日本助産学会誌
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23 巻, 1 号
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原著
  • 中島 久美子, 國清 恭子, 阪本 忍, 荒井 洋子, 常盤 洋子
    2009 年 23 巻 1 号 p. 5-15
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     助産師教育課程を修了した新人助産師の視座から分娩介助・継続事例実習での学びが臨床現場に活かされた内容,臨床現場での困難・苦労の内容,実習で学びたかった内容を明らかにし,分娩介助・継続事例実習指導の課題を検討する。
    対象と方法
     A大学卒業後3~4ヶ月の新人助産師7名を対象とした。データは半構造的面接法により収集し,分析はベレルソンの内容分析法を参考に行った。
    結 果
     新人助産師が感じる実習での学びが臨床現場に活かされた内容の特徴として,【経験に伴う基礎的な助産診断・技術】,【産婦や助産師との関わりの中で学んだ助産師の責任と態度】他2つが抽出された。臨床現場での困難・苦労の内容は,【助産ケア経験の不足から生じる助産診断・技術への戸惑いと難しさ】他3つ,実習で学びたかった内容は,【母乳育児支援に対応するための助産師と共に行う乳房の診断ならびに保健指導】,【妊産褥婦および新生児の対象理解に繋げるための助産診断・技術】他2つが抽出された。
    結 論
     分娩介助・継続事例実習指導の課題として以下の内容が示唆された。
    1.分娩介助一例毎に振り返りを通して学習課題を確認する。
    2.産婦に寄り添うケアの大切さを経験させ,助産師からの助言が受けられる実習環境を調整する。
    3.分娩介助以外の助産ケアを経験できる実習時間の有効活用と学生の学習意欲を引き出す。
    4.モデル的役割を担う助産師の母乳育児支援の場に学生が同席出来る実習環境を調整する。
  • 正岡 経子, 丸山 知子
    2009 年 23 巻 1 号 p. 16-25
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     産婦ケアにおいて助産師が着目している情報を明らかにし,その情報と助産師経験年数および分娩介助件数の関連について分析すること。
    対象と方法
     対象は助産師768名(病院・診療所553名,助産院215名)で,データは自記式質問紙を用いて収集した。質問紙の内容は正常分娩のケアに関する情報177項目で,情報への着目度について5件法で回答をもとめた。分析はSPSS15.0を用いて因子分析を行い,助産師経験年数と分娩介助件数の2要因で分散分析を行った(P<0.05)。経験年数は熟達の10年ルールに基づき10年未満とそれ以上で分類し,分娩件数は10年未満の助産師の中央値を基に300件未満とそれ以上に分類した。
    結 果
     質問紙は437名から回収され(回収率56.9%),有効回答数は433名(有効回答率56.4%)であった。177項目の因子分析の結果,助産師の着目情報は17因子(82項目)に分類された(累積寄与率67.9%)。17因子には,産婦の身体面や心理面,ケアの希望,家族や出産環境の情報が含まれていた。17因子について助産師経験年数10年以上と10年未満で比較した結果,10年以上の助産師は9因子の着目度が有意に高かった(P<0.01)。その内容は,産婦の心理面や家族,臍帯切断の時期や会陰保護などケアの希望,月と潮の動きに関する情報であった。経験年数で有意差のなかった8因子は,産婦の身体的変化や医療機器のデータ,室内の環境などの情報であった。17因子と分娩介助件数300件未満と300件以上では,有意差はなかった。
    結 論
     17因子は,助産師が産婦ケアを行う上で大切にしている具体的な情報の全体像を示している。経験年数で差のなかった8因子は視覚的・客観的な情報であり,9因子は洞察力やコミュニケーション能力,多様なニーズの対処能力が関連する情報である。この9因子は,10年以上の経験の中で獲得した助産師の能力を反映していると考える。
  • 西方 真弓
