生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
61 巻, 3 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
研究論文
  • ―ジェルポリマーを用いた実習とその効果―
    山本 浩大
    2020 年 61 巻 3 号 p. 136-143
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/18
    ジャーナル フリー

    現行の中学校学習指導要領理科編では,生物分野で生物の種類の多様性と進化を学ぶ.しかし,教科書には実験や観察が1例しか無く,理解を促す有効な方法が限られていることが現状である.現在の指導方法ではラマルクの考えである獲得形質の遺伝や強いものが生き残ると考える誤概念が見られることが,中学生を対象にした進化に関する調査で明らかになっている.そこで,本研究では進化理論である自然選択説を容易に理解できるモデル教材を作成し,その教材の有効性について検討を試みた.本教材は視覚的に環境の違いを再現したことにより,進化の理論の柱となっている自然選択説を容易に理解させることに有効であることが示唆された.一方で,獲得形質の遺伝に関する誤概念の修正は行えなかった.

研究報告
  • 亀井 忠文, 海藤 愛結, 石原 慈
    2020 年 61 巻 3 号 p. 144-149
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/18
    ジャーナル フリー

    コダカラベンケイKalanchoe daigremontiana(ベンケイソウ科)の葉縁由来不定芽の発生過程を双眼実体顕微鏡及び走査型電子顕微鏡レベルで観察・解析し,その教材化を試みた.葉縁由来不定芽の発生初期は,受精胚とまったく同様に球状胚様器官・心臓型胚様器官・魚雷型様器官胚・成熟胚様器官と進むことが,走査型電子顕微鏡での観察で確認できた.葉片から誘導した不定芽(葉片由来不定芽)と葉縁由来不定芽を比較した結果,葉縁由来不定芽は葉片由来不定芽とはまったく異なり生理的に独立性が高い器官であることが裏付けられた.

    本種の葉縁由来不定芽の発生過程は,顕微鏡で直接容易に観察できた.一方,重複受精を経た受精胚の発生は直接観察することがたいへん困難だと思われるので,この研究で示した本種の葉縁由来不定芽の発生過程の観察結果は,植物の受精胚の発生過程を形態的・視覚的にイメージするのに有効な教材だと考えられた.また,この教材は植物細胞の分化全能性や植物の生殖の多様性についての理解の深化にもつながるものと考えられた.

  • 中道 貞子
    2020 年 61 巻 3 号 p. 150-159
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/18
    ジャーナル フリー

    2018年3月,次期高等学校学習指導要領が告示され,今回初めて,『生物基礎』の内容の取扱いの配慮事項として,主要な概念を理解させるための指導において重要となる用語(重要用語)の数が具体的に示された.その数は,2017年9月に出された日本学術会議基礎生物学委員会・総合生物学委員会合同生物科学分科会生物科学分野教育用語検討小委員会の報告「高等学校の生物教育における重要用語の選定について」の中に示された『生物基礎』の最重要用語と重要用語の合計数153の1.5倍程度である.なお,2019年7月に同小委員会から改訂版が出されたが,『生物基礎』の最重要用語・重要用語に該当すると思われる用語は157である.一方,現行学習指導要領のもとで,5社の教科書出版社から刊行されている『生物基礎』の教科書のいずれかに掲載されている生物用語は520語である.これに,小委員会報告に見られる11語を加えた531語を高校生物教員に示し,その中でどれを『生物基礎』の重要用語と考えるかを調べる目的で,2018年8月から2019年3月の間にアンケート調査を実施し,80名の高校生物教員から回答を得た.回答者によって選ばれた『生物基礎』の重要用語は,小委員会報告改訂版で選ばれた最重要用語・重要用語と概ね一致していた.ある用語を重要とした回答者の割合(その用語の被選択率)が76%以上だった用語は96語で,そのうち93語(97%)が小委員会報告の最重要用語・重要用語であったが,被選択率が低い用語には小委員会報告の最重要用語・重要用語が少なかった.また,被選択率の高い用語の多くは,次期学習指導要領の『生物基礎』の解説に見られる生物用語であった.次期学習指導要領解説で示された『生物基礎』の重要用語数の目安は200~250なので,小委員会報告や次期学習指導要領で取り上げられた生物用語だけでなく,教科書では,さらに生物用語が付け加えられる可能性がある.用語選択の際には,学習内容の概念の階層化を図り,学習内容を俯瞰した上で用語選択するのがよいと考え,本報告では,次期学習指導要領の大項目の一つについて,その例も示した.

