インドでは2000年代以降、英国植民地期に「クリミナル・トライブ」や「ジプシー・カースト」と見なされてきた人びと(DNT)への留保枠をめぐる議論が活発化している。本稿はラージャスターン州西部のジョーギーを事例として、「DNT」という上からの範疇化が人びとにもたらした影響とそれに対する彼らの応答を検討する。そこでは、植民地期以来の「カースト」という矛盾を孕んだ範疇化の上に上塗りされた「DNT」の範疇化が、NGO という新たな政治的アクターを介して実体化されていることが明らかとなる。他方でジョーギーたち自身は、能動的とも受動的ともいえない曖昧さや、非政治的な動機を含みこんだまま活動の参加者となっていることが示される。本稿ではこれを、ジョーギーたちに投射されてきた様々な上からの範疇化が、彼らを焦点化することなくいくつも重なり合い、その複数のズレの上を生きる彼らの応答的な行為実践として読み解く。
今日のネパールでは、世俗主義国家化への反発として、ヒンドゥー・ナショナリストの活動が顕在化するようになっている。本稿では、数あるヒンドゥー・ナショナリスト団体の中でも圧倒的に長い歴史と歴代の国王との関係を有する世界ヒンドゥー連盟に着目する。具体的には、世界ヒンドゥー連盟が2016年に開催した国際ヒンドゥー大会議の記念書籍たる『ダルマ』を主たる資料として、それが打ち出すのが「包含的ヒンドゥー・ナショナリズム」であることを示す。その上で本稿の続く部分では、それに対する多様な応答について主に聞き取り調査の結果に基づいて検討する。世界ヒンドゥー連盟の主張は、しばしば、そもそも関心を抱かれなかったり、抱かれたとしてもの厳しい批判の対象とされたりする。それでも世界ヒンドゥー連盟は、ヒンドゥー教徒以外の賛同者をたしかに獲得しており、宗教をまたいだネットワークを形成し始めていること示す。
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