半翅目昆虫の唾腺分泌物は植物体におよぼす種々の影響,およびウイルス病の媒介などに関連する重要な諸問題を包含している。本研究はそれらの研究に先だち,まず我国の稲作上きわめて重要な害虫であるツマグロヨコバイ,イナヅマヨコバイ,セジロウンカ,ヒメトビウンカおよびトビイロウンカを中心にウンカ,ヨコバイ類の唾腺の形態と組織構造を詳細に検討したものである。唾腺の形態は昆虫細胞用クラーク液中で摘出された唾腺にトルイジン青または中性赤の稀薄水溶液で超生体染色をほどこし顕微鏡下で観察された。組織構造はブアン,アレンブアンまたはスサ液で固定され,アザンあるいはデラフィルドのヘマトキシリン-エオシン染色をほどこされた切片標本によって調べられた。その結果は次のとおりである。
1. ウンカ,ヨコバイ類の唾腺は一対の主腺と副腺,および分泌管系から形成されている。
2. ヨコバイ類の主腺は6種類の腺細胞群の集合体で,2葉に分けられている。副腺は屈折した短管状である。
3. ウンカ類の主腺は数種類の小胞状組織に分離されている。各組織は少数の同種の腺細胞で形成されている。副腺は球状である。
4. 唾腺の形態は後胚子発育の各時期をとおしてほとんど変化を示さなかった。
5. 主腺を形成する腺細胞群あるいは小胞状組織の細胞質の性状および色素に対する着染性に顕著な相違が認められた。
6. ヨコバイ類の主腺のIV型細胞とウンカ類の主腺のA型組織は消化酵素の主要な産生組織と考えられた。
7. ヨコバイ類の主腺のV型細胞とウンカ類の副腺は口針鞘形成物質の主要な産生組織と考えられた。
8. ヨコバイ類の副腺の尾部はマルピーギ管様の組織構造を示した。
9. 分泌管の上皮細胞の構造はある種の生理的機能の存在を暗示した。
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