日本助産学会誌
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36 巻, 2 号
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巻頭言
総説
  • 鈴木 瞳, 庄木 里奈, 荒田 尚子, 大田 えりか
    2022 年 36 巻 2 号 p. 162-175
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    [早期公開] 公開日: 2022/10/19
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,国内外で行われている,妊娠前の女性におけるプレコンセプションケアに関する介入研究について,スコーピングレビューを行い,介入の効果とアウトカム指標を明らかにし,我が国におけるプレコンセプションケア分野の研究への示唆を得る事である。

    対象と方法

    研究領域の基盤となる主要な概念やエビデンスを概説することを目的とする手法であるスコーピングレビューを実施した。文献データベースとして,PubMed, Cochrane Library/ CENTRAL, EMBASE, 医学中央雑誌WEB版(医中誌)を用い,2020年10月に検索を行った。

    結 果

    本研究の結果から,海外における研究が38件,国内における研究3件が検索された。介入/プログラムの効果の範囲として,国外における研究では,①栄養・食事に関して,②妊孕性・健康に関する知識,③避妊方法,④身体活動,⑤BMI・血液検査等の身体・生理学的指標,⑥アルコール・タバコ暴露妊娠予防,⑦葉酸の補給,⑧精神・心理的変化,⑨妊娠・出産,出生児のアウトカム,⑩その他の10領域,国内における研究では,①健康・プレコンセプションケアに関する知識,②プレコンセプションケアに関わる意識,③栄養・食事に関して,④その他の4領域が分類された。

    結 論

    本研究により,国外・国内のプレコンセプションケア分野の研究における,介入/プログラムの効果の範囲と調査研究の評価指標の範囲が分類された。本邦においては,未だプレコンセプションケアに関する研究はプレコンセプションケアに関する知識・意識,栄養に関する領域に限られており,特にプレコンセプションにおける葉酸の補給,身体活動,アルコール・タバコ暴露妊娠予防,精神・心理的変化,身体・生理学的指標,妊娠・出生児のアウトカムに関する研究が不足していることが示唆された。

原著
  • 安達 望江, 和泉 美枝, 眞鍋 えみ子
    2022 年 36 巻 2 号 p. 176-185
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    [早期公開] 公開日: 2022/10/14
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊娠期における身体活動,体重増加量および非妊時BMIと下肢筋肉量との関連,下肢筋肉量への影響要因を検討する。

    対象と方法

    妊婦520名に自記式質問紙による調査と体組成分析装置(InBody270)を用いて体重,下肢筋肉量を測定した。質問紙による調査内容は属性,非妊時体重,身長,身体活動は運動習慣の有無と生活活動量(NEAT質問票)であった。初経産婦別にt検定を行い,下肢筋肉量の影響要因の検討には重回帰分析を行った。

    結 果

    分析対象者は484名(18~44歳,初産婦229名,経産婦255名,妊娠5~40週)であり,本対象者の下肢筋肉量の平均は11.53±1.68kgであった。下肢筋肉量は,初経産婦共に生活活動量低群(初産婦10.97±1.70kg,経産婦11.24±1.63kg)より高群(11.76±1.49kg,12.41±1.72kg)の方が有意に多く,非妊時BMIにおいても低群(10.71±1.60kg,11.46±1.85kg)より高群(11.98±1.60kg,12.17±1.56kg)の方が有意に多かった。初産婦では,非妊時BMI,体重増加量,妊娠前の運動習慣が下肢筋肉量に影響し(β=.339, .227, .136),説明率18.8%であった。経産婦では,体重増加量,非妊時BMI,生活活動量が下肢筋肉量に影響し(β=.258, .245, .169),説明率15.6%であった。非妊時標準体格の妊婦では,妊娠16~27週,28~37週において体重増加量4.9kg,8.5kg以上がそれ未満に比べて下肢筋肉量は多かった。

    結 論

    妊婦の下肢筋肉量には,非妊時BMIや体重増加量が影響し,さらに初産婦では妊娠前の運動習慣,経産婦では生活活動量が影響することが示された。

  • 臼井 夕奈, 川野 亜津子, 金澤 悠喜
    2022 年 36 巻 2 号 p. 186-199
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    本研究の目的は,第1子誕生直後における妻および夫の感情の変化を明らかにすることである。

