日本乳癌検診学会誌
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25 巻, 3 号
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トピックス
Dense Breast について考える
  • 阿部 裕之
    2016 年 25 巻 3 号 p. 199-204
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    Dense Breast の問題,すなわち,マンモグラフィ上,乳腺が広い範囲でhigh densityを示す場合,乳がんの検出率が著しく低下する,という問題は,Are You Dense という団体が問題提起するまでは,一般人の間ではあまり知られていない問題であった。しかしこの団体の活動により,州レベルでDense Breast 告知法が制定されるようになると,Dense Breast の問題は,広く一般に知れ渡るようになり,マンモグラフィのみで行われていた乳がんのスクリーニング検査にさらに他の検査を追加して,マンモグラフィの弱点を補完することが必要となった。追加の検査として用いられたのは超音波である。全乳房自動超音波装置の開発により,hand―held タイプの根本的問題であった,長い検査時間,術者の巧拙による画像の違い等が改善したが,マンモグラフィ検査に比べて2倍以上の疑陽性が生じる問題の解決策はまだ見えていない。一方,ハイリスク群にしか使われていない,MRI による乳がんのスクリーニングを,Dense Breast を含む中等度リスク群にも使おうという動きもあり,Dense Breast 女性に対する“もう一つのスクリーニング検査”は超音波に決定したわけではない。今後,より詳細な乳がん発症のリスクが個人レベルで判定できるようになると,スクリーニング検査は,従来のような画一的な検査ではなく,リスクレベルに応じた検査法,検査間隔に変化していくものと思われ,画像によるスクリーニングも,今行われているものとは大きく異なるものに変化する可能性がある。
  • 植松 孝悦
    2016 年 25 巻 3 号 p. 205-210
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    Dense Breast の和訳用語は高濃度乳房が適切である。そして,高濃度乳房の定義は乳房構成分類の“高濃度・不均一高濃度乳房”とすべきである。ただし,“Dense Breast”の和訳用語である“高濃度乳房(広義)”と乳房構成分類の“高濃度(狭義)”が同じ用語になってしまい混乱が生じるので,乳房構成分類の“高濃度(狭義)”は,“全体高濃度“,“極めて高濃度“や“均一高濃度”として“extremely dense”に相当する新用語に改変することが望ましい。高濃度乳房の判定は視覚による定性的判定方法を使用して,病変が正常乳腺に隠されてしまう危険性の程度を考慮して判定する。高濃度乳房の理解とその均てん化には,NPO 法人マンモグラフィ検診精度管理中央委員会施設画像評価委員会の「乳房の構成の分類に関するお知らせ」を熟読するのが良い。日本で高濃度乳房の通知を検討する場合,まず乳がん検診の利益と不利益を受診者に説明して十分な理解を得ているかを確認することから始めるべきである。そして,高濃度乳房を通知する場合はその後の対応策と通知内容が十分に吟味され,受診者や医療現場に不安,疑問や混乱が生じないような十分な配慮のもとで行われなければならない。日本乳癌検診学会は,世間やマスコミが高い関心をもつ高濃度乳房の問題を通じて,正しい乳がん検診の総合理解を国民に浸透させることが責務である。
第25回学術総会/シンポジウム2
過剰診断について考える
  • 2016 年 25 巻 3 号 p. 211
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
  • 濱島 ちさと
    2016 年 25 巻 3 号 p. 212-218
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    電子付録
    「過剰診断」はマンモグラフィ検診の評価に絡み,乳がん検診では重要な検討課題となっているが,すべてのがん検診に生じる不利益である。「過剰診断」とは,がん検診を行うことで,本来は生命予後には影響しないがんを発見することを意味する。がん検診を受診することがなければ,こうしたがんは発見されない。過剰診断により,不必要な精密検査や治療の増加を招く可能性がある。無症状者を対象とするがん検診では,「過剰診断」の可能性が高く不利益が大きいが,「過剰診断」はすべての医療サービスが共通に抱える問題である。「過剰診断」は検診方法ばかりではなく,対象集団の人種やリスク要因も影響する。また,検査の感度,検診の開始・終了年齢,検診間隔も影響要因となる。 過剰診断の推計にはいくつかの方法があるが,現段階では標準化された方法は定まっていない。地域相関研究,時系列研究,コホート研究などの観察研究や無作為化比較対照試験のデータを用いることができる。この他,モデル評価が行われている。 頻回に検診を行うことで過剰診断が増加し,過剰治療を誘発する。がん検診による過剰診断を可能な限り減少させるためには,検診回数を最小限とすることが望ましい。
