ウイルス性劇症肝炎を発症から脳症出現までの期間より3群に分け,その生存率の差より救急・集中治療の適応を考えた。対象は最近の7年間に血漿交換(PE)に血液濾過透析(HDF)を併用した人工肝補助療法(ALS)を施行した32例とした。発症から肝性昏睡II度までの期間より,10日までの急性型9例(A群),亜急性型を4週までの13例(S群),8週までの10例(M群)とに分け,この3群で比較した。40歳以上の症例は各群で100, 77, 70%を占めていた。ウイルス型ではB型の症例は各群で56, 46, 20%,非A非B型は44, 54, 80%を占めていた。入院時のCTより推定した肝容量が700cm
3/m
2以下の症例は各群の63, 55, 78%であった。PEを各群で平均15, 13, 33回,HDFを平均13, 12, 32回施行した。その結果,入院時と比較して肝性昏睡度の回復を各群の78, 85, 80%の症例で認めた。総bilirubin値は入院時に各群で平均10.0, 20.7, 21.0mg/dl, ALS期間中にS群で有意な減少(p<0.01), M群で有意な増加を認めた(p<0.05)。血清creatinine値は入院時に各群で平均3.0, 1.7, 1.0mg/dl, ALS期間中にM群で有意な増加を認めた(p<0.01)。菌血症または高endotoxin血症を各群の22, 38, 50%の症例に認めた。生存率は各群で67, 46, 10%であり,A群とM群の間で有意差を認めた(p<0.05)。さらにイギリス,ドイツの肝移植適応基準のうちで3項目以上を満足し,重篤と思われた症例は各群で78, 69, 90%を占め,それらの生存率は86, 33, 0%であった。すなわち,従来より施行されてきたPEだけでなくHDFを併用することにより,平均81%の症例で意識回復に有用であり,A群の生存率は67%に達した。しかし,M群の生存率は10%の延命効果にとどまった。以上より,現状では劇症肝炎と思われる重症例の,なかでも発症から4週間までの症例(A群とS群)こそ,ALSを中心とした救急・集中治療の適応であり有用であろうと考えられた。
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