日本救急医学会雑誌
Online ISSN : 1883-3772
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8 巻, 1 号
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  • 横田 順一朗
    1997 年 8 巻 1 号 p. 1-16
    発行日: 1997/01/15
    公開日: 2009/03/27
    ジャーナル フリー
    本総説では挫滅症候群に関する歴史,疫学,病態生理,診断と治療などを解説し,あらためて同症候群の臨床的意義を探ってみたい。挫滅症候群とは,四肢が長時間圧迫を受けるか窮屈な肢位を強いられたため生じる骨格筋損傷により,救出後から急速に現れる局所の浮腫とショックや急性腎不全などのさまざまな全身症状を呈する外傷性疾患である。同症候群は長時間の臥床に伴う偶発的な筋圧挫としても散発例をみるが,通常は地震,空襲などにより倒壊した家屋の下敷きになって集団で発生する。長時間の骨格筋圧迫による筋崩壊のメカニズムについては,膜伸展による損傷(stretch myopathy)と虚血とが指摘されている。圧迫解除によって急速に骨格筋に浮腫が生じ,骨格筋特有のコンパートメント症候群(筋区画症候群)へと進展する。この機序として活性酸素などが関与する再灌流障害が推定されているが,明確にされていない部分も多い。崩壊した骨格筋細胞へは水分が移行し,細胞内からはカリウム,ミオグロビンなどさまざまな細胞内物質が流出する。この結果,細胞外液の喪失による低容量性ショック,高K血症,代謝性アシドーシス,急性腎不全などが生じる。骨格筋を長時間圧迫する特異な受傷機転と四肢の知覚・運動麻痺の存在が診断の根拠となる。輸液療法が治療の主体をなすが,その目的が細胞外液の補充に留まらずカリウムを排泄させることにあるため,強制利尿並みの大量投与を行う。とくに救出現場から輸液を開始することにより,急性腎不全を回避できる可能性が高くなる。高K血症の進展や腎不全が完成すれば透析療法の適応となる。コンパートメント症候群に対する筋膜切開の適応については意見が分かれている。トリアージや患者搬送なども治療成績を左右するため,集団災害時での同症候群への対応についても言及する。
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