科専門医より回答を得た。回答者の68%は何らかの形で小児救急診療に関与していた。CPA症例への関わり64%,重症外傷症への関わり(多発外傷70%,単独外傷67%)に対し,小児内因性疾患への関わりは重症例で51%,中等症例で49%と低い傾向が認められた。また,小児診療に対する自信を問う質問で,自信がないと回答した割合はCPA症例21%,重症外傷(多発外傷21%,単独外傷24%)に比べて,内因性疾患(中等症35%,重症39%)で高値であった。回答者の85%は小児救急に対して生涯学習の機会が必要と感じていた。
    結語:救急科専門医の小児救急医療への関わりは,CPA症例,重症外傷を中心としたものであることが示唆される。救急科専門医の更なる小児救急診療への関与を促進するためには,委員会が小児関連学会との連携を密に,救急科専門医に対して適切な情報提供を行う機能を果たすこと,および内因性疾患を対象とした生涯学習支援ツールの開発を行うことが必要と考えられた。
Letter to the Editor
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