日本ヒューマンケア科学会誌
Online ISSN : 2436-0309
Print ISSN : 1882-6962
3 巻, 1 号
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巻頭言
総説
  • 認知症の発症機序と予防
    嵯峨井 勝
    原稿種別: 総説
    2010 年 3 巻 1 号 p. 6-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

     高齢者の認知症は、大別すると脳血管性認知症とアルツハイマー型認知症に分けられる。脳血管性認知症は比較的細い血管があちこちでつまる多発性脳梗塞である。一方、アルツハイマー型認知症はアミロイド-β-タンパク質 (Aβ) が凝集・蓄積し、これが脳神経細胞を破壊する病気である。両疾患の発症には活性酸素が深く関わっている。前者は活性酸素によるLDLの酸化に伴う動脈硬化であり、後者はAβが鉄や銅、亜鉛などと複合体を作り、それが活性酸素を多量に発生させることによる。このメカニズムの重要性は、治療法開発戦略と認知症になりやすい生活習慣あるいはその予防法を見れば納得できる。認知症は生活習慣病といえる面がある。

     認知症になりやすい生活習慣として、まずエネルギーの過剰摂取が上げられる。特に、動物性脂肪やアルコールの過剰摂取である。次いで、野菜・果物、抗酸化性ビタミン、B系ビタミン、ミネラルや魚の摂取不足などがあげられ、運動不足や喫煙も危険因子である。

     本稿では、生活習慣が認知症の原因になる仕組み、活性酸素とどう関っているのか、予防等について紹介する。

原著論文
  • 大関 信子, ノールズ アラン, 浅田 豊
    原稿種別: 原著論文
    2010 年 3 巻 1 号 p. 25-39
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

     [目的] 文部科学省の政策により、日本で学ぶ外国人の数が増加しているが、外国人学生の生活や健康状態を調査した報告は少ない。本調査では外国人学生を対象に、ラザラスのストレス理論を基にstress,personality,coping strategies,mental healthの関連を分析し、メンタルヘルス上ハイリスク学生の特徴を明らかにすることを目的とした。本研究の意義は、これら増加する外国人学生へのサポートのあり方を検討する資料とすることである。

     [方法] 研究デザインは、因子探索型・因子関連型横断的量的研究である。全国5大学の協力を得てconvenience sampling法により無記名自記式質問紙を638部配布し、143部を分析に用いた。[結果] ストレス要因、性格特性、コーピング方法とメンタルヘルスには一連の関連が見られた。メンタルヘルス上ハイリスクなのは、男子学生(GHQ M=4.15,SD=4.5) より女子学生(GHQ M=6.6,SD=6.7)であった。特に、Type Aは男女とも最も注意を要する。女子学生は情動関連のストレス要因 (孤独、ホームシック、不安の増大、日本での生活への失望観) に弱く、また、情動中心型ストレスコーピング方法を用いており、メンタルヘルス状態も男子学生より悪かった。[考察] ウィメンズヘルス及びメンタルヘルス上注意を要するのは、Type Aの女子学生であり、情動関連のストレス要因に配慮した支援策、及び有効なストレスコーピング方法がとれる支援策が今後の課題である。

  • 伊藤 治幸
    原稿種別: 原著論文
    2010 年 3 巻 1 号 p. 40-51
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は,統合失調症をもつ精神障がい者の小規模作業所における地域交流活動への参加実態と参加への影響要因ならびにQOLとの関連を明らかにすることである.

     その結果,地域交流活動への参加機会があった者は,3種類の活動の中では,「収入を伴う活動」に参加機会のある者が最も多かった.関連要因としては,『QOL項目』のなかの日常生活への満足感と「3種類を総合した地域交流活動」及び「収入を伴う活動」への参加割合との間に統計学的有意差がみられた.また,『SECL尺度得点』と「3種類を総合した地域交流活動」,「収入を伴う活動」,「ボランティア活動」への参加割合との聞に統計学的有意差がみられた.作業所における地域住民との交流が充実することで作業所通所者の日常生活への満足感に寄与する可能性が示唆された.また,参加に影響を及ぼす要因として,『SECL尺度得点』との聞に関連がみられたことから,地域交流活動への参加を促進するためには地域生活への自信をつけるための支援が必要である.

