日本救急医学会雑誌
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24 巻, 3 号
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原著論文
  • 澤野 宏隆, 重光 胤明, 吉永 雄一, 鶴岡 歩, 夏川 知輝, 林 靖之, 甲斐 達朗
    2013 年 24 巻 3 号 p. 119-131
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/05/29
    ジャーナル フリー
    【目的】敗血症に合併した播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療におけるアンチトロンビン(AT)製剤とリコンビナントトロンボモジュリン(rTM)の併用療法の有効性をretrospective historical cohort studyにより検証する。【対象と方法】急性期DIC診断基準によって診断されたDICを合併し,AT製剤を使用して治療を行った重症敗血症111症例を対象とした。AT製剤のみで治療した対照群60例と,AT製剤に加えてrTMを投与した併用群51例とに分類して治療開始7日目までの凝血学的指標,急性期DIC score,SOFA score等の経時変化を比較した。また治療開始から28日目までの転帰をKaplan-Meier法により比較検討した。【結果】対照群に比して併用群は治療開始時の血小板数が低値で,SIRS陽性項目数とDIC scoreが高値であったが,その他のパラメーターに関しては両群間に差を認めなかった。治療期間内の各指標の変化を比較したところ,血小板数・D-dimer値・SIRS陽性項目数・DIC scoreにおいて併用群が対照群に比して有意な改善を示したが,PT比・フィブリノゲン値・AT活性値には両群間で差を認めなかった。また併用群ではSOFA scoreの推移に関しても有意な改善が示された。出血性合併症の頻度は両群間に差を認めなかった。転帰の比較では併用群の28日生存は51例中44例(生存率86.3%)で,対照群の60例中36例(生存率60%)に比して良好であった(p=0.0016)。rTMの併用による生存率の改善はAPACHE II scoreが25以上,もしくはAT活性が50%未満の重症症例で認められ,APACHE II scoreが25未満,もしくはAT活性が50%以上の症例では有意な改善効果は認められなかった。多変量解析では治療開始時のAT活性とrTM製剤の投与が28日生存に及ぼす有意な予後規定因子であることが判明した。【結語】AT製剤とrTMの併用療法は,AT製剤単独治療に比較して敗血症性DICにおける凝血学的異常や臓器障害を早期に軽減させて生存率を改善させることが判明した。とくに重症症例に対しては,併用療法が新たな有用な治療法になりうることが示唆された。
  • 櫻井 聖大, 山田 周, 北田 真己, 橋本 聡, 原田 正公, 木村 文彦, 高橋 毅
    2013 年 24 巻 3 号 p. 132-140
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/05/29
    ジャーナル フリー
    重症感染症ではしばしばdisseminated intravascular coagulation(DIC)を合併することで虚血性の多臓器障害を惹起し,その予後は不良となる。感染症自体のコントロールと適切な抗DIC療法を併せて行うことが重要である。わが国において現在,感染性DICにおいて最も推奨される抗DIC薬はアンチトロンビン(AT)製剤であるが,最近リコンビナントトロンボモデュリン(rTM)製剤の有効性が相次いで報告されている。当院で治療を行った感染性DIC症例に対して後ろ向きに調査し,rTM単独投与群と,rTMとAT併用投与群での臨床効果の比較検討を行った。両群間で患者背景や治療開始時の重症度には有意差はなく,DIC離脱率,7日以内のDIC離脱率,28日後生存率といった予後にも有意差を認めなかった。また血液検査での炎症系マーカー,凝固・線溶系マーカー,日本救急医学会の急性期DIC診断基準のスコア(以下,急性期DICスコア)は,rTM投与により有意に改善したが,rTM単独群とAT併用群の両群間では,その改善の程度に有意差を認めなかった。以上のことから,rTMにATを併用しても必ずしも予後の改善に結びつくとは限らず,rTM単剤でも臨床効果が期待できる可能性があると思われた。
  • 上田 健太郎, 岩﨑 安博, 山添 真志, 川副 友, 川嶋 秀治, 山上 裕機, 加藤 正哉
    2013 年 24 巻 3 号 p. 141-148
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/05/29
    ジャーナル フリー
