日本外傷学会雑誌
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31 巻, 1 号
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原著
  • 本多 満, 一林 亮, 豊田 幸樹年, 伊東 俊秀, 横室 浩樹, 田巻 一義, 岸 太一
    2017 年 31 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     [はじめに]重症頭部外傷症例において急性期に脳循環不全がみられ,この時期の虚血が転帰を悪化させているという報告がある.今回われわれは,異なるタイプの重症頭部外傷の脳循環を比較検討した.[対象および方法]重症頭部外傷90例を,局所性脳損傷として急性硬膜下血腫(以下SDH),急性硬膜外血腫,脳挫傷・脳内血腫,瀰漫性脳損傷として瀰漫性軸索損傷,瀰漫性脳腫脹の5つの群に分け,急性期にキセノンCT(Xe-CT)とperfusion CTを同時に行い,それぞれの検査より脳血流量(以下CBF),平均通過時間(以下MTT)を測定し,脳循環評価を行った.[結果]局所性脳損傷群は瀰漫性脳損傷群に対してCBFは低く,MTTは延長しており脳循環障害を認めた.5群間の比較としてはCBFとMTTにおいて分散分析では有意差を認め,SDH群においてCBFが最も低値を示し,MTTでは一番高値を呈した.[結論]重症頭部外傷の異なるタイプにおいて,脳循環には差を認めた.治療を行う際には,異なる脳循環を考慮して低体温療法を含めた総合的な治療を考慮する必要がある.

症例報告
  • 今井 義朗, 新田 雅彦, 高須 朗
    2017 年 31 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     症例は40歳代の男性.飲酒後の自動車事故でトラックと正面衝突した.受傷直後には病院を受診せず,約24時間後に近医受診したところ,右血気胸,肺挫傷そして右多発肋骨骨折(第8を除く第1〜第10肋骨全て)を認め転院となった.当院入院時のバイタルサインは比較的安定していたが,3病日に突然,敗血症とacute respiratory distress syndrome(ARDS)に陥った.血液培養から持続的にメシチリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)が検出され,第21病日の造影CTで各肋骨骨折部周囲に多発性胸壁膿瘍を認め,膿瘍ドレナージを行い血液培養は陰性化した.第126病日に独歩退院した.閉鎖性鈍的胸部外傷で多発性胸壁膿瘍の合併は非常に稀である.重症の閉鎖性鈍的胸部外傷に対しては初期抗菌薬治療を検討すべきである.

  • 番匠谷 友紀, 小林 誠人, 蕪木 友則, 門馬 秀介, 岡 和幸, 松井 大作, 前山 博輝, 杉野 貴彦, 藤崎 修
    2017 年 31 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     症例は35歳,女性.バイク事故にて受傷,当院へ転院搬送となった.Ⅲb型肝損傷による出血性ショックと診断しperihapatic packingを施行後,血管造影を行った.右肝動脈は上腸間膜動脈から分岐し,A7より造影剤の血管外漏出像を認めた.血管塞栓術を試みたが,abdominal compartment syndrome(以下,ACS)の併発により止血に難渋し,止血とACSの解除のため,開腹下に右肝動脈結紮術を施行した.術後経過は良好で独歩退院となった.予測生存率は27.6%であった.肝動脈結紮術がdamage control surgeryの一選択肢であることを再認識した一例であった.

  • 西村 健, 岡本 彩那, 藤崎 宣友, 白井 邦博, 山田 勇, 中尾 篤典, 小谷 穣治
    2017 年 31 巻 1 号 p. 17-23
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     心肺停止患者における胸骨圧迫は有効である一方,肋骨骨折や胸骨骨折,臓器障害などをきたしうる侵襲的処置である.我々は肺動脈塞栓症による心肺停止患者2症例を経験した.両例とも胸骨圧迫を含めた心肺蘇生法とveno-arterial Extracorporeal Membrane Oxygenation(VA-ECMO)を導入した後に撮像した造影CTにて横隔膜下肝損傷を認めた.1例は開腹止血術にて救命できたが,保存的加療を行った1例は出血により死亡した.

     抗凝固薬を使用した患者では胸骨圧迫による合併症リスクが高まる.ダメージコントロール手術を含めた積極的加療が有効である可能性が示唆された.

  • 猪熊 孝実, 上木 智博, 泉野 浩生, 山野 修平, 田島 吾郎, 平尾 朋仁, 山下 和範, 山崎 直哉, 村上 友則, 田﨑 修
    2017 年 31 巻 1 号 p. 24-27
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     症例:66歳,女性.外傷を受傷した自覚はなかったが,右側胸部痛が出現したため近医を受診したところ,右血胸が疑われたため当院へ転院.来院時,頻呼吸,心拍数112回/分,血圧119/84mmHg,腋窩温36.1度,Glasgow coma scale(GCS)14(E3,V5,M6).胸部造影CTで右胸腔内の大量の液体貯留と右第11,12肋骨骨折を認めた.液体貯留量は前医より増加しており,血管造影を行った.血管造影で右腎動脈から分岐する右下横隔動脈損傷による血胸を認め,右下横隔動脈をN-butyl-2-cyanoacrylateとlipiodolの混合液を用いて選択的に塞栓した.結語:血胸の原因として腹部から起始する下横隔動脈の損傷を念頭に置く必要がある.

