日本乳癌検診学会誌
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24 巻, 3 号
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第24回学術総会/パネルディスカッション2
検診で発見された境界病変の診断と治療
  • 黒住 昌史, 松本 広志, 黒住 献, 久保 和之, 戸塚 勝理, 林 祐二
    2015 年 24 巻 3 号 p. 326-329
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    近年,乳癌検診の普及と針生検法の導入によって,癌との鑑別が難しい乳管内増殖性病変がしばしば発見されるようになった。このような状況の中でWHO の乳腺腫瘍分類が2003年と2012年に大きく改変され,乳管内増殖性病変の分類が整理された。乳管内増殖性病変は,明らかな良性変化であるusual ductal hyperplasia(UDH),良悪境界病変であるflat epithelial atypia(FEA),atypical ductal hyperplasia(ADH)と悪性病変であるductal carcinoma in situ(DCIS)に分類されている。これらの組織学的鑑別のポイントとしては,上皮細胞が形成する構造パターン,上皮細胞の形状,核の異型性,病変の広がりなどが挙げられている。また,ADH はDCIS と診断するには量的もしくは質的に足りない病変であり,量的にはDCIS と同等の完全な異型病変が2個未満もしくは2mm 以下の場合,質的にはDCIS に近い像を示すものの不完全な場合と定義されている。一方,DCIS は,核の異型性や壊死の有無によってlow,intermediate,high grade に分類することができる。最近ではgrade によってDCIS をlow risk とhigh risk に分けて,low risk に対してactive monitoring を行うという臨床試験が英国で始まっている。結論が出るまでにはかなりの年月を要するが,low risk のDCIS には手術治療を行わないという時代の来ることが期待されている。
  • 乳頭腫合併非浸潤性乳管癌50例の詳細なマッピングから見えてきたこと
    森谷 鈴子, 市原 周
    2015 年 24 巻 3 号 p. 330-334
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    末梢性乳頭腫は,乳癌検診の導入により発見される機会が増えてきた。乳頭腫は前癌病変・境界病変ではないが,癌を合併しうることが以前から知られている。針生検で乳頭腫と診断された場合の臨床的対応についてはさまざまな考え方があり,コンセンサスが得られていない。われわれは背景に乳頭腫を伴うDCIS の手術症例50例について,乳頭腫とDCIS の分布をマッピングし,画像所見との対応と組織学的特徴を検討し,Histopathology 誌に報告した。今回のパネルディスカッションでは,その内容を踏まえて古くて新しい「乳癌と乳頭腫との関係」について考察した。 乳頭腫を背景に伴うDCIS は区域性の分布を示し,画像所見でも少なくとも一つ以上のモダリティで区域性の異常を呈することが明らかとなった。DCIS と乳頭腫は大部分の症例で複雑に混在し,量的にDCIS 優位なものから乳頭腫優位なものまでさまざまであった。後者では針生検でDCIS がサンプルされない可能性があると考えられる。DCIS は乳頭腫を伴わない症例に比してnon―high grade であることが有意に多かった。また同一乳管内で乳頭腫とDCIS が同居する所見が76%の症例で認められた。このことは乳頭腫とDCIS が同一腺葉系に存在していることを意味している。両者が同一腺葉内で独立して発生した可能性と,乳頭腫内からDCIS が発生した可能性がある。病態発生がどちらであるかは不明であるが,少なくとも画像で区域性の異常を呈する病変の針生検で乳頭腫が検出された場合,癌のサンプリングエラーや後に癌が発生する可能性を念頭に入れ,切除生検または慎重なfollow up が必要である。
  • 山口 倫, 森田 道, 山口 美樹, 大塚 弘子, 朔 周子, 田中 眞紀, 矢野 博久
    2015 年 24 巻 3 号 p. 335-341
