日本救急医学会雑誌
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23 巻, 9 号
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原著論文
  • 青山 紘子, 田熊 清継, 堀 進悟
    2012 年 23 巻 9 号 p. 375-382
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    【背景】路上生活者数の増加に伴い救急車搬送される路上生活者の病院受入困難事例が増加し社会問題となっている。しかし,本邦で本問題を救急医療の観点から検討した研究は少なく,その実態は不明である。【目的】路上生活者の救急要請から診療終了までの状況を調査し,救急要請の応需と診療の遂行に支障を来す因子を解明する。【方法】救急隊搬送記録および病院データを用いて,路上生活者および非路上生活者の救急診療を後方視的に比較・検討した(χ2検定,p<0.01を有意差ありとした)。【結果】1.路上生活者は非路上生活者と比べ,救急車利用率(54.5% vs. 19.6%)が高いにもかかわらず,入院率(23.5% vs. 30.2%)は低かった(ともにp<0.001)。2.路上生活者は夜間に比べ,日中に救急受診することが多かった。3.救急受診をした路上生活者を救急受診時に路上生活者であると判明していた群(応需時ホームレス判明群)と判明していない群(応需時不明群)に分けると,後者は入院率(13.9% vs. 63.7%)が高く(p<0.001),病院滞在期間も長かった。4.路上生活者の入院時診断として消化器疾患が23.3%と最も多かった。遷延性意識障害があると入院期間が長かった。【結論】救急要請の応需および診療に支障を来す因子として,応需時不明群であること,遷延性意識障害があることが挙げられた。理由は,身元の特定,生活保護認定の取得,退院先の決定に時間を要することなど,行政手続き上や,治療は不要となっても患者の状態に合致した生活環境を提供できないことであった。路上生活者は救急車への依存度が高く,重症化すると入院期間も長くなることから,普段受診できる医療体制が必要であると ともに,救急外来診療においては,帰去時に支援するための積極的な福祉の介入が必要である。
  • 本村 友一, 益子 邦洋, 本村 あゆみ, 岩瀬 博太郎, 織田 成人, 嶋村 文彦, 森本 文雄, 中西 加寿也, 北村 伸哉, 金 弘, ...
    2012 年 23 巻 9 号 p. 383-390
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    【はじめに】防ぎ得た外傷死(preventable trauma death: PTD)は,本邦の現在の救急医療システムで,なお高率に存在する。外傷傷病者対応の質の評価は,問題点の抽出と改善方法の模索のために重要である。【目的】平成21年千葉県内で発生した交通事故死亡全症例に関して,一連の救急活動の時間経過と質を評価しPTDの発生率と現システムの問題点を明らかにし,策を講じること。【方法】平成21年千葉県内で発生した交通事故死亡196例について警察,消防,医療機関にアンケート調査を施行した。救急隊接触時に生命徴候を認めた87例について,救急活動を時間とともに整理し,検証会を開催して症例を「PTD」,「PTD疑い」,「救命困難」に分類した。さらに「PTD」および「PTD疑い」の症例について問題点を明確にした。【結果】事故発生から医師診療まで平均44分18秒を要した。4例(4.6%)が「PTD」,12例(13.8%)が「PTD疑い」と判定され,計16例の死因は9例で体幹部の出血であった。うち6例は救命救急センターへ搬送されたが,輸血・手術・TAEの遅れ,過大侵襲手術が問題視された。残りの3例は病院前で重症判定されながら2次医療機関へ搬送され死亡した。計16例中6例は病院前評価でバイタルサインおよび意識レベルは良好であったが,2次医療機関初期選定または搬送後に死亡した。【考察】受傷から手術や処置までの時間が長いこと,病院前アンダートリアージ,救命救急センターでもPTDが発生していることが問題である。現状では事故発生早期の医師派遣システムの要請,重症判定時の高次医療機関選定および体幹部外傷でトリアージカテゴリーを上げること,医療資源と傷病者を集約する外傷センターシステムの確立が必要であると考えられた。【結論】PTD削減のためには,医師派遣システムの早期積極的利用,体幹部外傷でのトリアージカテゴリー繰り上げ,外傷センターシステムの確立が必要である。
症例報告
  • 加藤 昇, 西山 和孝, 島津 和久, 岸本 正文, 塩野 茂, 早川 正宣, 秋月 克彦
    2012 年 23 巻 9 号 p. 391-397
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    症例は23歳の男性。既往歴に特記すべきことなし。作業中に約1トンの鉄鋼が胸腹部に落下して受傷し、当センターに救急搬送された。呼吸促迫と下顎呼吸のため気管挿管を行った。右上腕開放骨折からの外出血を圧迫止血し,急速輸液を行った。右気胸と左血気胸に対して胸腔ドレナージを行った。CTで脾損傷,腹腔内出血,両側肺挫傷,左鎖骨下動脈損傷(椎骨動脈分岐後閉塞)等を認めた。緊急開腹で脾摘を行った後,肺挫傷に対する人工呼吸管理を行った。左胸腔ドレーン排液は翌日漿液性となったが,第3病日に経腸栄養開始とともに白濁し,第4病日に胸水中の脂肪滴陽性,リンパ球優位の細胞数増加より乳糜胸と診断した。完全静脈栄養法としたが,第5病日の排液は4.4リットルで,第3病日(乳糜胸発症)2.4リットル,第4病日1.8リットルに比べてむしろ増加し,蛋白喪失による全身浮腫,肺酸素化能の悪化傾向を生じたため,保存的治療の限界と判断し,第6病日(乳糜胸発症後4日目)に右側臥位,分離換気の全身麻酔下,小開胸併用で胸腔鏡補助下に手術を行った。乳糜の漏出は左鎖骨下動脈損傷部に近接した胸管および分枝からで,同部と横隔膜上での胸管結紮術を行った。胸管結紮直後から乳糜の漏出は消失した。第104病日リハビリテーション病院に転院した。乳糜胸は胸管の損傷により発生するが,本症例のように非医原性外傷性乳糜胸は極めて稀である。乳糜の漏出が全身状態,呼吸状態に悪影響を及ぼす場合,発症後2日目に1日1リットル以上の乳糜の漏出がある場合は,早期に手術を考慮すべきである。術式としては胸腔鏡(補助)下胸管結紮術が有効と考えられる。
