日本乳癌検診学会誌
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29 巻, 2 号
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第29回学術総会/ワークショップ2
  • ――MMG/US同時併用検診14年間のデータから
    安毛 直美, 兼近 典子, 矢野 幸子, 綾野 はるな, 片岡 裕代, 新井 貴士, 武部 晃司
    2020 年 29 巻 2 号 p. 75-78
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    当院は一次検診から術後治療も行っている乳腺専門クリニックである。検診も診療も基本マンモグラフィ(MG)を読影して超音波(US)スクリーニングを施行している。乳腺専門医,診療放射線技師,臨床検査技師が US 検査に携わっている。 対策型検診のデータから,施設内での US 所見の統一した基準を示し当院の教育システムを紹介する。 2005年から2018年まで14年間の受診者55,043人の成績は,1.要精査率4.7%,2.癌発見率0.81%,3.陽性反応適中度17.7%と良好である。2005年と2018年を比較するとそれぞれ,1.(8.2%,2.6%),2.(0.79%,0.69%),3.(9.5%,26.5%)であった。精度向上の理由は画像診断機器の発達もあるが,US スクリ-ニングにおける医師・技師共通の要精査基準を統一化したことが大きい。US でみつかる所見を細かく評価するのではなく要精査基準は年齢,所見形状,所見分布の3つをスコア化し,石灰化,構築の乱れを加点している。確実に拾い上げる,落とすべき所見は落とすということに重点をおいている。 初学者の教育は1,000例のダブルチェック,200例の乳癌症例・50例の石灰化症例の US 施行を行っている。US 時に MG の有所見を見落とさないため,US 施行者は全員精度管理中央機構の MG 研修を受講している。 信頼される US とは MG 所見を加味した US スクリーニングであり,スクリーニング施行者,精査施行者の共通の認識,MG の読影能力,施設・個人の精度管理(施行者別,年度ごとの陽性反応適中度の検証)が重要である。
  • ――超音波検査指導技師の立場から
    三塚 幸夫
    2020 年 29 巻 2 号 p. 79-82
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    超音波検査は手軽な検査であるが,“技術”と“知識”を求められ,その教育と習得は容易ではない。技術の習得には実際に病変を経験する必要があり,精査施設での実地トレーニングが望まれる。知識の習得には施設内に指導者がいると理想的だが,ある程度は自己学習も可能で,指導する際には前向きに取り組んでもらえるような動機付けが大切である。 当院における超音波検査教育プログラムは大きく3つのステップに分かれている。STEP 1 では検査の流れと患者対応,装置・プローブの取り扱いと操作,描出・記録画像の把握を目的として,見学と事前トレーニングを行う。STEP 2 では実際に患者を検査してトレーニングを実施する。独り立ちした後の STEP 3 では必要に応じて適宜ダブルチェック,指導を行うため,気軽に相談できる環境づくりがとても大切である。院外研修生に対しても,当院での研修終了後も質問や相談にのれるように心がけている。 時代にあわせて教育のやり方は変化してきているが,その本質である興味,目標,道程の三要素に変わりはない。興味をもたせ,その興味や目的にあった目標を設定し,それに応じた道程を示すことが重要である。今後は目標や道程を“見える化”することで,より効率的な教育プログラムを構築していく必要がある。また欠くことのできない実地トレーニングが適切に行えるよう社会への啓発活動も重要である。
  • ――大学病院における教育環境の構築
    高橋 友紀, 宮本 淑子, 石引 いずみ, 北浦 麻子, 橋本 真友子, 吉田 勝衛, 石井 克也, 河本 敦夫, 石川 孝
    2020 年 29 巻 2 号 p. 83-87