    2009 年 23 巻 1 号 p. 26-36
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は,母体搬送を経て出産に至った経験を当事者である女性がどのように認知していったのか,その過程を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     2施設の周産期医療施設において母体搬送を経験し,出産後約1ヶ月が経過した女性5名を研究参加者とした。参加者に半構成的面接を実施し,データ収集を行った。得られたデータを質的に記述し,分析を行った。
    結 果
     5名の語りから,母体搬送を経て出産に至った女性の経験における認知過程を分析した結果,6つのカテゴリーと,それぞれに位置づく15のサブカテゴリーが抽出された。
     搬送を経て出産に至った女性は,想定外の状況や緊迫した医療者の対応から自分と子どもの身の不確かさを感じ取りながらも“医療者に身を委ねる”しかなかった。その主体的な判断ができない状況から抜け出そうと“医療者の説明や過去の経験から現状を察知”していた。しかし,現状を把握したことによって,自分が望んでいた状態には戻ることができない“逃れられない状況を受け入れる”しかなかった。女性は,一日でも長い妊娠の継続,出生直後から適切な医療を受けさせることが自分に与えられた使命と悟り“子どもの安全を一番に思い決定”した。出産後は,自分が描いていた妊娠・出産と異なる代替的な方法を選んだ結果を価値あることと意味づけ,理想と現実の不一致を修正しつつ“揺らぎながら出産体験を統合”していた。女性は,自分を取り巻く,家族や同室者,医療者などの“周囲に存在する人を拠りどころ”としながら現状の察知や受け入れ,決定,出産体験の統合を行っていた。
    結 論
     母体搬送を経て出産に至った女性が,今回の出産にまつわる一連の出来事を自分の経験として再構築していくために,当事者が状況を理解できるような周囲の支援が必要である。また,やむを得ず代替的な方法を選択するしかなかった状況を女性自らが,意味づけられるような関わりの必要性が示唆された。
  • 島田 真理恵, 茅島 江子, 鈴木 美和
    2009 年 23 巻 1 号 p. 37-47
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     乳幼児を育児中の女性の月経周期各期における月経随伴症状の実態と月経随伴症状タイプ別にみた月経周期による子どもへの対応状況の変化を明らかにする。また,月経随伴症状タイプによって,睡眠状況や健康状態,育児サポートに対する受け止め,生活に対する満足感,育児に対する感情に差があるかどうかを明らかにする。
    対象と方法
     乳幼児を育児中の女性192名に対し,月経周期各期(月経後,月経前,月経期)における月経随伴症状と子どもへの対応状況について質問紙調査した。また,初回調査時には,睡眠状況や健康状態,育児サポートに対する受け止め,生活に対する満足度,育児に対する感情についても回答を得た。有効回答者172名(89.6%)の結果を統計的に分析した。
    結 果
    1.対象(平均年齢35.6歳)を月経随伴症状のタイプ別に分類した結果,月経随伴症状が軽微な者が60名(34.9%),月経痛症の傾向がある者が29名(16.9%),PEMSの傾向のある者が53名(30.8%),PMSの傾向のある者が30名(17.4%)であった。
    2.月経随伴症状タイプ別にみた月経周期による子どもへの対応状況の変化では,PEMSの傾向がある群は,月経期において感情的対応,養育的対応得点がともに有意に低下した。
    3.PEMSの傾向がある群は,他群と比較して,疲れやすい・体調を崩しやすいと回答した者の割合が多かった。また,月経随伴症状が軽微な群と比較して,育児サポートに対する受け止めにおける「夫の育児・協力」の得点が有意に低く,過去および現在の生活の満足度を示す得点も有意に低かった。
    結 論
     乳幼児を育児中の成熟期女性の月経随伴症状を分類した結果,PMSのみならず10~20歳前半女性に多いと言われるPEMSの傾向にある者が多く存在する可能性があることが明らかとなった。また,PEMSの傾向がある者は,月経期において子どもへの対応能力が低下する,夫のサポートが十分でないと認識する,生活に対する満足感が低いという傾向がみられた。育児支援においては,対象となる女性の月経随伴症状の把握やその軽減への援助を考慮する視点も必要である。
