日本健康相談活動学会誌
Online ISSN : 2436-1038
Print ISSN : 1882-3807
8 巻, 1 号
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原著論文
  • ―病いを抱えながら成長していく子どもたち―
    岩井 晶子
    2013 年 8 巻 1 号 p. 28-43
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     研究目的:小児期に腎疾患を発症し透析を経て腎移植を受けた患者が体験していることの意味を明らかにすること。対象:小児期に腎疾患を発症し、その後腎移植を受けた16歳以上の患者。研究方法:質的記述的研究で、データ収集方法は半構造化面接法である。結果および考察:研究参加者は、小学生・中学生の頃は病気や治療について十分な説明を受けないまま、周囲の大人の指示に従い、腎臓が悪いと漠然と捉えていた。また激しい痛みや厳しい食事制限など困難な状況にひたすら耐え、そして慣れるというように、柔軟に適応しながらその困難を乗り越えていく「しなやかな強さ」を発揮していることが明らかになった。高校以降になると、学校生活や進路選択において、病いを抱えていることが重荷となり、特に透析をしていることが、学校でのいじめや進路選択の幅を狭めるものとして、新たな問題を生み出していた。しかし腎移植を受けることで、進路選択など将来の可能性が拡がり、積極的な生き方へと変化し、人として成長していく過程が明らかになった。人が病むという経験を単に負の側面からみるのではなく、むしろそれが人間の変容と成長を促す大きな源となっていることが明らかとなった。入院期間が短縮されるなか、子どもたちは治療を継続しながら学校へと復帰するため、医師や看護師、養護教諭、教員はその事実を認識し、そのような力が発揮されるよう連携しサポートする必要がある。

論文
  • 畔田 由梨恵, 中下 富子, 岩井 法子, 大信田 真弓
    2013 年 8 巻 1 号 p. 44-55
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究は、性別違和感を抱える中学生・高校生に対する養護教諭の支援方法の特徴について明らかにすることを目的とした。

     A県内の公立中学校及び高等学校において性別違和感を抱える中学生・高校生への支援経験がある養護教諭3名を対象として、2011年1月~3月、半構造化面接法による面接調査を実施した。分析は、逐語録から性別違和感を抱える生徒への養護教諭が行った支援内容を抽出し、質的帰納的に行った。

     その結果、同性愛の疑い、性同一性障害の疑い、性同一性障害といった性別違和感を抱える5名の中学生・高校生に対する養護教諭の支援データは97項目抽出され、80項目のサブカテゴリー、20項目のカテゴリー、5項目のコアカテゴリーが見出された。この5項目のコアカテゴリーは、【本人の取り巻く状況を把握する】、【本人が性別違和感を抱えていることを把握する】、【本人のカミングアウトへの葛藤を把握する】、【本人のカミングアウトを支持する】、【校内外の関係者と連携して本人を支援する】であった。

     以上のことから、養護教諭は、本人の取り巻く状況や本人の抱える性別違和感、カミングアウトへの葛藤を把握し、本人が養護教諭以外へのカミングアウトを行う場合には、本人への理解を深めた校内外の関係者が連携し支援体制を整え、養護教諭以外へのカミングアウトを望まない本人に対しては、学校内の本人の理解者として、継続的に支援していく支援方法の特徴が示された。

  • ―インタビュー調査による対応のバリエーション拡大の試み―
    齊藤 理砂子, 岡田 加奈子
    2013 年 8 巻 1 号 p. 56-68
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     養護教諭は、保健室において児童生徒が自分自身の健康を管理する能力、いわゆる健康管理能力を育成するために、児童生徒一人ひとりに必要な能力を見極めながら日々、様々な対応をしている。しかし、保健室に来室した児童生徒に対して、養護教諭はどのような能力に着目して健康管理能力を育成しようとしているかを体系的に概念化したものは見当たらなかった。そこで、先行研究1)では、養護教諭が行う中学生一人ひとりを対象とした健康管理能力を育成するための対応とその視点について明確化することを試みた。その結果、養護教諭はけがや疾病の自己管理能力だけではなく、「自己表現能力」「対人関係能力」「自己決定・判断能力」等の17の視点に目を向けて、日々対応していることが明らかになった。この結果は、同様な背景をもつ生徒が現れた時に、意図的に対応できるという意味で意義がある研究だったと考える。

     しかし、先行研究1)の結果では、養護教諭が中学生に育てたいと考えている視点は17の能力として明確化されたが、各々の対応については、2~7つしか明確化されていない。そのため、実際に実践につなげていくためには、まだ不十分な面が多い。よって本研究では、さらに面接調査を行うことにより、それらの育成のために行っている養護教諭の対応のバリエーションを拡大することを試みた。