研究資料
  • 長井 清香, 天内 和人, 森 寿代, 笠原 恵
    2020 年 61 巻 3 号 p. 160-169
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/18
    ジャーナル フリー

    技術者育成を目的とした工業高等専門学校(以下,高専)における生物学教育法の検討を行うため,高等学校(以下,高校)と高専でアンケート調査を行い,高専生の特徴を明らかにし,高専生に有効な講義のデザインを考案することを試みた.生物学への関心と学習意欲に差は見られなかったが,生物学の勉強時間が高校生に比較し高専生は少ない傾向が見られた.また,生物学を難解であると考える学生も,高校生に比較して多かった.学習意欲に関連している要因に成績をあげていることから,学習しやすい形式で,試験結果に結びつきやすい方式を取り入れた方が良いことが示唆された.高専生は,遊び時間が多い傾向もうかがわれた.インターネットやゲームといったデジタル機器を使用する時間が,高校生と比較して長い傾向が見られた.また,積極的に学びたいことは,高校生は,専門教科や技術といった進学や就職に関連することなのに対し,高専生は,専門教科や技術の他に,ビジネスや語学,スポーツといった就職後必要となる事全般について学びたがる傾向が見られた.高専生,高校生ともに,必要性よりも,興味や成績が,学習意欲に関連が深いことがわかった.したがって,成績に結びつく教材を与えること,興味を持たせるのに,インターネットを取り入れた講義方式や課題を取り入れること,ビジネスやスポーツなど関心事に関連した内容を盛り込めることなどが,有効である可能性が示された.さらに,興味や成績に,必要性が関連しており,すぐに役立つ情報の提供や,汎用性のある理論やモデルを理解させることが,勉強にメリットを感じさせることにつながると考えた.

  • 内山 智枝子, 武村 政春
    2020 年 61 巻 3 号 p. 170-179
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/12/18
    ジャーナル フリー

    DNAの構造は,現行の学習指導要領の下での高等学校「生物基礎」で学習することが定められている.一方次期学習指導要領においては,「DNAの構造に関する資料に基づいて,遺伝情報を担う物質としてのDNAの特徴を見いだして理解するとともに,塩基の相補性とDNAの複製を関連付けて理解すること」と記され,資料に基づいて特徴を見いだした上での理解が求められるようになった.この資料としてDNAの構造を示す図の活用が考えられるが,図に限らず,DNAの構造に関するどういった教材の提示が,DNAの特徴を見いだし,塩基の相補性とDNAの複製を関連付けた理解に結び付けるために有効なのだろうか.この問いを明らかにするために,DNAの構造を示す図のような平面的な資料だけでなく,先行研究において活用による学習効果が報告されている模型にも着目した.本研究では,既に塩基が対になって描かれているDNAの構造を示すイラスト,ヌクレオチドの形に対称性があるか否かに違いがある2種類のペーパークラフト,ならびに正しい塩基対しか形成しないLego®ブロックと磁石を用いた模型の4種類のDNA教材について,これらを提示する検証授業を高等学校1年生対象に実施し,その学習効果を検証するために,検証授業の前後に質問紙調査を行った.質問紙調査の結果,イラストならびにLego®ブロックと磁石を用いた模型の使用が,生徒が塩基の相補性を正しく認識することを促していることが明らかとなった.この2種類のDNA教材は,誤った塩基対が形成されないよう工夫されているが,ほかの2種類のペーパークラフトは誤った塩基対も形成し得るつくりになっている.このことから,塩基の相補性を確実に示す(誤った塩基対は形成されない)DNA教材が,生徒の正しい認識を促すのに有効であることが示唆された.またこれらのDNA教材の提示により,相補性に関する問題の正答者は複製に関する問題に対して正答する割合が大きいことが明らかになった.

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