  • 新川 治子, 島田 三恵子, 早瀬 麻子, 乾 つぶら
    2009 年 23 巻 1 号 p. 48-58
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は最近の妊婦におけるマイナートラブル(以下MSとする)の種類,発症時期,発症率,及び発症頻度を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     全国から抽出した11医療機関に通院中の623名(初期56名,中期201名,末期366名,平均28.1±8.0週)の妊婦を対象に質問紙調査を行った。調査票は先行研究,MSに関連する症状,及び妊産褥婦から聞き取った症状から95の不快症状に関する質問項目で作成した。
    結 果
     50%以上の妊婦に発症している症状が95の不快症状のうち45症状あった。発症率が高い(50%以上),または発症頻度の高い(「たびたびある」から「いつもある」)47症状をMSとして抽出した。易疲労感,頻尿,全身倦怠感は,妊娠全期間を通じて90%以上の妊婦に発症するMSであり,有症者における発症頻度も高かった。妊婦1人あたりのMS発症数は2から46症状で,平均27.0(±10.4)症状であった。初経産別での1人あたりのMS発症数に有意差はなかった。未就労妊婦の方が就労妊婦より1人あたりのMS発症数が有意に多く,特に未就労初産婦の発症数が多かった。妊娠時期により1人あたりのMS発症数に有意差はないが,発症率の高い症状は異なっていた。
     因子分析により「胎児の発育に関連する筋関節症状群」,「上部消化器症状群」,「睡眠関連症状群」,「便秘関連症状群」,「ネガティブな精神症状群」の5症状群が抽出された。
    結 論
     MSに関する実態調査を行った結果,妊婦の生活習慣や環境の変化,就業状況の変化に伴って,従前のMSに無い症状や発症率の異なる症状が明らかとなった。対象の属性や妊娠時期により好発症状にも違いがあることから,適切な時期に妊婦の状況にあった助言することが重要である。
  • 蛭田 明子
    2009 年 23 巻 1 号 p. 59-71
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     死産を体験した母親が悲嘆の過程において亡くなった子どもの存在をどのように捉えているのか,母親達の語りを記述すること。
    方 法
     質的記述的研究。一人2~3回,非構成的な面接法を用いてインタビューを施行した。インタビューテープを逐語録に起こし,各研究協力者の体験を記述し,亡くなった子どもに関連するテーマで共通性を見出した。その後亡くなった子どもを中心とした体験を記述・構造化し,質的帰納的に分析した。
    対 象
     周産期の喪失を体験した両親の集まるセルフヘルプグループに参加していた,死産を体験した5名の母親。
    結 果
     死産による喪失初期の子どもの存在は,母親にとって《苦悩を伴う存在》であった。その構成要素には,〈かわいい我が子〉,〈死者としての子ども〉,〈命を救えなかった子ども〉,〈社会では軽視される子ども〉,〈目の前にいない子ども〉があった。しかし時間の経過とともに,子どもの存在は《人生を共に歩む存在》として位置づけられていた。その構成要素は,〈母親としてのアイデンティティを育む語りにおける子どもの存在〉,〈安定した子どもの位置づけ〉,〈母親の人間的成長を促す子どもの存在〉であった。
    結 論
     喪失の初期には,子どもへの愛情を抱きながらも後悔や罪悪感,傷つき,空虚感といった苦悩が強かったが,時間の経過とともに,子どものことを語ることや思い出の品を通し,子どもを自分の人生に組み込み,人間的成長を遂げていた。この過程においては,死産という生きて共に過ごす時間をもたなかった子どもとの死別であっても,常に子どもの存在に向き合う母親達の姿があった。
  • 木村 晶子
    2009 年 23 巻 1 号 p. 72-82