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    乳房超音波検査は,精査機関において手術や治療方針決定にかかわる大事な検査の一つである。その精度を保ち,必要な情報を過不足なく提供するために,どのような教育体制が必要であろうか。当施設において,新病院への移転を機に教育環境について考え,実際に工夫した点を報告する。まず検者間の精度を保つため,検診カテゴリーを再確認した。カテゴリー判定に悩んだ症例を共有することで,検者間のバラツキを減らし,一貫性のある教育ができるよう努めた。次に乳腺科の術前カンファレンスに参加,そこでディスカッションされた内容を全員で共有した。実際に臨床医が必要としている情報や,超音波検査がいかに手術や治療にかかわっているかを知ることで,モチベーションの向上に繋がると考えた。さらに術後の病理結果をレポーティングシステム内に保存,画像参照時に病理結果と対比できる環境を構築した。乳房超音波検査は女性技師が担当することがほとんどであり,時間的制約も多い。限られた時間のなかで,検者のモチベーションを上げ,効率的に学べる環境を構築することが重要と考える。
  • ──超音波専門医の立場から
    白岩 美咲
    2020 年 29 巻 2 号 p. 89-92
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    超音波検査は検査者への依存性の高い検査である。検査者が「目的を理解して検査を行い,適切に判断し,的確に画像を残しているか」は検査が信頼できるか否かの肝となる。近年,検診以外でも,乳房超音波検査が臨床検査技師や診療放射線技師に委ねられることが増加しているが,診療の場では,検査の目的は多岐にわたり,検査者に求められる事項も多い。信頼される超音波検査では,病変を見落とすことなく検査が行われることは大前提であり,加えて,乳房の解剖や他の画像検査,病変の評価や治療法の選択に必要とされる画像情報等,乳房の病変に関する幅広い知識を基に行われる検査が必要とされている。 信頼される超音波検査の実現には,「何を目的とする検査で,どのように検査を行うべきか」を,医師と検査者である技師が共有し,疑問点を含め検査結果を互いがキャッチボールする,そして他の画像検査や病理結果を加えて症例検討を行い,フィードバックしていく教育環境が必須である。しかし現状では,検査に必要な技術・知識の習得には時間がかかる一方,医師・技師を取り巻く時間的制約は年々厳しくなっている。画像や装置の精度管理を含めた高度な指導を担うであろう,乳腺を専門とする超音波専門医の数も少ない。課題も多く厳しい道のりではあるが,着実に前進はしており,医師と技師が協力して,「One Team」となって,信頼される超音波検査の実現を引き続き目指していくことが重要であると思われる。
  • 田中 文恵, 吉田 誠, 平木 美和, 田賀 陽子, 斎藤 望, 柑本 明美, 吉岡 千絵, 二口 希, 村中 舞
    2020 年 29 巻 2 号 p. 93-95
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    急性期地域がん診療連携拠点病院である当院では,乳腺外科は外科から外来部門を独立して診療を行い,診療放射線女性技師とともに検査診療を行うようになった。今回,当院での検査の現状と技師教育について報告した。診療放射線技師のうち7名の女性技師が乳房超音波を担当,外来診療超音波検査は JABTS 主催の乳房超音波講習会 A 判定技師により実施,外来担当医が画像と所見を確認し追認保存している。また,人間ドック部門では同講習会 A,B 判定技師により実施,乳腺専門医2名により確認・追認保存している。 技師に対する教育として,2週間に1回カンファランスを実施し,有所見症例について画像を供覧しつつ指導をしている。指導している画像保存法は,所見があると思えば血流ドプラやエラストグラフィを追加し確認,またカテゴリー3以上の所見については動画も保存し,所見を記載する。医師は技師の所見と突き合わせ適宜追記を行い,最終判定を実施保存している。 カンファランス時には,(1)静止画の評価,(2)血流ドプラやエラストフィ画像の評価,(3)生検や手術病理結果の報告,を実施し適宜所見についても説明するよう努めている。 技師のカンファランスへの感想としては,症例ごとに解説することで,より具体的な理解や求められる画像についての理解ができると概ね良好であった。しかし,良性病変の見え方や種類,判断などが難しいとの意見もみられた。
第29回学術総会/特別企画2
  • 落谷 孝広
    2020 年 29 巻 2 号 p. 97-100
