ハスモンヨトウの性フェロモンおよび核多角体病ウイルス利用の素材研究の成果を結集して,2種の技術の組合せによるハスモンヨトウ防除の可能性を検討するために,現地試験を1975年4月15日から9月30日にわたって,愛媛県伊予三島市のサトイモ栽培地帯の10haを対象として実施した。
1) 雄成虫の誘殺数は5月下旬から徐々に増加し,7月上旬∼7月下旬に急激に増加した。その後も次第に上昇し,9月下旬の誘殺数が最も多かった。
2) 放飼したマーク雄のうち,捕獲されたものの大部分は放飼場所に最も近接したトラップ列で誘殺され,そのトラップ列を越えて他のトラップ列で誘殺されることは少なかった。捕獲率は野外雄の誘殺数の増加に伴なって減少した。
3) 野外雄密度の低かった7月上旬には,性フェロモン構成成分等による交尾阻害区において,交尾はほぼ完全に阻害された。またトラップによる雄の誘殺だけでも交尾は相当抑制された。しかし,野外雄の密度の増加に伴なって交尾阻害効果は低下した。
4) 核多角体病ウイルス散布による幼虫の死亡率は82∼90%で,青刈ダイズ,アズキおよびクローバほ場での試験結果と比較してやや劣った。しかし,ウイルス散布区,特に2回散布区では被害につながる老令幼虫の密度が他区と比較して著しく低かった。
5) 性フェロモン利用による大量誘殺,および性フェロモン構成成分等による交尾阻害によって幼虫密度を顕著に低下させるような効果は認められなかった。これは成虫の行動範囲に比較して,処理区域が狭かったためと考えられる。マーク雄の放飼および捕獲実験などから,処理面積を拡大すれば防除効果を期待できることが示された。核多角体病ウイルスの適期散布は,被害に直結する老令幼虫の密度を著しく低下させることができるので,これら両者を組合せると防除に十分利用できる可能性が示された。
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