日本乳癌検診学会誌
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28 巻, 1 号
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第28回学術総会/シンポジウム1
  • 笠原 善郎
    2019 年 28 巻 1 号 p. 1-4
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    対策型検診における乳房の構成に関して,2017年の段階で全国の市町村の13.5%が通知をすでに開始していたが,その半数の市町村は受診者のとるべき対応について指導しておらず,指導している市町村でもその83%がまだ科学的根拠のない乳房超音波検査を推奨していた。このような背景のなか,2017年3月,乳がん検診関連3団体は,通知後の対象者の対応(検査法等)が明示できる体制が整ったうえで実施されることが望ましく,全国の市町村で「一律に乳房の構成を通知するのは時期尚早」との検診関係者向け提言を行った。さらに,厚生労働科学特別研究事業「乳がん検診における乳房の構成(高濃度乳房を含む)の適切な情報提供に資する研究」班で「高濃度乳房についての質問・回答集(QA 集)」を作成し2018年5月24日,健発0524第1号として都道府県を通じて各市町村に配布した。 高濃度乳房に関する課題は,高濃度乳房に関する受診者への通知,と高濃度乳房の受診者への追加の検査としての乳房超音波検査の位置づけの2点に集約される。に関して,高濃度乳房は,「マンモグラフィの偽陰性」としての啓蒙・周知が必要であり,QA 集の活用などで受診者のとるべき対応を過不足なく示すことにより,精神的負担や不安の軽減および医療資源の効率的利用が期待される。に関しては,対策型検診としての乳房超音波検査の位置付けを考慮すると,利益と不利益の観点から利益が明確でない段階での対策型への導入は現時点では慎重であるべきである。
  • 鈴木 昭彦, 石田 孝宣, 原田 成美, 塩野(成川) 洋子, 鄭 迎芳, 大内 憲明
    2019 年 28 巻 1 号 p. 5-8
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    高濃度乳房ではマンモグラフィによる乳癌検診の精度が低下することが知られており,社会問題としてクローズアップされている。その対応として追加検査の必要性などが取り沙汰されているが,その候補となる超音波検査に関しても,検診で思考した場合の死亡率減少効果に関するエビデンスは存在しない。J―START は高濃度乳房に特化した研究ではないが,40歳代の比較的高濃度乳房が多い世代を対象としており,高濃度乳房と乳癌検診,超音波検査に関する多くの知見が得られている。 今回宮城県対がん協会でJ―START に参加した受診者を乳房構成別に分類し,検診の精度,超音波検査の有用性に関して検討を行った。マンモグラフィによる乳癌の発見感度は,高濃度乳房と非高濃度乳房で有意差はなく,デジタルマンモグラフィのソフトコピー診断の普及などで高濃度乳房内での乳癌検出率が向上している可能性が示唆された。超音波検査の上乗せ効果に関しては,高濃度乳房の群で効果が高い傾向がみられるが,非高濃度乳房でも一定の超音波単独発見症例がみられ,非高濃度乳房に対する超音波の上乗せ効果が期待できることが示された。近代的な機材,教育・精度管理のもとで行われる乳癌検診では,40歳代女性の高濃度乳房と非高濃度乳房とを区別した検診を行う意義は小さいと考えられる。
  • ――埼玉乳がん検診検討会報告
    矢形 寛, 甲斐 敏弘, 二宮 淳, 齊藤 毅, 洪 淳一, 中野 聡子, 歌田 貴仁, 廣瀬 哲也, 足立 雅樹, 大崎 昭彦
    2019 年 28 巻 1 号 p. 9-11
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    がん死亡率減少を目指し,複数のがん種において対策型検診のあり方が検討され,厚生労働省の通達のもとがん検診が行われているが,その方法は各自治体に任されており,全国でばらつきが大きい。埼玉県の各自治体も同様であり,乳がん検診においてはしばしば乳腺専門医の関わりが希薄となっていて,専門的立場からの適切な問題解決に向けた動きがみられていない。そこで埼玉県内の乳腺専門医を中心として,埼玉の乳がん検診に関わる様々な問題点を話し合い,情報を共有し,よりよい方向性を考えることを目的として,埼玉乳がん検診検討会を立ち上げ,ホームページを作成し,活動している。一部乳腺専門医の関わりの薄い自治体で,高濃度乳房の告知がすでに始まり,精査施設に影響を与えているため,早急に適切な告知とその後の体制を整えていくことが重要と考えている。高濃度乳房の告知は妥当と考えられるものの,それに伴う問題を解決していかなければならない。そこで,高濃度乳房対策を考えるうえでの共通認識を整理し,乳房構成判定の大きなばらつきを最小限に抑えるための基準づくりへの検討を開始しており,最終的には乳房構成判定アトラスを作成予定である。また,2019年2月には技師向けの超音波講習会も開催している。乳がん検診の課題は山積しており,今後も活動を継続していく。
  • 篠原 範充
