日本助産学会誌
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27 巻, 2 号
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原著
  • 谷口 千絵, 木下 千鶴, 齋藤 有希江, 安藤 広子, 恵美須 文枝, 高田 昌代, 和田 雅樹, 田村 正徳
    2013 年 27 巻 2 号 p. 214-225
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/05
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は新生児蘇生法のインストラクターのコンピテンシーを明らかにするとともに助産師のインストラクターとしての課題を明らかにすることである。
    対象と方法
     平成22年10月から平成23年7月に,豊富なインストラクター経験を持つパネリストを対象にデルファイ法による質問紙調査を実施した。調査項目は,一般的なコンピテンシー(ibstp, 2003)に基づき作成した。調査項目はプロフェッショナルの基礎,企画と準備,方法と戦略,評価,マネジメントに関する18のコンピテンシーとその下位項目98項目に,第1回調査結果から1項目を追加した。第1回結果を第2回調査票とともに配布,第2回調査結果の回答の一致率を算出し,第2回の調査結果によりほぼ意見が集約したと判断した。
    結 果
     パネリスト(22名に配布し20名が2回までの調査を完了:回収率90.9%)のインストラクション実績は12.9±13.8(平均±標準偏差)回であった。パネリスト間で一致率が高いコンピテンシーは,「効果的なコミュニケーション」「プロフェッショナルとしての信用を確立する」「受講者が意欲的に集中して学べるように働きかける」「インストラクションの効果を評価する」であった。低いものは「学んだ知識をスキルが持続するように働きかける」「学んだ知識やスキルが実際に使えるように働きかける」「インストラクションの方法と教材を企画準備する」「明確な説明とフィードバックを与える」「学習効果とその実用性を評価する」「適切なテクノロジーを使ってインストラクションのプロセスを管理する」であった。自由記載では「助産師は新生児の病態生理の知識が十分とはいえない場合もある」「インストラクターへのインストラクションのフィードバックがない」等の意見があった。
    考 察
     受講者との双方向的なコミュニケーションや受講者の意欲を維持するためのコンピテンシーが求められると考えられた。また,インストラクションの評価は,機会が少ないにも関わらず一致率は高かった。インストラクションの改善のためにも何らかのフィードバックを行う必要性が示唆された。更に課題として,助産師の新生児の病態生理に関する知識の強化が挙げられた。
    結 論
     助産師のNCPRインストラクターのコンピテンシーとして,パネリストの一致率が高かったものは,「効果的なコミュニケーション」,「プロフェッショナルとしての信用を確立する」,「受講者に意欲的に働きかける」,「インストラクションの効果を評価する」であった。
  • —SKILLED BIRTH ATTENDANTSへの示唆—
    五味 麻美
    2013 年 27 巻 2 号 p. 226-236
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/05
    ジャーナル フリー
    目 的
     バングラデシュ農村部における女性の出産に対するケア・ニーズを明らかにすることにより,Skilled Birth Attendants(SBA)のあり方について示唆を得ること。
    対象と方法
     研究対象者はボグラ県農村部に居住し,過去1年以内に出産を経験した女性9名である。本研究の趣旨と倫理的配慮について説明し,自由意思に基づき研究協力の同意を得られた方を県内の3村から各3名ずつ選出した。研究デザインは質的・帰納的記述研究である。フィールドワークを通してフィールドノートと研究対象者への半構成的面接データ,キーインフォーマントへの非構成的面接データを収集し,半構成的面接データは質的・帰納的に分析を進めた。面接は通訳を介さず研究者が直接ベンガル語(公用語)で実施した。
    結 果
     バングラデシュ農村部の女性の出産に対するケア・ニーズとして【家で産むための支援】,【親族の立会いで産むための支援】,【無事に丈夫な子を得るための支援】の3コアカテゴリーが抽出された。またケア・ニーズには宗教や慣習が大きく影響を与えていることが確認された。女性たちの語りからSBAは妊娠期の有益な情報提供者,異常時の援助者としては受け入れられつつあるものの出産時の精神的な支えとなる存在としては捉えられておらず,正常出産では親族を中心としたTBAが優位に選択されている現状が明らかになった。
    結 論
     バングラデシュ農村部においてSBA が出産時の立会い者として選択されるためには,医療者として根拠に基づいたケアを実践するためのアセスメント力,判断力,実践力,特に基本的な産科緊急対応力を高め,専門性を適切に発揮しつつも宗教を含めた社会文化的背景を広く考慮し,女性と家族のニーズを尊重し意思決定を支える関わりを持つことが必要である。
  • —産後6~7か月までの「愛着養育バランス」尺度の変化から—
    武田 江里子, 小林 康江