     今回の研究においては、先行研究1)で明らかになっている17の能力のうち、明確化された対応の数が比較的多く、生涯を通して主体的に健康を保持増進していく上で、現代の子どもたちに必要と思われる2)-4)自己決定・判断能力、自己表現能力、対人関係能力の3つに着目した。

     本研究の結果、次のような対応が新たに追加された。自己決定・判断能力を育成するための対応では「子どもの判断を尊重する」等、5つのカテゴリが追加された。自己表現能力を育成するための対応では「伝えたいことを整理することを促す」等、6つのカテゴリが追加された。対人関係能力を育成するための対応では「コミュニケーションの機会をつくる」等、6つのカテゴリが追加された。

  • 相川 朋生, 竹鼻 ゆかり
    2013 年 8 巻 1 号 p. 69-85
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究は親と死別した子どもの体験に基き、親との死別から現在までの体験と変化を明らかにすることを目的とし、児童期や思春期に親との死別を体験した6名の大学生および社会人に対し、死別の経緯や周囲との関わり、死別によって生じた心身の変化などについて半構造化面接を行った。逐語録を作成し、死別による体験や変化について語られたコードを抽出し、類似のコードをまとめてサブカテゴリーを作り、カテゴリー化を行った。各カテゴリーは、さらに、心理的変化・社会的変化・身体的変化の3観点で分類した。また、カテゴリーの分類に先立って、体験や変化が表れた時期を5期設定した。

     その結果、親との死別によって子どもは、心理的変化を生じ、死別前後の強い衝撃が悲嘆感情に変化し、その悲しみは様々な感情と影響し合いながら表出されることが分かった。また、その悲しみはだんだんと和らぎながらも、現在にいたるまで何らかの形で残っていることが明らかになった。

     社会的変化のうち、家族関係は、時間が経過するとともに強固なものになったが、一方で、死別体験の当事者は、周囲との関わりに困難を感じていた様子が示された。

     また、強い悲しみにより身体的変化が生じたが、時間の経過に伴って悲しみが和らぎ、対処行動がとれるようになると、その反応は消失していた。

     そのなかで子どもは、悲しみへの対処の仕方を理解し実践することによって、徐々に自分のなかで悲しみを整理しながら生活できるようになっていた。

  • ―本人及びその保護者からのインタビュー調査より―
    鎌塚 優子, 古川 恵美
    2013 年 8 巻 1 号 p. 86-101
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究では、広汎性発達障害を持つ子どもの心身の健康問題への対処方法を検討するために、青年期の当事者とその保護者12名を対象とし、グループ・インタビュー及び個人インタビューを実施し、本人及び保護者が経験した問題点を明らかにした。さらにその結果を踏まえて、対処方法について検討することを目的とした。

     その結果、当事者からは、[原因不明への不安][頻繁な同症状への疑問][症状が進行していく段階的な知覚困難][状態説明の技術不足][同症状に疾病のバリエーションがある事の認識不足][疼痛鈍麻][検査方法の理解困難][支援してもらえない無力感]、保護者からは、「身体感覚の鈍麻による症状・状態の認識困難に対する困惑」「身体感覚の過敏性による過剰反応に対する困惑」「食に関する調整・特異な習慣・工夫・嗜好性への困惑」「睡眠に関する調整困難」「身体バランス・動作のぎこちなさ・不可解な動きへの困惑」「成長・発達の遅れへの不安」「検査・病院受診時の対応困難」「精神症状への対応不安」「適切な対人関係を構築できない不安」の問題点が抽出された。

     これらの結果から、広汎性発達障害を持つ子どもたちには、健康問題に対する気づきを促す事が重要であり、事前に病気やけがについての知識を学習しておくことや客観的に身体の状態を知るための機器などによる測定方法の習得が必要であること、健康問題が起きたときの対処方法を獲得するために表現技術を習得することが大切であることが示された。さらに健康問題が起きた時に本人が知覚しにくい特性を持つため周囲が理解すべき支援の方向性として、教職員が障害特性を理解し日常の観察力を磨くこと、校内の物理的な環境調整、食に関する指導への配慮、検査方法等の工夫、早期の体系的な保健教育のプログラムを開発、保護者に対する理解の重要性が示唆された。