    2019 年 28 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    乳腺濃度が高い場合,乳がんの罹患率が高いだけでなく,その受診者のマンモグラフィにおける乳がんの検出感度が低下することが示されている。乳腺濃度は,乳腺画像診断を専門とする医師が,マンモグラフィガイドラインを基に判定した場合でも一致率が低い症例がある。さらに2014年に発表されたACR BI―RADS では,乳腺の割合を示す規定値が記載されておらず,乳腺濃度を主観的に判断することは困難な症例があることは否定できない。 この問題点を解決するためにソフトウエアなどを用いて客観的に乳腺濃度を提示する手法が提案されている。Philips 社製のMicroDose は,フォトンのエネルギーを弁別し,物質の推定が可能となる。そのため,これらSpectral imaging 情報により,乳腺濃度が推定できる可能性がある。一方,Hologic社製乳腺密度評価ソフトウエアQuantra,Volpara Solutions 社製Volpara Enterprise,Siemens 社製Insight BD,富士フィルムメディカル社製AMULET Innovality 乳腺量算出ソフトなど,画像処理だけでなく,乳房の厚みを考慮して画素ごとに乳腺割合を算出して統合することで体積割合を算出するソフトが主流となっている。これらソフトにより一定の客観性を示すことは有用であり,受診者自身が乳腺濃度を認識することで,マンモグラフィで病変が覆い隠されてしまう危険性を理解することができる。また,施設側の説明も容易になり,受診者にも追加検査の理解が深まると考える。 これら客観的な提示は有効であるが,医師の判定などGolden standard との一致率(何をGolden standard にするのか?)やどの程度の性能を必要とするかなど議論すべき点は多い。
  • ―CBT 別,自覚症状別の10年生存率からみた年代別の適切な啓発について―
    浅野 聡子, 大貫 幸二, 宇佐美 伸, 梅邑 明子, 渡辺 道雄
    2019 年 28 巻 1 号 p. 17-20
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    高濃度乳房に対して超音波検査の上乗せが議論されているが,「見かけ高濃度」の乳房に代表されるように,日本人の高濃度乳房は乳房が小さいため早期にしこりを自覚できる可能性がある。マンモグラフィの圧迫乳房厚(compressed breast thickness : CBT)と予後について検討し,適切な乳癌検診に関する考察を加えた。 2006年~2008年に当施設で診断された初発・片側乳癌症例のうち,マンモグラフィが撮影されており,発見契機が判明している334例を対象とした。しこりの自覚がない116例の早期乳癌比率は76%,乳癌特異的10生率(以下,10生率)は97%だったのに対して,しこりを自覚していた218例の早期乳癌比率は47%,10生率は89%と予後不良であった(p<0.05)。しこりを自覚していた群に限定しCBT 別に早期乳癌比率をみると,CBT 3cm 以上で42%,CBT 3cm 未満で58%と,CBT が大きい乳房の方で早期乳癌比率が低かった(p=0.02)が,10生率はCBT 3cm 以上で89%,CBT 3cm 未満で90%と差がなかった。年代別にみると39歳以下の10生率は65%と予後不良で,70歳以上は他病死が多く10生率は96%であった。検診の主な対象となる40~69歳152例の10生率はCBT 3cm 未満の95%よりもCBT3cm 以上群91%の方で予後が悪かったが有意差は認めなかった(p=0.37)。 CBT が大きい乳房はしこりを自覚した段階では進行乳癌となる可能性が高いと考えられ,対策型検診ではCBT 3cm 以上の高濃度乳房にUS の上乗せを検討することが妥当かもしれない。CBT はMG を撮影すれば得られる値であるため,今後も様々な検討ができる可能性がある。
第28回学術総会/教育セッション4
  • 河本 敦夫
    2019 年 28 巻 1 号 p. 21-25
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    超音波画像は,乳房の構成組織(皮膚,脂肪,筋膜,乳腺,筋肉など)が正しく明瞭に描出されていることが重要である。画像に影響を与えるパラメータとして,視野深度,ゲイン,ダイナミックレンジ,フォーカス,各種画像処理などがある。一方で,診断装置本体や探触子には装置固有の特性があり調整不能な場合もある。適正な画像を得るためには,使用する装置のビームプロファイル,デッドゾーン,音速補正,ガンマカーブをあらかじめ検査者は知っておく必要がある。医用画像における「適正な画質」とは,画像を判定する医師の診断能を最大化することを指す。一枚一枚撮影者が判定医に何をアピールしているのかが明瞭にわかる画像を撮像することが重要である。
第28回学術総会/全国集計報告
原著
  • ――乳癌手術症例から40歳台の乳癌の特徴を解析し死亡率減少の可能性を探る
    大岩 幹直, 遠藤 登喜子, 佐藤 康幸, 森田 孝子, 林 孝子, 須田 波子, 加藤 彩, 宇佐見 寿志, 安藤 嘉朗, 市原 周, 西 ...
