日本助産学会誌
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34 巻, 1 号
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巻頭言
原著
  • 渡邊 香織, 藤島 和代, 渡邊 友美子
    2020 年 34 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,妊娠中期と後期における,1) 腰痛と歩容指標(人間の歩行動作・歩きぶりを運動学的データにより可視化された指標),および身体活動量の変化の検討,2) これら3つの変数間の関連性を検討することである。

    対象と方法

    対象は正常経過の妊婦35名とした。データ収集は,妊娠中期と妊娠後期の2回,腰痛・歩容指標・身体活動量の測定を実施した。腰痛の測定には,Visual Analog Scale(VAS)を用い,歩容指標は3軸加速度センサーを用いて,歩行の変動係数・規則性・円滑性,体幹の動揺性により分析を行った。身体活動量は生活習慣記録機を3日間以上の装着により計測した。

    結 果

    妊娠中期と後期の比較では,妊娠前の腰痛無の妊婦18名(51.4%)において,妊娠中期よりも後期のVAS値が高かった(p=0.01)。歩数と身体活動の中高強度活動時間は中期よりも後期に減少していた(p=0.01)。歩容指標では,歩行の変動性は,妊娠中期よりも後期に大きくなり(p=0.03),一定のリズムでの歩行が行えていなかった。体幹の動揺性は後期に小さく変化し(p=0.03),体幹の動揺が小さくなっていた。腰痛と歩容指標との相関では,妊娠中期の歩行の円滑性が高いほど後期のVASは低かった(r=−.411~−.517,p<0.05)。歩容指標と身体活動量の相関は,妊娠中期の歩数が多いほど,妊娠後期の体幹の動揺性(r=.436,p<0.05),歩行の規則性(r=.379~460,p<0.05)が高かった。

    結 論

    妊娠後期の歩行は不安定であり,重心動揺を小さくして歩行能力を維持していることから,転倒予防のリスク対策が必要である。妊娠後期まで歩行能力を維持するために,転倒リスクや腰痛も考慮した,安全で簡易な体幹機能トレーニングを含めた運動支援が妊娠中期から必要である。

  • 柏原 由梨恵, 新福 洋子, 堀内 成子
    2020 年 34 巻 1 号 p. 14-24
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/06/09
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究は,妊娠期に新生児の行動を教えるHUG Your Babyを受講した母親への質問紙とインタビューによってプログラムの有用性を評価することを目的とした。

    対象と方法

    本研究は質問紙調査とインタビュー調査を統合するプログラム評価研究である。質問紙データの記述統計量を算出し,産後1か月と産後3か月の教材使用回数の差を分析した。インタビューは生後2~7か月に半構成的面接を行い,Bowen et al.の介入研究の評価方法を参考に,需要,実用性の内容分析を行った。聖路加国際大学の研究倫理審査委員会(承認番号:16-A052)の承認を受けて実施した。

    結 果

    質問紙調査は産後1か月と産後3か月の両方に回答した82名を対象とした。以下のすべての教材で産後3か月の使用回数が有意に高かった:新生児の行動のDVD(p<0.001),新生児の行動のリーフレット(p<0.001),母乳育児の道のりのリーフレット(p<0.001),おくるみ(p=0.001)。教材のわかりやすさを比較し有意差が認められたのは新生児の行動のDVD(p=0.032)と母乳育児の道のりのリーフレット(p=0.009)であった。

    インタビューによる需要の評価では,多くの母親が育児は大変というイメージをもっていたことから,タイトルにポジティブなメッセージを感じ,育児を楽にしたいという気持ちを抱いていた。実用性の評価では,育児のコツを取得することで児の泣きへの対応,授乳や寝かしつけができたこと,育児体験談に助けられたこと,教材で家族と情報共有ができたことが語られた。

    結 論

    HUG Your Babyは母親たちの需要に即し,新生児の行動を理解し対応すること,家族の育児サポートを得る側面からも教材の実用性は高く,その教材は育児期を通して繰り返し使用されることでわかりやすさが増し,プログラムの有用性が示された。

  • 高畑 ひより, 白石 三恵
    2020 年 34 巻 1 号 p. 25-37
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/06/09
    ジャーナル フリー

