クモ膜下出血(以下SAHと略す)急性期に認められる左室壁運動異常の成因と病態について検討した。発症24時間以内の破裂脳動脈瘤によるSAH494例に心エコー検査を行い,左室壁運動異常を認めた48例(LV ASYN(+)群)について左室壁運動異常の変化を観察した。来院時の血圧,脈拍数,意識状態,胸部X線写真,心筋逸脱酵素,血漿カテコールアミン濃度,心血行動態を測定し,左室壁運動異常を認めないSAH446例(LV ASYN(-)群)を対照群として比較した。左室壁運動異常はSAH急性期の9.7%に出現し,年齢には両群で差はなかったがLV ASYN(+)群で女性の割合が有意に高かった。左室壁運動異常はWFNS分類によるgrade IV, Vの重症例に多く出現するが,Fisher分類によるSAHの程度には両群で差はなかった。来院時LV ASYN(-)群に比べLV ASYN(+)群では収縮期血圧の低下と心拍数の増加が認められ,肺水腫の出現率はLV ASYN(+)群で有意に高かった。血清CK (MB-CK)の最高値と,来院時の血漿ノルエピネフリン,エピネフリン濃度はそれぞれLV ASYN(+)群550±500IU/l (7.0±3.7%), 1,690±1,600pg/ml, 1,250±1,190pg/ml, LV ASYN(-)群310±320IU/l (1.9±1.5%), 670±450pg/ml, 310±300pg/mlでありLV ASYN(-)群に比べLV ASYN(+)群で有意に高値を示した。また,LV ASYN(+)群では来院時の肺動脈圧は33±6/19±4mmHg,平均肺動脈楔入圧18±5mmHg,心係数2.6±0.71/min/m
2であり,断層心エコー図から算出した左室駆出率は来院時37±13%と低下していた。急性期死亡例を除き1~15日(6±4日)後には,肺動脈圧28±6/11±4mmHg,平均肺動脈楔入圧10±3mmHg,心係数4.6±0.91/min/m
2,左室駆出率65±9%と有意に改善した。SAH急性期の左室壁運動異常は,心筋壊死と心機能低下を伴うが可逆的であった。この心機能障害はSAH急性期に認められる肺水腫の一因となり,心病変の成因としてカテコールアミンの関与が考えられた。
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