日本健康相談活動学会誌
Online ISSN : 2436-1038
Print ISSN : 1882-3807
15 巻, 1 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
特別報告 多様化する健康課題 ~性別違和感を持つ子供たち~
投稿論文
研究報告
  • 菊池 美奈子, 池川 典子
    2020 年 15 巻 1 号 p. 27-40
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

     思春期の発達段階にある中学校・高等学校の生徒が抱える心的要因による健康問題において、その解決に向けて養護教諭が行う健康相談活動・健康相談の重要性が示されている。

     本研究は、健康相談活動・健康相談の継続支援とつなげていく第2段階における生徒と養護教諭の信頼関係を進展させていく、養護教諭の対応のプロセスを明らかにすることを目的とする。中学校・高等学校の養護教諭9名を対象としたインタビュー調査における第2段階の内容について、M-GTA分析を行った結果、22個の概念、14個のカテゴリー、7個のコアカテゴリーが導き出された。生徒との信頼関係を進展させていく養護教諭の対応過程は、【安心して話してくれる関係につながるネガティブな言動の受け止め】、【心的要因を表出できるように働きかけ・覚悟を決めて聴く】、【心揺さぶられ共に解決に向けてかかわっていく決意】、【安心感につながるネガティブな気持ちに寄り添った対応】、【一緒に考え続ける対話によってつながりが深まる日々の対応】、【巣立ちの承認】、【肯定的な側面を見出し・成長している側面に焦点をあてたかかわり】であり、特に【心的要因を表出できるように働きかけ・覚悟を決めて聴く】が重要な局面であることが示された。

     生徒との信頼関係をどのように進展させていたかについて考察したところ、思春期の心的要因による健康問題を抱える生徒と信頼関係を進展させる継続支援プロセス第2段階の養護教諭の対応過程において、養護教諭は生徒が"安心して話してくれる関係"によって、"苦しみを共有する関係"とし、生徒の"心身の健康問題の解決に共に向かう関係"を成立させていた。その後、"安心感のある関係"を基にして、解決に向けた両者の"対話により深まる信頼関係"、"安心感の基に巣立ちを承認する関係"へと進展させ、健康問題の解決と共に、生徒の心身の成長・発達を促していたことが明らかになった。

  • ―小学校、中学校、高等学校の比較―
    鎌塚 優子, 玉井 紀子, 井出 智博, 松尾 由希子, 山元 薫, 細川 知子
    2020 年 15 巻 1 号 p. 41-51
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

     本研究は学校種別の養護教諭の性的マイノリティ児童生徒への対応の現状と課題を明らかにするために、学校種別対応の自信に関わる要因の検討を行った。2017年12月14日~2018年2月28日にかけて、公立の小学校、中学校(小学校503校、中学校260校)の養護教諭に対し調査票を郵送で配布、回収した。回収は、小学校が314校(回収率62.4%)、中学校が180校(回収率62.9%)から得た。高等学校においては、井出ら(2018)が実施した全日制高等学校93校のデータを用いた。学校種別に比較検討した結果、自信との関連は、知識の程度と、性的マイノリティ児童生徒の対応経験数、学校体制による影響があることが示された。しかし、学校種によって違いがみられ、知識と自信については、小学校、中学校の養護教諭は知識がある人ほど対応の自信があると回答しており、高等学校は知識の高低には影響がないことが明らかとなった。また、当該児童生徒の対応経験との関連では、小学校、中学校では差が認められなかったが、高等学校において対応経験数が多いほど、自信があることが認められた。学校体制については、高等学校のみ、学校体制が対応の自信に影響することが示された。よって、小学校と中学校との差は認められなかったが、小学校並びに中学校と高等学校においては、対応の自信に影響する要因が異なることが示唆された。

  • ~ジェンダー差に注目して~
    松並 知子
    2020 年 15 巻 1 号 p. 52-57
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

     「恋人とは一心同体であり、恋人は自分のものだから自分の好きなように支配しても良いし、束縛は愛の証である」と感じるような依存的恋愛観は、現代の若者に多く見られ、デートDVの要因とされている。また自分らしくあるという感覚である「本来感」や「仲間集団への依存傾向」は依存的恋愛観の心理的要因であると考えれる。そこで、依存的恋愛観と暴力観の関連、および、本来感と仲間集団への依存傾向と依存的恋愛観の関連を検討することが本研究の目的である。高校生839名を対象に質問紙調査を実施した結果、男女ともに、依存的恋愛観が強まると、恋人への暴力行為を「暴力」と認知しない傾向が示された。また女性の場合、低い本来感が仲間集団への依存に影響を与え、それが恋人への依存性にも関連している傾向が示された。一方、男性の場合は、本来感と依存的恋愛観に関連は見られず、仲間集団への依存のみが恋人への依存性に関連していた。

     ジェンダー差については、依存的恋愛観は男性が有意に高く、仲間集団への依存は女性が有意に高かった。また暴力観では男性が女性よりも「暴力にあたる」と回答する傾向が強かった。

     本研究では相手に依存しすぎない健全な恋愛観がデートDVの予防に関連することが示唆されたので、今回の結果をもとに、予防教育プログラムを開発することが今後の課題である。

