日本救急医学会雑誌
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24 巻, 9 号
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原著論文
  • 辻村(伊藤) 貴子, 滝沢 彩子, 前田 秀将, 吉田 謙一
    2013 年 24 巻 9 号 p. 741-750
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    【緒言】救急領域における医療者と患者遺族との関わりにつき,医師を対象とした実態調査は行われてこなかった。救急医による遺族対応の実態や意識を明らかにし,救急医療における遺族対応のあり方を検討するため質問紙調査に基づく研究を行った。【対象】2011年2月現在での日本救急医学会救急科専門医3,049名を対象とした。【方法】所属機関内における研究倫理審査委員会の承認の他,倫理的配慮を講じた上で,無記名・自記式・郵送式の質問紙調査法として用い,回答結果につき統計解析を行った。【結果】860名の救急科専門医より回答があり,有効回答率は28.5%であった。遺族対応に積極的に取り組もうとしている医師は,そうでない医師に比べ遺族に説明する際の通常の説明項目に配慮が配られていた他,遺族が遺体と対面する際の項目にも幅広く留意がなされている傾向がみられた。調査対象者である救急科専門医のうち4割近くが遺族対応に関する専門の研修を受けたいと回答していた。遺族対応に関する専門研修を望む群では,自殺者,多発・高度損傷受傷者など一定の場合において,遺族への対応に苦慮しているということも判明した。また9割近くの回答者が先輩医師をみて,自然に遺族対応に関して学んでいると回答していた。【結論】専門医レベルであっても,医療現場での遺族対応の困難,苦慮の経験から効果的な研修や学びの場面が望まれており,実践的かつ簡便・効果的な学習形態や研修内容の模索が必要であると考えられる。また遺族対応に積極的に取り組もうとする意識の有無で,実際の対応が改善・向上することも結果から示唆されており,今後は救急医自らが積極的に取り組もうとする姿勢を救急現場において,いかに醸成していくかを検討することも必要であると考えられた。
  • 伊関 憲, 大山 亜紗美, 林田 昌子, 田勢 長一郎
    2013 年 24 巻 9 号 p. 751-757
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    【はじめに】救急救命士制度は平成3年より運用され,その後静脈路確保,気管挿管,アドレナリン投与など医療行為が拡大していった。さらなる処置拡大として,血糖測定,ブドウ糖投与,重症喘息患者に対する吸入β刺激薬の吸入,心肺機能停止前の静脈路確保が図られている。今回我々は,この処置拡大に関して救急救命士が抱えている診断や技術的な問題,処置に関する自信と不安について検討を行った。【対象と方法】山形県内の現場活動している救急救命士を対象にアンケート調査を行った。平成24年9月に消防署にアンケートを送付し,回収を行った。今回の処置拡大に関して,1(行えない)から10(自信を持って行える)までの十段階で自己評価してもらった。また救急救命士賠償責任保険の加入状況と処置拡大に伴い,個人で加入するかについても調査した。【結果】回答者は男性228名,女性5名の233名で,このうち薬剤投与認定救急救命士は177名であった。それぞれのスコア(平均±標準偏差)は,血糖測定は7.9±2.0であり,ブドウ糖溶液の投与は6.6±2.1であった。またβ刺激薬の吸入は4.1±2.4であり,心停止前の静脈路確保については,6.4±2.0であった。血糖測定とブドウ糖溶液の投与については,薬剤投与認定救急救命士が有意に高かった。また救急救命士賠償責任保険の加入については,全ての消防本部で加入していた。さらに個人での加入は21名(9%)であった。拡大処置により個人での加入を考えているものは63名(27%)であった。【考察】今回の処置拡大に関して救急救命士は,β刺激薬の吸入に強い不安があることが判明した。また血糖測定とブドウ糖溶液の投与については,従来の薬剤認定講習会が有用であったと考えられ,さらにβ刺激薬に関する講習と実習を盛り込んだ教育が必要であると思われた。今回の処置拡大は心停止前の患者が対象となり,救急救命士に対する訴訟の増加が考えられ賠償保険についても考慮していかなければならない。
