1966年,横浜市保土ケ谷区内の一豚豚舎でライト・トラップにより採集した野生コガタアカイエカを用い,吸血と産卵を中心にした生態観察ならびに実験を行なった。ただし実験の一部には当所で累代飼育中の406系を用いたが,両者を比較するのが主目的でなく,相補わせる形で実験を進めた。
1) 7∼9月の野外採集個体1卵舟あたり平均卵数は207.2で,マウス給血の対照406系172.3より多い。ふ化率には有意差なく,どちらも94%であった。
2) 吸血ごとの産卵を3回までくり返させた場合,各回の平均卵数は174.1, 148.9, 126.7で,約15%ずつ減少した。
3) 飼育室(27°C, RH 80%)での栄養生殖サイクルは最高4回まで認められ,この間の生存日数は羽化後約25日であった(406系)。
4) 406系の場合,雌成虫のマウス吸血活動は受精と無関係に行なわれ,吸血後も受精(交尾)がとくに促進されなかった。しかし,野外でトラップに捕集される雌成虫は経産・未経産または吸血・未吸血を問わず大部分が受精個体であった。
5) 1966年4∼10月の自然集団の平均経産率(%)は,4月が16.2, 5月が10.6で4∼5月は低く,6∼8月はそれぞれ31.0, 35.4, 32.9でやや高く,9月は57.7, 10月は92.8で9月から10月にかけ急上昇し,とくに10月の集団は老化の程度が著しい。また,採集時の吸血個体では6∼8月間の経産率に有意差なく,平均32.7%であった。これから推定すると,シーズン中宿主を吸血した蚊の約1/3がウイルス伝播の可能性を持っていた。
6) 経産個体の経産回数は3回まで認められた。そのうち1回だけのものがを95%占めていたが,考察の結果,実際には2回(または3回)産卵する個体もかなり多いと推定された。
7) 以上の成績を考察した結果,越冬に入る個体は9月以降に生産され,その大部分はもはや畜舎に飛来せず越冬場所へ移動するが,日本の暖地では9∼10月の活動蚊(吸血または吸血経産)の一部もまた越冬を完了し,翌春まで生き残ることが推測された。
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