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は,産科病棟でハイリスク児の母親のケアを行っている助産師がどのような体験をしているかを明らかにすることを目的とした。
    研究協力者と方法
     本研究の研究協力者は,NICUを標榜する病院の産婦人科病棟に勤務し,過去3年以内にハイリスク児の母親とかかわった経験のある助産師10名である。
     本研究は現象学的アプローチによる質的研究デザインを用い,データ収集は非構成的面接法により行った。データの分析は1)インタビュー内容を逐語録化,2)データを繰り返し読み語られた世界をイメージする,3)研究協力者ごとの「助産師の体験」を「仮テーマ」として表現する,4)仮テーマを他の研究協力者のデータからも解釈する,5)10名の研究協力者全体における「助産師の体験」を示すテーマへと統合し,テーマを裏付けるデータと解釈を記述,6)「助産師の体験」の根底にある本質の探究を通して助産師の体験を統合化する,の6つの手順で行った。また,研究者自身の臨床体験について内省し,研究協力者の体験に近づくことに役立てた。
    結 果
     ハイリスク児の母親とかかわる産科病棟の助産師の体験の本質には,ハイリスク児の母親は悲嘆から受容への心理過程をたどるというイメージ,「児を受けいれてほしい」という願い,母親の思いを聴かなければならないという使命感・役割意識があった。このような本質に支えられた助産師の体験の特質をあらわすテーマとして次の5つがあった。テーマ1:児を受け入れてほしい,テーマ2:母親の気持ちにあわせたケアをしたい,テーマ3:母親にはこれ以上のストレスをためてほしくない,テーマ4:思いを聴くことの難しさ,テーマ5:もっとゆっくりかかわりたい。
    結 論
     今回,産科病棟でハイリスク児の母親とかかわる助産師の体験が明らかになった。このような体験を理解するとともに,今後は,助産師が自信をもってケアにあたれるように傾聴の技術を含めたトレーニングが必要である。
資料
  • 林 はるみ, 佐山 光子
    2009 年 23 巻 1 号 p. 83-92
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/26
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は,生殖補助医療で妊娠した女性が,治療の成功から出産に至るまでどのような感情のプロセスをたどるのかを質的研究によって浮き彫りにすることである。
    対象と方法
     研究の参加者は,生殖補助医療によって妊娠し,初めて出産した産後1~6ヶ月の女性で倫理的手続きを経て研究協力の承諾が得られた8名。半構成的面接を行い,その逐語記録をデータとし,現象学的アプローチによって質的記述的に分析した。本研究における感情とは,外界の刺激に応じて絶えず変化する,快・不快,喜び,怒り,悲しみなどの気持ちと定義する。
    結 果
     妊娠から出産への通時的な流れの中で,主要テーマは,【妊娠したことによる使命感と重圧】,【嫉妬心を避けるための気遣い】,【不安に立ち向かうための知恵】,【母親の自覚】,【孤独感からの解放】,【自信の回復】,【不妊や治療経験の肯定的受容】,【成長した自己の確認】,【妊娠の喜びの実感】の9つに集約された。妊娠が判明すると,妊娠の喜びを感じる一方で,祝福されることによる重圧を感じていた。妊婦として受診する時は,不妊治療をしている人の嫉妬心を避けるために気遣いをしていた。妊娠早期から胎児の母親であることを自覚し,妊娠中の不安に立ち向かっていく中で孤独感から解放され,ひとりではないという感情をもつようになっていた。妊娠5ヶ月を転換期として自信が回復し,不妊や治療経験の肯定的受容と成長した自己の確認がみられた。胎児がいつ生まれてもよい状態になると妊娠の喜びを実感していた。以上のようなダイナミックな感情のプロセスが見出された。
    結 論
     生殖補助医療によって妊娠した女性の感情のプロセスは,9つの主要テーマに集約された。妊娠4ヶ月まではARTによって妊娠した女性特有の感情がみられたが,妊娠5ヶ月が転換期となり,通常の妊婦と大きく変わらない感情をもっていた。
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