致死量を超えるアルコール中毒例の臨床症状および生命を脅かす危険因子を明らかにするために,1983年1月1日から1994年3月31日までに岩手医科大学高次救急センターを受診し,来院時の血中アルコールが400mg/dl以上であった症例について,意識レベル,バイタルサイン,血液検査値,治療法,血中アルコール消失速度について検討した。性別は男性29例,女性4例で平均年齢は42.1±12.1歳であった。血中濃度が500mg/dl以上の9例はいずれも意識レベルがJapan coma scale(以下JCSと略す)100以上で,うち4例はJCS300であった。瞳孔径は,血中濃度が500mg/dl以上の9例のうち3例は散瞳,2例に瞳孔不同を認めた。対光反射は,血中濃度が500mg/dl以上の9例のうち2例は反射消失,4例に反射遅延を認めた。血中アルコール濃度が500mg/dl未満の症例は全例対光反射は迅速で,意識レベルは個人差が大きかった。収縮期血圧,平均心拍数,呼吸数で生命を脅かす徴候は認めなかった。20例に軽度の低体温,16例に低酸素血症,6例にPaCO
2の蓄積を認めた。血中アルコール消失速度は-225mg/dl/hrであった。治療は輸液および呼吸管理のみで,全例軽快退院した。多量飲酒者の生命を脅かす徴候は呼吸不全と低体温が考えられたが,医療機関で適切な管理が行われれば生命を脅かすには至らないと思われた。
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