生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
59 巻, 2 号
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研究報告
  • 佐藤 綾, 山野井 貴浩, 柏木 純, 青木 悠樹
    2018 年 59 巻 2 号 p. 64-74
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/29
    ジャーナル フリー

    ICT授業の実現に向け,タブレット等を利用した学習教材の充実が求められている.本研究では,中学校理科第3学年の「遺伝の規則性と遺伝子」の分野での2つのシミュレーション教材を作成した.1つは,ヘテロの対立遺伝子(Aa)をもつ個体同士の掛け合わせにより,次世代の遺伝子型の頻度は優性ホモ(AA):ヘテロ(Aa):劣性ホモ(aa)が1:2:1となり,優性の形質と劣性の形質が3:1で現れることをシミュレーションするアプリケーションを作成した.この教材を用いた授業により,従来のカードや割り箸などを用いた実験に比べ,試行回数を増やすことができ,生徒1人ひとりが期待値に近似した実験結果を得ることができることが示された.本教材を授業で使用する上では,タブレットで何を行っているのか,シミュレーションの原理を実験前に丁寧に説明することが必要である.もう1つは,優性・劣性という用語が生存上の有利・不利とは関係ないことを学ぶためのアプケーションを作成した.内容は工業暗化の事象を取り上げ,優性の形質をもつ体色の黒いガは,背景が黒い環境では生存に有利で集団中で数多くを占めるものの,背景が白い環境では生存が不利になり,集団中で個体数が減少することを黒いガと白いガに対する捕食圧をシミュレーションするものとした.この教材を用いることで,生徒は優性・劣性という概念が個体の有利さ・不利さとは関係ないことを理解することができると予測していた.授業の結果,シミュレーションを通して生徒は優性の形質は生存上の有利な形質とは言えないことを結論付けられた一方で,質問紙を用いた調査から,授業の後も優性・劣性という用語を依然として形質の有利・不利と関連付けて考えていることが示された.

研究資料
  • ―動物細胞の動きを実感できる中学校理科の授業―
    永山 昌史, 坂本 一真, 和泉 里菜
    2018 年 59 巻 2 号 p. 75-82
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/29
    ジャーナル フリー

    動物細胞と植物細胞の構造の違いを見出すために,染色した細胞の顕微鏡観察が中学校理科2年生で実施される.構造の違いを学習するだけにとどめず,自身で移動できるかできないかという機能の違いとの関連付けまでを扱う発展的な授業および教材を開発することが本論文の目的である.

    中学校理科の授業で生きた細胞の振る舞いを観察する対象として,メダカ鱗由来の表皮細胞(ケラトサイト)に着目した.生きたケラトサイトを得るには,メダカの死後1時間以内に鱗を採取する必要があることが分かった.培養液を満たしたカバーガラスで採取した鱗を挟み,16°Cもしくは26°Cで2時間30分培養すると,鱗から細胞シートが伸展する様子,およびその周辺に細胞シートから単離したと思われるケラトサイトが観察された.経時観察(タイムラプス観察)を行ったところ,細胞シートから単離したケラトサイトが特徴的な扇形の細胞形態を保ったまま,速度16 μm/minでほぼ直線的に移動することが分かった.この移動は他の一般的な細胞に比べて圧倒的に速く,顕微鏡観察をしながらリアルタイムで移動していることを十分に認識することができる.また,細胞シート辺縁部の細胞に着目すると,シート外側に向かって葉状仮足を周期的に出したり引っ込めたりを繰り返しながら,シートから単離するまさにその瞬間を観察することもできた.まとめると,メダカ由来ケラトサイトを用いれば,細胞の動きをリアルタイムで観察する授業を実施することが可能であるといえる.

    位相差顕微鏡の手配が課題として残るものの,大学教員が中学校理科室に顕微鏡を持ち込む連携授業等で実績を重ね,科学的に探求する能力や態度を育むために,生命現象の不思議さを生徒自身が観ることの有用性を検証していく必要がある.

  • 佐藤 綾
    2018 年 59 巻 2 号 p. 83-94
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/29
    ジャーナル フリー

    小学校理科では,野外での生物観察など自然との関わり合いの中で児童が問題を見出すことが求められている.一方で,小学校教員や教員を目指す大学生は野外での生物観察の指導に不安を感じていることが指摘されている.本研究では,野外での生物観察を行う単元において,教科書で取り扱われる頻度が高い生物,その中でも特に学生が知らないと感じている生物を明らかにすることで,小学校の教員を目指す大学生が野外での生物観察を指導する自信を高める大学での効果的な支援を探るための基礎資料を提供する.小学校理科の教科書に記載されている生物を調査した結果,全体で190の動物と134の植物が記載されていた.その中で「昆虫と植物」,「身近な自然の観察」,「季節と生物」の野外での生物観察を行う単元で記載されていた動植物は3~6学年全体で記載されている生物の約半数(54.2%)を占めていた.一方で,単元間で共通して見られた生物,出版社間で共通して見られた生物は動物38,植物30のみであった.教員養成学部の大学生を対象とした調査から,教科書に記載されている生物のうち,動物では鳥類,植物では野生草本について,その生物を知らないと回答する学生が多いことが明らかとなった.以上のことから,大学の授業においては,単元間,出版社間で共通して見られる生物をまず取り上げること,特に鳥類と野生草本を授業の材料として取り上げることで,小学校教員を目指す大学生が野外での生物観察を将来指導するための基礎的な知識を効果的に高めることができると考えられる.

特集:第102回全国大会シンポジウム
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