日本在宅ケア学会誌
Online ISSN : 2758-9404
Print ISSN : 1346-9649
9 巻, 1 号
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目次
論壇
学術集会長講演
焦点 在宅ケアの動向とチームアプローチ
原著
  • 李 玉玲, 小林 淳子, 齋藤 明子, 右田 周平, 大竹 まり子
    原稿種別: 原著
    2005 年9 巻1 号 p. 20-30
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    中国の北京市と地方都市である黒竜江省の牡丹江市における介護を要する高齢者の家族の介護負担感を測定し,両都市の要介護高齢者や介護者の状況,ソーシャルサポート資源と介護負担感との関連を明らかにすることを目的とした.対象は退院後も介護が必要と看護師が判断した60歳以上の高齢者の主介護者162人で,質問紙を用いた聞き取り面接調査を行った.

    その結果,①北京市,牡丹江市ともに,要介護高齢者のADLが低いほど,また介護時間が長いほど,介護者の健康状態自己評価が低いほど,介護負担感が強かった.②北京市では,介護者が高齢であるほど介護負担感が強く,職業のない介護者はある介護者よりも,また治療を要する疾患がある介護者はない介護者よりも,介護負担感が強かった.③牡丹江市では相談相手がいない介護者はいる介護者よりも介護負担感が強かった.今後中国では全国的に保健・医療・福祉サービスの充実を図ると同時に,地方都市と大都市間の格差の是正が急務であることが示唆された.

  • 古瀬 みどり
    原稿種別: 原著
    2005 年9 巻1 号 p. 31-38
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,医療依存度の高い療養者の介護者が主体性を獲得するための訪問看護師の支援プロセスを分析し記述することを目的とする.対象者は訪問看護ステーションに勤務する14人の訪問看護師である.データ収集方法は半構成的面接で,グラウンデッド・セオリー・アプローチによる分析を行った.その結果,訪問看護師の支援プロセスには,看護師による介護者の主体性獲得に関する介護能力の判断として,懐疑,条件つき確信,確信の3段階が認められた.判断には変化があり,訪問看護師はこれらの判断に応じた支援を提供していた.懐疑では,訪問看護師は介護者が現状を理解できるような支援を提供していた.その後,こうすれば介護者の主体性が獲得できるという判断を行っていた.この場面では,訪問看護師は介護者の主体性を刺激するため,介護者の主体性獲得を促進する療養環境整備に徹していた.条件つき確信とは,懐疑から確信への移行の段階であり,訪問看護師は実質的なサービスの調整と介護者への一歩進んだ情緒的支援を行っていた.確信は介護者の主体性が獲得できた状態であり,訪問看護師は療養者の病状の安定化と介護者の介護能力を勘案したうえで,新たな在宅療養継続支援者の導入を進めていた.これらの支援は介護者を依存から自立へと導くものであり,これらを段階的に行使することにより介護者の主体性獲得を促進することが示唆された.

  • 張 允楨, 黒田 研二
    原稿種別: 原著
    2005 年9 巻1 号 p. 39-45
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,訪問介護事業に従事する営利法人と非営利法人のホームヘルパーの特性を比較することを目的とした.調査対象は,大阪府の2つの市の訪問介護事業所に所属するホームヘルパーとし,うち,営利法人に所属するヘルパーが109人,非営利法人に所属するヘルパーが103人であった.調査内容としては,①雇用・労働の実態,②業務遂行スキル(知識・技術,利用者の情報把握),③サービス評価,④職務満足の4点を取り上げた.主な結果は,第1に営利法人のヘルパーに比べ,非営利法人のヘルパーは,比較的経験年数が長く,より高いレベルの資格(ヘルパー1級・介護福祉士)の割合が多かった.第2に知識・技術,利用者の情報把握,サービス評価の3つの変数において,営利法人のヘルパーと非営利法人のヘルパーの間には,統計学的有意差は認められなかった.第3に職務満足度において,営利法人のヘルパーが非営利法人のヘルパーより,比較的満足しており,具体的には,賃金と身分・雇用形態に関する満足度に有意差がみられた.

