日本外傷学会雑誌
Online ISSN : 2188-0190
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35 巻, 3 号
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総説
原著
  • 益子 一樹, 松本 尚, 安松 比呂志, 上田 太一朗, 山本 真梨子, 岡田 一宏, 本村 友一, 齋藤 伸行, 八木 貴典
    原稿種別: 原著
    2021 年 35 巻 3 号 p. 219-226
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/04/20
    ジャーナル フリー

     病院前蘇生的開胸術 (prehospital RT ; pRT) 施行例の評価を後方視的に行った.

     対象と方法 : 2012年~2018年にpRTを施行した119例に対して, pRT決断時状態と入院後経過, 予後の調査を行った.

     結果 : 119例中7例が生存退院, うち鈍的外傷3例を含む5例がCPC1-2であった. pRT決断時において, 医師接触後に頸動脈触知不能となった (Neck Pulse Absence after physician’s contact ; NPA) 群 (n=21), PEAで医師が接触した (PEA) 群 (n=31), 心静止群 (n=67) の3群間比較においては, 24時間生存, 生存退院, 退院時CPC1-2 で統計学的有意差を認め, 多重比較においてはNPA-PEA群間 (p=0.03), NPA-Asys群間 (p<0.001) で生存退院に有意差を認めた.

     結論 : 鈍的外傷が圧倒的に多い母集団においてもpRTの有効例が存在した. NPAがpRT決断の良い適応である可能性が示されたが, さらなる追加検討が必要である.

臨床検討
  • 林田 和之, 堀 耕太, 寺住 恵子, 佐々木 妙子, 原口 英里奈
    原稿種別: 臨床検討
    2021 年 35 巻 3 号 p. 227-232
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/07/06
    ジャーナル フリー

     【目的】消防職員に対してBleeding Control (以下B-Con) 教育の有効性を検討する. 【方法】professional first responder (専門的ファーストレスポンダー) となる消防学校救急科の学生80名に対し, 米国で行われているimmediate responders対象のStop the Bleed (以下STB) コースを行った. 受講前後の意識変化 (10段階自己評価形式 : リッカート尺度) を評価し, その結果で消防職員へのB-Con教育の有効性を検討した. 【結果】受講前後で比較すると, 技術・知識・教育のすべての項目で有意に上昇した. とくに他者指導の自信も有意に上昇した. 【結語】定期的な技能維持は必要ではあるものの, 消防職員に対しSTBコースによるB-Con教育は有効であり, 外傷初期診療体制におけるファーストレスポンダー教育を確実に行うために, 消防職員への教育を強化すべきである.

症例報告
  • 横川 京子, 久志本 成樹, 川副 友, 大沢 伸一郎, 西嶌 泰生, 冨永 悌二
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 233-239
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/01/28
    ジャーナル フリー

     穿通性外傷による椎骨動脈損傷はCTによる評価に基づく治療が有効とされるが, 緊急性が高い状態ではCTを施行することは容易ではない. 局所所見から椎骨動脈損傷を疑い, 用手的圧迫止血下椎骨動脈塞栓術を施行した症例を報告する. 症例は55歳男性, 包丁により頸部を自傷した. 来院時活動性出血と循環不全を呈していたため外科的処置を開始し, 右内外頸静脈損傷と椎骨動脈損傷を認めた. 椎骨動脈損傷は外科処置困難であったため, 用手的圧迫止血下動脈塞栓術にて止血を得て, 術後11日目に転科した. 循環不全を伴う活動性出血を有する穿通性頸部外傷患者の治療において, 椎骨動脈損傷に対する用手的止血下塞栓術が選択肢となる可能性がある.

  • 安達 普至, 門馬 秀介, 倉田 秀明, 崔 権一, 萬木 真理子, 井上 泰豪, 冨岡 譲二
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 240-243
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー

     症例は60代, 男性. トラックの荷台から転落し受傷した. 両下肢は完全麻痺で, 来院時の全身CTで第11-12胸椎脱臼骨折を認め, 第12胸椎の骨棘が下行大動脈を圧迫していた. 手術のための体位変換・術中操作にて2次的な大動脈損傷を併発する危険性があったため, 術前にResuscitative endovascular balloon occlusion of the aorta (REBOA) カテーテルを留置し, 腹臥位で脱臼整復・後方固定術を行った. 手術中循環動態は安定して, 大動脈損傷は生じなかった. 2次的な大動脈損傷の可能性がある胸椎脱臼骨折の腹臥位手術では大動脈損傷が起これば致死的になりうるので, Thoracic endovascular aortic repair (TEVAR) をスタンバイしたうえで適切な位置にREBOAカテーテルを予防的に留置して手術を行うことが選択肢の一つになるかもしれない.

  • 佐藤 弘樹, 武山 佳洋, 安井 太一, 鎌田 千奈美, 郭 光徳, 佐藤 昌太, 俵 敏弘, 坂脇 英志, 坂脇 園子, 小川 肇
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 244-248
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/03/18
    ジャーナル フリー

     鈍的外傷性肺動脈損傷に対して経カテーテル動脈塞栓術 (transcatheter arterial embolization ; TAE) を施行した論文報告は稀である. 症例は89歳男性. 交通事故で受傷した. 来院時ショックバイタルであり, 造影CT検査では末梢性肺動脈肺内分枝損傷による左大量血胸を認めた. 肺実質損傷は軽度であることが推測され, 緊急開胸術に迅速に移行可能な環境下でTAEを施行した. 再出血を来すことなく経過し, 第18病日に抜管, 第62病日にリハビリテーション目的に転院となった. 肺実質損傷が軽度であり, 迅速に緊急開胸術に移行可能な環境下であれば, 末梢性肺動脈肺内分枝損傷に対してTAEを施行することは有用である.