  • 野坂 宜之, 六車 崇, 植松 悟子, 伊藤 友弥, 賀来 典之
    2013 年 24 巻 9 号 p. 758-766
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    【背景】救命救急センター等で加療が必要な患児を検出する目的で,東京都では病院前救護における乳幼児緊急度判断項目が策定され2009年10月から運用を開始している。【目的】乳幼児緊急度判断項目の妥当性の検証。【対象】2011年2月から2012年3月までの14か月間に,国立成育医療研究センターへ救急車で直接搬送された16歳未満の症例。【方法】診療録を後方視的に検討した。外来死亡・蘇生処置施行・小児集中治療室入室のいずれかに該当するものを緊急度・重症度が「高い」,それ以外は「低い」とした。乳幼児緊急項目に該当した症例のうち緊急度・重症度が高いと判定されたものを適中例,逆に緊急度・重症度が低いと判断されたものをオーバートリアージ(OT)例,さらに乳幼児緊急項目に該当せず緊急度・重症度が高いと判定されたものをアンダートリアージ(UT)例とした。【結果】適中例は41/2,707例。内因性症例が大半を占め,疾患としては中枢神経系の異常が多く,陽性基準項目としては意識レベルの異常への該当が多かった。OT例は69/2,707例。うち75%が熱性痙攣症例であった。一方,UT例は62/2,707例で,外傷,アナフィラキシー,痙攣群発例が大半を占めた。また,判断項目の「循環不全」の該当はなかった。感度は40%,陽性適中率は37%であった。外傷カードを適用し,項目に「アナフィラキシー」「痙攣群発」を追加すれば感度は75%に改善しうる。【結論】東京都で策定された病院前小児緊急度判断基準の問題点と今後の課題を報告した。乳幼児緊急項目は低感度であり,感度改善のために外傷カードとの組み合わせと,「痙攣重積」「アナフィラキシー」の項目を追加することを提案する。また,「循環不全」項目は基準の再検討が必要である。
  • 柏浦 正広, 小林 未央子, 阿部 裕之, 神尾 学, 黒木 識敬, 田邉 孝大, 濱邊 祐一
    2013 年 24 巻 9 号 p. 767-773
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    【目的】精神科領域,特に統合失調症患者において病的多飲を誘因とする水中毒がしばしばみられる。また水中毒の経過中に横紋筋融解症(rhabdomyolysis, RML)を併発することがある。しかし,その発症機序やリスクについては解明されているとは言い難い。水中毒患者におけるRML発症要因と予後について検討した。【対象・方法】2006年1月から2012年8月までに東京都立墨東病院救命救急センターに搬送され,水中毒と診断した症例を対象として診療録を後方視的に検討した。RML非発症例を対照群としてRML発症例の患者背景,入院時の検査値,検査値の推移,救命救急センター在室日数,入院日数,合併症,予後を比較した。【結果】水中毒と診断された患者は33例で,そのうちRML発症例は18例(55%)であった。最大血清creatine kinase(CK)値の中央値は22,640 IU/l(四分位範囲 6,652-55,020 IU/l)だった。RMLの合併例と非合併例において入院時血清Na値や血漿浸透圧値では有意差を認めなかった(p=0.354,p=0.491)が,血清Na値の補正速度に有意差を認めた(p=0.001)。経過中に急性腎傷害(acute kidney injury: AKI)の合併は5例あったが,腎代替療法を要した症例や腎障害が遷延した症例はなかった。橋中心性髄鞘崩壊症候群(central pontine myelinolysis: CPM)を合併した症例や死亡例はなかった。【結語】水中毒においてRMLの合併は少なくない。RML合併には急速な血清Na値の補正が関連している可能性があり,CPMと併せて注意すべき合併症である。