  • 山本 博崇, 土手 尚, 田村 峻介, 牛田 進一郎
    2017 年 31 巻 1 号 p. 28-30
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     症例は80代,女性.近医で腹部刺創による下大静脈損傷に対しガーゼパッキング施行後,当院に転院搬送となった.来院時,全身状態は安定していたため,転院後4日目に再手術を行った.ガーゼを除去すると,左腎静脈流入部直上の下大静脈本幹に約1/4周性の裂創が認められ,直視下に連続縫合で閉鎖した.その他は十二指腸に軽微な漿膜損傷を認めるのみであった.術後,深部静脈血栓症を認めたが全身状態は良好であり,術後第19病日に紹介医に転院となった.

     下大静脈の鋭的損傷は外科的修復が原則であるが,縫合止血が困難な場合にはガーゼパッキングも選択肢の一つとして考慮するべきである.

  • 新井 学, 土田 芳彦
    2017 年 31 巻 1 号 p. 31-35
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     下肢切断を余儀なくされる場合,膝関節を温存できるか否かは機能予後に大きな影響を与える.重度下腿開放骨折における下腿切断術施行時にspare parts surgeryを行い,膝関節を温存し得た症例を報告する.症例は39歳,男性,左下腿開放骨折(AO41-C2,GustiloⅢB)であり,受傷後9日目に近医より紹介転院となった.膝関節近傍に分節状骨欠損と皮膚軟部欠損を認め,転院4日目に骨接合術と遊離広背筋皮弁にて再建したが皮弁は全壊死となった.切断術を施行した際に下腿切断末梢側から後脛骨動脈有茎骨皮弁を挙上し断端を再建した.膝関節機能が温存され義足歩行に有効となった.spare parts surgeryは重度四肢外傷の断端形成において常に考慮されるべき有用な手法である.

  • 宮国 泰彦, 山田 賢治, 守永 広征, 大田原 正幸, 加藤 聡一郎, 庄司 高裕, 海田 賢彦, 玉田 尚, 宮内 洋, 樽井 武彦, ...
    2017 年 31 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     40歳代女性が建物3階から墜落して受傷し,ショック状態で当救命救急センターに搬送された.前胸部中央に打撲痕があり,FAST(focused assessment with sonography for trauma)は左胸腔内のみ陽性で,造影CT検査にて多発顔面骨骨折,縦隔気腫,左血気胸・肺挫傷,肝損傷,左恥坐骨骨折が認められた.左右の肝動脈と両側外頸動脈からの血管外漏出に対し経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)を施行後,留置した左側胸腔ドレーンからの出血が増大したため,緊急左側方開胸術を行った.肺挫傷に対し肺部分切除術を施行後,心膜損傷を伴う稀な左心房天井部破裂を確認した.自己心膜パッチを用いて心膜横洞を閉鎖空間にし,外科用接着剤を充填することで損傷部を被覆し止血を得て救命に至った.経過は良好で,術後61日目に転院した.本例に用いた方法は,人工心肺使用困難例における治療の選択肢として有用と考えられた.

第30回日本外傷学会総会・学術集会 Joint Session
「東京オリンピック・パラリンピック特別企画」
  • 本間 正人, 小井土 雄一
    2017 年 31 巻 1 号 p. 41-42
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     第30回日本外傷学会総会・学術集会が大友康裕会長のもと「外傷学30年 さらなる飛躍に向けて」をテーマに開催された.そのなかで,「東京オリンピック・パラリンピック特別企画」が,本学会と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会,日本集団災害医学会のJoint Sessionとして開催された.基調講演として,帝京大学医学部救急医学 坂本哲也氏の司会で,東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会メディカルディレクターである早稲田大学の赤間高雄氏が「オリンピック・パラリンピックの医務体制」を講演し,これまでに開催されたオリンピックでの医療対応の紹介に引き続き,2020年東京オリンピック・パラリンピックの医務体制計画の概要について説明があった.緊急対応のためにCTやMRIを準備する一方,選手の要望に応じて,健診や視力検査・眼鏡の作成,ドーピング検査等多岐に及ぶ業務について言及され,非常に貴重な情報であった.

