ニカメイチュウの要防除被害水準以下の発生に対し,殺虫剤散布をやめることが,次世代の発生増加をもたらすおそれがないかどうかをあきらかにし,また散布が必要な場合も水田のクモ類に影響の少ない散布法をみいだそうとして,1970∼1973年,秋田県農業試験場において試験をおこない,次の結果をえた。
1) ニカメイチュウ第1世代被害末期において,株当り約1本の被害茎(要防除被害水準である被害茎率約5%にほぼ相当する)までの範囲では,被害の程度によって老令幼虫+蛹の密度に大差がないので,無散布による次世代の増加の可能性は低い。
2) 第2世代の被害末期においては,株当り被害茎数が多いほど老令幼虫の密度が高いので,要防除被害水準以下でも散布をやめれば次世代が増加する可能性が考えられる。
3) MEPまたはクロルフェナミジンの散布によってニカメイチュウ第1世代の場合にはクモ密度の低下が明瞭でないが,第2世代に散布するとあきらかにクモ密度が低下し,特にコサラグモ科への影響が大きい。
4) 種々のニカメイチュウ防除剤の液剤を常用濃度で第2世代に散布した場合,BHC, EPN, MEPはクモ密度を低下させる効果が大きく,カルタップ,クロルフェナミジンは比較的影響が少ない。5) クロルフェナミジン乳剤の低濃度液を散布したポット稲では5ppmまでニカメイチュウふ化幼虫の食入防止効果が認められた。
6) クロルフェナミジン乳剤の低濃度液をほ場に散布した試験では,50∼100ppmでニカメイチュウ第2世代にかなりの防除効果が認められ,同時にクモ,特にコサラグモ科の密度はほとんど低下しなかった。したがってクモ密度を維持しながらニカメイチュウ第2世代を防除するには,クロルフェナミジンの低濃度散布が有効と考えられる。
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