生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
56 巻, 3 号
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研究論文
  • 加藤 美由紀
    2016 年 56 巻 3 号 p. 94-105
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    本研究は,高等学校生物の教科書史において,自然保護から生物多様性保全への変遷をたどり,その移行期にどのような学習がなされてきたかを示すことを目的としている.生物多様性の概念が示されている高等学校教科書20冊について,生態系の多様性,種の多様性,遺伝子の多様性の3つの生物多様性に関する学習内容,及び生物多様性保全方法に関する学習内容を,保全リテラシーガイドラインの項目との対応について調査した結果,次のことが明らかとなった.

    生物多様性の保全という観点から,昭和45年度版教科書から平成11年度版教科書での学習内容を概観すると,自然に対する人間の姿勢が,理念的な内容から科学技術を用いた生態系の平衡の維持へと移行し,生態系の保全から生物多様性の保全へと保全の対象が拡大していった.自然保護教育は生態系の概念を導入し,生物多様性保全教育は,生態系に加えて進化のプロセスを重要視している.その移行期の教科書には,生態系と進化のプロセスを保つための十分な面積を保護するという保全方法について記載されていない場合が多く,生物多様性の概念と生物多様性を保全するための科学的な対処法とを関連させる視点を明確に記載した教科書は多くはなかったことが特徴として挙げられる.

研究資料
  • ―多様性及び生物多様性の記述内容に着目して―
    加藤 美由紀
    2016 年 56 巻 3 号 p. 106-116
    発行日: 2016年
    公開日: 2019/09/28
    ジャーナル フリー

    生物多様性について学習指導要領に記載される以前の,生物の多様性についての学習内容を明らかにするために,昭和23年から平成20年に発行された教科書103幵の記載内容を分析した.特徴として挙げられるのは,昭和32年発行の教科書の「生物界の多様性」,昭和40年代後半の「多様性と共通性」,平成16年発行の教科書の「生物多様性」と,変遷が見られたことである.このうち,「生物多様性」という用語は,平成11年度版の教科書8冊に記載されていた.特筆すべきは,匚生物多様性」という用語は見られないものの,生物多様性に関する学習内容を扱った教科書は昭和48年から存在し,17冊確認できたことにある.しかし,生物多様性に関する学習内容が見られた教科書25幵のうち,3つの生物多様性が扱われていたのは4幵であり,21冊の教科書は1つまたは2つの生物多様性について記述されていた.それらの多くは生態の章で説明されていたが,遺伝子の多様性に関する内容が分類と進化の章で説明されている教科書が4冊あった.この結果から,高校生は,生物多様性という用語が登場する以前にも,生物多様性に関する内容を学習していたが,生物多楡哇という1つの概念として結びつけていなかったことが示された.別々の章に記載された生物多様性に関する学習内容を1つの概念として集約していたのは,教科書の本論ではなく,序章や終章に述べられた著者の生態学的な自然保護観であったことは特徴的である.

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