    対象と方法

    第1子誕生直後の夫婦5組に対し,産後3~7日および産後1か月の2回,半構造化面接を行い質的記述的分析を行った。

    結 果

    夫が妻に対していたわる気持ちを持ち続けることにより,妻は夫への感謝や信頼が生まれ,夫は妻への尊敬の念を抱くようになったという共通の変化が明らかになった。感謝や満足感を抱くようになった夫婦は,「夫婦それぞれの役割認識が一致している場合」,「夫婦が親役割を獲得できた場合」,「互いのプライベートを夫婦で理解し合える場合」があった。パートナーに対する不満や我慢が出現した夫婦は,「出産直後から妻が夫に対し不安を持つ場合」,「夫婦間で育児に対する考え方にずれがある場合」であることが明らかになった。

    結 論

    5組の夫婦の中で共通した感情もあったが,具体的な内容は様々であることが明らかとなった。臨床助産師は,妊娠期や妻の入院中から,夫婦がパートナーに求めていることや,夫婦関係に対する不安,将来への思い,親としての受容の程度など,妻と夫それぞれの具体的な感情に注目し,今後夫婦で育児が協力して行われるか,問題となりうることはないかをアセスメントし,それぞれの夫婦に合わせた支援をしていく必要があることが示唆された。

  • 興梠 千智, 堀 菜月, 松田 香, 堀口 範奈, 白石 三恵
    2022 年 36 巻 2 号 p. 200-211
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    新型コロナウイルス感染症(Coronavirus disease 2019:以下,COVID-19)の世界的な大流行(パンデミック)は,仕事や買い物,外食,運動,娯楽のための外出行動に影響を与え,このような生活の変化は心身の健康に関連していることが報告されている。しかし,妊娠中の外出行動がどのように調整されているのかは明らかになっていない。本研究は,初産婦を対象にCOVID-19パンデミック下における妊娠中の外出行動の調整とその背景にある思いを明らかにすることを目的とした。

    対象と方法

    産後2–3か月の初産婦11名に対し,2021年7–11月に半構造化面接を行った。参加者は,東京都内の大学病院で行われた前向きコホート研究から募集した。インタビューデータは,質的記述的アプローチを用いて帰納的に分析した。本研究は,東京大学大学院医学系研究科倫理委員会の承認を得て実施した。

    結 果

    データから21のコード,13のサブカテゴリー,5のカテゴリーが抽出された。参加者は,【妊娠中の感染リスクを減らすために外出行動を制限】したり,【妊娠中・産後の生活や健康を意識し,人との接触が少ない外出行動を増加】させるなど,妊娠を機に外出行動を変化させていた。一方で,妊娠前やパンデミック前の生活を維持するために,【優先したい外出行動は感染に注意しながら妊娠中も継続】したり,【妊娠中も感染を過度に気にする必要はないと思い,外出行動を継続】,【外出や人との接触を極力しない生活を妊娠前から継続】した女性もいた。

    結 論

    初産婦のCOVID-19パンデミック下における妊娠中の外出行動には,妊娠中の感染や自身と児の健康に関するリスクの認知,外出行動の優先度に対する考え,妊娠前の生活状況が影響していた。外出行動は心身の健康に影響することもあり,医療者は感染症パンデミック下の妊婦の生活状況に合わせた保健指導をすることが必要である。

  • 吉田 静, 佐藤 香代
    2022 年 36 巻 2 号 p. 212-224
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    子どもを喪失した父親の体験と看護者へ望む支援を明らかにする。

    対象と方法

    研究参加者は,妊娠20週以降10歳未満の子どもの喪失から1年以上,7年以下の期間を経過した日本人の父親9名である。データ収集は半構造化面接を実施し,KJ法を用いて分析した。

    結 果

    子どもを喪失した父親の体験は以下の3つに分けられた。

    子どもの喪失直後,父親は【死の実感が湧き上がらない】【子どもとの別れを覚悟していた】に分かれたが,子どもに触れ【背中合わせの「誕生と死」を実感】した。死の悲しみの深さを【妻とのギャップ】として感じつつ,自身の【役割に専念して感情を封印】し,【思いを込めて送り】,亡くなった子どもの【家族の中での存在】を感じていた。

