日本救急医学会雑誌
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25 巻, 2 号
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原著論文
  • 近藤 貴士郎, 岩田 充永, 北川 喜己
    2014 年 25 巻 2 号 p. 37-42
    発行日: 2014/02/15
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    【目的】急性心筋梗塞(acute myocardial infarction: AMI)は胸部症状以外で発症することも多く,救急車を使わずに受診することも少なくないが,救急車以外の受診群(walk-in)にどのような特徴があるかを明らかにしたものは少ない。【方法】ER型救急医療を行う日本の1施設において,6年間にERを受診しST上昇型AMIで緊急PCIが施行された362例を対象に,walk-in受診群と救急車受診群で患者の特徴(年齢,性別,発症から来院までの時間,症状,糖尿病の有無,前医からの紹介の有無)および診療内容(来院からECGまでの時間,再灌流までの時間)と,AMIの重症度・予後(CK最大値,Killip IV,補助循環使用,合併症,入院・ICU滞在日数,自宅退院率,死亡率)を後ろ向きに検討した。【結果】Walk-in受診は95件(26.2%)で,救急車受診は267件(73.8%)であった。年齢はwalk-in群中央値66(interquartile range; IQR: 60-73)歳,救急車群中央値67(IQR: 60-76)歳で有意差を認めず,性差もみられなかった(男性walk-in群73.7% vs. 救急車群76.9%)。発症から来院までの時間はwalk-in群で有意に長かった(中央値3 (IQR: 1-10) 時間 vs. 2 (1-4) 時間,p<0.0001)。walk-in群では胸部症状を呈した患者が有意に少なかったが(64.2% vs. 77.9%, p=0.01),糖尿病患者の割合は同等であった。来院からECG検査までの時間はwalk-in群で有意に長く(中央値10 (IQR: 7-16) 分 vs. 6 (3-8) 分,p<0.0001),再灌流までの時間もwalk-in群で有意に長かった(中央値129 (IQR: 99-160) 分 vs. 104 (78-135) 分,p<0.0001)。CK 最大値,Killip IVの割合,補助循環使用の割合,合併症は両群で有意差はみられなかった。入院日数はwalk-in群で有意に短かったが(中央値15 (IQR: 12-22) 日 vs. 17 (14-23) 日,p=0.03),ICU 滞在日数や院内死亡率は有意差はみられなかった。【結論】本検討では,walk-in群で発症から来院までの時間が長く,胸部症状を呈した患者は少なかった。来院からECGまで,再灌流までの時間も長かった。胸部症状以外でも早期に受診するための患者教育や,walk-in群でAMIを適切に選別するための院内トリアージ体制の必要性が示唆された。
症例報告
  • 松本 寿健, 西村 哲郎, 大西 光雄, 若井 聡智, 定光 大海
    2014 年 25 巻 2 号 p. 43-49
    発行日: 2014/02/15
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    フルニエ壊疽は比較的稀な疾患であり,そのなかでも真菌がその起因菌であったとする報告は稀少である。今回,我々はCandida glabrataが起因菌のひとつと示唆されるフルニエ壊疽の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する。症例は69歳の男性。排尿困難があり,自ら外尿道口にストローを挿入した。その2日後,陰部が著明に腫脹したため前医を受診したところ,フルニエ壊疽と診断され,当院に転院搬送となった。来院時,意識はほぼ清明で呼吸数31/分,脈拍122/分,血圧118/78 mmHgであった。会陰部を中心に体幹から両側大腿中央まで発赤・腫脹・皮下気腫を認め,会陰部切開部から酒粕様の臭気を認めた。逆行性尿路造影検査で尿道損傷の所見が得られた。抗菌薬投与に加え,会陰部を含む病巣の切開排膿を行い,デブリードマンと洗浄を連日行った。入院後の経過は良好で,第46病日には会陰部に一部皮膚欠損を残すものの,ほぼ治癒した。本症例は既往として未治療の糖尿病があり,Candida glabrataが初日の創部排液から検出されたことからCandida属に起因したフルニエ壊疽である可能性が示唆された。患者が糖尿病などの易感染性宿主の場合,フルニエ壊疽の起因菌として真菌も考慮する必要がある。
  • 小寺 厚志, 入江 弘基, 安藤 卓, 岩下 晋輔, 谷口 純一, 笠岡 俊志, 木下 順弘
    2014 年 25 巻 2 号 p. 50-56
    発行日: 2014/02/15