  • 飯沼 武
    2016 年 25 巻 3 号 p. 219-223
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    電子付録
    マンモグラフィを用いる乳癌検診においては,過剰診断(overdiagnosis: OD)の存在が不可避である。まず,OD がどの程度,検診発見乳癌中に含まれるのかを知ることが重要である。 本研究では,もしOD が早期乳癌にある割合で存在すると仮定した場合に,その割合によって乳癌死亡減少を示す相対リスク(RR)がどのように変化するかを定量的に明らかにすることを試みた。日本のデータを利用して計算すると,OD が0%の場合,RR は0.754であるのに対し,20%ではRRは0.807と低下し,61%では1.0と有効性がなくなることが示された。今後,日本の乳癌検診において,どの程度のOD が含まれるかを調べることが必要である。
  • 角田 博子
    2016 年 25 巻 3 号 p. 224-232
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    電子付録
    乳がん検診の利益はいうまでもなく乳癌による死亡の減少であるが,その一方で偽陽性,偽陰性,過剰診断などの不利益があり,利益と不利益のバランス(ネットベネフィット)の考え方が広まってきた。不利益のなかでも大きな問題と考えられる過剰診断について,画像診断の立場から考えてみると,マンモグラフィでは低悪性度のDCIS の所見として,淡く不明瞭な石灰化の集簇が挙げられる。検診で検出されたこれらの症例の転帰をみると,偽陽性が多く,検出された癌も次回以降の検診で検出されても生命予後に関わらない乳癌と考えられる。また超音波は特に高濃度乳房において浸潤癌を効率よく検出できる手段ではあるが,DCIS と浸潤癌の検出割合はマンモグラフィと変わらない。以上のことを考えると,検診を行う限り過剰診断はかならず生まれるが,要精査基準をどのように設定するかによって,その割合を減らすことは可能ではないかと考えられる。すでに超音波検診では,第2版では要精査であった多発小嚢胞像は改訂第3版では精査不要に改訂されている。過剰診断は検診を行う以上避けて通れない問題であり,今後の真摯な討論が不可欠であると考えられる。
  • 武部 晃司, 新井 貴士, 佐藤 明
    2016 年 25 巻 3 号 p. 233-238
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    電子付録
    当院における2005年から2015年までの11年間に行った乳癌検診成績をもとにして,乳癌検診の過剰診断について論じる。私は乳癌検診において1次検診での検出から,精査,手術,術後補助治療までを担当する乳腺外科臨床医である。1次検診の場だけでの過剰な検出の問題ではなく,精査から診断,治療まで含めた過剰医療について論じてみたい。2005年から当院の対策型検診はマンモグラフィ・超音波同時併用検診方式(以後MMG/US 検診)になった。2015年までの11年間で,18,426名に対し計40023回の検診を行った。そこで発見された無自覚の乳癌249例を基にして考察する。当院検診成績に対比したのは2013年の香川県乳癌登録数である。なお香川県は2001年から県下を100%網羅する乳癌登録を行っている。当院の検診受診者集団が偏りのない集団であることを前提として,当院の検診を県下すべての地域で行ったと仮定すると,現状の乳癌登録数の約3倍の乳癌が検診で発見されることになり,明らかな過剰診断ということが判明した。その乖離の主な原因は,DCIS と10mm 以下の小型のホルモン感受性陽性,HER2陰性の浸潤癌であった。それにより1次検診での要精査基準,またDCIS の病理診断基準などの見直しも提案したい。また当院で行っている精査,治療データを基にして検診発見乳癌に対する過剰医療についても言及する。
  • 検診の過剰診断の可能性について
    笠原 善郎, 大田 浩司, 田中 文恵, 前田 浩幸
    2016 年 25 巻 3 号 p. 239-244
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    電子付録
    福井県がん登録を用い,1985~87年の導入前期,1988~2003年の触診期,2004~2010年のマンモグラフィ(MG)期に分け,発見契機別(検診およびドック発見,臨床発見)に経時変化を観察した。さらに同時期のがん登録症例から対策型検診発見例のみを抽出し,進行度別に非浸潤癌:DCIS群,リンパ節転移のない浸潤癌:IDC n-群,リンパ節転移以上の進行癌:IDC n+群に分け,発見乳癌数を検討した。年度毎の受診者増加を勘案し10,000人受診に換算した乳癌数を用い,MG 発見乳癌数と触診期の傾きのままの増加で推移したと仮定した場合のMG 期の乳癌数との差(excess cancer: EC)を求めた。 対策型検診発見例は562例で,内訳はDCIS 群97例,IDC n-群338例,n+群127例であった。受診率で補正したEC は,MMG 期の7年間で,DCIS 群で57.4例,IDC n―群で95.8例,n+群で22.2例であり,IDC n-群で最も高かった。DCIS 群のうちEC 算定数を過剰診断と仮定すれば,MMG 期乳癌228例中57.4例,25.1%が過剰診断と考えられた。
