日本救急医学会雑誌
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25 巻, 11 号
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原著論文
  • 嘉陽 宗史, 福里 吉充, 天願 俊穂
    2014 年 25 巻 11 号 p. 805-813
    発行日: 2014/11/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    膵十二指腸動脈瘤(pancreaticoduodenal artery aneurysm: PDAA)11例について臨床的特徴および治療成績について検討を行った。破裂例 9例,非破裂例 2例であった。破裂部は後腹膜破裂が7例,十二指腸内,腹腔内が各1例であった。腹痛が主症状であったが,後腹膜破裂例は症状が一旦軽快する例もあり,注意する必要があった。腹腔動脈狭窄・閉塞を有する症例が7例,開存例が4例にみられた。治療は血管内塞栓(transcatheter arterial embolization: TAE)8例,TAE +結紮2例,瘤切除1例であり,患者の状態によりTAEから開腹への移行,またその逆の場合もあった。TAE関連合併症を3例,手術合併症を2例認めた。全例に付加手術(バイパス,弓状靱帯切開,ステント)は施行せず,臓器虚血による合併症は認めなかった。観察できた期間で再発所見は認めなかった。治療はTAEが第一選択であるが,開腹術への移行もある。治療後の再発は起こりにくく付加手術の必要性はないと考える。
  • 芳賀 大樹, 篠原 真史, 六車 崇, 細川 透
    2014 年 25 巻 11 号 p. 814-820
    発行日: 2014/11/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    当院は病床数490床,pediatric intensive care unit(PICU)20床,年間入院数 約7,000人と国内最大規模の小児専門施設である。当院では,2011年2月からrapid response system(RRS)を導入し,運用を開始した。RRS導入の効果および課題を検証するため,RRS導入前 2年間,RRS導入後2年間においてRRSに関連する項目を比較検討した。RRSコール件数は平均74件/月,117 件/1,000入院であった。転帰の比較では,病棟死亡数(導入前1.7例 vs. 導入後2.1例/1,000入院; p=0.42),院内予測外心停止(0.4件 vs. 0.5件/1,000入院; p = 0.94),蘇生コード(0.7件 vs. 0.9 件/1,000入院; p = 0.61)といずれも改善を認めなかった。一方,PICU死亡数(23.4例 vs. 12.6 例/1,000入院; p<0.01)は有意に改善したが,院内急変から予測外PICU入室症例の死亡数(70.9 例 vs. 41.4例/1,000入院; p = 0.42)では,改善傾向が認められたが,有意差は得られなかった。 また院内急変のPICU入室例のRRSコール率は40.7%と低く,コールされなかったケースでは,主科のみにコールされたものが最も多く,病棟間でのコール率のばらつきが認められた。さらに「痙攣」,「意識レベル低下」,「上気道狭窄」がRRS起動基準に適合しにくい臨床徴候であった。 以上のように本研究では,RRS運用はまだ不十分であり,RRS導入の効果は限定的であった。小児RRSのさらなる転帰改善に向け,RRS遵守の徹底,コール率の改善,基準の見直し,改定後の評価が今後の課題である。
症例報告
  • 廣瀬 智也, 大西 光雄, 中江 晴彦, 小島 将裕, 塩崎 忠彦, 小倉 裕司, 嶋津 岳士
    2014 年 25 巻 11 号 p. 821-826
    発行日: 2014/11/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    カルバマゼピンはてんかん,三叉神経痛に適応があり広く処方されている。今回,我々は遅発性に重篤な症状を来した急性カルバマゼピン中毒の1例を経験したので報告する。症例:患者は15歳の女性。カルバマゼピン 400mg/day,ミルタザピン 15mg/dayを定期内服していた。自宅で倒れているところを発見され,当センターへ救急搬送となった。来院時,意識レベルはGlasgow coma scale E1V1M4で意識障害を認めた。トライエージDOA®では三環系抗うつ薬(TCA)陽性であった。カルバマゼピン中毒を疑い経過観察入院とした。集中治療室に入室後,呼吸抑制を来したため人工呼吸器管理を開始した。また入室約3時間後に散瞳と全身性のけいれん発作を呈したためジアゼパム,ミダゾラムの投与を行った。カルバマゼピンの消化管からの吸収は緩徐であるため血中濃度の上昇が持続していると考え,またカルバマゼピンのLogP値が2.5であることから,脂肪製剤の静脈投与を行った。翌朝,カルバマゼピン血中濃度が高値であることが判明し,カルバマゼピン中毒と確定診断した。カルバマゼピンの抗利尿作用による乏尿と消化管運動低下を認めたが,血中濃度の低下とともに改善した。第8病日障害を残さず退院した。本人より,搬送約11時間前にカルバマゼピン200mg錠を約100錠,ミルタザピン錠15mg錠を約50錠内服したと聴取した。内服から呼吸抑制出現まで約12時間,けいれん発作出現まで約15時間と推定された。カルバマゼピンの血中濃度は,最高値が内服から約20時間後(104.5µg/mL),中毒域(20µg/mL)を下回ったのが約67時間後と遷延を認めた。結語:カルバマゼピン中毒患者は服用半日以上経過しても重篤な副作用が出現することがあり,来院時の症状が軽微であっても慎重な経過観察を要すると考えられる。
  • 冨岡 百合子, 吉村 久, 福岡 正人, 辰巳 嘉章
    2014 年 25 巻 11 号 p. 827-832
