生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
60 巻, 3 号
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研究論文
  • 西川 洋史
    2019 年 60 巻 3 号 p. 110-116
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    現在,生物の代謝産物を扱った生徒実験は呼気に含まれる二酸化炭素の検出など限られているが,魚類を小ケースで飼育すると比較的高いレベルのアンモニアが蓄積することが知られる.そこで市販の簡易検査キットを用いて魚類から排出されるアンモニア量を測定した.具体的には観賞魚として人気のあるキンギョCarassius auratus auratus,ミナミメダカOryzais latipes,エンゼルフィッシュPterophyllum scalare var.,コリドラスCoridoras aeneusを250 mlの飼育水に入れ,排出されたアンモニア濃度区分を求めた.その結果,キンギョ20個体またはコリドラス6個体を10分間室温で飼育したところ,数回の実験すべてにおいてのアンモニア濃度区分が1.5 mg/L以上に達した.これをもとに授業実践ではキンギョ10~20個体をビーカーに10分間入れて,排出されたアンモニア量を測定した.この一連の過程は50分間の授業内に終わり,かつすべての生徒が優位なアンモニア上昇を確認することができた.これまで水中のアンモニア検査キットは環境の観点から使われてきたが,本実験・教育実践では生理機能の観点から扱った.この展開は,生物代謝成分を直接扱って生物の主要構成元素の理解につなげていく教育実験系が網羅されたことを意味する.

  • 日髙 翼
    2019 年 60 巻 3 号 p. 117-129
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    本研究は19世紀アメリカ合衆国のハイスクール教科「動物学」の変遷過程を解明するものである.当時のハイスクールで用いられていた教科書や各種史料を用いて研究を行った結果,他の生物学系教科であれば各時代を象徴する典型的な目的論・内容論・方法論を見出すことができたが,「動物学」に関しては各時代に全く異なる手法を採用する教科書が存在し,一方向の変化というより,むしろ混沌とした状態にあったことが確認された.特に,“ヒト”に着目してみると,確かに変化していたものとして,実用性に関する質的変化,対立から両立への変化等,従来の通説になかった新たな知見が明らかとなった.そして,これらの変化は学問や学会の影響のみならず,生活や環境,思想や教育理論,生徒のニーズ等,多種多様な要因によって解釈された.

研究報告
  • ―翅の枚数が少ないハエやカは昆虫かどうかを考える―
    山野井 貴浩, 阿部 なつの
    2019 年 60 巻 3 号 p. 130-136
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    次期学習指導要領における生命分野の理科の見方は「生物の共通性と多様性」である.この見方を働かせるためには,まずその見方を養うことが必要となり,理科が始まる小学校3年生の学習ではとりわけその養成が肝心である.小学校3年生の昆虫学習においては「昆虫の体は頭・胸・腹に分かれていて,脚は胸に6本付いている」という共通性に加えて,この共通性から逸脱している昆虫を扱うことで,この見方を養うことができると考えられる.例えば,ハエやカは,後翅が退化し平均棍に変化しているため,多くの他の昆虫に比べると翅の枚数が2枚と少ないことが知られている.よって本研究は,小学校3年生理科における昆虫の学習において,ハエやカなどの双翅目昆虫を授業で扱うことで,生物の共通性と多様性の見方を養うことができるかどうかを授業前後に行った質問紙調査により検討した.その結果,授業前は約半数の児童が「翅が2枚しかない」等の理由によりハエやカは昆虫ではないと判断していた.しかし授業後には,他の昆虫と同様に「頭・胸・腹に分かれている」,「触角がある」という共通性や,後翅が退化した平均棍の存在という多様性を踏まえ,多くの児童がハエやカも昆虫であると判断できるようになったことが示唆された.以上から,今回開発した授業を通して,児童は生物の共通性と多様性の見方を養うことができたと言えるだろう.

  • 郡司 玄, 天野 瑠美, 金子 真也, Ferjani Ali, 木村 成介
    2019 年 60 巻 3 号 p. 137-147
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    中学校の理科第2分野では生物の有性生殖と無性生殖の特徴について観察を通じて学ぶこととされている.しかしながら,特に無性生殖については,その過程を簡便に観察できる教材は限られていた.本研究では,無性生殖,その中でも特に栄養生殖に関する授業において活用できる実験教材の開発を目指して,Rorippa aquaticaというアブラナ科イヌガラシ属の多年生草本植物に着目した.R. aquaticaは栄養生殖する能力が高く,葉を切断して湿ったところに置いておくと,葉片の根元側(基部側)の断面に新しい個体を再生する.この過程には特別な条件は一切必要なく,水分状況さえ適切であれば2週間ほどで再生が完了し,また,経時的な観察も容易であることから,生徒実験の教材として適していると考えた.そこで本研究では,R. aquaticaの簡便な栄養生殖法と観察法を確立し,中学校第3学年の理科授業において教育実践を行なった.今回の授業時間の配当は2時間とし,1時間目には身近な野菜であるジャガイモを例に無性生殖の特徴について学習し,生徒実験としてR. aquaticaの葉を切断し栄養生殖を開始した.2時間目までの2週間程経時的な観察を行なったところ,すべての生徒が栄養生殖の過程を観察することができた.授業後のアンケートでは,76%の生徒が授業を通じて生物の生殖について興味をもったと回答した.以上の結果から,R. aquaticaは中学校理科で栄養生殖を学ぶための有効な実験教材として期待できる.

研究資料
  • ―特に使用する「色水」の種類と処理時間について―
    米澤 義彦, 細川 威典, 香西 武
    2019 年 60 巻 3 号 p. 148-155
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/12/16
    ジャーナル フリー

    小学校第6学年理科における「水の通り道」の観察実験に使用する「色水」について,小学校や中学校の教科書に例示されている切り花着色剤,食用赤色102号および赤インキの濃度と処理時間について,根のついたホウセンカを材料として再検討を行った.その結果,切り花着色剤と食用赤色102号の「色水」では,いずれも15~30分程度で「色水」が葉に到達することがわかった.また,赤インキの10倍希釈液では約1時間で,50倍希釈液では約2時間で葉まで「色水」が到達した.これらのことから,「水の通り道」の観察実験では,「色水」の種類と濃度を選択することによって,それぞれの学校の時間割に応じて授業が展開できることが示された.

特別寄稿
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