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    近年,画像技術の発展によって微細な病変が指摘されるようになった。それゆえ針生検の機会が増え,病理医にとって悩ましい病変が増加している。その多くは乳管内増殖性病変である。平坦型上皮異型(flat epithelial atypia: FEA)は,WHO 分類第3版(2003)から乳管内増殖性病変の一つとして取り上げられた。第4版(2012)ではcolumnar cell lesions の一亜型に分類され,現在世界的に認識されつつある。この間約10年における重要な改定点は,第3版でFEA の同義語としていたclinging carcinoma,monomorphous type を第4版で削除したことである。第4版の改訂では平坦状の低異型度な乳管内病変を癌とせず,過剰診断によるover―surgery を慎むべきであるという意向を踏まえている。 また遺伝子学的観点においては,low grade breast neoplasia の概念が生まれている。FEA は浸潤癌の管状癌や小葉癌と遺伝子異常が類似性を示すことからlow grade family に含まれ,形態的にも実際にこれらの合併が認められる。したがってFEA は前駆病変として捉えるという見方もあるが,low grade neoplasia 自体の浸潤癌へ進行する頻度や悪性度は低く,多くはluminal 癌である。加えて低異型度な平坦状,微小乳頭状乳管内病変は標準化が難しいことから,FEA の診断やその取扱いについては依然見解が分かれている。しかし,これまでの報告からFEA の取扱いには慎重なステップを踏むことが推奨される。病理側は軽度な平坦状異型上皮を積極的に癌と診断しないこと,臨床側はFEAあるいはDCIS,flat~low papillary などの診断を受け取った際に,画像所見との矛盾はないか,慎重に対応することが求められる。
  • 小石 彩, 岩瀬 拓士, 堀井 理絵, 秋山 太
    2015 年 24 巻 3 号 p. 342-345
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    乳癌検診で発見される病変のうち,悪性の可能性が否定できない病変に対しては穿刺による組織生検がしばしば行われる。しかし,その病理結果においても良悪性の鑑別が困難な症例をときに経験する。そのような場合に,臨床医がどのように対応すべきか明らかにすることを目的として,当院における検診後の鑑別困難症例を抽出し,病理学的所見で分類,その転帰を調べた。 2006年1年間に当院病理で針生検の診断を行った952件のうち,良悪性の鑑別が困難と診断された病変の数は30病変,そのうち検診で発見されたものは23病変であった。検体が少ない,あるいは変性しているため,確定診断が困難であったもの2例と良性病変内にDCIS が入り込んでいた1例を除外した20例(2.1%)が境界病変に相当した。その20例を病理学的に分類し,その転帰をカルテ上で調査した。境界病変のうちFEA(flat epithelial atypia)に相当する平坦型病変8例からは2例,ADH(atypical ductal hyperplasia)に相当する過形成型病変7例からは4例が後に癌と診断された。いずれもDCISか微小浸潤癌だった。境界病変からのちに癌の診断にいたる症例は確かに存在するが,慎重な経過観察をして,マンモグラフィや超音波検査で変化が出現したときに再生検すれば,早期癌の状態で診断できると思われた。
  • low grade DCIS との比較検討を通して
    武部 晃司, 安毛 直美, 兼近 典子, 松本 昌子, 綾野 はるな, 新井 貴士
    2015 年 24 巻 3 号 p. 346-351
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    当院での17年間のデータをもとにして,乳腺の境界病変と低悪性度のlow grade DCIS の診断・予後を比較検討し,以下の4つの論点から過剰診断の問題に言及した。当院対策型検診における発見率の検討では,当院の高精度の検診は必要以上の乳癌を検出していることが判明した。高精度検診における乳癌の発見そのものが過剰診断であることを考えると,さらに高率で存在しているであろう境界病変を数多く検出して精査を行うことに意義があるのか疑問である。外科生検後の予後調査の検討では,上皮増生病変,intraductal papilloma やlow grade DCIS の切除後に両側に発生する乳癌には,悪性度の高いタイプは非常に少ない。良性病変における同側乳房内に,発生乳癌と非照射のlow grade DCIS の局所再発との間で有意の差は認められなかった。Muco―cele like tumor(MLT)症例の検討では,境界病変の代表的な疾患であるMLT は稀な病変ではない。