日本乳癌検診学会誌
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23 巻, 3 号
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特別寄稿
  • ―避けるための対応策―
    森本 忠興, 笠原 善郎, 角田 博子, 丹黒 章
    2014 年 23 巻 3 号 p. 337-346
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    2009年の米国予防医学専門委員会(USPSTF)の勧告では,乳癌検診の評価は,利益(死亡率減少効果)のみでなく,不利益(偽陽性,偽陰性,過剰診断,被曝,精神的影響等)も考慮する必要があり,検診の利益と不利益のバランスを考慮すべきであるとされている。欧米の乳癌検診における無作為比較試験(RCT)の結果から,死亡率減少効果は40~69歳の年齢層で15~32%ある。不利益のうち,過剰診断以外の偽陽性,偽陰性,要精検率等を如何に抑えるか,つまり検診の精度管理が重要である。一方,癌検診の不利益のうちの過剰診断が欧米で話題になっているが,過剰診断とは,その人の寿命に影響を及ぼさない癌を発見・診断することである。各種の癌検診における過剰診断は,神経芽細胞腫,前立腺癌,胸部CT で発見される肺癌,甲状腺癌などが知られている。多くの欧米データから,検診発見乳癌の10~30%程度に過剰診断があるとされる。早期乳癌なかでも非浸潤癌等の一部の病変は,過剰診断に繋がる可能性が大きく,また高齢者ではより過剰診断の可能性を考慮すべきである。本邦のマンモグラフィ検診は,欧米の受診率70~80%に比較して20~30%と低い。日本においては,不利益を理解した上で,死亡率減少効果という利益を求めて,精度管理のなされたマンモグラフィ検診受診率の向上(50%以上)に努めるべきである。とくに対策型検診では,死亡率減少効果のエビデンスに基づいたガイドラインに沿った検診を施行すべきである。さらに,過剰診断となり得る乳癌の臨床病理学的研究,日本における過剰診断のデータ蓄積が求められる。過剰診断に対しては,過剰な精密検査・過剰治療の回避のために,経過観察群watchful waiting の設定による対処も考えられる。また,受診者との不利益に関わる共同意思決定も必要であり,過剰診断と思われる乳癌の治療は,受診者とのinformed decisionの上で行うべきである。
原著
  • 櫻井 照久, 尾浦 正二, 澤田 将利, 清井 めぐみ, 梅村 定司, 清水 幸生, 下野 千草, 佐々木 恵里, 栗本 博史
    2014 年 23 巻 3 号 p. 347-352
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    和歌山県の当総合健診センターでは,厚生労働省の指針に基づき,分離方式の視触診併用マンモグラフィ検診を行っている。今回,視触診併用マンモグラフィ検診における視触診の意義につき検討した。対象は,2004年から2009年に当センターで触診とマンモグラフィ読影を分離方式で実施した視触診併用マンモグラフィ検診受診者55,533名である。結果は,要精密検査率は9.6%,発見癌率は0.23%,陽性反応適中率は2.4%であった。発見癌は病期0が14%,病期Iが59%と早期癌が多くを占めたが,視触診で指摘できたのは,病期0で11%,病期Iで25%に過ぎず,発見癌での視触診の感度は低かった。視触診併用マンモグラフィ検診において,視触診で乳癌を指摘できる頻度は低く,視触診のみで発見された乳癌は1名のみであった(1/55,533)。また,費用面から検討すると,視触診を省略し,MMG単独の検診にすることで1名の癌発見の費用を55万円抑制できると試算された。視触診併用により不要な要精密検査が増えている可能性があり,視触診併用の意義は低いと考えられた。
  • 叶 亮浩, 小西 勝人
    2014 年 23 巻 3 号 p. 353-359