    目 的

    早産やSmall for gestational age(SGA),低出生体重のリスク因子の一つに,妊娠中の心理的ストレスがある。近年,就労妊婦が増加する中で,職業性ストレスによる妊娠転帰への影響が注目されている。本レビューは,妊娠中の職業性ストレスと早産・SGA・低出生体重との関連を,定量的統合により明らかにすることを目的とした。

    対象と方法

    2019年12月までに発表された和文・英文文献を対象に,「早産」「出生体重」「職業性ストレス」などの各データベースに応じた検索語を用いた電子データベース検索(医中誌,CiNii,MEDLINE,CINAHL,Scopus,PsycINFO)およびハンドサーチを行った。包含・除外基準に基づくスクリーニングを行い,レビュー包含論文を選定後,論文の質を評価した。定量的統合には,DerSimonian-Laird法を用いた。

    結 果

    11論文をレビューに包含した。妊娠中の職業性ストレスにより,9編中2編の論文で早産リスクの増加,6編中2編の論文でSGAリスクの増加,2編中1編の論文で低出生体重リスクの増加が報告されていた。同一尺度で職業性ストレスを測定していた論文の定量的統合の結果,職業性ストレスが最も高い「高job strain群」では,その他の群に比べて,有意に早産とSGAのリスクが高かった[オッズ比(95%信頼区間):早産=1.2(1.0-1.3),SGA=1.2(1.0-1.4)]。職業性ストレスと早産の関連についての研究間の異質性は,サブグループ解析の結果,調査地域の違いにより生じた可能性が示された。

    結 論

    妊娠中の職業性ストレスが高い場合,早産やSGAのリスクの増加につながる可能性が示唆された。早産・SGAの予防に向け,職業性ストレス軽減のための職場環境や業務内容の調整に関する検討が必要である。

  • 鄭 香苗, 谷口 初美
    2020 年 34 巻 1 号 p. 38-49
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    女性にとってのはじめての育児体験をありのままに記述し,はじめての育児体験が女性自身の人生へもたらす意味について探求すること。

    対象と方法

    出産後8か月を経過した初産婦10名を対象に非構造化インタビューを実施した。得られたデータは,Colaizziの方法による記述的現象学的アプローチによって,質的分析ソフトNVivo11を使用し分析をおこなった。

    結 果

    はじめての育児体験が女性自身の人生にもたらした意味として,【子どもを持ってはじめて感じた周囲からのまなざし】,【張りつめた日々から子どもとともに生きる親としての日常】,【探し求めている充実感】の3つのカテゴリーが抽出された。

    はじめての育児を行う女性は,育児の楽しさと同時に負担感も感じる体験をし,親であることへの迷いや不安を抱きながら,親として生きること以外に個人としての充実感も求めていた。育児をするなかで困難と感じる状況では,家族や周囲の人との関わりの中で,自分を見つめる時間をもつことで,これまでには気が付かなかった新たな価値観を獲得していた。

    結 論

    3つのカテゴリーから得られた育児期女性への助産ケア実践への示唆として,育児期にある女性が,自分の人生において育児体験の意味をどう捉えているかを理解し,支援を行うことが大切である。また,育児期女性への支援は,育児期女性のみに向けられるのではなく,女性の家族や周囲の人をも含めた支援として考えていく必要がある。

  • 和泉 美枝, 眞鍋 えみ子, 渡辺 綾子, 植松 紗代
    2020 年 34 巻 1 号 p. 50-60
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊娠期の起立負荷による自律神経系の調節機構を解明するため,能動的起立負荷による初・中・末期の自律神経活動を検討する。

    対象と方法

    妊婦73名に縦断的に妊娠各期の起立負荷時の心拍変動を測定し自律神経活動を解析した。指標は総自律神経(CVRR),交感神経(LF/HF),副交感神経(CCVHF),交感・副交感神経(CCVLF)で分析には座位4分間(座位),立位直後1分間(起立),立位後1~2分の1分間(立位),座位直後1分間(着席)のデータを用い妊娠時期と体位による反復測定二元配置分散分析及び下位検定をした。