    2013 年 27 巻 2 号 p. 237-246
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/05
    ジャーナル フリー
    目 的
     母親の養育システムの発達を測定する尺度として開発された「愛着—養育バランス」尺度の経時的変化をみることで,産後6~7か月までの母親の養育者としての発達過程を明らかにし,発達状況に応じた支援策を講じるための基礎資料を得る。
    方 法
     産後1か月健診を受診した母親に継続調査を依頼し,産後6~7か月時までの調査で有効回答の得られた116名を分析対象とした。調査票はすべて郵送にて回収した。「愛着—養育バランス」尺度と出産歴および育児相談者の有無を調査内容とした。「愛着—養育バランス」尺度を構成する6因子の推移については一元配置分散分析にて比較し,子どもの月齢や初産婦か経産婦かの6因子への影響を共分散構造分析にて確認した。
    結 果
     6因子の中で初産婦・経産婦で有意差がみられたのは,産後1か月時で「適応:愛着」「敏感性:愛着」「敏感性:養育」,産後3~4か月時と産後6~7か月時で「敏感性:愛着」であった。産後の3つの時期で有意差がみられたのは,初産婦で「適応:愛着」「敏感性:養育」であり,経産婦で「敏感性:養育」であった。出産歴および子どもの月齢は6因子のいくつかに有意に影響していたが,推定値が0.2以上であったのは,出産歴と「敏感性:愛着」,子どもの月齢と「敏感性:養育」のみであり,いずれも決定係数は1割程度であった。
    結 論
     産後1か月から6~7か月は,「適応:愛着」が低下し,「敏感性:養育」が上昇した。「敏感性:愛着」は時期での有意差はなかったが,経産婦の方が高い傾向がみられた。子どもの月齢や初産婦か経産婦かは,養育システムへの影響要因ではあったが強い影響とは言えなかった。以上より,養育者としての発達は,安易に初産婦・経産婦とか,子どもの月齢によって判断するのではなく,6因子それぞれの発達状況とそこに影響する要因をアセスメント材料の一つとして用いることで,有効な支援策に結びつくと考える。
  • 藤田 景子
    2013 年 27 巻 2 号 p. 247-256
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/05
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は,DV被害女性と看護者の2者の視点から周産期及び育児期におけるDV被害女性の回復を促す助産ケアの要素を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     質的記述的研究デザインを用いた。研究協力者は(1)妊娠前からDV被害を受けており産科を受診した経験のあるDV被害女性21名と,(1)のDV被害女性に良い変化を及ぼした看護者10名である。インタビューガイドを用いた半構成インタビューを行い,データを質的に分析した。
    結 果
     DV被害女性の被害に対する認識に良い変化を及ぼした看護者の関わりは〈女性と子どもの安全・安心を守る関わり〉,〈女性が自分らしさを取り戻す関わり〉,〈母親としての自己意識を促す関わり〉が抽出され,コアカテゴリーとして他者と《つながる関係の形成》が明らかになった。〈女性と子どもの安全・安心を守る関わり〉は,看護者が〔女性が安全と感じる関係を築きながらDVのアセスメントと情報提供を行う〕,〔女性と子どもの安全かつ安心の場を作る〕ことにより,女性は看護者を自分のことをわかってくれる人と感じていた。〈女性が自分らしさを取り戻す関わり〉は,看護者は女性が〔自分の存在に意識が向くように促す〕,〔ありのままの「あなた」の存在を肯定する〕,〔一人ではないと感じるつながり続ける関係を作る〕ことで,女性は自分の存在が受け入れられていると感じていた。〈母親としての自己意識を促す関わり〉は,看護者が〔女性自身が命を生み出す主体であることを感じてもらう〕,〔女性自身が子どもを「育てる」力のある存在であることを感じてもらう〕ことで,女性が家を出る力となっていた。
    結 論
     パートナーから暴力を受け孤立していたDV被害女性は,看護者との《つながる関係の形成》の過程で,大切にされる自分の存在を知覚し他者への信頼を取り戻すことで回復に向かっていったと考えられる。よって上記のケアはDV被害からの回復を促す助産ケアの重要な要素であることが示唆された。
  • 水尾 智佐子, 塩野 悦子
    2013 年 27 巻 2 号 p. 257-266
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/05
    ジャーナル フリー
    目 的
     妊娠期に硬膜外麻酔による無痛分娩を選んだ女性がどのような理由で選択し,出産に至るまでにどのような体験をしているかを明らかにし記述する。
    対象と方法
     選択的無痛分娩で出産し母子共に妊娠から産後の経過が順調である女性14名に,産後入院中と1ヶ月健診時に半構成的面接を行い,質的記述的分析を行なった。
    結 果
     妊娠期に無痛分娩を選択する女性には,元来怖がりの特性,産後の体力を温存したい思い・子どもを安全に産みたい思い・前回の不本意な出産を払拭したい思いなどからの特有の背景があり【自分には無痛分娩しかない】と思っていた。さらには海外では主流である情報や経験者の話を聞いて【無痛分娩で産むことを正当化】し,無痛分娩で産むことにより,【妊娠中の安心感を獲得】していた。一方【無痛分娩で産むことの不安】や【無痛分娩への偏見に困惑】し,それぞれに対処しながら妊娠期を過ごしていた。