研究報告
  • 清水 健史, 伊藤 治幸, 藤井 博英
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 3 巻 1 号 p. 52-59
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

     本研究は、地域において精神障害者への就労支援を行っている施設職員を対象に、精神障害者の就労支援をどのように捉え、そしてどのように実践しているのかを明らかにすることを目的とした。7名の就労支援を行っている施設職員を対象にインタビュー調査を行いKJ法を用いて分析した。その結果、1. 作業 (仕事) に対する堅実さと地域とのつながりの獲得、2. 就労支援における体調管理と再発予防、3. 本人の主体性を重視した就労支援の3点が明らかになった。

     これらの精神障害者に対する就労支援の実際は、保健医療福祉領域における連携を強化するための基礎資料になるとともに、精神障害者への効果的な就労支援のあり方の一端を明らかにするものと考えられた。

  • 山本 加奈子, リボウィッツ よし子
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 3 巻 1 号 p. 60-67
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

     ラオス北部小学校における寄生虫症に関する健康教育の母親への伝達の実態を明らかにすることを目的に,成人女性69名を対象に半構成的面接調査を行いKJ法で分析した.分析は小学校で健康教育が行われていることが伝えられていた13名の事例を対象とした.伝達した学童の感染率は54.5%,感染の有無には関係なく「話好き」の学童が伝達する傾向があり学童の親ではない女性2人にも伝達されていた.伝達された内容は,経験したこと,嬉しかったことなど断片的な内容に限られ,健康教育の具体的な内容までは伝わりにくい傾向があった.また,親は子どもが話した内容を覚えておらず,親の既存の知識・態度・行動に影響を与えていなかった.親の世代の就学率が低いラオスにおいては学校での健康教育を通した地域保健への啓発が意義を持つものと考えるが,それに反して教育内容の地域への伝達効果は決して高くなく,子どもの発達段階の特徴を加味し子どもが伝えることを意識化できるような教育的な技法を用いた健康教育を一層工夫する必要があると考える.

  • 山田 真司, 駒田 亜衣
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 3 巻 1 号 p. 68-74
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

     大学等での授業では受講生の負担感を把握した上で,適切な分量の課題等を用意することが望ましい.従来,これらの判断は経験に基づいて行われてきたが,本来はエビデンスに基づいて判断すべきであろう.負担感を客観的に評価するための尺度としてはストレス値を用いることが考えられる.本稿では侵襲性がなく簡易にストレスを測定できる唾液アミラーゼ活性に基づくストレス計測法を採用し,これを大学の情報処理演習系科目受講生の負担感の客観的評価尺度として用いた.また,質問紙による主観的疲労感との関係を調べ,疲労感と客観的ストレスとの関連は弱く,主観的ストレスと客観的ストレスの間の関連の方が強いこと,授業内容に対する興味や,授業進度や授業の分量に対する主観的感覚は客観的ストレスに寄与を持つことが分かった.

  • ―看護師の語りから―
    山田 隆子, 名越 恵美, 藤野 文代
    原稿種別: 研究報告
    2010 年 3 巻 1 号 p. 75-82
    発行日: 2010年
    公開日: 2022/06/04
    ジャーナル フリー

     肝細胞がん患者への看護体験を持つ看護師を対象として、語られた看護体験から肝細胞がん患者へのケアの様相を明らかにすることを研究目的とした。消化器内科病棟に勤務する看護師17名を対象に、看護体験を半構成的面接法による面接を行い、KJ法を用いた質的帰納的方法にて分析した。5段階による分析の結果、4つのシンボルマーク【長い療養経過における患者への思い】【療養中の患者の姿を抱く】【看護体験からより良い看護を考える】【今後の看護のために必要なケア】で構成された。看護師が抱く患者の姿や患者への思いが看護を深め、ケアを導き出すという一連のケアの様相が明らかになった。【今後の看護のために必要なケア】として、〈患者の状況にあった療養指導〉〈肝臓のイメージ化への工夫〉〈患者が語ることでの意思の確認〉〈医療チームでの関わり〉があり、それらを担えるシステムが必要であると考える。

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