    結 果

    妊娠時期の主効果はLF/HFとCCVLF,起立の主効果は全指標,交互作用はCCVHF以外に見られた。多重比較ではCVRRとCCVLFは3時期とも座位より起立時は有意(全てp<.001)に上昇,立位時は下降(中期のみ有意で順にp=.004, .033),着席時は有意(全てp<.001)に上昇した。妊娠時期の比較ではCCVLFは末期は初期より座位・起立・着席時は有意(順にp=.015, .032, .008)に低値であった。LF/HFは3時期とも座位より起立時は有意(初・中期p<.001,末期p=.001)に上昇,立位時は初・末期は有意(初期p<.001,末期p=.004)に高値を維持したが,中期は座位時と有意差のない値まで下降した。また末期は中期より起立時は有意(p=.015)に低値であった。CCVHFは3時期とも座位より起立時は下降し(初期p=.001,中期p<.001),立位時は有意に下降(全てp<.001),着席時は上昇(中期p=.011,末期p<.001)した。

    結 論

    妊娠時期により起立負荷が自律神経活動に及ぼす影響の大きさは一様でなく,中期は立位時のCVRR,LF/HF,CCVLFの抑制,末期は起立時のLF/HF,CCVLFの抑制が示された。

資料
  • 礒山 あけみ, 衣川 さえ子
    2020 年 34 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/04/10
    ジャーナル フリー

    目 的

    助産師のための周産期の家族役割獲得の理解と認識を向上させる研修プログラムを開発し評価する。

    対象と方法

    研修プログラムは,ADDIEモデルを方法論的枠組みとし,先行研究を基盤としてニーズ分析及び目的と構成を考案し,勤務助産師に対しオンラインによるe-learning視聴と集合研修のブレンド型研修を実施した。便宜的標本抽出による準実験研究とし,1群の介入前後(介入後にはe-learning後の知識習得確認テストと集合研修後の評価)の自己記入式質問紙調査により,周産期の家族役割獲得支援に対する理解および認識に関連して設定した質問項目を測定した。

    結 果

    25名の助産師経験年数は10年未満7名(28.0%)10年以上18名(72.0%)であった。家族役割獲得を促す支援に関する理解と認識は「家族への支援の必要性を感じる」(p=.02)において介入後(集合研修後)に有意に上昇し,「家族のニーズが分からない」(p=.02),「家族への具体的ケアが不透明」(p=.04),「妊娠中からの家族ケアは大事だが現状難しい」(p<.001)は,介入後(集合研修後)に有意に低下した。

    結 論

    本研修プログラムは,助産師に対する周産期の家族役割獲得に関する知識習得に役立ち,家族役割獲得を促す支援に対する認識を高めることの有用性が示された。

  • 松竹 ゆには, 永橋 美幸
    2020 年 34 巻 1 号 p. 69-80
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/05/12
    ジャーナル フリー

    目 的

    高校生を対象に月経教育を行うことにより月経痛に対するセルフケアの変容につながるかどうか,また,セルフケアの変容に与える要因について検証する。

    対象と方法

    A高校の女子生徒124名を対象に自記式質問紙調査,月経教育直後と3ヵ月後のセルフケア23項目の実施状況の比較調査を行った。

    結 果

    セルフケア実施状況については,セルフケア23項目のうち7項目において月経教育直後と3ヵ月後の実施人数に有意差が認められた。【月経記録をつける】(p=0.004),【横になる】(p<0.001),【腹・腰部のマッサージをする】(p=0.004),【十分な睡眠をとる】(p=0.029),【病院の受診】(p=0.021),【浴槽に浸かる】(p=0.031),【食事を3食しっかりとる】(p=0.041)であった。

    月経教育直後と3ヵ月後におけるセルフケア実施状況と身体・心理・社会的要因との関連をみた結果,身体的要因の一つである「月経痛」のあり群がなし群に比べ教育後に新たに実施したセルフケアが有意に多かった(p=0.025)。その他の要因では有意な関連は認められなかった。

    月経教育直後と3ヵ月後におけるセルフケア23項目の実施人数の変化と身体・心理・社会的要因の関連では,3項目において有意な関連が認められた。【月経記録をつける】では「看病や気にかけてくれる人」のあり群がなし群に比べ(p=0.022),【腹部・腰部のマッサージをする】では「月経痛」のあり群がなし群に比べ(p=0.045),有意に実施者が増加していた。一方,【食事を3食しっかりとる】では「情報を与えてくれる人」のなし群があり群に比べ(p=0.005),有意に実施者が減少していた。