悪性例も約4分の1に認められるが,術前病理検索で高度な異型上皮が採取されなければ早急なexcisional biopsy をする必要はない。DCIS 研究会でのアンケート結果の検討では,日本の治療医はlow grade DCIS の病態に関して知識が不足しているのではないか,Van Nuys 分類などへの造詣も浅いのではないかと懸念した。日本の乳癌治療医も症例ごとにもう少し柔軟な考えでlow grade DCIS の治療を選択すべきあろう。境界病変とlow grade DCIS の診断・治療方針があまりにかけ離れている日本の臨床医の考え方に私は憂いを感じる。境界病変とlow grade DCIS を同じ分類として位置付けるDIN 分類は実際の両者の病態に即したものと考える。
  • 吉川 和明, 栗栖 泰郎, 高橋 節, 渡部 裕志, 永井 聡, 長崎 真琴
    2015 年 24 巻 3 号 p. 352-361
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    マンモグラフィ(MG)検診要精査例のうち,超音波検査(US)で非腫瘤性病変を呈し,精査後の経過観察中に乳癌が判明した症例をレビューして,経過観察における画像上の変化の留意点を検討した。2009年から2013年の5年間に非腫瘤性病変を半年以上経過観察したあと発見した乳癌は10例(両側1例を含む)で,検診MG での主所見は構築の乱れ7例,石灰化3例であった。MG が構築の乱れの場合,US は低エコー域ないし構築の乱れを呈し,基礎疾患に硬化性腺症を有すると考えた。生検では,硬化性腺症そのものか,良性乳管内増殖性病変,境界病変が認められた。経過観察により精査後の部位から癌を発見したものは4例(非浸潤癌2例(両側1例を含む),T1mi とT1c の浸潤性乳管癌各1例)で,残る3例は精査側とは反対側に出現した(非浸潤性乳管癌2例,T1mi1例)。乳癌発見時における画像上の変化はすべてUS で指摘しており,精査側では乳腺内低エコー域の拡大,構築の乱れの増悪,点状高エコーの出現,vascularity の増加,弾性の低下などが重複して認められた。反対側では,集簇性石灰化,不整乳管拡張など精査側と必ずしも一致しない所見がみられた。これらはすべてMRI のダイナミック画像か拡散強調画像で描出されており,US で悪性を疑う変化を疑うが不確実なときは,客観的に評価できるmodality として躊躇なく実施する価値があると思われた。MG では石灰化の出現を除き軽微な変化は指摘し得ないと考えた。検診MG が石灰化の場合は,経時的変化はいずれもMG で指摘可能で,石灰化の増加か濃度の増強,出現(前者は非浸潤性乳管癌,後者は6mm と2mm の浸潤性乳管癌)がみられた。US ではそれに対応した所見を認めた。検診MG の所見別に,経過観察におけるmodality と画像の変化を認識することで,より早期に癌の合併を発見できると考えられた。
  • 角田 博子, 森下 恵美子, 関根 憲, 矢形 寛, 南村 真紀, 山内 英子, 楊 陽, 阿部 江利子, 鈴木 高祐
    原稿種別: 原著
    2015 年 24 巻 3 号 p. 362-368
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    ステレオガイド下組織生検(ST―VAB)にて異型病変とされた症例を検討し,今後の的確な対応を探ることを目的とした。2003年から2011年に当院でST―VAB を施行した1,153名のうち,組織学的に異型病変と診断された70名(平均48.7歳)を対象に,チャートレビューを行い,受診契機,経過,マンモグラフィ所見,最終診断を検討した。受診契機は検診異常63名,他部位検索時偶発検出6名,分泌1名であった。すべて石灰化症例でカテゴリー3が50例,4が19例,5が1例であった。病理所見からの推奨,他部位治療のため同時切除などで判明した乳癌は17例(non―comedo DCIS 14, comedo DCIS2, T1a 1)で,浸潤癌1例は4mm 浸潤径のホルモン受容体陽性乳癌でリンパ節転移はなかった。切除で良性と判明した2症例を除き,経過観察中変化なく(観察期間中央値26ヵ月),非癌と見なしている症例は53例であった。マンモグラフィ検診が普及すると,長期にわたり経過観察せざるを得ない異型症例が今後も一定の割合で存在する。このような症例を経過観察した場合,超音波所見が陰性であれば,乳癌であったとしても低悪性度の非浸潤癌の可能性がきわめて高く,経過観察で対応できるものと考えられた。