    喪失後,父親は【わかってほしい“泣けなさと泣きたさ”】を実感し,【仕事によって日常に戻った】が,子どもを亡くした【父親の気持ちをわかってほしい】と望んでいた。また,子どもの死を通して得た強さは,今も【姿は見えなくても生きている子ども】と捉えていた。その一方,子どもの死による家族の日常,成長の停止【止まったままの時間】,妻との回復の過程の相違【妻との温度差にとまどう】体験をしていた。

    父親は看護者に感謝する一方,【看護者の気遣いのなさに傷つく】体験もしており,父親は本音で話をしやすい同性の看護者への【思いの表出】を望み,【子どもを亡くした親の気持ちは当事者にしかわからない】ことの理解を求めていた。

    結 論

    子どもの喪失直後,父親は,母親との身体感覚の相違による子どもの死の悲しみの深さに妻とのギャップを感じていた。しかし,父親は子どもの喪失後も家族の中での存在を感じ,子どもは今も父親の中で生きていた。また父親は社会が期待する男性像と現実の乖離に苦しみ,理解を望んでいた。周産期の現場は女性の看護者が多いが,父親が希望する同性の看護者と安心して語ることのできる機会を提供することが支援の要になる。

  • 上田 恵, 中島 通子, 西田 絵美
    2022 年 36 巻 2 号 p. 225-235
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    この研究は,レズビアンを自認する女性が自身もしくは,同性のパートナーと生物学的つながりのある子どもをもつために,どのような意思決定のプロセスを辿るのかを明らかにする。

    対象と方法

    同性のパートナーとの間に,生物学的つながりのある子どもを育てている日本人のレズビアンもしくは,自分か同性パートナーと生物学的なつながりのある子どもをもつことを希望しているレズビアンの合計4名を対象者とし,彼女らへのインタビューによって語られた話をデータとした。分析は複線径路・等至性モデル(TEM)を使用し,彼女らの子どもをもつまでのプロセスにおける意思決定の経験を記述した。

    結 果

    対象者は,レズビアンとして子どもをもつことについて様々な課題を抱えていたが,パートナーとの安定した関係の中で,子どもをもつことを決定していた。そのプロセスの中では,子どもを得るための方法,出産する者の決定,精子提供者の選択などが,個人の価値観に従い決められていた。

    結 論

    レズビアンが同性パートナーとの間に子どもをもつまでの意思決定のプロセスは,子どもをもつことについて葛藤した期間や,子どもをもつ方法について検討していった期間を辿っていることが明らかになった。

    個々の価値観に応じて,どのように子どもをもつかについていくつかの決定がされていた。

    生物学的な子どもをもつことを希望するレズビアンカップルのニードを医療提供者が,どのように受け入れていくのかを検討するための基礎的な資料の蓄積が,将来にむけて必要である。

  • 相澤 未奈美, 川尻 舞衣子, 武石 陽子, 吉田 美香子, 中村 康香, 吉沢 豊予子
    2022 年 36 巻 2 号 p. 236-246
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    妊娠末期の気分の落ち込みと関連する身体活動量の指標を示す。

    対象と方法

    58名の健康な初妊婦を対象とした準実験的研究の二次分析を行った。身体活動量は,活動量計(Polar Loop 2,Polar社製)により測定し,T1(妊娠5か月),T2(妊娠7か月),T3(妊娠9か月)における身体活動強度別実施時間(座位行動,低強度活動,中高強度活動)(分/日),1回の身体活動時間毎の累積時間(分/日)の平均値を算出した。気分の落ち込みあり群は,T3の自記式質問紙にて落ち込みの頻度が「時々ある~よくある」かつ程度が「少しつらい~とてもつらい」と回答した者とした。

    結 果

    気分の落ち込みあり群11名(18.9%)はなし群47名(81.1%)より,総活動時間(p=0.002),30分未満の座位行動時間(p=0.020),中高強度活動時間(p=0.035),10分未満の中高強度活動時間(p=0.018)が短かった。気分の落ち込みに対するReceiver Operating Characteristic解析では,T1における10分未満の中高強度活動時間のAUC(area under the curve)は,0.723(95%CI:0.555-0.892,p=0.022),最適カットオフ値は19.43分(感度0.702,特異度0.818)であり,T3における30分未満の座位行動時間のAUCは0.724(95%CI:0.565-0.883,p=0.029),最適カットオフ値は258.05分(感度0.786,特異度0.500)であった。