  • 佐藤 敏子, 清水 裕子
    原稿種別: 原著
    2005 年9 巻1 号 p. 46-51
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,続柄別女性介護者の蓄積的疲労徴候の実態と介護継続意志,負担感,満足感が蓄積的疲労徴候に及ぼす影響を検討することである.調査対象は,M県内の訪問看護ステーションと在宅介護支援センターを利用している要介護者の女性介護者200人である.本論文の分析対象は嫁65人,妻65人,娘52人の175人である.調査方法は自記式質問紙による留置法である.主な結果は次のとおりであった.介護者および要介護者の年齢,家族成員数,自由時間の有無において続柄間で差がみられた(p<.001).蓄積的疲労徴候の合計得点は,妻が嫁・娘と比較して高い値を示した.蓄積的疲労徴候の下位尺度では,「身体不調」において妻と嫁(p<.05),妻と娘(p<.001),「一般的疲労感」において妻と嫁(p<.001),妻と娘(p<.001),「不安感」において妻と娘(p<.05)で有意な差がみられた.また嫁は負担感が重く,介護継続意志は低い傾向にあった.

    負担感は介護継続関連要因のなかで,蓄積的疲労徴候の要因となっていることが分かった.

  • 広瀬 美千代, 岡田 進一, 白澤 政和
    原稿種別: 原著
    2005 年9 巻1 号 p. 52-60
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    介護に対する家族介護者の認知的評価を測定する尺度「認知的介護評価」を開発することを目的とした.「認知的介護評価」は肯定・否定の両側面で構成される尺度である.調査は家族会会員を対象とした郵送調査である.主成分分析および下位尺度間の相関分析を行った結果,以下の3点が明らかになった.(1)6つの因子が抽出され,否定的側面の因子は,「社会生活制限感」「介護継続不安感」「関係性における精神的負担感」に,肯定的側面の因子は「介護役割充足感」「高齢者への親近感」「自己成長感」に命名された.(2)否定的側面の領域内および肯定的側面の領域内における下位尺度間の相関は,おのおの正の相関が高かった.「高齢者への親近感」は全否定的側面の因子と弱い負の相関を示し,「自己成長感」はどの否定的側面の因子とも有意な相関がみられなかった.(3)尺度としての信頼性は十分にあり,解釈可能な因子が抽出されたことより内容妥当性が確認された.結果より,本尺度は,介護に対する肯定・否定の両側面の評価を同時に測定できることから,介護者支援を行ううえでの重要な指標の1つになると考えられる.

  • 鳥海 直美, 松井 妙子, 笠原 幸子, 蘇 珍伊, 岡田 進一, 白澤 政和
    原稿種別: 原著
    2005 年9 巻1 号 p. 61-70
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    多職種チームにおける訪問介護事業所のサービス提供責任者(介護職)の役割特性をとらえるために,高齢者の情報をどのように把握しているかについて看護職,相談職との比較によって分析した.全国の訪問介護事業所,訪問看護事業所,在宅介護支援センター各400か所を無作為に抽出して自記式郵送調査を行い,56.8%の有効回答率を得た.分析の結果,サービス提供責任者は生活行動や生活様式の個別性を他職種よりも把握しているが,ADLや医療的ケアの必要性に関する情報は看護職よりも把握している程度が低かった.また,社会資源や地域社会との関係性は相談職と同程度に把握していた.本研究結果より,サービス提供責任者と他職種の協働のあり方として,ADLに関する情報を身体機能の維持・拡大に関連づけて理解することに加えて,医療依存度の高い高齢者のケアの安全性を確保するために,必要に応じて看護職から適切な指導・助言を得ることの必要性が示された.また,高齢者の主体性が確保されるよう生活の個別性に関する情報を他職種に提供する役割や,ケアマネジメントプロセスにおけるモニタリング機能を補完する役割をになうことが示唆された.

