トウモロコシアブラムシは各種の禾本科植物に寄生するが,コムギでは生活できない。前報においては,コムギ植物のアブラムシ抵抗性の最も大きい要因として,抗生的に作用すると考えられる化学物質の存在を推定した。
本報では,この抵抗性因子を追求する一段階として,アブラムシ抵抗性がコムギ植物の生育段階によって,変化するかどうかを調べた。
オオムギ幼植物に接種されたトウモロコシアブラムシの生存日数は,植物の生育段階に関係なく長い。これに反し,コムギ幼植物でのアブラムシの寿命は,植物が幼若なほど短く,植物の令期が進むにしたがって長くなる。しかしオオムギでの生存日数にくらべると短い。
オオムギ幼植物に接種されたアブラムシの産仔数は,植物の生育段階に関係なく多い。これに反し,コムギ幼植物での産仔数はオオムギでの産仔数にくらべてはるかに少なく,とくに幼若な植物では,殆んど産仔がみられなかった。
発芽直後の幼若コムギ植物と,地上部を切り取った根から再生発芽したコムギ植物(二番芽生)とで,アブラムシの個体数増殖,生存日数および産仔数を比較したところ,二番芽生は幼若コムギ植物にくらべて,アブラムシの寄主として,はるかに適していることがわかった。すなわち,二番芽生コムギでの個体数増殖曲線は,オオムギでのそれにくらべて,わずかに遅れる程度であり,寿命や産仔数も,発芽直後のコムギにくらべて,はるかに優っていた。
以上の結果から
1. コムギのアブラムシ抵抗性は,コムギ植物の一生を通じて一定不変ではなく,発芽直後には非常に強力であるが,生育が進むにつれて低下する。
2. しかし,日数を経たコムギ植物でも,オオムギにくらべると,アブラムシの寄主として,著しく不適当である。
3. したがって,コムギのアブラムシ抵抗性の機構として,次の二つが考えられる。
i) 一つの因子が関与する。その作用は,コムギ植物が幼若な間は,とくに強力であるが,生育が進んでもその作用は残る。
ii) 二つの因子が関与する。第1の因子はコムギ植物の生育段階には無関係で,常に植物体内に存在する。第2の因子は,植物が幼若な間だけ存在し,生育とともに消失する。
4. 抵抗性と関係をもつ,コムギ植物の生育段階は,アブラムシが摂食している地上茎葉部の幼若・老熟によって規定されるものではない。株全体の令期が抵抗性因子の作用と関係をもっている。このことは,発芽直後に強力に抵抗性を発揮する因子が,コムギ種子の胚物質と深い関係をもつ可能性を示している。
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