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    当院ではマンモグラフィ(MMG)や超音波検査(US)で乳癌を疑うが診断に苦慮する症例に対し,地域医療連携を通じてMRI 検査を依頼することがあるが,従来まで明確な基準は定めていなかった。そこで今回,対象とする症例の基準や検査法を定めることで適切な診断プロセスの構築を目指した。対象はMMG/USで乳癌を疑うが,USガイド下でCNBが困難で診断に苦慮する症例とした。患側の造影早期高分解能撮像を主体としたMRI検査プロトコール(そらクリ・プロトコール)を作成し,BI-RADS-MRIを参考に,当院乳腺外科医と診療放射線技師が共同で当院にて読影を行い,その後の診療方針を決定した。その結果,検査依頼側の意向に沿い,かつ統一したMRI検査法とすることができた。対象とした19例中11例に悪性を示唆するMRI所見を認め,そこから追加検査により8例の乳癌を検出した。MRIで悪性を示唆する所見がある場合は追加検査により微細な病変を検出することができ,ない場合はその後の不必要な精査の回避等が期待できる。また,造影早期の高分解能撮像は腫瘤形成がないような早期乳癌の評価に優れると思われた。医療過疎が危惧される中で適切な基準や診療体制を整えることは地域や環境に関わらず,良質な医療を提供するために必要であり,今回の取組みは有用であると思われた。
  • 朝蔭 直樹, 苅込 和裕, 中村 直和, 松村 知憲
    2014 年 23 巻 3 号 p. 360-365
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    女性特有のがん検診推進事業も今年度で5年目を迎えた。当院がこれまで4年間,柏市乳がん検診指定医療機関の1つとして参画した女性特有の(乳)がん検診推進事業の有効性と柏市乳がん検診事業の問題点を検討した。柏市の全乳がん検診クーポン券利用率は平均27.1%であり,クーポン券利用の市検診未登録者の使用率は平均15.1%と低調であった。当院におけるクーポン券利用受診者もこの4年間で増加傾向を認めず,前回のクーポン券利用をきっかけに市検診登録をして当院で一次検診を受診した,いわゆるリターン受診率も低く,特有検診をきっかけにした検診の継続にも結び付いていない。また特有検診期間末の駆け込み受診の著増は,検診を希望しても受診できないケースを生んでいる。以上より,女性特有のがん検診推進事業はこれまでの4年間に限ってみれば,乳がん検診受診の動機づけ,啓蒙にさほど寄与していないと思われた。また乳がん検診事業において,市民の積極的受診への意識向上を図るためにはさらなる啓蒙活動が必要であり,検診を希望しても受診できない検診難民を生まないために検診事業の機能的・構造的問題を改善する必要があると思われた。
  • ―肥満に関する因子を中心とした検討―
    岡本 隆英
    2014 年 23 巻 3 号 p. 366-370
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    マンモグラフィ(MMG)で乳腺濃度mammographic density (MD)は,高濃度であると乳癌発症のリスク因子となると報告されている。MDと肥満度とは負の相関があるが,肥満に関連する生活習慣・脂質・糖代謝とMDとの関連についての報告は少ない。今回,MDの規定因子を調べるためにこの研究を行った。当院健診センターにて生活習慣病の検診とMMGを同時に行った受診者のうち閉経後の304例を対象とした。MDはBI-RADSにより4段階に評価し,脂肪,散在性を低濃度群(LD群),高濃度不均一・高濃度を高濃度群(HD群)と2つに分類した。LD群とHD群,それぞれにおける出産歴,肥満に関するデータ(BMI,腹囲,体重増加,運動歴,糖・脂質),他に年齢や乳癌のリスク因子(喫煙・アルコール,乳癌家族歴,ホルモン補充療法の既往等)を比較検討した。統計処理は2群間の評価をt-検定またはΧ2検定またロジスティック回帰分析による多変量解析を行った。2群間の比較の結果,LD群の年齢,BMI,腹囲,TGはHD群に比較して有意に高かった(いずれもp<0.001)。またHDLは逆にLD群で有意に低かった(p<0.001)。また体重増加例も有意にLD群で多かった(p<0.001)。BMI・年齢で調整した多変量解析では,体重増加とHDLは有意な因子であった(それぞれp=0.004, 0.018)。閉経後では肥満度が高まるとMDは低下し,その指標はBMIのみならず体重増加の有無も大きい。またHDLは肥満度と独立して,有意にHD群で高かった。
症例報告
  • 岡本 喜一郎, 松尾 康治, 森田 孝子, 森谷 鈴子
    2014 年 23 巻 3 号 p. 371-375