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    76歳の男性。5月某日の16時に岩場で足を滑らせ,持っていた雁爪が頸部に穿通し,動けなくなっているところを通行人が発見し救急要請となった。事故直後,左頸部から左耳介部にかけて4本の爪が穿通しており,現場で救急隊により爪が切離され近くの地域中核病院へ搬送されたが,搬送途中に左耳介部に浅く穿通していた1本の爪が自然脱落した。近医到着時の意識は清明で,呼吸循環動態も安定していた。頸部の単純および造影CT検査で,1本の爪による左椎骨動脈損傷が疑われた。その損傷部位に対する外科的治療が困難と考えられたため,血管内治療目的に当院へ転院の方針となったが,すでに日没後であったため空路搬送を断念し,陸路搬送となった。当院までの距離は約80kmで,搬送に2時間25分を要し,21時20分に当院に到着した。 搬送後の呼吸循環動態も安定しており,全身麻酔下の左椎骨動脈塞栓術と頸部異物摘出術を施行し,良好な経過を得た。長時間搬送中の頸部安静のため,同乗医師らが交代で用手的に頭部を保持したため新たな副損傷は起こらなかったが,搬送に伴う傷病者へのリスクや医療者への負担は大きかった。頸部穿通創であれば,呼吸循環動態が安定していても,血管損傷の合併を念頭に置き,その搬送に留意する必要がある。さらに手術療法が困難な部位における椎骨動脈損傷に対しては血管内治療が有用であるが,施行可能な施設は限られており,転院搬送が必要となる。このため椎骨動脈損傷が疑われて血管内治療目的に長距離搬送が必要な症例では,空路搬送を念頭に置き,転院搬送前の検査を創部の状況を把握しうる最小限に簡略化して,空路搬送のタイミングを逸さないことが重要と考えられた。また空路搬送が不可能であれば,長時間搬送に備えて,傷病者や医療者へのリスクを軽減できる処置を搬送前に十分に考慮すべきと考えられた。
  • 板垣 有亮, 瀧 健治, 山下 寿, 三池 徹, 古賀 仁士, 為廣 一仁, 林 魅里
    2014 年 25 巻 2 号 p. 57-62
    発行日: 2014/02/15
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    症例は33歳の初産婦。妊娠41週0日に1児を正常分娩した。出産後1時間で子宮より2,800mL の出血を認め,ショック状態となり当院へ転院となった。救急搬入時にショック状態が継続していて,搬入後7分でpulseless electrical activity(PEA)となった。9分間のcardiopulmonary resuscitation(CPR)にて心拍再開し,出血性ショックに対してtranscatheter arterial embolization(TAE)後にintensive care unit(ICU)へ入室となった。ICU入室後に羊水塞栓症によるdisseminated intravascular coagulation(DIC)と診断し,人工呼吸器管理下でDICの治療を行い,3日間のmethylprednisoloneの投与と第1病日,第2病日に血漿交換を行った。第9病日に抜管に至り,抜管後意識レベルはGlasgow coma scale(GCS)15であったが,第19病日に脳静脈洞血栓症を合併し,ヘパリンによる抗凝固療法を開始した。第23病日に再度子宮内出血を認め,超音波検査と血管造影検査にてuterus arteriovenous malformation(子宮AVM)または胎盤遺残と診断し,同日子宮全摘術を施行した。病理結果は第1群付着胎盤遺残であり,子宮筋層血管内にムチン成分と上皮成分を認め,第1群付着胎盤遺残,羊水塞栓症と診断した。術後状態は安定し,第134病日にmodified Rankin Scale Grade 1で独歩退院した。羊水塞栓症は稀な疾患であるが,予後不良な疾患である。羊水塞栓症の診断治療には複数科に渡る早急な判断と集中治療協力体制が肝要である。
  • 小泉 寛之, 北原 孝雄, 北村 律, 中原 邦晶, 今野 慎吾, 相馬 一亥, 隈部 俊宏
    2014 年 25 巻 2 号 p. 63-68
    発行日: 2014/02/15
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    補助人工心臓(ventricular assist device: VAD)は,末期心不全症例に対して心臓移植までの橋渡しとして臨床的に有用であることが知られている。我々はVAD装着中に脳出血を合併した1例を経験したので,その管理と問題点について報告する。症例は41歳の女性。当院循環器内科で拡張型心筋症と診断され,内科的治療を受けるも心不全の増悪を認めたため,心臓移植までの橋渡しとして心臓血管外科にて体外型両心VAD装着が行われた。装着から約3か月後,嘔吐,軽度意識障害を認めた。頭部CTを施行したところ,左前頭葉皮質下出血を認めた。