    【目的】壊死型虚血性大腸炎は全虚血性大腸炎の約10%と頻度は低いが予後が悪く,診断した時点で壊死粘膜を含めた広範囲の腸管切除の緊急手術が必要である。しかしながら,はっきりとした診断基準がなく手術時期が遅れることが多いのが現状である。我々は壊死型虚血性大腸炎の救命率改善のために早期診断基準と予後因子の検討を行った。【対象】2002年から2010年までに経験した壊死型虚血性大腸炎手術症例24例を対象とした。【結果】平均年齢は77.4歳と高齢であり,男性15例,女性9例であった。基礎疾患として全例が動脈硬化性疾患を有していた。術前現症は16例に腹膜刺激症状,10例に下血,12例にイレウス症状を認め,11例で急性期DIC,9例でショック,17例で代謝性アシドーシスを伴い全身状態が不良な症例が大半であった。また全例でSIRS(systemic inflammatory response syndrome)陽性・21例で血中乳酸値の高値を認める特徴があり,発症から手術までの時間が24時間以内だったのが12例(50%)であった。術中所見として,穿孔は7例に認め,壊死範囲は全結腸型(病変が回盲部・肝弯曲部・脾弯曲部・SD junctionのうち3箇所以上にまたがる)5例,限局型19例(右半結腸4例,左半結腸15例)であった。術式は壊死病変部切除および人工肛門造設術が23例,一期的吻合術が1例で,救命率は58.3%であった。上記の因子と血液検査のデータに対し単変量解析を行った結果,発症から手術までの時間(24時間以内vs.以上),年齢,PT-INR値が予後因子であり,これら3因子によるLogistic回帰分析を用いた多変量解析により発症から手術までの時間が独立予後因子であった(p<0.05)。【結語】動脈硬化性疾患を有する高齢者では腹部所見が乏しくてもSIRS陽性・血中乳酸値の上昇を認める場合,壊死型虚血性大腸炎を念頭に診療することが重要である。また本症の独立予後因子は“発症から手術までの時間が24時間以内”であり,早期診断,緊急手術により救命率が改善すると考えられる。
  • 大谷 尚之, 井上 一郎, 河越 卓司, 嶋谷 祐二, 三浦 史晴, 西岡 健司, 中間 泰晴
    2013 年 24 巻 3 号 p. 149-156
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/05/29
    ジャーナル フリー
    【背景と目的】急性大動脈解離は画像診断法や外科的治療法が発達した現在においても死亡率が高く,いかに早期に診断し治療介入ができるかがその転帰を左右する。診断確定には造影CTが有用であるが,単純CTでも内膜石灰化の内方偏位,血腫により満たされた偽腔が大動脈壁に沿って三日月上の高吸収域として認められる所見(crescentic high-attenuation hematoma)など特徴的な画像所見を呈することが知られている。しかし,その出現頻度,単純CTでの診断精度については言及されておらず,単純CTから解離の診断が可能か検討した。【方法】2008年1月から2009年12月までの2年間,当院で急性大動脈解離と診断された54例のうち造影CTが撮影されていない2例,来院時心肺停止5例,他院で解離と診断され当院に転院となった3例を除く44例において来院時に撮影した単純CTを後ろ向きに検討した。内膜石灰化の内方偏位,crescentic high-attenuation hematoma,visible flap,心膜腔内出血4所見のいずれかを単純CTで認める場合に診断可能と評価した。また非解離例37例と比較検討を行った。【結果】44例のうち内膜石灰化の内方偏位を29例(65.9%),crescentic high-attenuation hematomaを33例(75.0%)と非解離例と比較し有意差をもって多くの症例で認めた(p<0.01)。頻度は少ないため有意差はつかなかったがvisible flapは4例(9.1%),心膜腔内出血は5例(11.4%)で認め,44例中40例(90.9%)で単純CTでの大動脈解離診断が可能であった。【結語】単純CTは大動脈解離の診断に有用である。
  • 萩原 靖, 上野 正人, 水島 靖明, 松岡 哲也
    2013 年 24 巻 3 号 p. 157-165
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/05/29
    ジャーナル フリー
    鈍的脳血管損傷(blunt cerebrovascular injury: BCVI)の分類については,放射線学的な形態に基づいたDenver grading scaleがよく知られている。しかしBCVIの病像はその発生部位にも大きく影響を受け,しばしば治療戦略上重要な要素となる。そこで我々はBCVIを発生部位により3つの区域に分類し,各々の特徴と治療戦略につき考察した。2001年10月から2008年9月までに頭頚部放射線学的所見に基づいたスクリーニングによって診断されたBCVI32例36血管を,発生部位別に頸部(zone 1),頭蓋移行部(zone 2),頭蓋内(zone 3)に分類し,それぞれのDenver grade,脳卒中発生率,治療内容,転帰を調査した。zone 1は16例18血管,zone 2は8例9血管,zone 3は8例9血管であった。zone 1では椎骨動脈損傷が72.2%と主体であったのに対し,zone 2,zone 3では内頸動脈系損傷が94%であった。