  • 2016 年 25 巻 3 号 p. 245-247
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    電子付録
    本シンポジウムでの『過剰診断』の定義は「生命予後に関わらない癌を検出して治療すること」であるが,病理診断領域での『過剰診断overdignosis』とは「良性病変を悪性と診断すること」であり,誤診を意味する。用法の違いにより混乱を生ずるのではと危惧する。『過剰診断』に相当する乳癌は? ですぐに思い浮かぶのは平坦型・低乳頭型の低核異型で,ER(+)PgR(+)HER2(0)のDCIS である。間質に浸潤しても管状癌様の低悪性度の浸潤癌となり,なかなか生命予後に影響を及ぼさないものと推察される。ここで考慮が必要なのは,宿主の年齢・状態,針生検での診断である。高核異型トリプルネガティブ面疱型DCIS でも条件によっては『過剰診断』乳癌となり得る。針生検標本の組織像が病変全体像(間質浸潤の有無,病変の広がり,組織像の多様性)をどれくらい反映しているかが問題である。『過剰診断』防止法は,1)検診を行わないグループの設定,2)検出基準の引き上げ,3)生検適応基準の引き上げ,4)癌の診断基準の引き上げ,5)癌の治療適応基準の引き上げ,であろう。4)が病理学的因子であるが,前立腺癌のように浸潤癌のみを癌と診断することの是非についても考察したい。
原著
  • 鯨岡 結賀, 小野 恵美子, 大貫 幸二, 東野 英利子, 植松 孝悦, 阿部 聡子, 大岩 幹直, 岡南 裕子, 加藤 直人, 野間 翠, ...
    2016 年 25 巻 3 号 p. 248-254
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    マンモグラフィ(MG)と超音波検査(US)との併用検診において,その不利益である要精検率の上昇を抑える方法として総合判定が考えられ,総合判定基準が作成された。総合判定においては,MG での病変がUS でどの辺りにあるのか,およその部位を推定することが必要となる。MG から病変の部位を推定しUS と対応させるには,体表での基準として乳房の内外を分けるY 軸とMLO の撮影角度に合わせたO(Oblique)軸を想定するとよい。分離併用検診が行われた50症例を対象として,Y 軸とO 軸を用いた方法で部位推定を行い,この方法の簡便性,正確性を評価した。50症例のうちMG とUS の病変が1対1で確定できたものは31例,そのうちの26例(84%)では,部位の推定から対応する病変を容易に確定できた。推定部位とUS 画像上の病変の部位に乖離が見られた5例ではMLO撮影における乳房の引き上げ方やCC 撮影における乳頭の向きのずれなどが誤差を生じた要因と考えられた。Y 軸とO 軸を用いた部位の推定方法は,MG 撮影法の基本を知り乳房の大きさやポジショニングによる誤差に留意すること,病変が部位推定基準線から乳房辺縁までのどの辺りに存在するのか,その比率を用いることで分離併用検診の総合判定においても簡便な手法として活用できる。
症例報告
  • 小林 哲郎, 大西 純子, 田川 由樹, 花田 正人
    2016 年 25 巻 3 号 p. 255-259
    発行日: 2016年
    公開日: 2018/06/27
    ジャーナル フリー
    検診マンモグラフィの普及により,微小石灰化の発見が多くなった。マンモグラフィと超音波検査が診断のモダリティとして,それぞれの特徴を対照的に示した乳癌症例を経験した。 43歳,女性。乳癌検診のマンモグラフィで,右乳房C 領域に不均一多形成な集簇する微小石灰化を指摘された。臨床症状はない。超音波検査で同領域に8mm の腫瘤を確認,針生検を施行した。診断はinvasive ductal carcinoma であった。根治手術として,乳房温存およびセンチネルリンパ節生検を行った。センチネルリンパ節生検は陰性であった。術中にspecimen radiography を施行したところ,微小石灰化の集簇は,切除乳腺組織の中心部,超音波で同定した腫瘤の部位ではなく,その下方,尾側に位置していた。針生検および超音波で確認した切除乳腺組織の中心部の腫瘤(7mm 径)はinvasive ductalcarcinoma,乳頭腺管癌と診断された。一方,切除乳腺組織下端の微小石灰化集簇はFEA(flat epithelial atypia)の管腔内に認められた。また管状癌,atypical lobular hyperplasia の病変も見られた。術後残存乳腺に50Gy の照射を行い,tamoxifen の服用を行っている。乳癌検診における診断モダリティの検討,また多彩なlow grade の乳癌病理についても考察を行った。
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