最近,発生の著しい黄萎病の伝染とツマグロヨコバイの生態との関係について調査した結果を記述した。
1) ツマグロヨコバイの越冬世代の第3∼5令幼虫は2月中旬∼3月初旬より羽化を始めて4月初めにはほとんどが成虫態となった。この成虫は5月中旬より急激に減少したが,5月末まで生存する個体もあった。
2) すくい取りによる春季の生息密度と予察燈誘殺虫数の消長とは一致しない。すくい取りで幼虫の密度が最少となる4月上中旬は越冬虫の羽化終期に当たるように思われる。
3) 冬期より盛夏期までの虫の経過を系統飼育により検した結果,第1世代は幼虫が4月上旬より発生し,5月中旬から羽化を始めて,7月上旬まで生存した。第2世代成虫は7月上旬より8月中旬のあいだに,また第3世代は引き続き重なり合って発生する。
4) 虫の発生経過とイネの作季との関係は,早期水稲では越冬世代と第1世代の加害が多く,収穫期に第2世代の成幼虫が増加する。普通水稲は越冬成虫,晩期水稲は第1世代成虫の生存末期に播種される。
5) 越冬虫によってウイルスを伝染された早期水稲は70日間の潜伏期を経て6月末に発病した。また,この病稲よりウイルスを獲得した虫の体内潜伏期間は21∼28日間であった。したがってこの期の虫が媒介能力をうる時期はおおむね7月下旬となる。
6) 4月初旬および7月下旬の成虫は若干の保毒虫率を示したが,5月中下旬の幼虫および6月中旬より7月中旬までの成虫,すなわち第1世代および第2世代初期と考えられる虫は全く保毒していなかった。
7) 早期水稲における黄萎病の感染時期は4月中旬から5月中旬まで続き,その後は無感染となり,7月下旬に再び伝染がなされている。再度の感染による早期水稲は立毛中に発病せず刈株の再生稲に病徴が現われるようである。
8) 春季に野外のスズメノテッポウについて黄萎病感染の有無を検したがいずれも陰性に終った。
9) 黄萎病ウイルスは虫の越冬世代が主体となってイネに第1次伝染し,第2世代以降がおもにこの早期発病稲より保毒して以後の発生源となっているものと思われる。
抄録全体を表示