    2019 年 28 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    40歳台の乳癌の生物学的特徴を50歳以上と対比することで明らかにし,さらに検診発見例と有症状例とを比較・分析することで,40歳台のマンモグラフィ(MG)検診に超音波(US)検査を併用することが死亡率の減少につながるかを検討した。 2012年4月から2016年3月に当センターで手術を行い,乳癌と診断された695人の女性から,手術時年齢が40歳以上で発見契機が検診(MG,US 検査,触診)もしくは有症状であり,治療前にMG が撮影されていた,40歳台の浸潤癌145乳房(例)と50歳以上の浸潤癌340例を対象とした。 40歳台では,50歳以上と比べて低悪性度がやや多く(26.2vs.19.7%,P=0.112),HER2・triple negative は有意に少なく([2.8 vs. 9.1%,P=0.014]・[8.3 vs. 16.5%,P=0.018]),luminal B が有意に多くみられた(63.9vs.46.3%,P<0.001)。また,Ki67値は,50歳以上では高濃度乳房でやや高値であるのに対して,40歳台では非高濃度乳房で有意に高値であった(P=0.034)。さらに,40歳台の非高濃度乳房では,luminal B の割合が特に高く(高59 vs. 非77%,P=0.047),50歳以上の非高濃度と比べてKi67値が有意に高かった(P=0.044)。 40歳台のluminal B 乳癌では,US 発見例と有症状例との増殖能の高さに有意な差はみられず,MG 発見例よりも有意に高いことから(P=0.047),40歳台のMG 検診にUS 検査を併用することにより生命予後の改善に寄与する増殖能の高いluminal B を早期発見できる可能性が増えると考えられた。
  • 山田 和幸, 吉川 和明, 村田 陽子, 大貫 幸二
    2019 年 28 巻 1 号 p. 45-51
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    マンモグラフィ(MMG)の撮影技術向上を図ることを目的に,ポジショニングのみに特化した「MMG ポジショニングコンテスト」を企画し,その審査に必要な画像の提供方法を検討した。 コンテストに提出されたMMG にはソフトコピー(SC)とハードコピー(HC)が混在していた。SC―MMG では読影ワークステーションで画面フィット表示させスクリーンキャプチャすることにより,またHC―MMG では高輝度シャウカステンに掲示しデジタルカメラで撮影することにより,それぞれを汎用PC 用画像データに加工してひとつの審査用画像ファイルを作成した。 審査はMMG 全般について指導的立場の医師3名とし,画像ファイルは暗号化してメールに添付し提供した。審査員は個々の空き時間を使って評価を行うことが可能であった。評価項目は臨床画像評価のポジショニング項目を参照した「ポジショニング36点」と応募条件を評価する「乳房の構成(不均一高濃度)4点」の合計40点満点とした。審査結果について,審査員3名の採点中央値に若干差はみられたものの,それぞれの審査結果には相関がみられた。 またこれらの画像をプリントアウトしたものを使用した医師または技師39名の投票による評価も審査員評価と同じ傾向となった。 本方法はより簡便で汎用性の高いポジショニングの評価方法として価値があるものと考えられた。
症例報告
  • 笠川 隆玄, 藤森 俊彦, 石井 奈津美, 尾崎 大介, 石川 昌文, 宇田川 郁夫
    2019 年 28 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    線維腺腫は頻繁に遭遇する良性疾患であるが,その内部に癌が発生することは稀とされている。今回我々は線維腺腫内に主座をおく超音波検診発見非浸潤性乳管癌の一例を経験した。症例は61歳女性。マンモグラフィおよび超音波で10mm の境界部ほぼ明瞭平滑な腫瘤とその乳頭側に石灰化を伴う腫瘤非形成性病変を認めた。腫瘤の針生検では上皮・間質両者が増殖する混合腫瘍で上皮成分は非浸潤性乳管癌の像を呈し,石灰化を伴う低エコー域の穿刺吸引細胞診では悪性の診断を得た。Bq+SNB を行うと,上皮の大半が非浸潤性乳管癌に置換された線維腺腫とその乳頭側に乳管内癌の所見が確認された。腫瘤の詳細な評価と腫瘤外に随伴する所見に着目したことが,稀な線維腺腫内に主座をおく非浸潤性乳管癌の診断に有用であったと考える。
  • 林 沙貴, 野崎 善成, 瀧 鈴佳
    2019 年 28 巻 1 号 p. 59-63
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/04/28
    ジャーナル フリー
    症例は43歳,女性。検診マンモグラフィで乳頭部石灰化を指摘され,精査目的に当科を受診した。視触診では,右乳頭部に7mm 大の弾性硬,境界明瞭な腫瘤を触知したが,乳頭部の発赤やびらんは認めなかった。マンモグラフィでは,右乳頭部に多形性集簇性石灰化を認め,超音波検査では右乳頭内に点状高エコーの集簇を認めた。乳房MRI では,右乳頭部に5mm 程度の淡く造影される領域を認めた。乳頭の一部より切除生検を行い,非浸潤性乳管癌と診断し,乳頭部を含む乳房部分切除術およびセンチネルリンパ節生検を施行した。センチネルリンパ節は転移陰性であった。腫瘍は乳頭内に限局しており,切除断端は陰性であった。術後温存乳房に50Gy の放射線照射を行った。乳頭に限局する乳癌は稀であり,かつ検診で発見しえた例の報告はこれまでにないため,若干の文献的考察を加え報告する。
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