    結 論

    月経教育により,月経痛を持つものには行動変容がみられた。セルフケアの実施と継続を支える要因として「月経痛」と「月経のサポート状況」が示唆された。

  • 猪目 安里, 井上 尚美, 吉留 厚子
    2020 年 34 巻 1 号 p. 81-91
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/05/29
    ジャーナル フリー

    目 的

    分娩施設のない離島に住む母親の妊娠期・産褥期のセルフケア行動の実態を明らかにし,セルフケア行動の特徴に合わせた保健指導を考える資料とする。

    対象と方法

    分娩施設のない離島に住む分娩後1年以内の母親9名を対象に,インタビューガイドに基づき,半構造的面接法を用いてフォーカス・グループ・インタビューを行った。

    結 果

    分娩施設のない離島に住む母親は,妊娠期は【経験者やインターネットから情報収集】を行い,【家族の協力を得ながら自分の体と胎児の為のセルフケア】を行っていた。また,《妊娠に伴う体調の変化に応じて自ら病院を受診》,《自分で出血を観察しながらの対処行動》という【早めの対処行動と症状の観察】と,《島の昔からの文化にならった食事を摂る》の【島に伝承された食文化にもとづいたセルフケア】という特徴があった。産褥期は【産後の回復に向けたセルフケア】を行っていた。《体調の変化に応じて早期の常備薬の内服,病院受診》,《乳房トラブルに対して情報源にアプローチし,対応》する【異常症状に対して行動・対応】,《産後の針仕事と水仕事はしてはいけない》,《母乳をたくさん出すために魚汁を必ず飲む》という【島の昔からの文化にならったセルフケア】に特徴があった。

    結 論

    分娩施設のない離島に住む母親は,分娩施設がなく,産科医・小児科医が常駐ではない環境にあるからこそ異常に移行しないようにしなければならないという強い思いから,異常症状を自身の感覚を通して敏感に察知し,自ら判断・行動していた。分娩施設のない離島における妊産婦が安心・安全に妊娠期・産褥期を過ごすためには,島に伝承されているセルフケア行動も取り入れつつ,母親が身体の変化に敏感になり,感覚を通して変化を察知できるように,医療従事者は正しい情報を与え,担保していくような関わりが必要かもしれない。

  • 小黒 道子, 片岡 弥恵子, 蛭田 明子
    2020 年 34 巻 1 号 p. 92-102
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/05/12
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊婦の高年齢化に伴いハイリスク妊娠が増えており,助産学生が受け持つ妊産婦が異常に移行する場合が少なくない。研究目的は,助産教育においてハイリスク妊娠・周産期異常の知識の習得に加え,臨床判断力および対応力の向上を目標とした新たな教育方法を用いた教育プログラムを開発し,その評価を行うことである。

    方 法

    ブレンド型学習を基盤に作成した事例を用いての臨床カンファレンス形式とシミュレーションを組み合わせた2つのプログラムを作成した。プログラムの主題は「常位胎盤早期剥離/子癇発作」「妊娠高血圧症候群/HELLP症候群」とした。研究参加者は助産学専攻の大学院1年の学生11名であり,教育プログラム前,直後,4か月後(分娩介助実習後)の3時点における知識と自己効力感を測定しプログラムの評価を行った。分析方法はボンフェローニの検定を用いた。なお本研究は,聖路加国際大学倫理審査委員会の承認を受けて行った(承認番号:16-A064)。

    結 果

    「常位胎盤早期剥離/子癇知識テスト」の合計得点は,プログラム前の中央値12.0点がプログラム直後24.0点に上昇しており,4か月後20.0点となっていた(p=0.007)。「妊娠高血圧症候群/HELLP症候群知識テスト」の合計得点は,クラス前の中央値24.0点がクラス後には48.0点になり,4か月後も44.0点と維持された(p<0.001)。「常位胎盤早期剥離/子癇の対応効力感尺度」の合計得点は,プログラム前の中央値20.0点が36.0点に上昇し,4か月後35.0点であった(p=0.001)。「妊娠高血圧症候群/HELLP症候群の対応効力感尺度」合計得点は,クラス前中央値15.0点が直後は28.0点に上昇し4か月後25.0点となった(p<0.001)。

    結 論

    教育プログラムは,助産学生の知識および自己効力感を高め,4か月後まで維持するために効果的な可能性がある。

  • 清水 嘉子
    2020 年 34 巻 1 号 p. 103-113
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/05/09
    ジャーナル フリー