  • 村田 伸, 津田 彰
    原稿種別: 原著
    2005 年9 巻1 号 p. 71-77
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,在宅障害高齢者77人(平均年齢82.9歳)の家庭内での役割の有無と身体機能および主観的健康感,ライフスタイルを評価し,それらの関連性について検討した.家庭内役割あり群40人となし群37人の比較において,握力,大腿四頭筋筋力,片足立ち保持時間,歩行速度,ADL得点,活動能力,主観的健康感の7項目に有意差が認められ,家庭内役割あり群がなし群より有意に高かった.一方,疲労感,睡眠状況,食事状況については有意差が認められなかった.また,家庭内役割の有無別に分けて判別分析を行った結果,判別に使用された変数として抽出されたのは,主観的健康感,活動能力,歩行速度の3項目であった.これらの知見から,在宅障害高齢者が家庭において役割をもつことは,疲労の蓄積や不眠,不規則な食事状況などの悪影響を引き起こすことなく,活動能力や主観的健康感を高める可能性が示唆された.この結果は,高齢者が身体障害を有したとしても,可能なかぎり家庭内役割をもつことの重要性を示し,障害高齢者本人のみならず家族を含めた生活指導の必要性が示唆きれた.

研究
  • 小路 ますみ, 渕野 由夏, 大倉 美鶴, 松原 まなみ
    原稿種別: 研究
    2005 年9 巻1 号 p. 78-86
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    [目的]都市在住の核家族第1子,1歳未満の子どもをもつ母親について,育児の蓄積的疲労の観点から,育児不安の状況とその要因を明らかにしたい.

    [方法]調査対象は育児関連企業C社の都市圏在住の顧客モニターである.データ収集は,郵送調査法を実施した.牧野の蓄積的疲労兆候調査の特性に基づき作成された尺度から,不安あり群を抽出した.その不安内容をKJ法で分析した.

    [結果および結論]育児不安あり群,不安なし群ともに,母親たちはさまざまな社会からの情報に敏感に反応していた,ジャーナリズムを賑わす原因不明の少年事件や見通しのきかない経済問題など育児に確証がもてない現状は,母親の不安材料になっていた.

    不安あり群の母親は,次の4つの育児不安要因をもっていた.①育児に対する不完全感,②育児に確証がもてない,③信頼できる相談相手を探す術がない,④育児に追い込まれる.これらの要因が相互に関連しあい,閉鎖的な育児環境を築き上げていた.そのなかで母親は育児に追い込まれ,心的な危機状態にあった.そして,精神的,肉体的疲労が蓄積されると,虐待や育児ノイローゼによる不幸な事件を起こしても不思議ではない状況にあると思われる.

  • 大倉 美鶴, 村田 伸, 村木 里志, 是松 きくゑ, 大山 美智江
    原稿種別: 研究
    2005 年9 巻1 号 p. 87-93
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,在宅での電動ベッド貸与状況と要介護度や基本動作等との関連について検討した.対象は,福岡県内のA事業所で在宅サービスを利用している要介護者81人(男性48人,女性33人,平均年齢74.9歳)である.対象者のうち48人(59.3%)が電動ベッドを貸与していたが,貸与していない33人(40.7%)の年齢,男女の割合,痴呆(認知症)の有無,要介護度,基本動作能力を比較すると年齢,男女の割合,痴呆の有無の割合には有意差が認められず,要介護度および基本動作能力において有意差が認められた(p<0.01).電動ベッドあり群はなし群より要介護度が高く,寝返り動作から歩行までの基本動作の自立度がすべてにおいて低いことが明らかになった.また,電動ベッド貸与の有無を目的変数としたロジスティック回帰分析においても基本動作得点のオッズ比(1.95,95%CI:1.32-2.88)が有意であったことから,電動ベッド貸与基準に基本動作の可否が最も関係していることが示唆された.