  • 中堀 泰賢, 廣瀬 智也, 塩崎 忠彦, 小川 新史, 大西 光雄, 藤見 聡, 嶋津 岳士
    2013 年 24 巻 9 号 p. 774-780
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    【背景】rSO2(regional saturation of oxygen)とは,動脈・静脈・毛細血管を含む酸素飽和度のことで,「局所混合血酸素飽和度」もしくは「組織酸素飽和度」とも呼ばれる。この値を測定することで,局所の酸素需給のバランスの変化をとらえることができるとされている。心肺停止患者の脳保護の重要性は強調されているが,蘇生処置中の脳の酸素化を検討した研究はない。【目的】病院外心肺停止患者の蘇生処置中の脳内酸素飽和度(rSO2)の継時的変化を明らかにすること。【方法と対象】2008年3月から2010年3月まで我々の施設に搬送された病院外心肺停止患者で蘇生処置中に脳内rSO2値を測定した患者を対象とし,自己心拍の再開の有無別,PCPS施行時のrSO2値を後ろ向きに解析した。また健常人15人から正常範囲を決定した。【結果】Room air条件下でのrSO2値の正常範囲は71.2±3.9%であった。自己心拍再開を認めない例は25例(71.0±15.9歳),自己心拍再開例は13例(72.1±9.6歳),PCPS施行症例は5例(54.4±15.8 歳)であった。自己心拍再開を認めない症例は胸骨圧迫を施行してもrSO2値の上昇は認めなかった。一方,自己心拍再開例では再開により著明に上昇し,自己心拍再開時はrSO2値43.2±14.1%であったが,10分後55.7±12.3%,15分後59.7±8.5%と有意に上昇した(それぞれp<0.05,p<0.01)。PCPS施行例において,開始時rSO2値48.4±8.9%であったが,施行5分後63.0±8.8%,10分後66.2±5.7%,15分後68.1±4.6%と有意に上昇した(ともにp<0.0001)。【結語】脳内rSO2値は胸骨圧迫のみでは上昇せず,自己心拍再開とともに上昇する。PCPS導入により速やかに脳内rSO2値は上昇する。
症例報告
  • 松吉 健夫, 岡田 保誠, 稲川 博司, 小島 直樹, 山口 和将, 佐々木 庸郎
    2013 年 24 巻 9 号 p. 781-786
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    新型インフルエンザウイルス感染による横紋筋融解症によって,急性腎傷害を生じた高齢者の1例を経験したので報告する。症例は,統合失調症により精神科病院に長期入院中の75歳の男性である。前医で発熱を契機にインフルエンザウイルス感染と診断され,翌日の検査にて横紋筋融解症,急性腎傷害を認めたため当院救命救急センターに搬送された。ICUに入室し治療を開始したが,大量輸液,利尿促進に反応せず,第2病日に血液透析を施行した。その後34日間に計18回の血液透析により腎機能は回復し,第52病日に前医へ転院となった。従来のインフルエンザウイルス感染により横紋筋融解症,急性腎傷害に至った症例は,これまでにも散発的に報告されている。一方で,A/H1N1 pdm(新型インフルエンザウイルス)による報告はほとんどない。A/H1N1 pdmでは急性呼吸窮迫症候群を含む多臓器不全の症例報告が散見されるが,本症例のように横紋筋融解症から急性腎傷害を単独で呈する場合もあり注意を要する。
  • 西村 洋一, 岩村 高志, 小網 博之, 山下 友子, 中島 厚士, 井上 聡, 阪本 雄一郎
    2013 年 24 巻 9 号 p. 787-792
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    カフェイン過量摂取の報告は米国では年間約4,600名であるが,本邦での報告は比較的少ない。カフェイン過剰摂取は生命を脅かす循環不全や神経学的異常を引き越こすことが知られている。本稿では,早期に血液透析を行い救命しえたカフェイン中毒の症例を経験したので報告する。症例は基礎疾患のない26歳の男性。研究用試薬カフェイン25gを自殺目的で摂取後,頻呼吸,嘔吐が頻回に認められ,内服1時間後に当院へ搬送された。来院時患者は興奮状態であり,頻脈,頻呼吸,振戦,筋緊張の亢進を認めた。心拍数は200回/分で多源性心室頻拍を認めた。心室頻拍はリドカイン投与に反応を示さなかった。カフェインの成人致死量の約10gをこえる25gを摂取しており,循環動態の破綻や難治性不整脈の出現が危惧されたため,内服後2時間,来院後1時間で血液透析を施行したところ,速やかに臨床所見は改善し,カフェイン血中濃度は,著明に低下した。不整脈や呼吸障害を伴う重症カフェイン中毒の症例においては,早期からの血液透析導入により良好な予後が期待できる。