    結 論

    妊娠末期の気分の落ち込みを予測する指標として10分未満の中高強度活動時間および30分未満の座位行動時間が示された。散発的な身体活動や座位行動中断は,精神的健康に効果的である可能性が示唆された。

  • 斎藤 未希, 大月 恵理子
    2022 年 36 巻 2 号 p. 247-257
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    ジャーナル フリー

    目 的

    中期中絶ケアにおける助産師の感情を測定するための「中期中絶ケアにおける助産師の感情尺度」を開発し,信頼性・妥当性を検討する。

    対象と方法

    中絶ケアにおける看護職の感情を明らかにした文献および先行研究から尺度原案を作成し,内容妥当性・表面妥当性を検討し尺度案とした。首都圏の分娩を取り扱う医療機関300施設に協力を依頼し,同意の得られた施設に勤務する助産師に対し,511部の研究協力依頼文書を配布しオンライン調査を行った。項目分析,探索的因子分析を行い,信頼性・妥当性を検討した。分析にはSPSS Ver.28を使用した。

    結 果

    有効回答240部を分析対象とした。分析の結果,6下位尺度25項目からなる尺度が完成した。第I因子【ケアへの肯定的認識】,第II因子【児に対する陰性感情】,第III因子【女性に対する怒り】,第IV因子【ケアへの否定的認識】,第V因子【ケア技術への自己評価】,第VI因子【女性の周囲へのいらだち】とした。尺度全体のCronbach's αは.88,下位尺度のCronbach's αは.72~.83であった。尺度の総得点と日本語版SABAS(Stigmatizing attitudes, beliefs and actions scale)の総得点との相関係数は.41であった。既知グループ法を用い,中絶に対し否定的価値観を持つ群,肯定的価値観を持つ群に分類し尺度の総得点を比較したところ,否定的価値観を持つ群の方が有意に高かった。

    結 論

    中期中絶ケアにおける助産師の感情尺度を開発し,信頼性,構成概念妥当性が確保できた。本尺度は中期中絶ケアにおける感情の自己評価に活用でき,中期中絶ケアの質向上に寄与できると考える。

資料
  • 礒山 あけみ, 中山 香映, 菱沼 由梨, 巌 千晶, 渋谷 えみ
    2022 年 36 巻 2 号 p. 258-269
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/12/28
    [早期公開] 公開日: 2022/09/06
    ジャーナル フリー

    目 的

    国内外でCOVID-19禍に公表された助産に関連する先行研究をレビューし,その動向と既得の知見を把握する。

    方 法

    2021年6月に医中誌Web,PubMedで「COVID-19」,「助産」,「midwifery」をキーワードとする96文献(日本語6件,英語90件)を分析対象とした。研究テーマ,研究実施国,研究デザイン,研究対象,データ収集方法,分析データの種類,倫理的配慮に関する情報を抽出し分類した。

    結 果

    研究テーマは【医療者のマタニティケアの提供】(30件),【妊産褥婦・家族のマタニティケアの利用】(24件),【感染管理】(17件),【医療従事者のメンタルヘルス】(16件),実施国はトルコ11件,イギリス10件,日本・オーストラリア各9件が続いた。研究デザインは横断研究71件,文献9件,コホート研究6件,症例報告4件,研究対象は医療職者または医療系学生64件,妊産褥婦・新生児・家族等非医療職者37件,学術論文・医療記録・行政資料等13件であった。データ収集方法は非接触または非対面58件,資料入手14件,分析データの種類は量的データ62件,質的データ25件,既存資料16件,倫理的配慮は,記載有り76件,記載無し18件だった。

    結 論

    COVID-19禍の研究テーマは【医療者のマタニティケアの提供】,【妊産褥婦・家族のマタニティケアの利用】,【感染管理】に集中した(74.0%)。医療職者または医療系学生が対象の研究が他の対象研究の1.7倍であり,医療者自身の感染対策につながる研究が優先されたと推察できる。妊産褥婦・家族など,ケアの受け手対象の研究の難しさが懸念された中,リモート/電話面接,Web/メール調査,郵送法(60.4%),既存資料(16件)といった非対面・非接触によりデータ収集した横断研究が多かった。パンデミック禍に研究活動を維持・発展させていくため具体的方策を見出すことができた。

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