イネ科チゴザサ亜科に属するオオチゴザサIsachne subglobosa Hatus. & T.Koyama は,石垣島,西表島,与那国島など琉球列島に生育する湿生の多年草で,チゴザサI. globosa (Thunb.) Kuntzeに近縁な日本固有の独立種とする見解と,インドからオーストラリアにかけての熱 帯域に広く分布するメンテンチゴザサI. pulchella Roth (= I. dispar Trin. ) のシノニムとする考えがあり,分類学 的に検討が必要な状況であった.そこで,本種の識別形質について再検討を行ったところ,本種はメンテンチゴザサとは関係がない反面,チゴザサとは明確に区別できず,また熱帯アジアから記録されているチゴザサの変種 var. effusa (Trimen ex Hook.f.) Senaratna にも似た点が あるものの,この変種を含めてチゴザサから区別しないことが妥当であると結論した.
沖縄県石垣島で採集されたコケシノブ科シダ類の標本 が,日本新産のHymenophyllum digitatum (Sw.) Fosberg と同定された.本種の種形容語は葉身がヒトの指のような形状をしていることに由来することから,和名もそれに合わせてユビコケシノブと新称する.旧熱帯に広大な 分布を持つ本種の新北限となるばかりでなく,subgenus Sphaerocionium(テガタホラゴケ亜属)としても日本で の初記録である.石垣島産個体の葉縁に生じる黒褐色で分枝しない短い毛は,ユビコケシノブに特有のものであ る.葉緑体rbcL 遺伝子の系統樹では,他地域産のユビ コケシノブと単系統群を形成することが示された.
大雪山系富良野岳で,国内未報告と思われるイグサ科スズメノヤリ属植物を発見した.問題のスズメノヤリ属植物は,葉身の幅,葉縁の毛,茎葉の鞘の毛,1 団集花序の小花数,最下の団集花序 の位置などによって近縁種群から識別することができた.このことから,問題のスズメノヤリ属植物は,クモマスズメノヒエに近縁なツンドラスズメノヒエとされる植物と同定した.ツンドラスズメノヒエは,これまで千島列島南部以南では未記録の種であった.日本で確認されたツンドラスズメノヒエの形態的特徴および生育状況を記録した.
静岡県固有亜種であるフジタイゲキEuphorbia watanabei subsp. watanabei(トウダイグサ 科)を伊豆半島から約60年ぶりに再発見した.本亜種は1960年代以降の伊豆半島における確認記録がないことから絶滅が危惧されていた.本集団はワラビ を主体とする草原環境に約100 個体が生育していた.
一般的に海外では,植物の腊葉標本台紙やカバーに100% αセルロース紙または無酸コットン紙を使 用している.しかし,日本ではこのような安定性や保存性を重視した標本台紙を取り扱う企業はなく,無酸コットン紙を入手するには輸入するしか方法はない.従って,多くのハーバリウムが経済性などから国内で容易に入手できる木材パルプ印刷紙を用いている.また,標本台紙に適した紙をどのように選定したらよいかという指針もないのが現状である.本研究では,国内の標本台紙の標準化に向けて,現在日本国内で一般的に流通している洋紙の中から保存性を最重要視した上で,収納性,経済性と標本台紙として適する性質を考慮し,実験的に腊葉標本台紙に最適な紙を選定することを試みた.その結果,Mr.A-F オフホワイトが,木材パルプ印刷紙であるものの,海外の台紙に匹敵する保存性を有するほか,標本台紙として適した性質をほぼ満たした紙であることがわかった.
1940年に初版が発行された『牧野日本植物圖鑑』は時代毎の分類システムや学名に合わせて改訂を重ね,現在も生きた植物図鑑として活用されている.しかし,現在では目にする機会が少なくなった初版を参照して牧野博士の記載と図解に直接触れることもまた興味深いことである.最近に復刻された卓上版を手に,アサ,ミョウガ,シバおよびヒルムシロ属の記載・図版について考察した.