  • 井上 明星, 濱中 訓生, 板橋 健太郎, 井本 勝治, 山﨑 道夫, 坂本 力, 八木 勇紀
    2013 年 24 巻 9 号 p. 793-798
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    症例は54歳の男性。30歳時にC型肝炎を指摘されたが放置していた。2時間前から徐々に増強する心窩部痛を主訴に来院した。血圧88/58mmHg,脈拍57/分であった。身体診察にて,心窩部に圧痛を認めた。血液検査では肝臓逸脱酵素および胆道系酵素の上昇と軽度のビリルビン上昇を認めた。腹部単純CTでは右肝管から総胆管内の出血を,造影後は肝右葉優位に多発する濃染腫瘤を認め,肝細胞癌破裂により生じた胆道出血と診断した。内視鏡的胆道内血腫除去を行い,心窩部痛の改善を認めた。さらに入院3日目に再出血予防および肝細胞癌の治療を目的として肝動脈化学塞栓術(transcatheter arterial chemoembolization: TACE)を施行した。症状は改善し入院24日目に退院となった。2か月後,5か月後に残存腫瘍に対してTACEを行ったが,7か月後に肝不全で永眠された。胆道出血の治療方針の柱は止血と胆道閉塞解除であり,出血速度に応じていずれを優先させるかを判断する必要がある。
  • 遠藤 彰, 加地 正人, 榎本 真也, 村田 希吉, 登坂 直規, 相星 淳一, 大友 康裕
    2013 年 24 巻 9 号 p. 799-804
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    劇症型溶血性連鎖球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome: STSS)は基礎疾患を有さない人にも突然発症して急激な経過をたどる。死亡率は未だ高く,救命例においても患肢切断を余儀なくされて機能障害が残存するケースが少なくない。その経過から起炎菌である溶血性連鎖球菌は「人喰いバクテリア」とも呼ばれる。我々は後腹膜まで及ぶ極めて広範な左下肢劇症型溶血性連鎖球菌感染症に対して迅速な診断,適切かつ継続的なデブリドマンと集中治療を行い,患肢を温存しつつ救命し得た症例を経験したので報告する。症例は41歳の女性。既往歴に特記すべき事項なし。当センターに高度なショック状態で搬送された。左鼠径部から足関節以下まで広範に腫脹・発赤・表皮剥離を認めた。劇症型軟部組織感染症の診断で敗血症性ショックに対する蘇生を開始した。同時に水疱穿刺液をグラム染色してグラム陽性連鎖球菌を確認し,血液所見で臓器障害を伴うこと,CT検査所見で左下肢から腸腰筋周囲まで広範に広がる感染巣を認めたことなどを併せてSTSSを強く疑った。直ちにデブリドマンを行ったが,筋壊死は伴っていなかったために初回手術で患肢切断は行わずに壊死組織のデブリドマンと後腹膜の洗浄のみにとどめた。集中治療を行うとともに連日の創観察と追加デブリドマンを行うことで必要十分な切除範囲を同定し得たため,結果的に患肢の温存が可能であった。本症例のように後腹膜へ及ぶような広範軟部組織感染を伴う重症STSS症例の患肢温存例は検索し得なかったが,迅速な診断と適切なデブリドマンおよび集中治療を組み合わせることで患肢を温存しつつ救命することが可能であった。
  • 小野 雄一郎, 伊藤 岳, 高橋 晃, 佐野 秀, 宮本 哲也, 高岡 諒, 当麻 美樹
    2013 年 24 巻 9 号 p. 805-811