当院のVAD 患者の脳出血時のプロトコールに従い,ビタミンK10mgを静注し,新鮮凍結血漿(fresh frozen plasma: FFP)5U,遺伝子組換え血液凝固第IX因子製剤(ノナコグアルファ)1,000IUを投与してプロトロンビン時間(PT)の国際標準比(international normalized ratio: INR)の正常化を行った。 しかし意識障害の悪化と右片麻痺を認めたため,緊急開頭血腫除去術および外減圧術を施行した。術後創部出血,頭蓋形成時の硬膜外血腫を合併したが,神経学的脱落症状は改善(modified Rankin Scale 0)し,心臓移植待機となった。本邦ではVAD症例は増加傾向にあり,それに伴うVAD装着中の脳出血も増加することが予想される。そのため脳神経外科医もVAD治療やそれに関する諸問題について正確な知識を持ち,脳血管イベント発生時には治療および患者家族への対応など関連科と協力して速やかに応じられる体制作りが求められる。
  • 林 伸洋, 竹本 正明, 角 由佳, 井上 貴昭, 松田 繁, 岡本 健, 田中 裕
    2014 年 25 巻 2 号 p. 69-74
    発行日: 2014/02/15
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    会陰部杙創に伴う出血性ショックに対して用手圧迫をしたまま経カテーテル動脈塞栓術transcatheter arterial embolization: TAE)を施行し,止血し得た1例を経験したので報告する。症例は74歳の男性。自宅内で高さ50cmの椅子からバランスを崩して転倒し,その際に椅子の脚が会陰部に刺さり出血が止まらないため救急要請となった。会陰部に幅3cm程度の裂創を認め出血多量であったため救急隊員によってガーゼ圧迫がなされていた。来院時,意識は清明で明らかなショック症状は認めなかった。会陰部からの動脈性出血に対し,用手圧迫と尿道カテーテル挿入で止血を試みた。創の深さは約7cmで,創部からの持続する出血に対し用手圧迫を行いつつ造影CTを撮影した。会陰部組織内に造影剤の漏出像を認めたが骨盤骨折は認めなかった。来院から約30分後にショックとなり,止血目的の血管造影検査で右内陰部動脈からの出血を認めたためゼラチン物質で塞栓し止血した。初療経過中に尿道損傷の合併が疑われたため経皮的に膀胱瘻を造設し膀胱造影を行った。腹膜外膀胱損傷を認めたが後部尿道損傷は軽微で,尿道留置カテーテルを留置し,保存的治療とした。入院後は連日の創洗浄を行った。尿道外溢流の消失を確認し29日後に尿道留置カテーテルを抜去し自尿を確認した。創部は感染なく閉鎖し,約1か月後に退院となった。会陰部杙創に対してTAEで効果的に止血し得た報告例は確認できなかった。刺入経路や深さが不明である動脈性出血例では,骨盤腔内への外科的アプローチよりもTAEが侵襲が少なく短時間に出血のコントロールが可能であり有用と考えられた。
  • 荻野 隆史, 萩原 周一, 小川 哲史, 大高 行博, 増渕 裕朗, 神戸 将彦, 大嶋 清宏
    2014 年 25 巻 2 号 p. 75-79
    発行日: 2014/02/15
    公開日: 2014/06/10
    ジャーナル フリー
    症例は74歳の男性。高所作業中(2m30cm)に背部より転落し救急搬送された。来院時のGCS 15点で,血圧 118/75mmHg,心拍数 114/分,O2 10L/分リザーバーマスクでSpO2 99%,Hb 10.5g/dlであった。造影CTでは左血気胸,左多発肋骨骨折があり,骨盤骨折はみられなかったがL1-L5横突起骨折,後腹膜血腫が確認された。左血気胸に対し,28Frのトロッカーを挿入した。 後腹膜血腫に対して血管造影を行い,腰動脈(L1)の枝より数箇所,活動性出血を認めたため経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization: TAE)を施行し,ICU管理とした。 多発肋骨骨折,横突起骨折に対しバストバンドによる外固定を行った。第2病日のCTで後腹膜血腫の増大,Hbの低下はなく,以降のCTでも後腹膜血腫は縮小した。第3病日に酸素マスク,O2 5L/分で投与中にCO2 ナルコーシス(pH 7.249,PCO2 78.9 mmHg,PO2 41.4mmHg)となり気管挿管を行った。第9病日に血気胸に対し挿入していた左胸腔ドレーンを抜去した。第17病日にCOPD(chronic obstructive pulmonary disease)の既往,気管支喘息発作の頻発,肺炎,無気肺の合併のため気管切開を行った。全身状態は軽快したためリハビリ目的で第43病日に転院となった。 今回,L1-L5横突起骨折のため腰動脈の出血による後腹膜血腫に対しTAEが有効であった症例を経験した。横突起骨折単独であれば保存的加療となることが多く,予後は良好とされるが,多発外傷の一部分症であることも多い。腰椎横突起単独骨折でも腰動脈損傷の合併例が稀にあり,腰動脈出血は致命的となる可能性があるため迅速なTAEの適応と考えられる。
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