  • 谷﨑 眞輔, 三好 祐輔, 狩野 謙一, 永井 秀哉, 前田 重信, 石田 浩
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 249-253
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

     鈍的喉頭気管損傷は稀な損傷であるが, 死亡率が高い損傷である. 今回, ヘルメットの紐によると思われる開放性喉頭気管損傷症例を経験した. 前頸部の開放性横断創に正中切開を加え, 破断した甲状軟骨右板および喉頭気管損傷部を確認し, 気管チューブを挿入した. 本症例では声帯をまたがった喉頭気管損傷をきたしており, 重度損傷が予想される場合には, 正中切開アプローチによる気道損傷部位の確認および気道確保が必要であると考えられる.

  • 池口 良輔, 野口 貴志, 南角 学, 松田 秀一
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 254-257
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/05/25
    ジャーナル フリー

     下肢開放骨折後の化膿性骨髄炎に対して遊離血管柄付骨移植により治療した症例の成績について報告する. 2010年から2019年までに治療を行った10例を対象とした. 脛骨骨髄炎が8例, 大腿骨が1例, 踵骨が1例であった. 初回から複数回は感染あるいは壊死した骨や軟部組織のデブリードマンを行い, その後, 遊離血管柄付骨移植術で再建し, 皮膚欠損のある症例では同時にそれも再建した. 脛骨症例にはリング状創外固定器を装着した. 遊離組織はすべて生着した. 10例中9例は感染再燃することなく骨癒合を達成した. 感染した組織の適切なデブリードマンおよび感受性のある抗菌薬投与は感染を制御するために重要で, 閉鎖性陰圧療法は創管理のみではなく, 適切なデブリードマンの確認のために有用であった.

  • 松本 亮, 藏本 俊輔, 室野井 智博, 岡 和幸, 下条 芳秀, 木谷 昭彦, 比良 英司, 渡部 広明
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 258-264
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/06/16
    ジャーナル フリー

     症例は69歳, 男性. フォークリフト運転中に1.5m下に転落し受傷した. 前医に搬送され血気胸と両下肢骨折に対しての治療が行われたが, 受傷翌日にCTで腸管壊死が疑われたため当院に転院となった. 同日緊急手術を行い, Non-occlusive mesenteric ischemia (NOMI) と診断し Damage Control Surgery (DCS) を行った. 翌日planned re-operationを行い, 術中Indocyanine green (ICG) 蛍光法を用いて腸管血流を評価し消化管再建を行った. 術後は良好に経過し第33病日に転院となった.

     重症外傷では経過中にNOMIを発症することがあるが, 術中に腸管虚血の程度や壊死領域の判断に苦慮することも少なくない. DCSと術中ICG蛍光法を組み合わせることによって, 腸管のviabilityを正確に評価し, 重篤な合併症を予防できる可能性がある.

  • 髙萩 基仁, 大西 伸也, 大場 匠, 秦 康博, 野田 能宏, 森田 荘二郎
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 265-268
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/06/25
    ジャーナル フリー

     鈍的腎動脈損傷は稀で標準的治療法は確立されていない. 両側鈍的腎動脈損傷に対して経皮的血管形成術と保存加療を施行した1例を報告する. 40代男性. 歩行中にトラックに轢かれ受傷した. 造影CTと血管造影で右腎動脈の途絶と右腎実質の造影不良, 左腎動脈背側枝の内膜損傷と左腎実質背側の造影遅延を認めた. 左腎動脈背側枝へはステントを留置できたが, 右腎動脈閉塞は経皮的に解除できなかった. 外科的血行再建も検討したが, すでに十分な腎機能温存ができたと判断し, 右腎動脈は保存加療とした. 術後発生した高血圧は内服で加療した. 受傷4ヵ月後の血清クレアチニンは1.12mg/dlで, 造影CTではステントは開存していた.

  • 三宅 喬人, 神田 倫秀, 土井 智章, 福田 哲也, 市橋 雅大, 北川 雄一郎, 名知 祥, 吉田 隆浩, 岡田 英志, 吉田 省造, ...
    原稿種別: 症例報告
    2021 年 35 巻 3 号 p. 269-274
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/07/20
    [早期公開] 公開日: 2021/06/25
    ジャーナル フリー

     肩甲胸郭解離 (Scapulothoracic dissociation : STD) は神経血管損傷を含む稀な外傷である. 生命に関わる外傷であるが, 本邦の救急領域ではその認知度が低い. 今回外傷性鎖骨下動脈損傷を伴うSTDに四肢開放骨折を合併し, 治療に難渋した症例を経験したので報告する. 症例は40歳代 女性. バイク乗車中の単独事故で受傷し当院搬送された. 頭部外傷や四肢開放骨折に加え右鎖骨下動静脈損傷を認めた. 出血性ショックに対し右鎖骨下動静脈結紮術を施行. その後多臓器不全を合併し, 集学的治療を要し四肢軟部組織の治療にも難渋した. 右上肢は軟部組織の循環障害により上腕切断に至った. STDは出血性ショックを合併する場合があり, 迅速な止血戦略が必要である. また機能障害の程度を早期に評価して患肢温存の可否を決定することが肝要である.

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