動物細胞と植物細胞の構造の違いを見出すために,染色した細胞の顕微鏡観察が中学校理科2年生で実施される.構造の違いを学習するだけにとどめず,自身で移動できるかできないかという機能の違いとの関連付けまでを扱う発展的な授業および教材を開発することが本論文の目的である.
中学校理科の授業で生きた細胞の振る舞いを観察する対象として,メダカ鱗由来の表皮細胞(ケラトサイト)に着目した.生きたケラトサイトを得るには,メダカの死後1時間以内に鱗を採取する必要があることが分かった.培養液を満たしたカバーガラスで採取した鱗を挟み,16°Cもしくは26°Cで2時間30分培養すると,鱗から細胞シートが伸展する様子,およびその周辺に細胞シートから単離したと思われるケラトサイトが観察された.経時観察(タイムラプス観察)を行ったところ,細胞シートから単離したケラトサイトが特徴的な扇形の細胞形態を保ったまま,速度16 μm/minでほぼ直線的に移動することが分かった.この移動は他の一般的な細胞に比べて圧倒的に速く,顕微鏡観察をしながらリアルタイムで移動していることを十分に認識することができる.また,細胞シート辺縁部の細胞に着目すると,シート外側に向かって葉状仮足を周期的に出したり引っ込めたりを繰り返しながら,シートから単離するまさにその瞬間を観察することもできた.まとめると,メダカ由来ケラトサイトを用いれば,細胞の動きをリアルタイムで観察する授業を実施することが可能であるといえる.
位相差顕微鏡の手配が課題として残るものの,大学教員が中学校理科室に顕微鏡を持ち込む連携授業等で実績を重ね,科学的に探求する能力や態度を育むために,生命現象の不思議さを生徒自身が観ることの有用性を検証していく必要がある.
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