    目 的

    夫婦の危機である産後クライシスを乗り越え,家族の再構築期にある夫婦のぺアレンティングを有効に機能させることは,子育て支援を行う上で重要な視点と考える。そこで支援への第一歩として,夫婦の子育ての話し合いの状況,夫婦が相手から子育てを批判された時の気持ちや,批判の背景にある事柄の受け止めを明らかにすることを目的とした。

    方 法

    倫理的な配慮に基づき,子育て期にある夫婦1062人に調査用紙を配布し,回収された515人の内,自由記述調査に協力している325人(妻185人,夫140人)を対象とした。記述は質的記述的分析により内容分析を行い,サブカテゴリーとカテゴリーを命名した。

    結 果

    子育ての話し合いは8割が行われ,出産後が最も多かった。批判に対する妻の受け止めでは<夫からの批判をマイナスに受け止めている><夫からの批判をプラスに受け止めている>のカテゴリーがあった。妻が考える夫の批判の背景では,<互いの性格傾向による><夫との生育歴や親役割観の違い><夫婦関係の歪み>のカテゴリーがあった。一方,批判に対する夫の受け止めでは<妻からの批判をマイナスに受け止めている><妻からの批判をプラスに受け止めている><妻からの批判を受けても関係ない>のカテゴリーがあった。夫が考える妻の批判の背景には,<互いの性格傾向による><妻との生育歴や育児観の違い><家庭内の役割や関係性>のカテゴリーがあった。

    結 論

    夫婦の育児への批判をめぐって,その違いや特徴が明らかになった。良好な夫婦のペアレンティングの介入に向けて,妻と夫の受け止めや背景にあるものの違いを念頭において,夫婦の認識や受け止めのずれが大きくなる前に,お互いの思いを伝達すること,親役割観の見直し,育児観の尊重,不満な思いを伝え話し合うことが示唆された。

  • 井上 さとみ, 片岡 弥恵子, 江藤 宏美
    2020 年 34 巻 1 号 p. 114-125
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/06/30
    [早期公開] 公開日: 2020/06/11
    ジャーナル フリー

    目 的

    日本助産学会の作成した「エビデンスに基づく助産ガイドライン―妊娠期・分娩期2016」(以下,ガイドライン2016)発刊前に,ガイドライン2016が推奨している妊娠期ケアの方針について調査し,日本の産科医療施設においてどの程度妊娠期のエビデンスに基づくケアが実施されているかを明らかにすることを目的とした。

    方 法

    全国の産科を標榜する3,164施設を対象として,無記名自記式質問紙を用いた郵送調査またはWeb調査のいずれかにて回答を求めた。質問紙の妊娠期ケアに関する項目は,ガイドラインに推奨が示された11項目であった。調査期間は,2016年11月~12月であった。本研究は,聖路加国際大学研究倫理審査委員会の承認を得て行った(承認番号:16-A062)。

    結 果

    研究協力施設は計362施設であった(回収率80.4%)。全体として,「葉酸の摂取」(8.3%),「DVスクリーニング」(6.9%),「会陰マッサージ」(10.6%)に関してほぼ全例に実施/勧める施設が特に少なかった。サプリメントの服用に関して,ビタミンサプリメントは勧めない施設が多く(60.1%),反対に鉄剤サプリメントはほぼ全例/ケースにより勧める施設が多かった(66.1%)。マイナートラブルへのセルフケア方法に関しては,「浮腫症状に対する足浴(74.9%)/マッサージ(78.4%)」,「腰痛および骨盤痛に対する運動」(92.5%),「便秘改善のための食物繊維の摂取」(96.1%)は多くの施設においてほぼ全例/ケースにより勧めていた。嗜好品の摂取に関して,「アルコール摂取に関する保健指導」(52.6%)は半数近くの施設でほぼ全例に実施されていたが,「カフェイン摂取に関する保健指導」(29.0%)は3割近くに留まっていた。また,助産師外来の有無に関連して有意差がみられた妊娠期のケアは「会陰マッサージ」(χ2値:8.870,OR:1.385,95%CI:1.129-1.699,p=0.003)であった。

    結 論

    日本の産科施設における妊娠期のケアにはエビデンスギャップが存在することが示され,ガイドライン2016の周知と妊娠期ケアに関するエビデンス普及の必要性が示唆された。

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