日本救急医学会雑誌
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最新号
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原著論文
  • 山本 理絵, 斉藤 剛, 青木 弘道, 飯塚 進一, 秋枝 一基, 猪口 貞樹
    2014 年 25 巻 12 号 p. 865-873
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    急性薬物中毒は救急医療において重要な分野の一つであり,起因物質の特定は治療を行う上で極めて重要である。厚労省により薬毒物分析機器の配置が行われてきたが,機器による分析は難しく,簡便かつ迅速な検査法として尿中薬物簡易スクリーニングキットが多くの医療機関で使用されている。しかし,尿中薬物簡易スクリーニングキットは分析対象が限定され検出不能な薬物があること,体内動態や交差反応による陽性や感度不足による陰性があることから,薬物の特定には定量分析が必要となる。本研究では,ガスクロマトグラフ質量分析装置(gas chromatograph mass spectrometer: GC/MS)や液体クロマトグラフ質量分析装置(liquid chromatography-tandem mass spectrometer: LC-MS/MS)による血中薬物の定量分析結果をgolden standardとして,当院で使用している尿中薬物簡易スクリーニングキットTriage DOA® の臨床的有用性について検討した。2009年4月~2013年3月までに当施設を受診し入院となり,Triage DOA® と定量分析の双方を施行した急性薬物中毒822例を研究対象とした。ベンゾジアゼピン系睡眠薬およびベンゾジアゼピン系抗不安薬(BZO),バルビツール酸系睡眠薬(BAR),三環系抗うつ薬(TCA),アンフェタミン系覚醒剤(AMP)に対するTriage DOA® の感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率,偽陽性率,偽陰性率について検討した。検討の結果,Triage DOA® にはいくつかの問題はあるが,救急初期治療の一次スクリーニング検査としては有用であった。しかし,TCA,AMPの陽性的中率は低く,BZOは陰性的中率が低いことから,救急現場ではTriage DOA® の解釈には十分な注意が必要である。また,近年本邦では尿中薬物簡易スクリーニングキットでは検出できない抗精神病薬やselective serotonin reuptake inhibitor,serotonin and norepinephrine reuptake inhibitorなどの抗うつ薬が数多く使われている。尿中薬物簡易スクリーニングキットで陰性でもこれらの薬物を服用している可能性を念頭に置いて初期治療を行う必要がある。
症例報告
  • 村井 智, 石川 雅巳
    2014 年 25 巻 12 号 p. 874-878
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    我々は,右膝痛と食欲不振のみを呈した閉鎖孔ヘルニアの1症例を経験したので報告する。症例は胃全摘,胆摘の既往のある85歳の女性。来院2日前から寛解と増悪を繰り返す右膝の痛みが出現し,食欲低下があるため当院救急部を受診した。来院時,発熱と低酸素血症を認めたが,腹部症状は認めなかった。整形外科的疾患が疑われたが,右膝関節に異常は指摘されなかった。食欲不振の精査のため腹部超音波検査を施行したところ,keyboard signとto-and-fro signを認め,腹部造影CT検査で右閉鎖孔ヘルニアによる小腸イレウス,および食道逆流による誤嚥性肺炎と診断された。来院4時間後に緊急で鼠径法によるヘルニア門修復術を施行した。嵌頓腸管は虚血,壊死を認めず腸切除は行わなかった。術後,右膝痛は完全に消失し,抗菌薬投与で誤嚥性肺炎も改善したため退院となった。閉鎖孔ヘルニアはやせた高齢の多産女性に好発し,稀に腹部症状を欠くことがある。閉鎖神経圧迫による大腿から膝にかけての放散痛(Howship-Romberg徴候)を認めることがあるが,本症例のように限局的な膝の痛みでは見逃される可能性がある。やせ型の高齢女性が食欲不振や下肢痛を呈した場合は,本疾患を念頭において,腹部超音波検査やCT検査を併用して早期診断を行うことが重要である。
  • 八木 良樹, 筈井 寛, 清水 木綿, 頭司 良介, 後藤 拓哉, 大石 泰男, 秋元 寛
    2014 年 25 巻 12 号 p. 879-884
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    背景:甲状腺クリーゼは重症度が高く約20%は内分泌医不在の救命センターに搬送されている。目的:当院の甲状腺クリーゼの成績を明らかにし,予後不良因子を検討すること。方法と対象:2000年以降に甲状腺クリーゼで入院した患者の背景(年齢,性別,基礎疾患,抗甲状腺薬内服状況,ショック,血漿交換および循環補助施行の有無など)を検討した。また生存群と死亡群に分け,収縮期血圧,急性期DIC診断基準スコア,acute physiology and chronic health evaluation(APACHE)IIスコア,Sequential organ failure assessment(SOFA)スコア,総ビリルビン値,血糖値などを比較した。症例:症例は8例(平均年齢48歳,男性2例,ショック6例)で,基礎疾患は全例バセドウ病に関連し,発症時は全例で抗甲状腺薬の服薬ができていなかった。血漿交換はショックに対して循環補助を必要とした3例を含む4例に施行したが,循環補助を要した3例は全て死亡した。生存群と死亡群(各4例)の比較では,DICスコア(生存群vs. 死亡群,3.75 vs. 4.25,p=0.77)とAPACHE IIスコア(23.0 vs. 25.8,p=0.24)は同等で,SOFAスコア(5.3 vs. 10.0,p=0.04)に有意差がみられた。また収縮期血圧(mmHg)(135 vs. 80.3,p=0.25),総ビリルビン値(mg/dL)(0.9 vs. 3.7,p=0.19)と血糖値(mg/dL)(132 vs. 66.3,p=0.15)は有意差がみられないものの,死亡群で血圧と血糖値が低く総ビリルビン値は高かった。結語:重症度は高かったが半数は救命できた。SOFAスコアに加え,ショック,高ビリルビン血症や低血糖がみられる症例には注意が必要と思われた。