     基調講演に続き,5人の演者から爆傷や銃創等の多数殺傷型テロ(以下,多数殺傷型テロ)についての講演があった.わが国においては,1974(昭和49)年8月30日に発生した三菱重工爆破事件以降,多数殺傷型テロの発生はなく,本テーマについては災害関連学会においても取り上げられることはまれである.東京オリンピック・パラリンピックを目前に控え,「現状では防ぎえた死が多数発生する」との強い危機感が会長の頭の中にあり,本セッションの企画となったのではないかと勘案する.

  • 赤間 高雄
    2017 年 31 巻 1 号 p. 43-46
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     夏季オリンピック・パラリンピックは約2ヵ月間に数百万人以上が開催都市に集まり,試合やイベントに伴って行動する特別な状況である.夏季オリンピック・パラリンピックでは参加者のカテゴリーが細かく分類され,それぞれAccreditation card(以下,ADカード)によってアクセス制限や利用できるサービスが制限される.ADカードの種類や有無によって医療サービスも分けて準備する必要がある.大会組織委員会はオリンピック・パラリンピック関連施設内の医療サービスを整備し,その医療サービスの対象者は大会ADカード所持者と試合会場内のチケットをもつ観客である.オリンピック・パラリンピック開催都市には非常に多くの観客や観光客等が集まるため,行政が担うオリンピック・パラリンピック関連施設外の医療サービスも通常とは異なる特別な体制が必要になる.

  • 永田 高志, 長谷川 学, 石井 正三, 橋爪 誠
    2017 年 31 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     アトランタオリンピックは,1996年7月19日から8月4日までアメリカのアトランタで行われた第26回夏季オリンピックであり,近代オリンピック開催100周年記念大会であった.爆弾テロ事件の概要は,大会7日目の7月27日午前1時20分頃にセンテニアル公園の屋外コンサート会場でパイプ爆弾による爆破事件が発生し,死者2名,負傷者111名の多数傷病者事案となった.死者2名のうち1名は爆発物の釘による頭部外傷によるものであり,もう1名は心不全であった.111名の傷病者のうち96名は事件発生後30分以内に爆発地点から半径5km以内の4つの病院に搬送された.外傷センターに搬送された35名中10名に対して緊急手術が行われ,市中病院に搬送された61名のうち4名に対して手術が実施され,すべて救命することができた.2020年東京オリンピックを控える日本にとってアトランタオリンピック爆弾テロから3つの教訓,事前の医療公衆衛生体制の構築,多数傷病者対応のための医療機関の準備,緊急時における情報伝達・コミュニケーションの難しさ,があげられる.2020年東京オリンピックでは爆弾テロを含めた様々な事案が起こるという最悪の想定のもとで,限られた時間と予算,資源の中で準備を進める必要がある.

  • 奥村 徹
    2017 年 31 巻 1 号 p. 52-55
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     2005年7月のロンドン自爆テロ事件に関して,事件後現地で関係者から事情を聞いた結果を含めて報告する.初動対応は,おおむね,MIMMS(Major Incident Medical Management and Support)システムに準じて適切な対応がとられたものと思われたが,残された課題もあった.外傷医療的には,この事件をきっかけに爆傷治療の特異性が注目されるようになったが,戦陣医学でその有用性が認識されていたCAT(Combat Application Tourniquet)などのターニケットのプレホスピタル領域への積極的な導入に関しては,さらにボストンマラソン爆弾テロ事件,パリ同時多発テロ事件を待たねばならなかった.東京オリンピック・パラリンピックを4年後に控える今,万が一にも起こってはならない爆弾テロであるが,万が一起こった際には,最善の医療体制で臨むのが国際的な使命である.

  • 森村 尚登
    2017 年 31 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2017/01/20
    公開日: 2017/01/20
    ジャーナル フリー

     パリ公立病院連合(Assistance Publique Hôpitaux de Paris:以下,APHP)と公立救急医療支援組織(Services d’Aide Medicale Urgente:SAMU)の情報提供に基づき,2015年11月にパリで起きた同時多発銃撃・爆弾テロ対応を報告する.フランスは,多数傷病者発生時の病院前・内・間,同時多点の対応計画を策定.爆傷・銃創時の病院前治療の要点は,ターニケット・止血剤含浸ガーゼ使用,制限的輸液,血管収縮薬・トラネキサム酸投与,低体温是正.「1ヵ所の穿通性胸部損傷」と「腹部と下肢損傷」を最優先搬送対象とし,5〜8人を1群にして18病院に356人を搬送.53人搬送されたPitié Salpêtrière大学病院は,13の手術室を飽和させず最多10列稼働で23人にDamage control surgeryを実施.APHP16病院の1週間後死亡率1.3%.簡便なトリアージと迅速な病院前治療,事前指定病院への逐次搬送,手術室直入体制と手術室サージ対応能力,全経過におけるダメージコントロールの概念共有の重要性が示された.

第30回日本外傷学会学術集会 シンポジウム
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