  • Hiroyuki Inoue, Takuro Nakada, Mizuho Namiki, Arino Yaguchi
    2012 年 23 巻 9 号 p. 398-402
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    We report a case of disturbance of consciousness due to hyperammonemia stemming from urinary tract infection with urease-producing bacteria and complicated with hypothyroidism. An 84-year-old woman visited her family doctor with a history of excessive fatigue and was prescribed ciprofloxacin hydrochloride for cystitis and sulpiride for depression. The following day, she was brought to our hospital in an ambulance because of disturbance of consciousness. Sulpiride poisoning was suspected, and she was admitted to our emergency department. Because blood tests suggested hyperammonemia (197 μg/dl) and hypothyroidism, she was administered Lactulose, branched-chain amino acids, and thyroid hormones. Neither liver disease nor portosystemic shunting was observed in the blood or the imaging tests. The consciousness level initially improved along with the ammonia levels, however it later deteriorated again as the ammonia levels increased. Because urinary tract infection was complicated, we started administering antimicrobials. As a result, the level of ammonia normalized, and the level of consciousness improved. Arthrobacter cumminsii was detected by urine culture. Thus, we made a diagnosis as hyperammonemia due to urinary tract infection with urease-producing bacteria. In addition, hypothyroidisim in the patient aggravated hyperammonemia. In cases of hyperammonemia unaccompanied by liver disease, urease-producing bacterial infection and/or hypothyroidism should be considered.
  • 齋木 都夫
    2012 年 23 巻 9 号 p. 403-408
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    患者は10歳の日本人学童。日本から移動して10か月間,標高3,400メートルの高地(ボリビアのラパス)でとくに問題なく生活していた。今回,4回目の低地旅行から帰って17時間後,咳症状を訴えるも,当初感冒と判断され安静臥床を指示されていた。その5時間後,泡沫状痰の喀出が認められ,SpO2 はルーム・エア下で70%と低下し,酸素マスク使用でも83%までしか上昇しなかった。さらに両肺に乾性ラ音を聴取したため,緊急入院となった。胸部単純エックス線撮影では両肺に浸潤影を認めた。安静臥床に加え,酸素マスク吸入,デキサメタゾン静脈注射,アセタゾラミド(ダイアモックス®)経口内服を行った。第2病日には,SpO2は酸素マスク使用で96%と改善し,咳・痰喀出が減少し,両肺のラ音も減弱したので,当初予定していた最も有効な治療と思われる航空機による緊急低地移動は取りやめた。第4病日に独歩退院し,第5病日に登校開始した。