【背景と目的】2010年7月の「臓器の移植に関する法律」(以下,臓器移植法)の改正に伴い15歳未満の小児への法的脳死判定および脳死下臓器提供が可能となった。しかし2012年8月現在に至るまで,15歳未満の小児の法的脳死は2例のみにとどまっている。小児脳死の実態は把握されておらず,小児脳死の発生数が少ない原因の検討は不十分である。当施設では,臓器移植法改正前より,神経学的な評価を目的に,「臓器移植にかかわらない一般の脳死判定」(以下,一般の脳死判定)を施行している。当施設における小児脳死の実態から,小児脳死の発生数が少ない原因を検証した。【対象】2008年7月から2012年6月までに当施設pediatric intensive care unit(PICU)へ入室した15歳未満の小児3,721例を対象とした。【方法】臓器移植法改正の前後で2群に分類し,法改正の影響を検討した。また「一般の脳死判定」適応の有無で2群に分類し,適応例の特徴および脳死判定内容について診療録より後方視的に検討した。【結果】PICUへ入室した15歳未満の小児3,721例のうち,前期は1,712例,後期は2,009例であった。「一般の脳死判定」の適応例は,前期16例,後期19例であった。適応例は,心停止蘇生後(前/後期 50/74 %),救急外来からの入室(94/89 %)が多かった。臓器移植法改正後に「法に規定する脳死判定を行ったとしたならば,脳死とされうる状態」と判断した症例は3例であり,同時期にPICUへ入室した15歳未満の小児2,009例の0.1%,死亡43例の7%と寡少であった。【結語】小児専門施設における小児脳死の現状を示した。「小児脳死の判定基準」や「脳死の概念」の違いにより,国内の小児脳死発生数は寡少である可能性が示唆された。遭遇した際の円滑な対応に向けて,全提供施設で小児脳死に対応できる体制を整備しておく必要がある。
抄録全体を表示