  • 西森 菜穂, 遠藤 伸子
    2013 年 8 巻 1 号 p. 102-116
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     近年、専門性の向上に役立つとされ、養護教諭を対象としたフィジカルアセスメントへの関心が高まっている。しかし、養護教諭養成機関におけるフィジカルアセスメント教育の実態については明らかになっていない。そこで、本研究では、養護教諭養成機関におけるフィジカルアセスメント教育の実施状況と養成を担当する者の認識について明らかにすることを目的に調査を行った。全国の養成機関153校に対し、郵送法にて無記名の質問紙調査を実施した結果、53校より回答が得られた。回答の得られた養成機関の8割が、フィジカルアセスメント教育を実施していたが、看護学系とそれ以外の養成機関では、フィジカルアセスメント教育の実施状況が異なっていた。特に、「頭部」、「腹部」、「四肢」など、部位別に頭から爪先までを対象とする系統別の教育については、看護学系以外の養成機関において、実施されていない状況がみられた。しかし、症状別のフィジカルアセスメント教育については、養成機関による実施状況の差はみられなかった。一方、教育すべき内容については、症状別に教授するアセスメント項目が、部位別のアセスメント項目よりも、教授すべき必要性が高いと認識されていることがわかった。以上から、看護師養成で行われているフィジカルアセスメント教育をそのまま導入するのではなく、養護教諭に特化した教育の内容及び方法について養成者間で吟味する必要性が示唆された。

  • 籠谷 恵, 岡田 加奈子, 塚越 潤
    2013 年 8 巻 1 号 p. 117-130
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

    目的:「中学校保健室登校支援」における「養護教諭の認識プロセスとその影響要因」を明らかにすることを目的とした。

    方法:「中学校保健室登校生徒」が「発達上、好ましい方向に向かっていると養護教諭が判断した」16事例をM-GTAにより分析した。

    結果と考察:「中学校保健室登校支援」において、養護教諭は生徒理解が《深まり》、生徒の〈意思尊重〉をしながら〈支援範囲〉と〈優先順位〉の《見極め》を行う【判断プロセス】と生徒の《ステップアップの期待》と生徒に寄り添いながら支援をしていく《伴走者》としての思いを包含した【成長へのまなざし】を照らし合わせながら、支援を行っていた。また、【スクールメイト要因】は、生徒の《心理的変容》と《登校行動の変化》を包含した、養護教諭による生徒の【変化への気づき】に影響しており、これが新たに【判断プロセス】に至るというプロセスを経ていた。

実践研究
  • ―「家族のふれあい」と「ストレスマネジメント教育」を通して―
    山部 真理
    2013 年 8 巻 1 号 p. 131-144
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     子どもを取り巻く社会環境や生活行動の影響により、子どもの心の健康問題が深刻化している。これらの健康課題解決に向けて、学校・家庭・地域が協力した取組を行うために、地域学校保健委員会の活動と連携した取組を行った。その内容は、子どもの心の健康の保持増進を目的とした、「家族のふれあい」と「ストレスマネジメント教育」を柱にした実践である。子どもの心の健康には、家族の対話やふれあいが大切であることから、「家族ふれあいの日(ノーテレビ・ノーゲームデー)」に取り組んだ結果、家族との会話や一緒にすごす時間を増やす効果があり、保護者の意識を高めることにつながった。また、リラクゼーションを中心としたストレスマネジメント教育に取り組んだ結果、リラクゼーションの効果を実感し、その後の生活の中でリラクゼーションを活用する児童が多く見られた。ストレスマネジメント教育を継続して行ったにもかかわらず、ストレスを感じる児童の割合の減少には至らなかったが、ストレスに対するコーピングの力をつける効果が認められた。これら2つの取組を通して、子どもの心の健康問題について地域学校保健委員会と連携した取組を行った結果、学校・家庭・地域の共通理解を図ることができ、協力体制や連携が強化され、組織で取り組むことの有効性・重要性が示唆された。

資料
  • ―都内養護教諭を対象としたインタビュー調査から―
    杉崎 海, 朝倉 隆司
    2013 年 8 巻 1 号 p. 145-157
    発行日: 2013/04/30
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、養護教諭が保健室という空間をどのように構築しているのか、そのプロセスを説明し、そのプロセスに潜在化している経験則や養護教諭の共通した配慮を明らかにすることである。そのために、われわれは養護教諭の保健室観を検討し、それが保健室の機能や空間整備とどのように関連しているのかを検討した。

     対象者は、東京都内の国公立学校に勤務する養護教諭10名である。半構造化インタビューを2011年8月から12月にかけて実施した。対象者には、保健室観や、保健室の役割、機能、良い空間整備についてどのように考えているかを質問した。また、どのようにして機能を最大限に生かすように保健室の空間を利用しているかも尋ねた。

     インタビュー・データの分析により、養護教諭の保健室に対する役割期待と、保健室とはどのようにあるべきかという保健室観が、保健室が果たすべき機能の規定へと結びつく。そして、その機能が、それを最大限有効にするように保健室の空間整備の仕方に影響するという図式化をした。そして、保健室の機能と各コーナーの配置との関連性について検討を行い、保健室の各コーナーのレイアウトに対する対象者に共通した配慮について明らかにした。また、養護教諭の理念を具体化した保健室づくりの実現を制約している要因として、予算、スペース、養護教諭の職務上の問題が存在することも明らかにした。最後に、本研究の限界と課題についても考察を加えた。

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