  • 蕪木 友則, 須崎 紳一郎, 勝見 敦, 原田 尚重, 原 俊輔, 田中 知恵, 安達 朋宏
    2014 年 25 巻 12 号 p. 885-891
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    動脈や腸管における壁内血腫の発生はしばしば認められるが,静脈における壁内血腫の報告は見当たらない。我々は,鈍的外傷により下大静脈壁内血腫が示唆されるCT所見を認めた症例を経験したので報告する。症例は37歳男性。ラクビーの試合中に相手のタックルを右下腹部に受け,痛みが持続するため救急搬送された。来院時,意識は清明であり,呼吸循環は安定していた。腹部造影CT検査で,右側優位に後腹膜血腫を認め,右腸骨静脈末梢側の血流うっ滞と中枢側の血管虚脱,下大静脈においてはほぼ血管内全周性の血腫と血管内腔の狭小化を認めた。以上から,タックルという鈍的外傷により生じた,腸骨静脈損傷からの後腹膜血腫と診断し,下大静脈に関しては壁内血腫が疑われた。保存的経過観察を施行した。下大静脈壁内血腫は徐々に縮小傾向であったが,右腸骨静脈から末梢に血栓を認めたため,下大静脈フィルター挿入し,抗凝固療法を開始した。その後,下肢静脈血栓は縮小傾向であり,抗凝固療法もコントロールでき,下大静脈フィルターを抜去し,外来経過観察とした。
  • 山谷 立大, 小泉 寛之, 樫見 文枝, 近藤 竜史, 竹内 一郎, 隈部 俊宏, 浅利 靖
    2014 年 25 巻 12 号 p. 892-896
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    顔面外傷は気道閉塞や出血性ショックなど,時に緊急度の高い病態を引き起こす。我々は顔面外傷による気道閉塞に対してドクターカーの出動により迅速かつ適切な気道確保を行い,出血性ショックに対して迅速かつ有効な血管内治療により救命した重症顔面外傷の1例を経験したので報告する。症例は53歳の女性。自動車で走行中, 路肩に停車していたトラックに後方から衝突し受傷した。トラック運転手により救急要請,高エネルギー外傷および気道閉塞の可能性があり同時に救急隊よりドクターカー要請となった。救急隊現着時意識レベルGlasgow coma scale(GCS)7[E1V1M5],SpO2 76%,血圧96/71mmHgであった。鼻腔および口腔内からの大量出血による気道閉塞に対し直ちにAirwayscope®を使用し気管挿管を行い, 出血性ショックに対し急速輸液開始し当院救命救急センターに搬送した。病着時には収縮期血圧60mmHgまで低下し輸血の急速投与を行った。頭部CT検査で多発顔面骨骨折, 外傷性クモ膜下出血, 急性硬膜下血腫,気脳症,頭蓋底骨折を認めた。体幹部CT検査で肺挫傷,気胸を認めたが出血性ショックの原因となる所見は存在しなかった。鼻腔および口腔内からの出血が持続していることから,原因として外頸動脈系からの出血を疑い血管造影検査を施行した。左顎動脈からの血管外漏出像を認めたため緊急に経カテーテル動脈塞栓術を施行,直後から血圧が上昇し循環動態の安定を得ることができた。
  • 白子 隆志, 加藤 雅康, 藤山 芳樹, 田尻下 敏弘, 沖 一匡, 吉田 隆浩, 小倉 真治
    2014 年 25 巻 12 号 p. 897-903
    発行日: 2014/12/15
    公開日: 2015/03/12
    ジャーナル フリー
    介護老人保健施設(以下,老健施設)に入所中の83歳女性が心肺停止になり,勤務中の看護師らスタッフによる心肺蘇生が実施された。心肺蘇生中の看護師A(53歳,女性)が突然意識を消失したため,残りのスタッフが入所者の心肺蘇生を引き継ぐとともに看護師Aの心肺停止を確認し,救急隊の追加要請と看護師Aのcardiopulmonary resuscitation(CPR)を開始した。施設唯一のautomated external defibrillator(AED)は入所者に装着されたため,救急隊到着後に救急隊の半自動式除細動器を入所者に装着し,施設のAEDを看護師Aに装着した。「shock advised」の指示に従いスタッフが1回目のショックを看護師Aに実施した。先着救急隊により入所者を搬送後,追加要請された後着救急隊により看護師Aを救命救急センターに搬送した。救急外来にて看護師Aの心肺停止,VFを確認後2回目のショックを実施し,アドレナリン1mgを投与後に自己心拍が再開した。抗不整脈薬投与,人工呼吸管理,低体温療法を行い,その後implantable cardioverter defibrillator(ICD)を移植し,完全社会復帰した。看護師Aは既往歴に肥大型心筋症を罹患しており,今回の心肺停止は急激な心肺蘇生によって身体的・精神的負荷がかかったために,VFを発症したものと推測した。本症例は,日常の訓練とスタッフを含む適切な救命の連鎖が看護師Aの社会復帰につながったものと考えられた。院内の事後検証において老健施設のAEDの機種,設置場所,台数,予備パッドの管理体制の不備を指摘し,既設のAEDを廃棄後2台新設した。Japan Resuscitation Council(JRC)ガイドライン2010によると心肺蘇生中の救助者が心肺停止に陥ることは極めて稀であるが,救助者の安全についても十分考慮する必要がある。
研究速報
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