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    体液中を循環するアナライトのなかで,がん検診の新規バイオマーカーとしては,non-coding RNA の一種であり,霊長類では2,655種類の存在が知られているマイクロ RNA が注目されている。マイクロ RNA は生体の多くの遺伝子機能や複数の異なるパスウェイを同時に制御しうる重要な遺伝子発現調節機能を有する情報伝達物質である。このマイクロ RNA はエクソソームと呼ばれる直径50~150ナノメーターの脂質二重膜を有する細胞外小胞に運ばれて細胞間のコミュニケーションツールとして利用されている。さらにこのマイクロ RNA を運ぶエクソソームは血液中等を循環しており,乳がんの病態の理解と診断の分野においても重要な意味をもつ。がん検診による最大のメリットは,早期発見により乳がんの死亡率の減少が達成されることであり,その他の恩恵としては,乳がんの罹患率の減少,QOL の改善,予後予測,個別化医療への貢献,相対的な医療費の抑制などがあげられる。本稿では,乳がんのリキッドバイオプシーの最新の展開であるマイクロ RNA 診断について概説する。
原著
  • 叶 亮浩
    2020 年 29 巻 2 号 p. 101-105
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    Digital breast tomosynthesis(DBT)は,通常のマンモグラフィに比べ背景乳腺の重なりを減らすことで所見が明瞭化する有用性をもつが,特有のコントラスト変化やアーチファクトを伴っている。今回,再構成断面内のコントラストが X 線管球移動方向に対する向きで異なるか,構築の乱れのような多方向に展開する索状陰影を想定して検証を行った。その結果,DBT では再構成断面内において,X 線管球移動方向に対して垂直な構造物のコントラストの方が強く現れることがわかり,画像再構成方法が大きく関与していることが示唆された。このことは読影に支障をきたす可能性があり,今後検討が必要と思われた。
  • 中村 舞, 信太 圭一, 石井 美枝, 石井 里枝, 畑田 俊和, 前田 めぐみ, 今田 万里代, 岡本 瑠美, 東田 善治
    2020 年 29 巻 2 号 p. 107-113
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    われわれは,九州圏内の4施設,5機種で撮影した患者数807名,画像枚数2,772枚の患者のディジタルマンモグラフィの撮影履歴データを収集し,データベースを構築した。本研究では,このデータベースに含まれている圧迫乳房厚の情報を用いて,MLO 撮影と CC 撮影における乳房厚の比較を行った。この結果,CC 撮影における平均乳房厚は44.11mm,MLO 撮影における平均乳房厚は42.50mm 厚となり,CC 撮影の平均乳房厚が3.8%大きいことが明らかになった(P<0.01)。施設ごとの比較でも,CC 撮影の乳房厚がMLO 撮影に比べて大きな値を示した。撮影時の圧迫圧力は,MLO 撮影における平均圧迫圧が92.44N,CC 撮影における平均圧迫圧が89.38N となり,MLO 撮影の平均圧迫圧が3.4%大きかった(P<0.01)。
  • 中島 恵美, 向井 理枝, 塚本 徳子, 青山 華菜子, 吉田 泰子, 八木下 和代, 角田 博子
    2020 年 29 巻 2 号 p. 115-118
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    超音波検査(US)はリンパ節の評価において優れた手法であるが,乳癌患者においてレベルIIリンパ節を検出した際に転移の有無の判断に苦慮することがある。健常者における US によるレベルIの正常あるいは反応性リンパ節検出はよく知られているが,レベルIIに関するコンセンサスは得られていない。健常者におけるレベルIIリンパ節の検出頻度や性状を検討し,乳癌診療に役立てることを目的とする。対象は2018年3月から8月にUS による任意型乳癌検診を行った総受診者5,228名のうち,腋窩リンパ節転移を生じ得る既往歴・現病歴等を有する受診者を除いた5,036名。方法は乳癌検診時の腋窩レベルII領域のルーチン走査で撮影された画像を retrospective にレビューし,レベルIIリンパ節の検出頻度やサイズ等について検討した。結果は両側または片側のレベルIIリンパ節を検出した受診者数は348名(6.9%),総リンパ節数は490個であった。検出されたリンパ節の長径短径比(L/T)は2.0未満144個(29.4%),2.0以上346個(70.6%)であった。本研究では健常者において6.9%に腋窩レベルIIリンパ節が検出されることが判明した。また比較的丸みのあるリンパ節も3割程度検出された。乳癌症例において腋窩レベルIIリンパ節を検出した際は,健常者でも検出される頻度が少なくないことを考慮し,転移の有無を慎重に判断する必要があると考えられた。