各区域のDenver gradeからみた構成では,zone 1はgrade IIとIVで90%を占めたが,zone 2,zone 3ではgrade Vが約80%を占めていた。脳卒中発生率はzone 1が11%,zone 2が62.5%,zone 3が80%であった。一方死亡率ではzone 1が5.6%,zone 2が50%,zone 3が30%とzone 2が最も高かった。治療内容についてはzone 1の62.5%に対して血管内治療(interventional radiology: IVR)が行われ,zone 2ではIVR 50%,外科手術12.5%,zone 3ではIVR 20%,外科手術40%であった。以上より頸部BCVIではIVRを,頭蓋内BCVIでは積極的な開頭術を中心とした治療が有利であるが,頭蓋移行部BCVIの治療戦略については今後の大きな課題と考えられた。
症例報告
  • 伊藤 大介, 木村 一隆, 尾形 哲, 吉田 英雄, 山田 学, 平塚 圭介, 林 宗博
    2013 年 24 巻 3 号 p. 166-172
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/05/29
    ジャーナル フリー
    症例は35歳の女性。1経妊1経産の生来健康な妊婦(妊娠17週)であった。倦怠感で発症後,8日目に発熱を来し,近医を受診し眼球結膜黄染を指摘された。血液検査上,高度の肝機能障害を認めた(T-Bil 7.95mg/dl,ALT 3,505 IU/l,PT% 23%,NH3 134μg/dl)。肝不全の劇症化が懸念され,10日目に当院へ搬送された。入院時意識は清明で羽ばたき振戦はみられなかった。血液検査上,T-Bil 9.2mg/dl,ALT 2,520 IU/l,PT% 17%,NH3 80μg/dl,HBsAg陰性,HCV-Ab陰性であった。造影CT検査を施行したが腹水は認めず,肝は正常体積の122%と腫大していた。第2病日より新鮮凍結血漿(FFP)50単位による血漿交換を開始し,ステロイドパルス治療も開始したが,第4病日(発症から13日)に肝性昏睡2度が出現し,亜急性型劇症肝炎と診断した。早急に高流量持続血液濾過透析(HFCHDF)を開始するとともに血漿交換を継続し,肝移植の準備を進めた。妊娠による肝機能の急性増悪を考え,第5病日に妊娠中絶を完了した。第6病日に肝性脳症の症状は改善し,一時血漿交換直前でPT% 45%,T-Bil 6.1mg/dlに血液検査上は改善したが,第15病日でも肝不全は改善せず第20病日に生体部分肝移植術を施行した。摘出標本では門脈域には炎症細胞の浸潤を認め,細胆管にも胆汁栓とともに炎症細胞の浸潤を認めており,病理学的にも劇症肝炎に矛盾しないと考えられた。術後経過良好であり,術後25日目(第46病日)に退院となった。妊娠期の劇症肝炎の発症例は1980年以降22例報告されており,肝移植,妊娠中絶が有用である可能性が示唆されるが,当症例でも妊娠中絶後に肝移植を行い救命し得た。
  • 多村 知剛, 城下 晃子, 山元 良, 鯨井 大, 岩野 雄一, 田島 康介, 堀 進悟
    2013 年 24 巻 3 号 p. 173-178
    発行日: 2013/03/15
    公開日: 2013/05/29
    ジャーナル フリー
    Torsade de Pointes(以下TdP)はしばしば心室細動などの致死的不整脈へ移行するため,治療にあたっては,その病態生理を十分理解することが重要である。我々は,水中毒の治療中にTdP型心室頻拍を生じた症例を経験したので文献的考察を加えて報告する。患者は46 歳の女性。統合失調症で抗精神病薬(フェノチアジン誘導体およびブチロフェノン誘導体)を内服していた。意識障害のため救急搬送された。来院時,GCS E1V2M4の意識障害を認め,血清ナトリウム値は101.5mEq/lであった。水中毒による低ナトリウム血症と診断し,高張食塩水で治療を開始した。来院時,腹部膨隆著明で膀胱留置カテーテル挿入時に3L以上の希釈尿が流出し,外来診療中の4時間に合計9,800mlの希釈尿を認めた。来院2時間後の12誘導心電図では著明なU波を認め,QTc時間は620msecと延長していた。その後,心室性期外収縮の頻発からTdPを生じ心室細動へ移行した。心肺蘇生を施行し,マグネシウム静注と電気的除細動により約2分後に洞調律に復帰した。低カリウム血症,低カルシウム血症は来院時より増悪していた。電解質を補正し,第3病日に血清ナトリウムは129mEq/lまで改善した。血清カリウム,カルシウム,マグネシウムもほぼ正常化して意識清明となり,第4病日にはQT時間も360msecと正常化した。抗精神病薬をブロナンセリンに変更し,第22病日に軽快退院した。本症例では抗精神病薬による薬剤性QT延長が背景にあり,利尿に伴う尿中電解質喪失による電解質異常が加わったため,QT時間のさらなる延長と心筋の被刺激性が亢進しTdPを生じたと推測された。水中毒の治療中にTdPを生じた報告は稀であるが,TdPは水中毒治療時に救急医が留意すべき臨床上重要な合併症と考えられた。
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