高等学校家庭科の履修単位数をめぐる問題点を把握するため,全国21都道府県立全日制普通科高等学校1311校の家庭科主任に,郵送による質問紙調査を実施して621校から回答が得られた。それらを分析した結果,以下のことが明らかとなった。○家庭科の専任のいない高等学校が6.1%,専任1人が62.5%で,約7割の普通科高等学校は専任が1人以下であった。しかも,専任の6割は,家庭科に加えて「総合的な学習の時間」「情報」「福祉」などの教科等を担当しており,家庭科のみでは専任1人配置が難しい状況である。○家庭科必修科目は,標準単位数で履修しているとは限らないが,必修科目の2単位履修率は55.8%にのぼる。○34.6%が教育課程編成に家庭科教員の意見が反映されないとし,現在8.2%が履修単位の減少を勧められでいた。意見が反映されない学校では,8割が家庭科必修科目は2単位履修であり,生徒や教員,学校の家庭科に対する理解が低い。○約7割の家庭科教員が家庭科必修科目の履修単位の減少を経験し,履修単位の減少によって「衣生活」「住生活」の分野を削減し,「実習時間」「調べ学習」の学習活動を減少させていた。○家庭科の履修単位が減少して困っていることで多かったのは,専任が減らされ,教科の相談をする人がいないことである。履修単位の削減経験者の約9割は,履修単位の減少をマイナスと捉えていた。内容の削減,生徒の生活スキルの低下の他,履修単位の減少は家庭科に対する評価・重要度の低下になっている。○家庭科教員は,家庭科の教科観を「自立」と「共生」と捉え,授業でもそれらの実現のため「生活の知識・技術」「問題解決能力」「人とかかわる力」を重視して指導している人が多い。8割の教員が家庭科の必修4単位以上を希望し,単位増になれば,「実習」「交流活動」「調べ学習」を追加したいと考えている。○都道府県家庭科部会などで履修単位の減少に関する取り組みがあると約7割が回答しているが,履修単位の増加への運動を起こすまでには至っていない。以上の結果から,平成15(2003)年以降,家庭科が4単位必修から最低2単位必修になったことによって,約7割の教員が家庭科の履修単位の減少を経験し,家庭科の履修単位の削減によって,家庭科の教員が減らされ,普通科の約7割の学校で専任が1人以下の状況であることが明らかとなった。しかも,必修教科でありながら,家庭科の単位数の授業だけでは専任1人配置が維持できず,専任の6割が他教科を担当しているという現状である。このことは,授業内容にも大きな影響を及ぼしている。すなわち,履修単位の減少によって,「実習時間」「調べ学習」といった体験的学習や問題解決的な学習では欠かせない参加型の学習活動を削減せざるを得ない実態が明らかとなった。高等学校家庭科は昭和35(1960)年以来,4単位必修科目として構想されて来たわけであるが,2単位必修科目の登場によって最低2単位必修となり,学習内容と学習時間の確保が困難な状況である。平成21(2009)年3月告示の学習指導要領で複雑化・多様化する市民生活を背景にして求められる多くの新たな教育内容を取り入れることは不可能に近いと言える。ましてや,家庭科の履修単位の減少が生徒や学校の家庭科に対する理解の低下につながっていることは,自立と共生を核にした家庭科からアプローチする市民性を養い,これからの社会の変化に対応する人材の育成に課題を残すことになる。家庭科教員の約8割が家庭科の4単位以上必修を望んでいることも明らかとなった。今後の学習指導要領の改訂に向けて,このような問題や課題を明らかにしながら,家庭科の履修単位の増加を含む全国規模での組織的な取り組みの必要性が示唆される。
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