    発行日: 2014/11/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    61歳の男性。高さ1.5mの塀から転落して左側胸部を打撲し,当院に入院した。来院時,意識清明でvital signsも安定していた。胸部CTで左多発肋骨骨折と血気胸を認め,胸腔ドレナージを行った。受傷より56時間後, 突然の意識消失を来し,橈骨動脈を触知できなかったため胸骨圧迫を行ったところ,直後に意識は改善した。その短時間で胸腔ドレーンより血性排液140mLの増加がみられ,胸部造影CTでは心臓周囲に血管外漏出を認めた。左第5肋間より側方開胸したところ,第5肋骨骨折端が鋭利に突出して心嚢に接しており,その直下より出血を認めた。心膜を切開すると血液が噴出し,心尖部近くの左心室に10mmの心筋破裂がみられた。フェルト短冊をおいてポリプロピレン糸で水平マットレス縫合を行い,止血を得た。本例では,来院時に心嚢液貯留を認めなかったことから,肋骨骨折端が心筋を貫いたのではなく,心筋に長時間接していたことで遅発性心破裂に至ったものと考えられた。多発肋骨骨折を伴う鈍的胸部外傷では,受傷後の遅発性心破裂を念頭におくべきである。
  • 三谷 英範, 望月 俊明, 大谷 典生, 三上 哲, 田中 裕之, 今野 健一郎, 石松 伸一
    2014 年 25 巻 11 号 p. 833-838
    発行日: 2014/11/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    はじめに:尿素サイクル異常症であるornithine transcarbamylase(OTC)欠損症の頻度は日本で14,000人に1人とされ,18歳以降での発症例は稀であるが,発症すると重症化しうる疾患である。我々は,19歳発症のOTC欠損症により高アンモニア血症・痙攣重積発作を来し,救命し得なかった1例を経験した。症例:19歳の男性。来院前日,嘔吐・下痢・全身倦怠感を主訴に救急要請した。前医に搬送され,血液検査や頭部CTでは異常を認めないものの,全身倦怠感が強く入院加療を行うこととなった。入院後,不穏状態に続いて強直性痙攣が出現した。ジアゼパム静注で痙攣は消失したが,その後意識レベル改善なく当院へ紹介転院となった。当院来院時,頭部CTで全般性に浮腫性変化認め,血中アンモニア濃度は500µg/dL以上であった。当院入院後,痙攣再燃したため鎮静薬・抗てんかん薬を増量しつつ管理するも,痙攣は出現と消失を繰り返した。血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析の導入は見送った。第2病日に瞳孔散大,第4病日に脳波はほぼ平坦となり,脳幹反射は消失した。その後も高アンモニア血症は持続し,代謝異常による痙攣も疑われたため,各種検査を施行しつつ全身管理に努めたが,第11病日に血圧維持困難となり死亡した。後日,血中・尿中アミノ酸分画やオロト酸の結果からOTC欠損症と診断された。考察:尿素サイクル異常症は稀であるが,高アンモニア血症を来している場合には迅速に対応しなければ不可逆的な神経障害を来す。治療には透析が考慮されるが,本症例では痙攣が軽減した後血中アンモニア濃度は低下傾向であったため透析は施行しなかった。結語:血糖正常,アニオンギャップ正常の高アンモニア血症では尿素サイクル異常症を鑑別に挙げ,透析を早期に検討する必要がある。
  • 鈴木 慧太郎, 篠崎 正博, 鍜冶 有登, 栗原 敦洋, 西野 栄世
    2014 年 25 巻 11 号 p. 839-845
    発行日: 2014/11/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    症例は57歳の男性。急激な上腹部痛・両下肢の麻痺を主訴に救急搬送された。来院時の意識状態は清明,バイタルサインは血圧193/103mmHg,体温34.0℃,脈拍76/分・整,呼吸数20/分,SpO2 98%(room air)であった。搬入時の所見でデルマトームTh(thoracic level)8以下の感覚障害,対麻痺,腹壁の網状皮斑,下肢末梢の冷感を認めた。血液検査で膵臓由来のアミラーゼ上昇(338 IU/L),胸椎核磁気共鳴画像法(magnetic resonance imaging; MRI)にてTh7-8レベルの脊髄にT2強調画像で高信号域を認めた。急性膵炎および脊髄梗塞の診断で同日集中治療室に入院となった。入院3時間後の血液検査でCPK(creatine phosphokinase)が急激に上昇し,BUN(blood urea nitrogen),クレアチニン,アミラーゼも徐々に上昇した。無尿が続き,入院9.5時間後に持続血液透析を開始した。入院12時間後に呼吸・循環動態の急激な悪化のため,人工呼吸器を導入し,ドーパミンを開始したが状態は改善せず,入院2日目に多臓器不全のため死亡した。剖検で粥腫性大動脈硬化症,多臓器の細動脈にコレステロール結晶による塞栓を認め,粥状硬化巣の破綻による多発性コレステロール結晶塞栓症と診断した。本疾患では早期診断に組織診が必要であるが,予防法や治療法は確立されておらず,今後の課題である。
学会通信
  • 日本救急医学会 熱中症に関する委員会
    2014 年 25 巻 11 号 p. 846-862
    発行日: 2014/11/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    日本救急医学会熱中症に関する委員会は,2012年の夏季3か月間に全国103の救急医療施設から熱中症の診断で受診した2,130例について,あらかじめ指定したデータ記入シートを用いて臨床データを収集しその特徴を明らかにした。平均年齢は45.6±25.6歳(1~102歳),中央値42歳。平均年齢は男性 44.1歳,女性 48.5歳であった。 重症度ではI度:II度:III度は984:614:336(未記載196),作業内容ではスポーツ:仕事:日常生活・レジャーは494:725:630(未記載281),日なた:日陰:屋内は1165:54:831(未記載12)であった。死亡例は39例あり(不明2),熱中症を原因とする症例が28例であった。 なかでも重症例における後遺症発生率,死亡率は前回までの調査に比し一転して低下したことは,国を挙げての啓発活動や予防への取り組みが一定の効果を上げたものと推察できる。
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