  • 木場 愛子, 林田 博人, 小西 宗治, 岸本 昌浩, 先田 功
    2020 年 29 巻 2 号 p. 119-123
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    兵庫県西宮市では市検診センターと14個別医療機関により乳がん検診を実施している。検診実施施設間のプロセス指標のばらつきが検診成績に及ぼす影響について検討した。市検診総体としては過去10年間すべてのプロセス指標は許容値を満たしており,質の高い検診が維持されていた。個別医療機関別にプロセス指標を検討したところすべて許容値を満たしているわけではなかった。今後より質の高い検診の実現のためにはプロセス指標を基準に改善の余地があるものと考えられた。
症例報告
  • 後藤 陽子, 赤羽 和久, 徳倉 裕美, 山口 温子, 藤田 美幸, 杉野 知美, 角田 伸行
    2020 年 29 巻 2 号 p. 125-128
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    症例は51歳,女性。検診マンモグラフィにて左乳房腫瘤を指摘され精査目的で当院を受診した。検診で指摘された病変はマンモグラフィ検査では境界明瞭平滑な腫瘤で,超音波所見も同様であり,組織診で線維腺腫と診断した。一方,精査時マンモグラフィの CC画像で右乳房に局所的非対称性陰影を指摘したが,MLO 画像では残存乳腺と迷う所見であり指摘困難であった。また,非常に大きな脂肪性乳房であり超音波検査での病変の同定は極めて困難であった。しかし digital breast tomosynthesis では CC・MLO 画像ともに辺縁に spiculation が抽出された。これより悪性が疑われたため,積極的に検査を追加し乳癌の診断につなげることができた。
  • 米沢 圭
    2020 年 29 巻 2 号 p. 129-134
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/10/01
    ジャーナル フリー
    症例は67歳女性。30数年前に豊胸目的に両側乳房インプラント挿入の既往。左乳房上外側腫瘤の主訴で当科受診。左 C 領域に1.5cm 大の硬結を認めた。豊胸部に左右差はなかった。乳房超音波検査で左 C 領域に halo を伴う1.6cm 大の不整形低エコー腫瘤,左インプラント内に複数の膜様構造物を確認。CT で左インプラントの内部に波打つ膜様構造物があり linguine sign と考えた。インプラント被膜内破裂と診断した。乳腺腫瘍は stage I 乳癌と診断され,初診後2か月で手術を施行した。右乳房では破損のないインプラントを摘出。左乳房では左乳房部分切除術+センチネルリンパ節生検(Bp+SN)を施行後,線維性被膜を切開し,薄黄色透明で粘稠なゲルおよび破断したシェルを排出,洗浄し手術を終了した。乳房インプラント破裂は被膜内破裂と被膜外破裂に分類され,前者では比較的症状が軽く,本症例のように画像検査で偶然発見される場合も多い。流出したシリコンの外科的摘除も比較的容易である。画像所見としてはゲルのなかを破損したシェルが浮遊する像である linguine sign が有名で,MRI が最も感度が高いとされるが,本症例では CTで確認された。超音波検査の有用性も高く,折りたたまれたシェルが階段状に撮像されるstepladder sign が本症例でも確認された。一方,被膜外破裂の場合は乳腺内・リンパ網内に浸入したシリコンが多彩な症状を呈し完全に摘出するのは困難とされる。早期に画像的にインプラント破裂を診断し,摘出することが重要と考えられる。
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