生物教育
Online ISSN : 2434-1916
Print ISSN : 0287-119X
62 巻, 2 号
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研究論文
  • 枦 勝, 白井 菜月, 濱田 仁美, 小島 桂
    2021 年 62 巻 2 号 p. 52-58
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    繊維には生物由来のものが多種類存在するが,現在の高等学校の生物では繊維を学習する複合的な教育プログラムは存在していない.そこで,本研究では,天然繊維を利用した探究的な実験系を開発し,教育実践を行った.植物繊維としては綿の栽培から実施し,動物繊維としてはカイコの繭(絹)を教材とした.生きていない遺伝子組換えカイコの乾繭(クモ繭,GFP繭)を利用した実験系を開発し,1年程度経過した蛹からのDNAの抽出や,PCRによる組換えDNAの有無の判別ができる条件を開発できた.また各繭からの繊維の引張強度を測定することで,クモ繭由来の絹繊維は強靭な繊維となっていることを確認できた.各繭由来の絹繊維と綿は,各試薬への反応等を比べることで,物質としての違いを実感させることができた.このように天然繊維の実験系は,植物学,昆虫学,バイオテクノロジー,被服材料工学などの学問を融合させることができ,生徒がより多様な興味を持つことが可能になると期待できる.

研究資料
  • 鵜澤 武俊, 小西 啓之, 木内 葉子, 森中 敏行, 原田 和雄, 高森 久樹, 中西 史
    2021 年 62 巻 2 号 p. 59-65
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    現在の中学校学習指導要領においては,理科において新たに放射線の性質と利用に触れることになった.ところが以前の中学校学習指導要領では放射線についての扱いがなく,放射線教育に対応できる教員や教育プログラムが十分ではなかった.このため放射線教育に用いる教育プログラムの開発が新たに行われ,その一環として放射線の生物への影響を観察する教育プログラムが開発された.その一つとして放射線の代替として紫外線を使用し,大腸菌に紫外線を照射した後の生存率を観察する模擬実験系が開発された.この模擬実験系では無菌操作を回避するために抗生物質耐性を付与した組換え大腸菌を用いた.ところで組換え大腸菌はカルタヘナ法の規制を受けるため,この模擬実験を行える学校が限られるという制約が存在する.この制約を取り除くため,模擬実験系において非組換え体大腸菌を使用可能とするための条件検討を行った.微生物実験では通常,雑菌の混入を防ぐことが必要であるが,条件により雑菌を防ぐ必要のない微生物実験も知られている.本研究では,無菌操作を行わずにこの模擬実験を行う可能性を検討した.

    そのため,最初に学校内の落下細菌の測定を行ない,5分間開放したシャーレでは,2日培養後に出現するコロニー数は10 cfu/シャーレより少なく,また培養時間の延長と共にコロニー数が増加することが示された.一方大腸菌は,1日培養後にコロニー数がほぼ最大に達したことから,大腸菌は大部分の雑菌より生育が速く,大腸菌のコロニー数測定には,培養時間は1日で十分であることが示された.次に,大腸菌を液体培養した後に,雑菌の混入を許す条件下で大腸菌をシャーレに塗布し,紫外線照射後の生存率を測定する実験を行った.その結果,シャーレに塗布する大腸菌の数を多くすれば,雑菌の混入を許しても,無菌操作を行った場合と同様な生存率のグラフが得られることが示された.

  • 内山 智枝子, 武村 政春
    2021 年 62 巻 2 号 p. 66-74
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    近年の生命科学の急速な進歩により,高等学校学習指導要領では平成21年度の改訂から,「遺伝子とその働き」については基礎科目である「生物基礎」で学習することが求められている.しかし,高校生にとってこの理解は容易ではなく,遺伝子の発現過程に関する概念の精緻化がなされていない,複製や転写におけるDNAとRNAの役割を明確に区別できていないといった課題が報告されている.そこで本研究では,高校生が「DNAの情報に基づいてタンパク質が合成されること」を理解することを目的とし,学習内容,学習方法のみならず,学習評価まで視野に入れて検討し,米の粘り気に関与するワクシー遺伝子に着目したパフォーマンス課題を設計した.その有効性と改善点を検討するために検証授業を実施し,検証授業の前後で実施した質問紙調査の結果,「DNAがRNAに変化する」といった誤った認識の生じやすさ,センス鎖とリーディング鎖の表示方法,タンパク質と炭水化物の区別といった点で,学習者の状況に合わせて配慮が必要であることが示唆された.

  • ―ホタルの発光の再現―
    本橋 晃
    2021 年 62 巻 2 号 p. 75-79
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    ルシパックPenを用いてホタルの発光を再現する実験を考案し,高等学校1年生の「生物基礎」の授業に導入した.教師側が準備するものはATP溶液のみである.ルシパックPenの綿棒の先をATP溶液に浸してホルダーを本体に差し込み,振るだけの操作でルシフェリンとルシフェラーゼが反応し,顕著な発光を見ることができる.発光はピルベートオルトホスフェートジキナーゼの働きにより30分間以上持続する.本実験は生徒一人ひとり全員が体験でき,生徒には大変好評であった.発光が止む原因についての考察を含めると,探究活動にも使える教材と考えられる.

  • 園山 博
    2021 年 62 巻 2 号 p. 80-86
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/08/31
    ジャーナル フリー

    理科において育成すべき資質・能力のひとつとして「観察・実験の結果を分析・解釈する力」がある.このことについて,高等学校「生物基礎」を例に,表やグラフが教科書本文にどのように引用されているかを調査し,教科書のグラフ等が,理科の学習において,どのように利用されているかを明らかにすることを目的に本研究を行った.

    「生物基礎」の教科書に掲載されている図表は1社あたり296個掲載され,グラフ等は36個だった.本文に掲載されているもののみだと,グラフ等は全図表の16%であった.これらのグラフ等の教科書本文での引用状況は,「本文の記述内容の参考資料として掲載」している場合が6%,「本文の記述のまとめとして掲載」と「グラフ等の読取りについての説明がある」がともに12%,「本文の記述内容の根拠として記載」が最も高く71%であった.さらに,「本文の記述内容の根拠として記載」と「グラフ等の読取りについての説明がある」に区分したグラフ等の参照状態を調査すると,「表やグラフの値を参照」が10%,「表やグラフの値を比較した結果を参照」が52%,「表やグラフから読取れる規則性や関係性を参照」が24%,「表やグラフを比較し,規則性や関係性の違いを参照する」が14%であった.つまり,グラフ等の活用によって,「比較する」という理科の考え方を働かせる活動を行う場面が多いことが分かった.このような活動ができるグラフ等は,「生物の体内環境の維持」の単元に多く掲載されていた.

    生物の学習は暗記が中心と揶揄されることもあるが,グラフ等を活用することで理科の考え方を働かせる活動となり,授業改善のひとつの方向を示すと考えられる.また,本調査でこのような活動のためのグラフ等の掲載状況を明らかにできたので,授業計画の一助として活用されることを期待している.

特集:第105回全国大会シンポジウム
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