日本救急医学会雑誌
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23 巻, 8 号
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総説
  • 二宮 宣文, 根本 香代, 久野 将宗
    2012 年 23 巻 8 号 p. 333-341
    発行日: 2012/08/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    我々は敗血症の病態の理解および治療に関連する基礎実験を行っている。Lipopolysaccharide(LPS)に対する個体の反応性と実験手技の簡便性の観点から,モルモットのエンドトキシン血症モデルを用いている。我々はとくにLPS投与後に腸管麻痺が起こることに着目した。モルモットエンドトキシン血症モデルでは,LPS刺激後2-3時間で腸管弛緩反応のピークが観察される。この2-3時間に至る間にモルモット生体内では様々な炎症応答反応が進んでいる。その中のシグナルカスケードで腸管弛緩反応を来たすものを想定し,いくつかの作動薬および阻害薬を用いて,腸管弛緩作用機序を検討した。用いた薬物は,作動薬として内因性カンナビノイドのanandamide, 2-arachidonoilglycerol,阻害薬としてLPSを吸着するpolymyxin B固定化カラム,TLR4阻害薬であるTAK-242,CB1受容体阻害薬のAM281およびrimonabant,COX-2阻害薬のmeloxicamである。実験の結果,カンナビノイドを外から動物に投与すると,LPS投与と同様の腸管弛緩反応が認められた。阻害薬の前処置によって,LPS誘発腸管弛緩反応は,いずれも有意に抑制された。これらの結果から,腸管弛緩反応に関与するメディエーターとして,内因性カンナビノイド,アラキドン酸代謝物が考えられた。そしてPMXやTAK-242がより有効であったことから,原因物質を初期段階で除去することが,最も効果的であることが明らかとなった。実際の敗血症患者に対して治療を行う際,障害の背景に上記のメディエーターが作用していることを踏まえる必要がある。しかし,各メディエーター制御のみでは状態の改善は得られないことが,過去の研究より示されており,これらを組み合わせた治療が必要であると思われる。
原著論文
  • 岩瀬 史明, 小林 辰輔, 宮崎 善史, 牧 真彦, 萩原 一樹, 岩瀬 弘明, 松田 潔
    2012 年 23 巻 8 号 p. 342-348
    発行日: 2012/08/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    【目的】輸血を必要とする重症外傷患者に対して,より多くの新鮮凍結血漿(FFP)を投与することによって転帰を改善する可能性があるかを検討した。【対象と方法】2006年1月から2010年12月までに当院救命救急センターに搬送された外傷患者のうち来院から24時間以内に赤血球濃厚液8単位以上を投与した患者を対象とし,来院から24時間までのFFPとRCCの投与比により,低FFP/RCC群(51例)高FFP/RCC群(54例)との2群に分けて比較検討した。【結果】対象症例は105例であり,年齢56.3±20.6歳,男性75例(71.4%),ISS 30.7±11.3だった。両群において年齢,性別,受傷機転,来院時血圧,体温,ISS,RTS,Ps,Hb,PT-INR,BE,APACHE II,SOFA scoreに有意差はなく,来院から24時間以内のRCCと血小板投与量にも有意差はなかった。両群の24時間の生存率は64.7%と83.3%,生存退院率は54.9%と74.1%であり,ともに高FFP/RCC群の方が有意に高かった(p<0.05)。【結論】大量輸血を要する外傷患者に対して,積極的にFFPを投与することにより転帰を改善する可能性がある。
症例報告
  • 二宮 典久, 杉野 達也, 鴻野 公伸, 野口 和男, 嶋津 岳士
    2012 年 23 巻 8 号 p. 349-356