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    インフルエンザA/H1N1pdm09により急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome: ARDS)を発症した妊婦に膜型人工肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)を使用し救命した1例を経験したので報告する。症例は30歳の女性,妊娠31週の定期検診で妊娠高血圧症を指摘され,かかりつけの産婦人科医院に入院,この入院中にインフルエンザ患者と接触した。妊娠33週で子宮内胎児発育遅延を認めたため前医に母体搬送となった。転院当日(第1病日)から発熱したが,2回のインフルエンザ簡易検査は陰性であった。しかし徐々に呼吸困難・低酸素血症が進行したため,第6病日に緊急で帝王切開術が施行された。同日,喀痰のpolymerase chain reaction検査でインフルエンザA/H1N1pdm09陽性の報告があり,治療が開始された。第7病日に人工呼吸管理となるが,低酸素血症が進行し,第8病日,FIO2が1.0でもPaO2が50mmHgを維持できないため当院に転院となった。当院来院時,PaO2/FIO2比を50に保つことが困難な状況が12時間以上持続しており,ECMOの適応と判断して直ちに導入した。抗菌薬,抗ウイルス薬の投与を行いながら,自己肺の酸素化能の改善を待ち,約88時間でECMOを離脱することができた。その後も人工呼吸管理を続け,第19病日に人工呼吸器を離脱,第22病日に前医へ再転院,第43病日に独歩退院となった。ARDSに対するECMOの使用は近年広く普及し,インフルエンザによるARDSへの使用も多く報告されている。また妊娠はインフルエンザA/H1N1pdm09感染の重症化因子であるが,本邦での死亡例報告はない。しかし本症例が示すように,重症例は皆無ではなく,今後も引き続き注意を要する感染症である。
  • 高橋 哲也, 伊藤 敏孝, 遠藤 英穂, 武居 哲洋, 八木 啓一
    2013 年 24 巻 9 号 p. 812-818
    発行日: 2013/09/15
    公開日: 2013/12/30
    ジャーナル フリー
    【はじめに】上腸間膜動脈superior mesenteric artery(SMA)閉塞症の予後規定因子は腸管壊死の有無であり,近年では発症早期のSMA閉塞症に対するinterventional radiology(IVR)の奏功例が散見される。今回,IVRを含めた治療方針の決定に血管造影が有効であったSMA閉塞症の4例(IVR単独で軽快2例,IVR後に腸管切除術を追加施行2例)を経験したので報告する。【症例】症例1:84歳の女性。発症から12時間後にSMA血栓症と診断された。SMAの起始部から約6cm遠位側に約3cmに渡る造影欠損像を認めた。小腸に分布する複数の分枝にも血栓を認めたが,分枝間の吻合を介して描出される部分もあった。また右結腸動脈は側副血行路を介して描出された。血栓溶解療法を行い発症から15時間後に血流が再開した。症例2:78歳の男性。発症から1.5時間後にSMA塞栓症と診断された。SMAは起始部から約5cm遠位側で数本の空腸動脈を分岐後に閉塞していた。右結腸動脈と回結腸動脈は側副血行路を介して描出された。血栓溶解療法を行い発症から3時間後に血流が再開した。症例3:60歳の女性。発症から2時間後にSMA塞栓症と診断された。SMAは空腸動脈第2枝分岐後より閉塞していた。発症から6時間まで血栓吸引術を行ったが血流再開はなく,腸管切除術を施行した。症例4:74歳の女性。発症から2.5時間後にSMA塞栓症と診断された。SMAは下膵十二指腸動脈分岐後より閉塞しており,腸管に分布する動脈はほとんど描出されなかった。血栓溶解療法と血栓吸引術を行い,発症から5.5時間後に血流は再開したが腸管壊死に陥っており,腸管切除術を行った。【結語】腸管切除術追加施行例はIVR単独軽快例と比較し側副血行路の発達が不良であった。血管造影で側副血行路の発達が乏しく分枝の描出が不良な場合には,IVR施行によりSMA本幹や分枝の血流が再開しても腸管壊死に陥っている可能性があり,注意が必要である。
学会通信
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