  • 2015 年 24 巻 3 号 p. 369-373
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
原著
  • 篠原 範充
    2015 年 24 巻 3 号 p. 374-378
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    ディジタルマンモグラフィの画像評価方法は,ハードコピー出力にて実施してきた。近年,フィルムレスによるソフトコピー診断による運用を行う施設が増加し,ソフトコピー施設での評価方法の確立が急務となってきた。マンモグラフィソフトコピー診断は,画像の1画素をディスプレイの1画素に対応させたピクセル等倍表示と乳房全体がモニタの最大表示(以下,画面FIT)が必要となる。これら画面FIT 画像は,縮小関数により信号の消失が起こるが,医療従事者の関心はあまり高くない。そこでわれわれは,マンモグラフィソフトコピー診断のためのディジタル評価用ファントムを開発した。ディジタル評価用ファントムは,縦に信号の形状が異なる12種類と横に信号値が異なる8種類があり,1つの群はドット状の9つの信号で構成されている。本論文では,ディジタル評価用ファントムの概要と具体的な評価方法を提案する。視覚評価の目的は,読影ワークステーション(ビューア)の評価であり,モニタ単体の品質を評価するものではない。ここでは,ディジタル画像(物理量)を入力したときのレスポンス(出力)を評価する。ディジタル評価用ファントムは,縮小関数,モニタの解像度を含めた表示系の評価だけでなく,モニタの解像度,縮小関数による影響を確認するための教育目的での使用や劣化・故障などの精度管理目的にも有用である。
  • 吉岡 泰彦, 古川 順康, 相馬 孝, 川西 克幸
    2015 年 24 巻 3 号 p. 379-386
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    緒言;女性特有のがん検診の無料クーポン券(以下,クーポン券)配布により乳がん検診の受診率は上昇した。クーポン券を利用した新規受診者が既設の乳がん検診に定着すれば,さらに受診率が向上する。そこでわれわれはクーポン券を利用した新規受診者を追跡調査した。 対象・方法;吹田市の乳がん検診で,平成21年度のクーポン券を利用した新規受診者977人を追跡し,既設検診へ移行した割合を「累積定着率」として分析した。 結果;累積定着率は追跡2年目で17.9%,3年目で32.3%と3年目で増加した。クーポン券対象年齢と既設検診の対象年齢が整合する群/非整合の群に分けて比較すると,2年目は27.5%/13.6%と差がある(P <0.05)が,3年目は32.4%/32.3%と差がなくなった。 考察;3年目で差がなくなるのは,非整合群に推奨年数よりも長い3年の受診間隔の者が多いためと考えられた。全体でも既設検診へ移行した者の44.6%は受診間隔が推奨より長い3年であった。推奨どおりにクーポン券利用の新規受診者が既設検診へ定着するためには,クーポン券対象年齢の要件を緩和し,既設検診の対象年齢と整合させることが重要と考えた。また,クーポン券に付随する検診手帳は繰返し受診の重要性についての記載が約1行で不十分であることから,検診手帳の記載の改善が必要と考えた。さらに検診手帳を用いた啓蒙の徹底,新規受診者を対象とした対面教育,および受診勧奨葉書の送付などの対策が必要と考えられた。
症例報告
  • 小林 哲郎, 大西 純子, 花田 正人
    2015 年 24 巻 3 号 p. 387-390
    発行日: 2015年
    公開日: 2018/06/15
    ジャーナル フリー
    その多彩な乳腺症の組織像のため,診断に難渋した症例を紹介する。26歳女性,未婚。視触診・超音波の乳癌検診で,左乳房外上部に腫瘤の存在を指摘された。超音波では左C 領域に,境界明瞭粗なほぼ円形の腫瘤で,内部に点状高エコーを認めた。マンモグラムは,高濃度不均一の乳腺組織で,該当部に腫瘤影はなく,微小円形の石灰化の散在が見られた。超音波ガイド下に穿刺吸引細胞診を施行。多くの乳管上皮細胞量が採取され悪性疑いと診断され,診断確定のため組織生検を依頼された。針生検(core needle)を施行。しかし,結果はbenign breast tissue の診断であった。上記二者の診断結果に乖離が見られたため,超音波ガイド下にhook wire を挿入して,腫瘤の摘出を行った。病理結果は多彩な乳管上皮の増殖を示す乳腺症であった。
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