    発行日: 2012/08/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    異なる病態下で嚥下障害が持続した2症例を経験したので報告する。症例1(17歳の女性)は,C5レベルの頸髄損傷に対して第1病日に頸椎前方固定術を行った。受傷後約40日の人工呼吸器離脱期に自らの唾液の嚥下困難感から,嚥下障害が判明した。56病日に人工呼吸器から離脱し,67病日に酸素投与が不要となったが嚥下障害は持続した。症例2(67歳の男性)は,頸部壊死性筋膜炎および下行性壊死性縦隔炎に対して経皮的カテーテルドレナージを施行した。ドレナージ治療に約50日を要し,66病日に気管切開を行った後,人工呼吸器からの離脱期に嚥下障害が自覚された。2症例はいずれも意識障害を全く伴わずに経過し,人工呼吸管理からの離脱中に嚥下障害が顕在化し,それが持続したため,いずれも気管切開を受けた。嚥下障害の機序と程度を評価するために,ビデオ嚥下造影を経時的に行った。ベッドサイドでの嚥下訓練を連日行い,問題なく嚥下可能となったのはそれぞれ125病日,150病日頃であった。気管カニューレの選択はいずれの症例においても,カフ付きカニューレ→カフなしカニューレ→気管ボタンの順で行った。経鼻胃管は2例とも気管ボタン抜去時期まで留置した。カフなしカニューレに変更してから嚥下障害が改善するまでの期間はそれぞれ,約45日,17日であった。嚥下障害の症状は,急性期の重症患者管理において必ずしも重要度が高いと認識されていないが,とくに気管切開例においては嚥下障害が潜在し,それが遷延する可能性があることに留意すべきである。障害が持続する場合には,ビデオ嚥下造影などの機能評価と病態に応じたリハビリが有用である。
  • 河北 賢哉, 阿部 祐子, 切詰 和孝, 篠原 奈都代, 河井 信行, 田宮 隆, 黒田 泰弘
    2012 年 23 巻 8 号 p. 357-363
    発行日: 2012/08/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    Posterior reversible encephalopathy syndrome(PRES)は,頭痛,意識障害,精神症状,痙攣,視力障害(皮質盲を含む)を臨床症状とし,画像上,後頭葉・頭頂葉・側頭葉・基底核などを中心に浮腫性変化を来し,これら臨床症状や画像変化が可逆性であることを特徴としている。ほとんどの症例で高血圧を伴い,子癇,腎不全,免疫抑制剤,ステロイドなどとの関連性が報告されており,病理学的には血液-脳関門の破綻により引き起こされると考えられている。今回我々は,5例のPRESを経験した。全例女性で,平均年齢が33歳,5例中4例が周産期における発症だった。発症時には高血圧を呈し,頭痛,痙攣,視力障害を認めた。Magnetic resonance imaging(MRI)では,後頭葉,側頭葉,基底核の浮腫性変化が最も多く,1例に小脳および脳幹の浮腫性変化,1例に尾状核出血が認められた。浮腫性変化はapparent diffusion coefficient(ADC)-mapにて高信号を呈するものが多く,血管原性浮腫が主な病態であると考えられた。全例とも病初期にMRIを行い,PRESが疑われ,急速遂娩,降圧,痙攣のコントロールを含めた適切な治療を行うことによって良好な転帰が得られた。一般的にPRESの多くは,予後良好と考えられているが,診断の遅れや誤った治療がなされると転帰不良となる報告もみられる。特徴的な臨床症状および誘因を認めた場合,PRESを念頭に置き,MRIを中心とした画像検査を施行し,より早い段階での誘因の除去を含めた適切な治療を行うことが重要であると考えられた。
  • 石井 亘, 飯塚 亮二, 篠塚 健, 檜垣 聡, 柿原 直樹, 井川 理, 北村 誠
    2012 年 23 巻 8 号 p. 364-368
    発行日: 2012/08/15
    公開日: 2012/09/17
    ジャーナル フリー
    症例は65歳の男性。突然の腹痛を認め,軽快しないため当院救命救急センターに救急搬送された。意識清明,腹部全体に圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は軽度であった。既往歴として3年9か月前に胃癌穿孔に対して胃全摘術・R-Y再建を施行されていた。血液検査では,WBC 7,200/μl,CRP 0.05mg/dlと炎症反応の上昇は認めなかったが,血清アミラーゼ値の高度な上昇を認めた。腹部レントゲン検査で小腸の拡張を伴うニボー像を認め,腹部造影CT検査では,小腸の拡張と左下腹部中心に小腸壁の肥厚を認めたが,腸管壁の血流は保たれていた。イレウス管を挿入して入院の上,経過観察とした。5時間後腹痛が軽快しないため,再度腹部CT検査を施行したところ,小腸吻合部肛門側にイレウス管挿入時の造影剤の貯留があり,また小腸吻合部から十二指腸まで著明な拡張を認め,内ヘルニアによる絞扼性イレウスの疑いで開腹手術を施行した。開腹所見では,小腸輸入脚吻合部の腸間膜欠損孔に肛門側の小腸が陥入し内ヘルニアを起こしていた。腸管の壊死は認められず,腸管を還納し,ヘルニア門を閉鎖して手術を終了した。その後経過は良好であり,第10病日退院となった。胃癌全摘後の腸間膜欠損孔をヘルニア門とする内ヘルニアは比較的稀であるが,Roux-Y再建後イレウスを認める症例では,念頭に置く必要がある。
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