高齢化社会の進展に伴い消費の担い手として高齢者への期待が高まる一方,高齢者層におけるインターネットを通じた消費活動はいまだ発展途上にある.本研究では,オンラインショッピングに焦点を当て,高齢者の知覚リスクと意思決定がイノベーション普及に及ぼす影響の分析を試みた.プロスペクト理論を用いた意思決定とイノベーション普及モデルを組み合わせ,シミュレーションを行うことで,高齢者市場の成長メカニズムを明らかにした.分析の結果,高齢者市場におけるイノベーション普及プロセスは,高齢者のリスク回避特性のみならず,人々が価値参照点を維持しながら加齢し高齢化することで生じる意思決定の影響により特徴付けられることが分かった.年齢特性が及ぼす普及プロセスへの影響を理解し適切なマーケティング戦略を選択することで,高齢者に対するより効果的なイノベーション普及が可能になるものと考える.
オープンソースハードウエアとは,回路図や関連ソフトウエアのソースコードなどの,すべての情報を公開しているハードウエア製品である.オープンソースハードウエアは,詳細情報を公開することで,製品の販売開始前から支援者を確保できるなどのいくつかの利点があるが,回路図が公開されているために互換品を作ることが合法であり,それら互換品との価格競争にさらされるという欠点もある.互換品は,設計や関連ソフトウエアの開発コストがかからないので,正規品より低価格であり,単純な価格競争では正規品が淘汰される可能性がある.しかしながら現実には,多くのオープンソースハードウエアにおいて,正規品と互換品は共存している.この状況を定量的に探るため,我々は,オープンソースハードウエアであるArduinoというマイコンボードに注目し,Arduinoの利用者が,正規品と互換品に対してどのような評価を行っているかを調査した.オープンソースハードウエアに対する認識が国や文化によって異なる可能性を考慮し,日本と中国で調査を行い,比較を行った.その結果,Arduinoのような正規品の価格が3,000円程度の製品の場合,価格は重要な要素ではないこと,中国では日本よりも正規品がより多く選好されることが判明した.