    また,電動ベッド貸与開始の判断は「寝返り,起き上がり,立ち上がり」の動作能力低下が基準とされている.しかし,本調査による各基本動作の自立度と電動ベッド貸与率状況から,「立位保持,移乗,歩行」の自立の可否にかかわらず電動ベッドが貸与されている実態が示唆された.

  • 大木 正隆, 島内 節, 友安 直子, 森田 久美子
    原稿種別: 研究
    2005 年9 巻1 号 p. 94-103
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,訪問看護師が脳血管疾患高齢者の在宅移行期に必要とする退院サマリーおよび退院前訪問のケア情報とその優先度を明らかにし,さらにケア情報の伝達方法,活用時期を検討することである.対象者は都内の42か所の訪問看護ステーションの訪問看護師103人とした.その結果,①脳血管疾患高齢者に適した情報伝達方法は退院サマリーであると推測された.また退院サマリーを効果的に使用するためには退院日以前の情報伝達が不可欠であることが示唆された.②退院サマリーに必要なケア情報は32項目7因子が抽出され,「家族に関する情報」「ケア・医療機器の指導に関する情報」「環境整備に関する情報」「リハビリに関する情報」「患者・家族の在宅におけるケアの受け止め方に関する情報」「薬剤に関する情報」「医療処置・医療備品に関する情報」であった.③退院サマリーと退院前訪問に必要なケア情報23項目の優先度上位4項目は因子名において医療(備品・処置・機器)に関する情報であった.

資料
  • 森鍵 祐子, 右田 周平, 大竹 まり子, 齋藤 明子, 叶谷 由佳, 小林 淳子
    原稿種別: 資料
    2005 年9 巻1 号 p. 104-113
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    主観的介護負担について国内で報告された文献のレビューを行い,介護負担を測定する尺度の使用状況を整理し,今後の介護負担の調査研究における尺度選択の基礎資料とすることを目的とした.

    医学中央雑誌Webにて「介護負担」「介護負担感」「介護ストレス」をキーワードに「最新過去5年」「原著」で検索し,尺度を使用しない文献を除いた94件のレビューを行った.その結果,1)1999年から2004年に介護負担を測定する尺度を開発した文献は3件であったこと,2)介護負担を測定し関連性を調査した文献は91件であったこと,3)国内で使われていた介護負担を測定する尺度は16種類あり,「Zarit介護負担スケール日本語版」が最も使われていたことが明らかとなった.

    これらから,尺度の使用に際して適切な選択と評価の必要性が再認識された,今後,介護負担を測定する尺度は,介入研究において頻繁に使用されると示唆された.

実践報告
  • 村松 恵子, 高橋 睦子, 黒田 めぐみ, 中谷 久恵
    原稿種別: 実践報告
    2005 年9 巻1 号 p. 114-118
    発行日: 2005年
    公開日: 2025/04/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は退院指導を必要としている患者を入院時スクリーニングにより把握し,患者の特徴と看護の課題を明確にすることである.調査方法は,退院指導を必要とする患者を把握するチェックリストを作成し,調査期間内に入院した患者218人に使用した.分析対象者は,入退院時のチェックで該当した患者130人である,内訳は入院時の把握が66.2%,退院時は80.0%で,入院時のチェックのみでは13.8%の患者の把握ができていなかった.これら不一致の要因には状況の「改善」が73.1%,看護師が「非該当と判断」が56.8%であり,中間で再チェックを行う必要性が示唆された,チェックリストに該当した主な項目は,「独居・老夫婦世帯/介護力」55.4%,「医療器具/医療処置」49.7%であった.在宅療養に必要な退院指導の情報を入院早期に得て退院指導につなげるためには,看護師の教育プログラムに継続看護や退院計画を位置づける必要が示唆された.

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