急性高地障害の重症型として高地肺水腫は,一般には登山などで低地から高地に急に移動した際に生じるとされている。しかし,高地在住者の多いアジア,中南米では,高地在住者が一時的に低地に降りて,再び高地に戻って発症するリエントリー型高地肺水腫が主となっており,小児の発生率が高いとされている。日本人学童のリエントリー型高地肺水腫の症例報告は渉猟する限りない。本症例は,4回目のリエントリーで初めて高地肺水腫を来し,その後6回のリエントリーを繰り返しているが高地肺水腫を発症していない。なぜ,4回目のみ高地肺水腫を発症したか不明であるが,誘発要因としてウイルス性呼吸器感染,睡眠不足,運動などが考えられた。当初,感冒として対応し,その数時間後に呼吸困難を呈している。発見の遅れが重篤な結果を招くので,たとえ高地に慣れた者といえども,高地にいる限り,急性高地障害を念頭に置いて常に観察・対応しなければならない。
  • 秋元 寛, 橘高 弘忠, 喜多村 泰博, 川上 真樹子, 西原 功, 大石 泰男
    2012 年 23 巻 9 号 p. 409-414
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    外傷性心停止症例の予後は極めて不良である。我々は3度の心停止にもかかわらず神経学的後遺症を残さず救命し得た,小児重症肝損傷症例を経験したので報告する。症例は5歳の男児で,荷崩れした木材の下敷きになり受傷した。出血性ショック状態で,当センター搬入直前に心肺停止(pulseless electorical activity: PEA)となった。救急外来にて直ちに心肺蘇生を開始し,16分後に心室細動となったため除細動を施行し心拍再開した。腹部造影CTにて肝右葉にIIIb型損傷を認め,緊急手術を行った。手術室にて2度PEAとなったが心拍再開した。ガーゼパッキングに加え,確実な止血目的に肝グリッソン右枝を一括結紮しICUへ入室した。合計心停止時間は31分間であった。その後も出血が持続したため3時間後に再開腹止血した。以後循環動態は安定し,受傷後27時間で肝右葉切除術を施行した。術後腹腔内膿瘍,手術部位感染,胆汁瘻を合併したが,神経学的後遺症を残さず第44病日他院へ転院となった。外傷性心停止例の小児例での生存率は4.8~8.0%で,現場でのCPA症例や頭頸部外傷例では生存は期待できない。しかし,本症例のように小児で,1)来院直前にCPAとなり心停止時間が比較的短く,2)かつその間に絶え間なく質の高い心肺蘇生法が施行され,3)頭頸部外傷がない,症例においては絶え間ない心肺蘇生により心拍再開が期待でき,心拍再開後はdamage control surgeryなどの迅速な治療により神経学的後遺症を残さずに救命し得ると考えられた。
  • 宮田 圭, 三上 毅, 三國 信啓, 沢本 圭悟, 上村 修二, 森 和久, 浅井 康文
    2012 年 23 巻 9 号 p. 415-420
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    静的圧縮力による頭部外傷は,crushing head injury(以下CHI)「押しつぶし頭部外傷」と呼ばれている。致死的な外傷がない場合には,重篤な意識障害がなく,頭蓋骨の歪み変形による頭蓋底骨折,そして合併する脳神経麻痺症状が特徴であるが,比較的稀な病態である。本論文では当施設で経験した低速度CHIの6症例の臨床経過と放射線学所見の特徴につき検討したので報告する。症例は男性5例,女性1例で,年齢は11か月~62歳であり,5歳以下の小児は2例であった。受傷機転は,成人全4例は労働に関連した頭部単独外傷であり,小児例は交通事故で胸部外傷を合併していた。搬入時意識は,成人例ではGCS13が2例,GCS15が2例で,小児では2例ともGCS 10であったが,全例数時間後に意識清明に回復した。鼻出血5例,耳出血は全6例,髄液漏は4例に認めた。脳神経麻痺は5例に認めた。全例に気脳症を認め,3例は脳底槽周囲の頭蓋内空気を認めた。4例に斜台付近を貫通する横断性の中頭蓋底骨折を認めた。視束管骨折は2例,頸動脈管骨折は2例に認めた。1例に視神経管開放術,2例に頭蓋内血腫除去術,1例に硬膜形成術を施行した。最終転帰は,成人3例で脳神経麻痺が残存したが,小児2例は後遺症なく治癒した。CHIは稀な病態ではあるが,受傷形態や臨床所見は特徴的で,頭蓋底の歪みや骨折の分布により様々な脳神経症状を来す。静的圧迫が主体の乳幼児の交通事故や成人の労災事故では,CHIを念頭に置いた病態把握や画像診断が必要である。
  • 長谷川 圭, 渡邉 英二郎, 久保 浩一郎, 小林 亮介, 寺澤 無我, 松本 直久, 三輪 快之
    2012 年 23 巻 9 号 p. 421-426
    発行日: 2012/09/15
    公開日: 2012/11/01
    ジャーナル フリー
    症例は77歳の男性。1か月前からの腹部の不調を主訴に近医を受診し,3日前に下部消化管内視鏡検査を受けた。2日前より発熱・悪寒戦慄が生じ,同病院で腹部CT検査を受けたところ,径11cmの左内腸骨動脈瘤を認め,内部にエアを認めた。中等度の下血も確認された。以上より,左内腸骨動脈瘤-直腸穿破による感染性動脈瘤と診断し緊急手術を行った。手術は右大腿動脈-左大腿動脈バイパス術を行い,次いで開腹下に動脈瘤切除,ハルトマン術を行ったことにより救命することができた。下部消化管への腸骨動脈腸管瘻は本邦での報告は少なく,また本症例では敗血症という稀な発症様式であったが,敗血症・下血の鑑別診断の一つとして本症を考慮するべきである。
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