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    症例は26歳,女性。1年前から右乳腺CDエリアに腫瘤を自覚していた。右乳頭から白色調の分泌液を自覚したため当院来院。乳頭分泌液細胞診は陰性であった。マンモグラフィでは,右CDの拡張した乳管内に集簇性の淡く不明瞭な石灰化を認め,分枝状の形を呈した。乳腺エコーで,右CDに拡張した乳管とその内部に乳頭状に増殖した腫瘤を認めた。乳腺造影MRIでは,腫瘤は早期より造影され,次第に漸増するパターンを示した。以上より,乳管内乳頭腫(intraductal papilloma, IP)と診断し,乳管腺葉区域切除術を行った。切除標本では,IPの一部に腺の増殖と間質の硬化,多数の微小石灰化を認めた。石灰化は,増殖した腺腔内の分泌物に由来するものと考えられた。本症例では,マンモグラフィの特異な石灰化の原因は,硬化性乳頭腫の一部で上皮が脱落・消失した結果,乳管小葉構造を反映する分枝状の石灰化のみが間質に残り,石灰化が互いに癒合したことと考えられた。IPでは,稀に血行障害による梗塞などの原因で今回のような上皮脱落を伴う間質の硬化を来し,特異な石灰化を呈することも念頭に入れる必要があると考えられた。
  • 大塚 博紀, 大野 香, 荒川 奈緒美, 原田 亜里沙, 菅野 荘太郎, 杉山 迪子, 児玉 ひとみ
    2014 年 23 巻 3 号 p. 376-381
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    乳腺管状癌(tubular carcinoma: TC)は全乳癌の1%程度までとされ,稀である。WHOのClassification of Tumours of the Breast (2012)では腫瘤のほとんどが管腔構造である“Pure Tubular Carcinoma"(PT)と他の構造が混在する“Mixed Type of Tubular Carcinoma”に分類される。検診マンモグラフィ(MMG)で発見されたPTの1例を経験した。70歳代前半,女性。視触診とMMGの検診にて,視触診で右C領域に不整形で弾性硬な2 cm程の腫瘤を触知し,MMGで右C領域に構築の乱れの疑い(カテゴリー3)とされた。乳房超音波(US)にて右10時方向に8 mm程の後方エコーの減弱を伴う不整形の低エコー腫瘤像を認め,周囲に血流表示も認めた。MRIやCTでは遠隔転移認めず。乳房内にもその他の病変を認めなかった。吸引細胞診は陰性であったが,針生検にて硬癌またはTCと診断された。乳房切除術およびセンチネルリンパ節(SN)生検(Bt+SLNB)を施行し,SN陰性であった。最終病理診断はPT (T1N1M0,Stage IIA)であった。術後,アロマターゼ阻害薬内服後2年を経過するが再発の兆候は認めない。本症例は,過去の報告と比較するとやや高齢(70歳代前半)で,TCのMMG所見としてよく報告されたスピキュラは判然としなかったが,PTの特徴として報告されているMMG上の腫瘤非形成や石灰化を伴わない点には合致していた。US所見はTCに特異的な所見ではなかったが,悪性を強く疑わせる所見であった。
  • 荒川 奈緒美, 大塚 博紀, 大野 香, 原田 亜里沙, 菅野 荘太郎, 萩原 美桜, 杉山 迪子, 児玉 ひとみ
    2014 年 23 巻 3 号 p. 382-386
    発行日: 2014/10/20
    公開日: 2016/10/20
    ジャーナル フリー
    乳腺アポクリン癌(apocrine carcinoma: AC)は全乳癌の0.5~2%程度とされ,稀である。検診乳房超音波検査(US)にて発見されたACの1例を経験した。50歳代後半,女性。視触診とUSの検診にて,視触診で左C領域に可動性あり弾性硬な約5 mmの腫瘤を触知,USで左1~2時方向に24×29×6 mmの比較的境界明瞭,扁平で分葉状の腫瘤を認め,その内部に豊富な血流と微細石灰化を疑う点状高エコーを認めた。マンモグラフィ(MMG)では,左U領域に構築の乱れを認めた。MRIやCTにて遠隔転移を認めず。針生検でACまたはアポクリン化生様変化を伴う浸潤性乳管癌が疑われた。左乳房扇状部分切除術およびセンチネルリンパ節(SN)生検を施行し,SNは陰性であった。最終病理診断はACであった。抗癌剤,残存乳房照射の後,無治療経過観察で2年経過するが,再発の兆候は認めない。MMGやUSでのACに特異的な所見については一定の見解を得ておらず,本症例も特徴的な所見とはいえなかったが,背景乳腺である乳腺症の所見が前面となっていることも考えられた。また,特に本症例のUS所見は腫瘤径縦横比が低く扁平で,境界が一部不明瞭なものの全体的には比較的明瞭な腫瘤のため,一見良性をも思わせる所見であったが,このような所見でもACは否定できないと考えられた。ACでのMMGやUS所見の多様性は,病理組織学的構造の多様性や背景乳腺によると考えられた。
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