実践研究
  • ~地震直後の混乱期における、チェックシート使用の実際~
    清水 美夏子, 山部 真理, 髙田 富美, 河嶋 里亜, 嶋津 貴子, 米井 美紀子, 鎌田 加奈, 垂水 奈央子, 森川 美奈子, 瀬口 ...
    2020 年 15 巻 1 号 p. 58-67
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

    【目的】児童生徒の心身の実態把握を行うために活用したシート使用の実態から、熊本地震発生直後の混乱期における養護教諭の対応や、使用したシートの課題を明らかにする。

    【方法】平成28年12月から平成29年1月に、K県内の養護教諭57人にアンケート調査を行い、「シートの集計・分析・活用」の自由記述をコーディングし、「養護教諭の実践」と「養護教諭の思考」についてカテゴリー化した。

    【結果】「養護教諭の実践」では6、「養護教諭の思考」では2のカテゴリーが得られた。「養護教諭の実践」ではシート結果以外の情報も加味した分析が最もコード数の多いカテゴリーであり、「養護教諭の思考」は8割が課題に関する内容であった。

    【考察】シートの実施回数や分析方法等の明確な基準がなかったことで、様々な不安や悩みを抱えながら対応していたことが分かった。しかし課題を感じながらも、健康観察結果や来室状況、担任や家庭からの情報など、シート結果以外の情報も加味し、専門性を生かして総合的に判断していたことが分かった。また、担任や管理職等の職員や保護者、SCやSSWなど、校内外の連携が必要であり、養護教諭がコーディネーターの役割を果たしていたことも明らかとなった。さらに、これらのカテゴリーを整理したシート使用の過程は、日常の健康相談活動のプロセスと一致した。養護教諭は地震後の混乱期において、迷いながらもその専門性を生かして対応を行っていたことも分かった。これらのことにより、危機管理は日常管理の延長であり、日常的な関わりや実践の積み重ねが重要であることが示唆された。

資料
  • 中村 美智恵, 大﨑 千夏, 佐藤 由紀子, 岩見 真由美, 三木 とみ子, 大沼 久美子
    2020 年 15 巻 1 号 p. 68-76
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

     A市養護教諭会では、同じ健康課題を抱えた学校区で2012年4月から2017年3月まで7つの班に分かれ養護実践を行った。本研究は、その一部の2014年当時小6、中2であった児童生徒等に対して行った養護実践(養護教諭87名)の取り組みを通じて養護教諭自身が必要と感じている企画力・連携力に変化がみられるかを検討することを目的として実施した。養護教諭個々の企画力と連携力の変化と、健康課題別に集まり実践したことによるマネジメント力の変化との関連を、記名式個別意識調査(3件法、向上群と非向上群)と記名式自由記述調査(カテゴリー化)により分析した。その結果、企画力向上を目標とした班の企画力向上の平均値は連携力向上を目標とした班の連携力向上の平均値よりも高かった。また、企画力向上を目標とした5つの班全ての企画力が向上した(p<.01)。次に、企画力向上を目指した班と連携力向上を目指した班を比較すると、企画力向上を目指した班の方が向上したい力が上がった(p<.01)。これらの結果から、企画力と連携力はいずれも向上するが、共通の健康課題がある養護教諭が連携し、情報を共有し学び合い、自校に合った企画をすることで企画力のほうが向上しやすい。また、連携力は、養護教諭が児童生徒や教職員に直接働きかける過程で、様々な教職員との関わりが発生し向上すると考えられるが、組織全体へのマネジメントや、保護者や外部機関が対象の場合、連携力が向上したと感じにくい。今後も研修や実践を積み重ね、マネジメント力を向上させ、健康相談活動を充実させることが課題である。

  • ―改良版ASAPの検討―
    力丸 真智子, 三木 とみ子, 大沼 久美子, 澤村 文香
    2020 年 15 巻 1 号 p. 77-87
    発行日: 2020/03/25
    公開日: 2021/02/09
    ジャーナル フリー

    [目的]著者らは既に試行版ASAPを開発し、その実用化評価を分析・検討し、改良を加えた改良版を作成した。本研究の目的は、改良版ASAPを養護教諭に実際に活用してもらい、評価を得ることで、養護教諭の初期対応における改良版ASAPの検討をすることである。

    [方法]公立学校の保健室で養護教諭9名に、腹痛を主訴として初回来室した児童生徒32名に改良版ASAPを活用してもらった。改良版ASAPについて、児童生徒への活用評価及び養護教諭への自由記述を含む評価票による評価、半構造化面接調査にて評価をした。

    [結果]改良版ASAPは、9割の養護教諭から「当面の対応を判断する段階で有用である」と評価され、インタビュー調査の結果から「漏れのない丁寧な情報収集、判断の根拠、背景要因の推測、当面の対応の明確化」などに役立つと評価された。さらに、改良版ASAPが1枚のシートであること、素早く判断するのに適切な使用時間であることが明らかとなった。

    [結論]改良版ASAPの評価は、次の4点である。①腹痛を主訴として初回来室した児童生徒の初期対応に活かすアセスメントシートとして意義がある。②改良版ASAPの総合得点は養護教諭の判断に活用される。③〈漏れのない丁寧な情報収集〉〈背景要因の推測〉〈当面の対応の明確化〉の利点がある。④児童生徒の対応記録として残すことができ、健康相談・健康相談活動、保健指導にも意義がある。

feedback
Top