破裂性腹部大動脈瘤では治療開始前に死亡する症例も多く,救命率の向上のためには手術例を対象とした検討では不十分である。そこで開設以来10年間に当センターに来院した破裂性腹部大動脈瘤例50例のうち,来院時心肺停止例(CPAOA) 9例(男7例,女2例,平均年齢は76歳)を中心に治療成績や問題点について検討した。全50例の死亡率は46%であったが,非shock例(17例)では6%, shock例(21例)では53%,他院での心肺蘇生後症例(3例)では67%, CPAOA例(9例)では89%であった。CPAOA例は病院からの搬送例7例,救急隊からの直接搬送2例で,すべて救急車内での心肺停止であった。心拍再開は8例(89%),蘇生(入院)は7例(67%)であった。手術は5例に行い,術中死亡は2例,人工血管置換術を施行しえたのは3例であった。このうち1例は術後脳死となったが,2例では術後に意識が回復し,このうち1例は多臓器不全で死亡したが,1例(11%)が完全社会復帰した。CPAOA例における既往歴は高血圧が5例,高脂血症,狭心症,心筋梗塞,胃潰瘍,糖尿病が各1例で,腹部大動脈瘤をすでに指摘されていた症例が3例あった。病院からの搬送7例で前医での初期診断は原因不明の腹痛3例,尿管結石2例,急性腹症として開腹術を受けたもの1例で,破裂性腹部大動脈瘤と的確に診断されたものは1例のみであった。CPAOA例では初期診断が的確でない症例が多く,deep shockや腹部膨満が著明となって初めて診断がなされていた。初期診断の遅れが心肺停止を招き,発症から心肺停止までの時間は30分から3日,平均12.8時間であった。破裂性腹部大動脈瘤の治療成績向上のためには第一線の医療機関での迅速かつ的確な初期診断が重要であり,そのためには腹痛,shock,拍動性腹部腫瘤の3徴や既往歴の聴取が重要である。
抄録全体を表示