中学生を対象に,「食べ物に感謝し,食べ物を大切にする」食意識・食行動と生産体験の有無とのかかわりを知るために,アンケート調査をおこなった。調査は,漁業地域・農業地域・都市農業体験あり・都市農業体験なしの4グループを設定して行い,分析した結果,次のことがわかった。1)居住地域は生産体験の有無に影響を及ぼし,栽培体験が農業地域で,釣り体験が漁業地域で,飼育体験が農業地域で多くなっていたが,居住地域によって食行動や食意識の違いは少なかった。2)食べ物を大切にする意識や行動には,穀物や野菜などの作物を育む栽培体験が影響を及ぼしていた。3)「食べ物のいのちに対する認識」は,魚をおろす体験や動物の飼育・解体体験によって育成される可能性があることが示唆された。4)「食べ物のいのちに対する認識」をもつ生徒の方が,食べ物を捨てたりせずに大切にする行動をする生徒が多かった。5)栽培・動物の解体などの生産体験は,意図的な学びと結びつくことによって,食べ物のいのちに対する認識を促す傾向があった。6)加工度の低い食べ物にいのちを感じており,また穀物や野菜の栽培、肉の調理、魚をおろすなどの体験をとおして,いのちをより強く感じる傾向があった。以上から,食べ物に感謝し大切にする意識を育むためには、栽培,飼育,解体,加工度が低く原材料に近い食品の加工や調理などの生産体験をとおして,「食べ物はいのちである」という認識を形成することが大切であると考える。したがって,こうした学びを家庭科の授業に取り入れることが必要であると考える。
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