    結 論
     本研究結果から,妊娠期に無痛分娩を選択する女性は,自分には無痛分娩しかないと思い選択していることと,無痛分娩で産むことへの不安および偏見(という困難な側面に出会っていることを看護者は)を十分に理解し,そのことを配慮した看護支援が望まれる。
資料
  • 清水 かおり, 片岡 弥恵子, 江藤 宏美, 浅井 宏美, 八重 ゆかり, 飯田 眞理子, 堀内 成子, 櫻井 綾香, 田所 由利子
    2013 年 27 巻 2 号 p. 267-278
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/05
    ジャーナル フリー
    目 的
     日本助産学会は,「エビデンスに基づく助産ガイドライン―分娩期2012」(以下,助産ガイドライン)をローリスク妊産婦のスタンダードケアの普及のため作成した。本研究の目的は,助産ガイドラインで示された分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所での現状を明らかにすることを目的とした。
    方 法
     研究協力者は,東京都,神奈川県,千葉県,埼玉県の分娩を取り扱っている病院,診療所,助産所の管理者とした。質問項目は,分娩第1期に関するケア方針18項目であった。調査期間は,2010年10月~2011年7月であった。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて行った(承認番号10-1002)。
    結 果
     研究協力の同意が得られた施設は,255件(回収率37.3%)であり,病院118件(回収率50.2%),診療所66件(20.8%),助産所71件(54.2%)であった。妊娠期から分娩期まで同一医療者による継続ケアの実施は,助産所92.9%,診療所54.7%と高かったが,病院(15.3%)では低かった。分娩誘発方法として卵膜剥離(病院0.8%,診療所3.1%,助産所1.4%)および乳房・乳頭刺激(病院0%,診療所1.5%,助産所5.6%)のルチーンの実施は低かった。入院時の分娩監視装置による胎児心拍の持続モニタリングの実施は,助産所の38%が実施していた。硬膜外麻酔をケースによって行っているのは,病院の31.6%,診療所の31.3%であった。産痛緩和のための分娩第1期の入浴は,助産所では92.7%,病院48.3%,診療所26.7%で可能とされていた。産痛緩和方法として多くの施設で採択されていたのは,体位変換(95%),マッサージ(88%),温罨法(74%),歩行(61%)等であった。陣痛促進を目的とした浣腸をケア方針とする施設は非常に少なかった(病院1.7%,診療所9.1%,助産所1.4%)。人工破膜をルチーンのケア方針としている施設はなかった。
    結 論
     分娩第1期のケア方針について,病院,診療所,助産所における現状と助産ガイドラインのギャップが明らかになった。本研究の結果を基準として,今後助産ガイドラインの評価を行っていく必要がある。本研究の課題は,回収率が低かったことである。さらに,全国のケア方針の現状を明確化する必要がある。
  • —ヒンドゥー教の思想が子育てに及ぼす影響に焦点を当てて—
    田中 和子
    2013 年 27 巻 2 号 p. 279-289
    発行日: 2013年
    公開日: 2014/03/05
    ジャーナル フリー
    目 的
     インドネシアバリ島の現地男性と結婚した日本人女性が,バリ=ヒンドゥー教の思想と子育てとの関係をどのように捉え,子育てをめぐりどのような生活体験をしているのかを明らかにする。
    対象と方法
     研究者はインドネシア,バリ島に約3ヶ月間滞在し,ヒンドゥー教の思想をもつ男性と結婚した日本人女性11名を対象に,バリ=ヒンドゥー教の思想に関連した生活体験がどのように子育てに影響を与えているか,半構造的面接を行い,帰納的に分析し検討した。
    結 果
     分析の結果,12個のカテゴリーと39個のサブカテゴリーが抽出された。
     【バリの生活に馴染む努力】を積極的にする女性たちは,【ヒンドゥー教を受容】することが容易であり,【子どもに民間療法を取り入れる】ことも受容的であった。一方,ヒンドゥー教の受容が難しい場合,【子どもに民間療法を取り入れない】傾向があった。女性たちは,【ヒンドゥー教受容の難しさ】を感じながらも,【みんなで子どもを育てる】バリは日本よりも【子育てに適した環境】と捉えていた。また,女性たちは肯定的に【ヒンドゥー教と子どもの健康は関係する】と考えており,【大家族の生活に戸惑い】ながらも,【みんなで子どもを育てる】ことに感謝していた。女性たちは,【男児尊重の思想を否定】し,かつ思想に関して【子どもに選択肢を与えたい】という思いが,【ヒンドゥー教受容の難しさ】の要因として考えられた。ヒンドゥー教の受容の程度はさまざまであったが,女性たちは【バリで子どもを育てる覚悟】があった。
    結 論
     バリ島で現地男性と結婚し,そこで暮らす日本人女性にとって,バリ=ヒンドゥー教の思想が子育てに大きく影響していた。
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